イドリス・エルバが死ぬ気でライオンと戦う異種格闘技映画『ビースト』(22)というスリラー映画があるのですが、それの元ネタなんじゃと思う映画を発見しました。
それはリアルガチのライオンやトラ、さらにはゾウといった「調教されていない」動物たちと俳優が織りなすドタバタ劇『ROAR/ロアー』です。
・自分の好きが他人に通用するとは限らない
・想像の斜め上なレベルで過酷な撮影現場
個人的には好きな動物映画のベスト5に入る、隠れた名作でした!
「登場人物にライオンの保護活動者がいる」
「ライオンの群れの中に人食いライオンがいる」など『ビースト』との共通点がちらほらある作品ですが、決定的に違うのが人間に絡んでくるライオンの数。
そして、その大半は(たぶん)全然人間に敵意がないという点。
人間だけがひたすらライオンに怯え、ライオンはじゃれているだけという温度差を感じられるコメディ映画でもあります(たぶん…)
ちなみに「ROAR」とはライオンの鳴き声であり、日本でいう「ガオー」みたいなものです。
それでは『ROAR/ロアー』をネタバレありでレビューします。
目次
『ROAR/ロアー』あらすじ【ネタバレあり】
ライオンとクラス保護活動家・ハンク
単身赴任のような状態でライオンの保護活動をするハンク(ノエル・マーシャル)は、家族を自分の家に招くも、迎えにいく途中で行き違いになってしまう。
何も知らない家族はハンクが暮らす家に入るが、そこには保護されたライオンが数十頭もウロウロしていた!恐怖のあまり逃げ惑うハンクの妻マドレーヌ(ティッピ・ヘドレン)とその子供たち。
一方ハンクは家族と合流するため、来た道を戻りますが、ハンクの保護活動を危険視する視察員たちがライオンを狩ってしまう。さらにトガールと呼ばれる凶暴なライオンが人間を狙い始める…。
あらすじ
行き違いになった家族の元を目指して、自宅に急ぐハンク。その道中、視察員が殺したライオンの亡骸を見つけて怒りを露わにする。
一方、ハンクの家族は何とかロッジから脱出しようと、ボートを使って移動するも、途中で野生のゾウ(デカい)に遭遇。ゾウはボートを牙で破壊してしまう。
さらに、ハンクは道中でトガールに殺された視察員を見つける。
家族がトガールに襲われてしまう危険を考え、家路を急ぐハンク。その悪い予感は的中し、トガールは家族を追い回す。しかし、家族は別の穏やかなボスライオンに助けられた。
ハンクが家族のもとにたどり着いたとき、皆は無傷だった。最初は怖かったライオンたちへの理解も深まり、家族の絆も深まったのだった。
『ROAR/ロアー』感想
この映画のぶっ飛びポイント
まずは、ざっくりこの映画の何が凄いのかをまとめてみました。
・70人以上のキャストやスタッフがケガをしている。
・制作に11年かかる(その間にハリウッドが撤退、興行収入も散々な結果に)
・本作の撮影の裏側を捉えた番組名が「猛獣映画・撮影の惨劇」
・『スピード』(94)の監督を務めるヤン・デ・ボンが撮影監督で参加してケガをした。
ちなみにヤン・デ・ボンのケガの程度は「70針」とか「120針」とか「瀕死」とか、さまざまな逸話があります。とりあえず死にかけたっぽい。
ちなみに何かと爆発しがちな日本のドラマ「西部警察」でさえケガ人は6人だそうです。
ガチの保護活動家が見たら卒倒しそうな保護環境がヤバい
まず目を疑うのが、保護しているとはいえ、ライオンと自宅のようなロッジで一緒に暮らしているという点です。
一般的な保護活動のイメージって、それこそ『ビースト』みたいにサバンナでライオンが暮らしていて、人間が遠くから見守っている感じなんですが…。
『ROAR/ロアー』に関しては、恐らく密猟からの保護もかねてか、若干過保護に感じるレベルでハンクがライオンたちを見守っています。
あまりの数の多さに、周囲の人間からは「逃げ出して人間襲ったらどうするの!」とお怒りの声を受けています。
これが数え切れるほどなら「まあまあ…」となだめたくなるのですが、もはや数えるのは不可能なくらい保護しているので「気持ちはわかるよ…」と、お怒り側にシンパシーを感じてしまうという…汗
保護しているハンクも、じゃれてきたライオンによって服とかズタズタにされていました。たとえライオン側に敵意がなくとも、人間は無傷では帰れない無法地帯と化しています。そしてそんな場所に家族を招くハンク…。
動物を保護する様子を見てもらいたいという気持ちは立派なのですが、あまりにも整備が行き届いていなさすぎる!
それにハンクの住む家の様子、どこかで見たことあるなあ…と思ったのですが、時々ニュースで放送される、動物の多頭飼育によって崩壊した環境のそれでした。
まあ正確には飼育ではなく保護なので、単純にハンクの住環境だけが崩壊しているだけなのか。ハンクがそれでいいなら、別にいいのか…?
ハンクの活動を「立派だなあ」と応援したい感情と、「おまっ…もうちょっと環境とか…何とかできなかったのかよ!」とツッコみたくなる気持ちが猛スピードでぶつかりました。
自分の「好き」は相手も好きとは限らない
『ROAR/ロアー』を見て痛感したのは「自分の”好き”が他人に通用すると思い込む危うさ」です。
筆者は猫が好きなので、この映画のライオンも「かわいいねえ^^」みたいなテンションで見ていたのですが、みんながみんな猫好きとは限りません。そもそも動物全般苦手な人だっているわけです。
お互いがちゃんとその動物を理解してこそ、保護活動も成立するわけですが、ハンクの場合は完全に(良くも悪くも)「みんな好きでしょ!ライオンもトラも!」という考えだと見て取れたので、今回みたいなドタバタコメディになってしまったと考えられます汗
ちなみになぜ本作をパニック映画ではなくコメディとして紹介したかというと、基本的にライオンは(トガール以外)人間に敵意がないんです。みんなじゃれついているだけ。
ただ、やっぱり大人のライオンなので普通に大ケガするレベルで飛びついてきます。
人間が滅茶苦茶怯えているのに対して、ライオンはきゃっきゃしている。そのギャップが面白いので、個人的にはお互いの温度差が凄いコメディ映画として楽しめました。
『ROAR/ロアー』あらすじ・感想まとめ
以上、ここまで『ROAR/ロアー』をレビューしてきました。
動物は全部本物ですが「動物が殺されたり傷つけられる場面はすべて演出」とのテロップが冒頭に入るので、そういう意味でも安心して楽しめる作品でした。
…というか、映画以上に主演を務めたティッピ・ヘドレンとノエル・マーシャル、その子どもたちによる保護活動の方がインパクトあるので、こっちはこっちでドキュメンタリー映画として制作してほしいなあ…。