映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』は、イラク戦争に隠された真実を追う、ジャーナリストの奮闘を描いた実録ドラマです。
- 『スタンド・バイ・ミー』のロブ・ライナー監督が撮った、イラク侵攻時の実録ドラマ。
- 日本のマスメディアではあまり語られなかった事実が描かれていて、政治ドラマ好きには興味深い内容になっています。
- 実際の映像も差し込まれているので、日本ではほぼ同時期に公開される『バイス』の予習にもピッタリ。
- 実力派俳優の揃い踏み。上質なドキュメンタリー映画のような仕上がり。
それではさっそく『記者たち 衝撃と畏怖の真実』のレビューをしたいと思います。
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目次
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』作品情報
作品名 | 記者たち 衝撃と畏怖の真実 |
公開日 | 2019年3月29日 |
上映時間 | 91分 |
監督 | ロブ・ライナー |
脚本 | ジョーイ・ハートストーン |
出演者 | ウディ・ハレルソン トミー・リー・ジョーンズ ジェームズ・マースデン ミラ・ジョヴォヴィッチ ジェシカ・ビール ロブ・ライナー リチャード・シフ |
音楽 | ジェフ・ビール |
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』あらすじ・感想【ネタバレなし】
観る前に大事なのは、イラク戦争に至るまでの歴史のおさらいかも。
そんなわけで、簡単にイラク戦争についてまとめてみました。
1991年。湾岸戦争後、イラクは大量破壊兵器の不保持が、停戦決議で義務づけられました。
しかし何年か後から、イラクは国連が設置した調査機関に、協力的ではなくなります。
調査機関UNSCOMが検査方法を転換し、抜き打ち調査にしたことや、主任査察官がアメリカの情報将校だったことが原因では?と言われとぃます。
ただ、1998年には核兵器は保有しておらず、化学兵器もほぼないという報告はされていました。
アメリカ、後にイギリス、フランスはイラクの北部、次いで南部に飛行禁止区域を設定。
反発したイラクは意図的な空域侵犯を行い、制裁措置としてアメリカ、イギリスはイラクの軍事施設を空爆します。
1999年12月。安全保障理事会は査察活動が停止したUNSCOMに代わって、UNMOVIVを設置します。
イラクが大量破壊兵器破壊義務を履行しているか、引き続き監視・検証するために。
2001年、ジョージ・W・ブッシュが第43代合衆国大統領に就任します。
就任当初は支持率が低かったブッシュ大統領ですが、同年9月11日アメリカで同時多発テロが発生、強力なリーダーシップを発揮したことで、支持率は驚異的な91%まで上昇します。
ブッシュ大統領は11月10日の国連総会での演説において、テロとの戦いを宣言します。
アメリカ国内では10月、愛国者法も制定されています。
翌年2002年の1月29日、ブッシュ大統領は一般教書演説で、イラクは大量破壊兵器を保持していると糾弾しました。
イラン、北朝鮮、イラクは悪の枢軸国と非難したのです。
一方、イラクのフセイン政権とかねてから対立していたイスラエルは、元首相が訪米しフセイン大統領が核開発していると訴えます。
イラク首相、外相もフセインの危険性を取材に答え、早期攻撃を求めました。
11月には、イラクへの最後通牒とも言える安全保障理事会決議が採択されます。
2003年1月。UNIMOVICの報告は、大量破壊兵器の決定的証拠はないものの、イラクからの報告には矛盾と疑問点がある、とされます。
イラク側の査察非協力な姿勢、生物兵器、化学兵器廃棄情報が確認されないことから、アメリカとイギリスは安保理決議に違反したと攻撃の準備を始めました。
3月20日。アメリカ軍によるイラクの首都バグダットへの空爆を皮切りに、ついに本格的な陸上部隊の侵攻、空爆が始まり4月9日にバグダッドは陥落。
逃亡したフセインも12月には捕まり、2006年12月に絞首刑で死亡しています。
しかしフセイン政権を倒した後、今度は反乱勢力やテロリストたちとの、長い戦いが始まるのです。
2010年、アメリカ政府は「イラクの自由作戦」を「新しい夜明け作戦」に作戦変更します。
イラクから米軍の駐留部隊が去った2011年末、イラク戦争はやっと終結。
ところが米軍撤退後も、イラクの国内情勢は極めて不安定で、それに乗じて過激派組織の「ISIS」が台頭。
2014年には、再びアメリカ軍は戦闘に参加することになります。
映画『記者たち 衝撃と畏怖の真実』では、同時多発テロからイラクへの侵攻を止められなかったところまでを、ジャーナリスト側から描いた作品なのです。
時系列がわかっていた方が情報量が多い映画なので、理解も深まると思います。
ほぼ同時期に公開された『バイス』との関係性は、また後ほど。
91分にまとめたドキュメンタリー調実録ドラマ。ジャーナリストの本質を考えさせられます。
本作『記者たち 衝撃と畏怖の真実』は、イラクへの軍事介入の大義名分でもある、大量破壊兵器の存在に疑問を持ったナイト・リッダー社ワシントン支局の記者たちが、真実を報道しようと取材を続ける姿を描いています。
ナイト・リッダー社は、実は2006年に買収されてしまっていますが、当時は地方新聞社も傘下に持つ大きなニュース通信社。
日本でも馴染みの大手新聞社、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズが、政府の発言を信じそのまま記事にしていく中、地道な取材を続けていきます。
同時進行で、一人の青年が同時多発テロの後に入隊し、やがて戦地での攻撃で車椅子での生活になる姿も差し込まれます。
現在においては大量破壊兵器はなかった、という事実を誰もが知っています。
しかし9.11の後、アメリカは愛国心で一色になっていました。
ナイト・リッダー社が政権の疑惑を記事にしても、地方の新聞がその記事を載せないのも理解できます。読者が望む記事ではないんですから。
映画の中でも、記者のランデーとストロベルが、記事の内容で愛国心はないのかと、身内とも言える人に言われます。
しかしランデーの妻は出自から、愛国心と国粋主義の違いとその危険性を示唆します。
2つの似て非なるものについては、どの国においても今の時代、一度考えるべき問題点なのかもしれません。
世間の逆風を受けながらも、真実を追及する記者たちの姿勢には、ジャーナリズム精神を強く感じます。
ただし映画がドラマティックな演出をされず、事実を淡々と描いていることから、大きなカタルシスはありません。
2015年の作品『スポットライト 世紀のスクープ』とは、そこが違う作品になっています。
監督自身がインタビューで「ハイブリッドなドラマ、ドキュメンタリーとフィクションの間といった位置づけだ」と語っているので、過剰な演出をしなかったのかもしれません。
その分と言っては語弊がありそうですが、描かれているジャーナリストたち本人が協力を惜しまなかったと言うだけあり、リアリズムはたっぷりです。
撮影を実施したのも実在の新聞社があるビル、モデルとなっている記者たちが俳優たちと交流し、脚本の段階から関わっていたのだから当然でしょう。
情報提供者とのやりとり、記者同士の掛け合い、記事の書き上げ方など、なかなかに興味深いです。
実力派俳優ばかりの出演者。映画好きには豪華な顔触れで、それだけでも期待値は上がるはず。
主演の一人、ウディ・ハレルソンは、日本でも公開された『LBJ ケネディの意志を継いだ男』で、ロブ・ライナー監督と組んだばかり。
『LBJ ケネディの意志を継いだ男』では、ケネディが暗殺された後、大統領に任命されたジョンソン大統領を演じていました。
映画としては、私個人はこちらの方が好みだったりします。公民権法を成立させる話しで、ジョンソンが大統領になるまでの下りも物語になっています。
ハレルソンは近年では『グランド・イリュージョン』『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』『スリー・ビルボード』など、幅広い役柄を演じていて、ドラマの『TRUE DETECTIVE』シーズン1は、かなりオススメです。
Netflixの映画『テキサス・レンジャー』も、ハレルソンやケヴィン・コスナー好きはぜひ視聴してみて下さい。
有名なボニー&クライドを追った元テキサスレンジャーの渋いオヤジたちが、なかなかに素敵です。
ハレルソンの相棒を演じたジェームズ・マースデンは『X-MEN』『魔法にかけられて』でお馴染み。甘い二枚目といった容姿で、ハレルソンとの相性もばっちり。
ハレルソンの妻役のミラ・ジョヴォヴィッチや、マースデンの恋人役のジェシカ・ビールも、美しいだけでなく芯の通った女性を、魅力的に演じています。
ミラ・ジョヴォヴィッチに関しては『バイオハザード』のイメージがまったくない、普通の主婦役で少しだけびっくりしました。
ミラ大好きな旦那様が撮影しないと、こんな感じなのかあ、と。
いつもの強くて美しい彼女も大好きですが、今作のような役ももっと観てみたいですね。
元従軍記者のギャロウェイは、トミー・リー・ジョーンズ。相変わらず渋くて、存在感がすごいです。
集長は監督自身が演じていますが、正直一番美味しいところを持っていったな、という役どころ。
主要人物たちが皆しっかりキャラ立ちしているので、物語がドキュメンタリー調で淡々としていても、飽きることなく最後まで観れるはず。
『バイス』とセットで観ることをオススメする理由とは。
さて、ここからは、2019年4月5日に公開された『バイス』につながる話しを。
イラク戦争では、莫大な利益を挙げた民間企業がありました。それはアメリカのハリバートン社。
歴史上でもっとも大きな戦争の利益だ、と指摘されています。
『バイス』の主人公であるディック・チェイニーは、ブッシュ政権時の副大統領。
就任前の1995年から2000年まで、ハリバートン社のCEOで、最大の個人株主です。
ハリバートン社はイラク戦争に関しての契約で70億ドル、最終的にはイラク戦争で395億ドルの利益を得たと言われています。
後に不当な利益を得ているとされ、政府に何百万ドルかの返済をしましたが、億単位の利益があったのが本当なら、微々たるものだったかもしれません。
ハリバートン社の主要部門は、石油や天然ガスの検査や製造設備の建設ですが、イラク戦争後は運輸事業や復興事業、アメリカ軍へのケータリングサービスの提供など、多岐に渡っています。
莫大な利益を挙げたことは、間違いないでしょう。
ブッシュ政権下の副大統領で、史上最強の副大統領、影の大統領など呼ばれたチェイニー。
9.11以降の政策にはチェイニーの意見が大きかったと言われています。
この時ハリバートン社に利益誘導があったとしたら、と誰もが疑うのは無理のないことでしょう。
ブッシュ大統領を影から操っていたと言われる、そんなチェイニーの半生を描いた映画が『バイス』なのです。
ブッシュ政権が「大量破壊兵器はある」と言いイラクへの軍事介入を決め、その裏にある真実を暴こうとした『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』。
この2本をセットで鑑賞すると、より楽しめるのではないかと思います。
もっとも、どちらの監督も現トランプ政権に否定的、ロブ・ライナー監督は民主党支持(ブッシュは共和党)でよく知られている、ということを踏まえるのも、公平な目を保つために頭に入れておくべきかな、とも。
報道機関が権力を監視することは、大事な役割でしょう。『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』には、その役割が大きく揺らいだことが描かれています。
彼らは真実を報道しましたが戦争は止められず、死傷者の数はイラク、米兵合わせると百万人を越えたのですから、結末はハッピーなものでは到底ありません。
では、報道がいつも政権の広報部と化しているか、と言われると、それも違うのではないでしょうか。
記者たちのイデオロギーが反映したものや、想像で書かれたような記事もあるのが、アメリカの現状でもあります。
だからこそ『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』の記者たちのように、証拠集めに走り回り、真実を報道すること。
それこそが、ジャーナリストのあるべき姿だと、強く感じます。
受け手側がメディアリテラシーを高め、報道を鵜呑みにせずファクトチェックをし、結果、政治と報道の質が良くなることこそが大切だということが『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』から受け取ったメッセージでした。
まあ、ロブ・ライナー監督としては、自由で独立したメディアが必要で、自由で独立した目をなくしては民主主義は成立しない、というテーマを考えていたようですが。
私の解釈としては、アメリカでも、もちろん日本でも、世界中のどこの国でも正しい報道がなされることが民主主義には必要、となったわけです。
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』まとめ
「王様のブランチ」で紹介された『記者たち〜衝撃と畏怖の真実〜』はまさにチェイニー副大統領を描く『バイス』と裏表‼️イラク戦争を記者側(表)から追う『記者たち』と政府側(裏)から仕掛ける(『バイス』)😳2作観るとより楽しめます👏 https://t.co/oCWEdYwDpV pic.twitter.com/7oSIPqTDbU
— 映画会社 ツイン (@movietwin2) 2019年3月30日
以上、ここまで『記者たち 衝撃と畏怖の真実』について感想を述べました。
- 『バイス』とセットで観ると、イラク戦争時のアメリカについて、理解度が深まること請け合い。
- ジャーナリストとは、報道機関とは、愛国心とは、を今一度考えてみるきっかけになります。
- ウディ・ハレルソンはいい役者だなあと、何回目かわからないけれど再認識。
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