女性を中心に支持を得ている人気作家・島本理生の同名小説を映画化した『Red』。
思春期の少女を数多く描いてきた島本がリアルな30代女性を主人公に据え、初めて挑んだ官能小説を原作にしているということもあり、公開前から話題を呼んでいました。
主人公の塔子を演じた夏帆と妻夫木聡の耽美なベッドシーンは予告編から世間をにぎわせ、共演に柄本佑、間宮祥太朗など実力派俳優が顔を揃えたことでさらに注目を集めました。
原作と全く違うラストを迎えるためファンを驚かせましたが、作者本人が映画版のラストを賞賛していることもあり、見逃せない作品となっています。
今回はそんな映画『Red』をネタバレありでご紹介します。
目次
映画『Red』作品情報
作品名 | Red |
公開日 | 2020年2月21日 |
上映時間 | 123分 |
監督 | 三島有紀子 |
脚本 | 池田千尋 三島有紀子 |
原作 | 島本理生 |
音楽 | 夏帆 柄本佑 間宮祥太朗 片岡礼子 酒向芳 山本郁子 浅野和之 余貴美子 妻夫木聡 |
音楽 | 田中拓人 |
【ネタバレ】映画『Red』あらすじ
元愛人との再会
一流商社に勤める真(間宮祥太朗)と結婚した塔子(夏帆)は、娘の翠を授かり、何不自由ない生活を送っていました。
しかし、同居している義母の麻子(山本郁子)に何かと気を遣わなければならないことや、真が塔子の気持ちを考えてくれないことには不満を感じています。
そんなある日、塔子は偶然、元愛人の鞍田(妻夫木聡)とおよそ10年振りに再会します。
以前、塔子がバイトをしていた設計事務所の社長だった鞍田は、既婚者でありながら塔子と関係を持っていました。
再会に動揺する塔子でしたが積極的な鞍田に流されるかたちで昔抱いていた想いを蘇らせ、2人は再び愛し合うようになります。
現在の鞍田は自分の設計事務所を閉じ、友人の事務所で働いていました。
塔子は鞍田の勧めもあり、彼が務めている事務所で働こうとします。
日々の生活に虚しさを感じていたこともあり、塔子の意思は固いものでした。
真は当初、経済的に安定しているため塔子が働く必要はないと反対していましたが、最終的には塔子の熱意に押されて外で働くことを許します。
家庭と仕事と…
働き始めた塔子は熱心な勤務態度とセンスを評価され、主婦をしているだけでは得ることのできなかったやりがいを感じるようになります。
その頃、塔子に近づいてきたのは同僚の小鷹(柄本佑)。
小鷹は強引ですが察しが良く、塔子の過去や鞍田との関係を見抜きます。
塔子は小鷹に少しずつ心を開いていきますが、鞍田はその様子を見て嫉妬心を燃やすようになりました。
そんな中、塔子は鞍田が担当していた案件をサポートすることになり、2人で新潟の現場に向かいます。
その帰りに鞍田の部屋に連れ込まれ、お互いを求め合い愛し合います。
そこで鞍田が離婚していたことや、悪性リンパ腫を患っていることを知りました。
正社員になった塔子は、ますます仕事に精を出しますが、そのことで翠に寂しい思いをさせてしまい、真に責められます。
そんな状況のまま、クリスマスの深夜に家を抜け出した塔子は、鞍田の元へ向かい激しく愛し合います。
病状が思わしくない鞍田は自らが大切にしている本を塔子に託そうとしますが、鞍田を想って悲しくなってしまった塔子は、鞍田にこの関係を終わらせると伝えると、自宅に帰っていきました。
暗い新年
新年を迎え、塔子宅には実母の陽子(余貴美子)が挨拶に来ていました。
しかし、すぐに居心地の悪さから帰ろうとします。
そして、夫が家を出ていってから1人で塔子を育てた陽子は、実父と音信不通だということを隠している塔子を責めました。
隠しているのは真の意向であり、塔子だけの問題ではないのですが、実母から浴びせられた言葉に塔子の気持ちは揺らぎます。
正月休みが明け、事務所に出勤した塔子は鞍田が体調を崩して年末から入院していることを知らされます。
そこで、鞍田の仕事を引き継ぐことになったのは塔子と小鷹でした。
小鷹との新潟出張が決まり、嫌がる真に翠を任せて出かけていきます。
察しが良く勘の鋭い小鷹は塔子が鞍田と別れたことを見抜き、今更隠しても仕方ないと思った塔子は「鞍田さんは一緒にいてもいつも独り」なのだと語りました。
すると、小鷹は「塔子もそうだ」といいます。
その後、無事に仕事を終わらせた2人でしたが、大雪で交通手段が絶たれてしまい、新潟にもう一泊しなければならない状況に陥ります。
真に連絡して状況を伝えると、塔子の不倫を疑っているのか、「どんな手を使ってでも帰って来い」と言われてしまいました。
真の言葉に怒り失望した塔子は、なだめる小鷹を振り切って1人で雪道を歩き出します。
雪の日の決意
雪道を歩いていると、一台の車が現れ、塔子は驚きます。
それは、鞍田の車だったからです。
「一緒に帰ろう」
そう言う鞍田の車に乗り込んで自宅へ帰る道すがら、公衆電話から真に連絡した塔子は家に帰れそうだと伝えます。
しかし、塔子の行動を疑っている真の口からは、責めるような言葉ばかりが出てきます。
そんな真に嫌気がさした塔子は乱暴に電話を切り、結婚指輪を外して公衆電話の上に置いていきました。
塔子は真と別れることを決めたのです。
塔子を迎えに来た鞍田でしたが、体調が思わしくなかったため、少し休もうと2人はホテルに入ります。
2人はいつものように愛し合いますが、鞍田は「ずっと好きだった。ずっと君を探していたんだ」と、初めて告白します。
塔子はその言葉をもっと昔に聞きたかったと思い、悲しげな表情を浮かべたのでした。
実は、一時快方に向かっていた鞍田の病は再発し、もう長くはありません。
鞍田はもうすぐ命が尽きると覚悟していましたが、塔子にはそのことを伝えず最後の時間を塔子と過ごそうと会いに来ていました。
その後、鞍田は亡くなり、葬儀が執り行われます。
塔子は真や翠とともに参列しました。
火葬場で鞍田の骨壺が入った箱を抱える塔子は、背後から翠に呼ばれてもそばに行こうとしません。
泣き叫ぶ翠の声が聞こえていないかのように、真や翠から離れていきました。
そして、たった1人、真たちが見えないところまで歩いてくると、ボロボロと止め処ない涙を流すのでした。
映画『Red』感想
原作との違い
原作と映画版ではいくつか違いがありますが、特筆すべきは大きく二点かと思います。
まず、一点目はベッドシーンが極端に少なくなっていることです。
予告編でベッドシーンを大きく打ち出していたように感じたので、劇中でもかなり登場するのかと思っていましたが回数でいうと2シーンのみでした。
原作では塔子と鞍田は再会してすぐ身体の関係を持つのですが、映画ではそこがすでにカットされています。
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そして、塔子と鞍田はお互いを激しく求めて愛し合い、身体を重ねますが、恋愛はそこがゴールではなく、大切なのは言わずもがなその先です。
男女という関係を超えて、1人の人間としてお互いを見つめる塔子と鞍田を描くにあたっては何度もベッドシーンを見せる必要もなかったのかもしれません。
二点目は、ラストの違いです。
この違いは原作を読んでから映画を観た人、逆に映画を観てから原作を読んだ人、どちらも大きな衝撃を受けたことと思います。
映画版ではあの雪の日に離婚を決意した塔子は、鞍田を亡くしてもなお彼だけを愛して生きていこうとします。
その想いは、愛娘の泣き声が聞こえないほどに強いものとして描かれました。
しかし、原作では一度は離婚を決意するものの、最後には家族を愛そうと決めています。
決め手となったのは愛娘への想いの強さを再認識したからでした。
さらに、原作は10年後が描かれ、成長した娘・翠の様子も言及されますが、映画版では現在のパートまでしか描かれていません。
このように、原作と映画版では真反対の結末を迎えています。
『Red』では女性の生き方や生きづらさ、そして普遍的でありながら正解のない“幸せとは何なのか”という問いが描かれています。
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そんな塔子を取り囲むのは、昔気質なモラハラ夫、真逆のタイプであり孤独を抱える元愛人、友人のような距離を保ちながら寄り添ってくれる同僚。
バラバラなタイプの男性たちが塔子を見つめますが、塔子が誰に惹かれていくか、ということにある種正解がないように、『Red』の結末にも正解がないように思います。
それは、ライフステージを進めていくにつれて妻や母になるという選択肢を持つ女性が、そのライフステージに上がっていくごとに当たり前のように完璧を求められ、上手くこなしたとしても幸せを感じられるかどうかは人それぞれといったように、正解が存在しないのと同じです。
その答えのない人生をどう生きるのか。
urara
そのため、原作と映画版とで別の道を選ぶ塔子は、互いに“if”の存在であるといえます。
そして、正解がない分、いくらでも自分で選択していける人生。
塔子を見て、自分が今、自分の手で人生を選ぶことができているのか考えさせられます。
urara
映画『Red』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
- 夏帆と妻夫木聡の耽美で官能的なベッドシーンが美しい!
- 原作と違うオリジナルのラストに注目!
- 恋愛だけじゃなく人生について考えさせられる!
いかがだったでしょうか。
濃厚なベッドシーンと衝撃の展開が魅力の映画『Red』。
主演の夏帆と妻夫木聡をはじめ、実力派キャストが人間味溢れるリアルな演技を披露しています。
タイトルの“Red”にも様々な解釈があるので、自分なりの考えを巡らせながらの鑑賞も面白いのではないでしょうか。
原作と映画、二つの結末を知ることで、より物語の見方が広がると思います。
ぜひ、原作とあわせてお楽しみください!