『ポップスター』は、若手監督ブラディ・コーベットの世界感が開花した個性豊かな音楽映画です。
- 若手映画監督ブラディ・コーベットの思考にまだ誰も追い付けない
- 20世紀を代表する名作曲家スコット・ウォーカーが遺した実験的要素を含む不穏な楽曲たち
- 作品を彩る楽曲のほとんどが、世界的シンガー、シーアによる書き下ろし作品
それでは『ポップスター』をレビューします。
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目次
『ポップスター』作品情報
作品名 | ポップスター |
公開日 | 2020年6月5日 |
上映時間 | 110分 |
監督 | ブラディ・コーベット |
脚本 | ブラディ・コーベット |
出演者 | ナタリー・ポートマン ジュード・ロウ ラフィー・キャシディ ステイシー・マーティン |
音楽 | スコット・ウォーカー |
『ポップスター』あらすじ【ネタバレなし】
1999年。
突然校内で銃乱射事件に巻き込まれたセレステ(ラフィー・キャシディ)。
事件で負傷した彼女は入院生活を余儀なくされますが、リハビリの辛さにも耐え、なんとか無事日常生活に戻ります。
入院中には、仲のいい姉エレノア(ステイシー・マーティン)と自作の曲を作曲します。
退院の日、セレステは自身が作った曲を携えて、教会で披露します。
校内での発砲事件に巻き込まれダメージを受けた彼女が歌う楽曲は、傷付いた人々の心をも癒し、全米で大ヒットしてセレステは瞬く間に注目を浴びます。
歌声を聞いた敏腕マネージャー(ジュード・ロウ)が、セレステをショービス界へとスカウトするのでした。
それから十数年、辛い過去を乗り越え、スキャンダラスな出来事でスターとしての座を失いながらも、強く前向きに歌と向き合うセレステ(ナタリー・ポートマン)。
そんな彼女が再起を図ったカムバックツアーの初日。
またしても、銃による乱射事件が起きてしまいます。
『ポップスター』感想【ネタバレなし】
狂気と異彩を併せ持つ個性的な新人監督ブラディ・コーベット
歴史は繰り返され、人々はその悲しみと向き合い続けなければならない現実を丁寧に描いた『ポップスター』。
監督は前作『シークレット・オブ・モンスター』で注目を浴びたブラディ・コーベット。
作中のナレーションは個性派俳優のウィレム・デフォーが担当しています。
ブラディ・コーベットは、どんな監督なんだろうか?物語の冒頭から重苦しい雰囲気を醸し出している要因は一体何だろうか?
この映画は物語の最初から疑問符ばかりが頭を過る不思議な作品です。
また構成は、3つの章から成り立っています。
前兆、第1幕、第2幕の順番で、十数年間の主人公セレステの人生を描いています。
『ポップスター』は、タイトルから連想される明るいイメージとは裏腹にとてもダークな音楽映画です。
鈴木友哉
世間の評価は、今一つ芳しくないです。
ただ、一概に悪いとは言いにくく、総評的を言えば、本作はとても挑戦的、挑発的に感じ取れる作品になっています。
物語の冒頭、銃による乱射事件が起こる場面は、観る側にインパクトと精神的ダメージを与えるでしょう。
また、銃撃事件の実行犯は被害者となる主人公が通う学校に在籍している女子生徒です。
少し偏見になるかも知れませんが、従来通なら事件の実行者は男子生徒という印象を持っていましたが、その概念を壊した設定により作品全体に広がる不快な雰囲気に気持ちが押し潰されそうになります。
監督は俳優出身であるブラディ・コーベットです。
若干31歳という若さで身に付けた表現力や演出力には、才能の片鱗が垣間見れます。
悪く言えばクレージー過ぎる思考の持ち主、良く言えば奇才(鬼才)と言ってもいいほどで、これからの活動に渇望できる新人監督です。
実験的な音楽を作り続けた作曲家スコット・ウォーカーが最期に遺した楽曲
『ポップスター』は物語の暗さも去ることながら、映画本編を彩る楽曲たちがとてもブルーな気持ちにさせます。
本作の作曲を担当したのは、スコット・ウォーカーという人物です。
鈴木友哉
傾向で言えば、ラース・フォン・トリアーやミヒャエル・ハネケ、ヨルゴス・ランティモスたちの作品群の雰囲気に似ている風潮があります。
彼らの作品が好きな人には、本作の映画監督ブラディ・コーベットの作品も抵抗なく観れることでしょうし、逆に苦手な方には鑑賞が少し辛く感じるかも知れません。
作品自体は、少し癖のあるディレクターが作った個性の溢れる作品に仕上がっています。
それに拍車を掛けるように、スコット・ウォーカー作曲による楽曲たちが、観る側をイヤな気分にさせます。
スコット・ウォーカーは、もともとウォーカー・ブラザーズという兄弟同士で結成したバンドのミュージシャンでした。
グループを脱退してから、ソロ活動を行いつつ、映画音楽も手掛けるマルチな才能を見せています。
最初のサウンドトラックとしては、レオス・カラックス監督の『ポーラX』を担当した後、ブラディ・コーベットのデビュー作『シークレット・オブ・モンスター』を担当しています。
『ポップスター』では、重厚な物語に合わせるように深みのある楽曲を作曲しています。
オープニングクレジットで流される『Prelude』は一分程度の曲ですが、低音の弦楽器が用いられ、音楽から漂う不穏な空気が作品全体に対して不快な印象を持たせます。
残念ながら、スコット・ウォーカーは2019年3月に76歳で急死しており、死因も未だに公表されていません。
鈴木友哉
『ポップスター』をご覧になる際は、スコット・ウォーカーが作曲したスコアにも耳を傾けてみて下さい。
世界的トップ・アーティストのシーアが手掛けたポップな楽曲が耳に残る
サウンドトラックとは別に、劇中で流れる劇中歌のクオリティーが予想以上に高い『ポップスター』。
世界的トップ・アーティストのシーアが音楽担当として本作に参加しています。
暗い物語の終盤にアップテンポな曲調と圧巻のライブステージを配置して、作品の陰と陽を対比させた構成を図っています。
子供の頃の苦悩と成人してからの度重なるスキャンダルで疲弊した主人公の過去からの脱却をラストに持ってきている辺り、本作はセレステの葛藤と成長の物語であると推測できます。
そんな難しい役柄を素晴らしい演技力で魅せてくれたのは、若手女優のラフィー・キャシディとハリウッドを代表する大女優ナタリー・ポートマンです。
ラフィーは事件で負傷した中学生を内面から沸き起こる悲しみを抑えて、明るく振る舞う少女を演じ、ナタリーは過去の傷が癒えぬまま、大人になった現在は芸能界でのスキャンダルに翻弄させられる1人の女性を2人で演じ分けています。
演者たちの与えられた役への真摯なアプローチが本作を深みのある作品に仕上げています。
また『ポップスター』は音楽映画でもあります。
鈴木友哉
暗くて重い物語ですが、ポップな音楽にアプローチすることで少し変わった印象を受けます。
鈴木友哉
シーアの作ったオリジナル楽曲たちが、この映画を明るい方向に引っ張っています。
鈴木友哉
エンドクレジットにも、とても特殊な演出が施されており、監督の特殊な思考が垣間見えます。
ブラディ・コーベット監督の意欲的、挑戦的な観客たちへのスタンスがいい意味で心をかき乱して来る反面、シーアが作曲した音楽のおかげで、本作『ポップスター』はクオリティの高い音楽映画になっています。
『ポップスター』まとめ
以上、ここまで『ポップスター』をレビューしてきました。
- 若手映画監督ブラディ・コーベットのこれからのキャリアに注目が集まります
- 本作は、楽曲を担当したスコット・ウォーカーの遺作となってしまいました
- 洋楽シーンで活躍するトップ・アーティスト、シーアが書き下ろした楽曲を堪能しましょう