高層ビルがひしめくソウル市内に残る、時代に取り残されたかのような町工場が舞台。
金とは何か、死とは何か。そして、愛とは何なのか。
- ソウル市内に残る消えゆく町工場に住む人々の築いてきた小さな幸せ
- 残虐な暴力の裏にある悲しい原因
- 愛を知って人は変わる
それではさっそく映画『嘆きのピエタ』の作品情報・あらすじ・ネタバレ感想を書いていきたいと思います。
目次
『嘆きのピエタ』作品情報
作品名 | 嘆きのピエタ |
公開日 | 2013年6月15日 |
上映時間 | 104分 |
監督 | キム・ギドク |
脚本 | キム・ギドク |
出演者 | イ・ジョンジン チョ・ミンス ウ・ギホン カン・ウンジン クォン・セイン |
音楽 | In-young Park |
『嘆きのピエタ』あらすじ
身寄りもなく、ずっと一人で生きてきたイ・ガンド(イ・ジョンジン)は、極悪非道な借金取り立て屋として債務者たちから恐れられていた。
そんな彼の前に母親だと名乗る女性(チョ・ミンス)が突如現われ、当初は疑念を抱くガンドだったが、女性から注がれる愛情に次第に心を開いていく。
生まれて初めて母の愛を知った彼が取り立て屋から足を洗おうとした矢先、女性の行方がわからなくなってしまい……。
出典:シネマトゥデイ
『嘆きのピエタ』みどころ
独創的な作風で世界中から注目を浴びる韓国の鬼才キム・ギドク監督による、第69回ベネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた問題作。
昔ながらの町工場が並ぶソウルの清渓川周辺を舞台に、天涯孤独に生きてきた借金取りの男の前に突如母親と名乗る女性が現われ、生まれて初めて母の愛を知った男の運命を描き出す。
主演はテレビドラマ「愛してる、泣かないで」のイ・ジョンジンと、ベテラン女優チョ・ミンス。
二人の気迫に満ちた演技と、観る者の予想を超えたストーリー展開に圧倒される。
出典:シネマトゥデイ
『嘆きのピエタ』を視聴できる動画配信サービス
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【ネタバレ】『嘆きのピエタ』感想レビュー
タイトル『嘆きのピエタ』の意味
ピエタとは、イタリア語で慈悲や哀れみという意味があります。
また、十字架にかけられたイエスの亡骸を抱いている、聖母マリアのこともピエタといいます。
多くの芸術家がピエタを題材に数々の名作を残してきました。
そして、鬼才キム・ギドクもまた例外ではありません。
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退廃的な町工場
『嘆きのピエタ』は、ミケランジェロの彫刻ピエタからインスピレーションを受けたというキム・ギドク監督が、母と息子の関係を題材に、暴力、拝金主義への警告を描いたメッセージ性の強い作品です。
清渓川が流れ、退廃的だけどどこかノスタルジック漂う町工場を舞台に、借金取りのガンドは巨額の利子と残虐なやり方で、借り手を極限まで追い込んでいきます。
ガンドがお金の返せない借り手を容赦なく傷つけていくシーンは、思わず目を覆いたくなるものがありますが、暴力への嫌悪を感じさせる意味ではかなり成功していると思います。
借り手の人々には、夫婦で工場を切り盛りしていたり、親子で仲良く暮らしていたり、貧しいながらも築き上げてきた普通の生活がありました。
そんな小さな幸せを容赦なく奪っていくガンドは、生まれてすぐに母親に捨てられ30年間天涯孤独。
愛を知らないガンドにとって、大切な人を傷つけられた人の浴びせる恨みの言葉など、なんの意味もありませんでした。
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あなたを捨ててごめんなさい
そんなある日、ガンドに付きまとう一人の女性が現れます。
「あなたを捨ててごめんなさい」と、まるで母親のようにガンドに近づくのです。
なんとも怪しいこの女性。
その悲し気な表情の中に、なにか決意の色が見受けられます。
そして、ガンドの家に上がりむと、洗い物をしたり、料理をつくったり、本当の母親なのでしょうか。
しかし、実はこの女性。本当はガンドに復讐をたくらむ、自殺した借り手の母親だったのです。
そして、その女性の復讐とは、ガンドに大切な人を失う悲しみを味合わせること…。
それは映画の中盤で明らかになるのですが、それまでは本当の母親に見えていただけにガンドがかわいそうになってしまいます。
家族の愛を知ったガンドは、仕事もやめ、今までの借り手からの復讐に怯えるようになっていました。
自分の身を投げうって母親を守ろうとするガンドに、あの残虐だった姿はもうありません。
しかし、だからと言って犯した罪は消えません。
ガンドは、その女性の思惑通り、罰を受けることになるのです。
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お金とはすべてのはじまり
お金のために普通の生活や、命までなくしてしまう人々の姿から、「お金とは何なのだろう」という問いが生まれます。
また、暴力では根本的には何も解決しないということも『嘆きのピエタ』の中核をなしていると思います。
キム・ギドク監督は、インタビューで「暴力は原因があって生まれてくる」と語っています。
ガンドにとってそれは、母親に捨てられたというトラウマでした。
勝手な憶測ですが、ガンドの本当の母親も、お金がなかったゆえにガンドを捨てたのではないでしょうか。
そう考えると、ガンドもお金によって傷つけられた被害者だったのです。
最後、元借り手の車に引きずられる形でガンドは自殺します。
人々の罪を背負って十字架にかけられたイエスとガンドでは歴然たる差がありますが、高速道路を赤く染める愛を知ったガンドの懺悔の血は、どこまでも続く灰色社会の中での一筋の希望にも見えるのです。
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『嘆きのピエタ』における母性とは
『嘆きのピエタ』では、母親の愛情を感じたガンドが暴力をやめ、罪をつぐなう様子が描かれます。
そして、最初は恨みの気持ちから復讐をもくろむ女性も、次第にガンドを憐れむようになっていきます。
その様子が、人間の心の複雑さなどをなんとも切なく映し出しています。
しかし、暴力を沈めるのはこうした愛、とりわけ母性愛だという表現は、少しやりすぎな気もしました。
『嘆きのピエタ』はその世界観、寓話性を大切にするために母性を題材にしたのだと思います。
しかし、暴力は母の愛情が足りなかったから生まれるのだと誤解を招きかねません。
社会の中に潜む暴力、また大きなことで言うと戦争などの原因は愛情不足だけではないでしょう。
フロイトとアインシュタインの交換書簡『ひとはなぜ戦争するのか』の中で、フロイトがアインシュタインにあてた中にこんな言葉があります。
「文化が生み出す顕著な現象は二つです。知性を高めること。そして、攻撃本能を内へ向けること。」
この言葉に出てくる文化という言葉を母性愛に置き換えたのが『嘆きのピエタ』であると思います。
そして、このような意識の向上は、文化や母性愛以外からでも見られるはずです。
私たちが芸術に触れて感動することもそのひとつでしょう。
フロイトは「このような意識の在り方が、戦争への嫌悪を生み出す」と言っています。
みんながそうした心を持っていれば、戦争の終焉も望めるのかもしれません。
話が大きくなってしまいましたが、キム・ギドク監督の芸術性に触れながら、心が震える体験をしてみませんか?
きっと、キム・ギドク監督のメッセージを感じられると思います。
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『嘆きのピエタ』まとめ
#嘆きのピエタ を見てしまった。ひぇぇぇ。ちっとも商業的じゃないよ、これ。キム・ギドクの中では分かりやすいかもしれないけど、やっぱりキム・ギドクだよぉ。分かりやすいぶん始末が悪いや。オンマとアデの関係が濃密な韓国だから、なおのこと怖すぎる。人の心を知らなかった若者が愛に目覚める話。
— 堀 江里子 (@marudaheri) 2019年2月26日
Twitterのコメントでもありますが、まさにキム・ギドク監督だからこそ出せる空気感が醸し出ている傑作だと思います。
以上、『嘆きのピエタ』について感想を述べました。
- ガンドの愛による変化が見る人の心を打つ
- 母性愛というひとつのきっかけをテーマに伝えられた平和へのメッセージ
- 暴力は悪であると心で感じる作品
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