何だかふらふらした恋愛ばかりしていた主人公を変えるきっかけになった一切れの恋。
不安になるのは怖い、誰かを本気で好きになるのはちょっと怖い。
でも一歩踏み出して自分に正直になるのは“たやすいこと”よね、という映画です。
- ジョージ朝倉原作、田口トモロヲ監督の恋愛映画
- 設定的には現実的じゃないかもしれないけど、妙に生々しいストーリー
- 主人公に感情移入しすぎると心がしんどい作品です
それでは『ピース オブ ケイク』をネタバレありでレビューします。
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目次
『ピース オブ ケイク』作品情報
作品名 | ピース オブ ケイク |
公開日 | 2015年9月5日 |
上映時間 | 121分 |
監督 | 田口トモロヲ |
脚本 | 向井康介 |
原作 | ジョージ朝倉 |
出演者 | 多部未華子 綾野剛 松坂桃李 光宗薫 木村文乃 菅田将暉 柄本佑 峯田和伸 中村倫也 安藤玉恵 森岡龍 山田キヌヲ 宮藤官九郎 廣木隆一 |
音楽 | 大友良英 |
【ネタバレ】『ピース オブ ケイク』あらすじ
風が吹いた夜
彼氏の正樹(柄本佑)と別れ、失恋を気に引っ越しを決めた梅宮志乃(多部未華子)。
元カレ・正樹は自己中男で「言うことを聞く女が好きだ」とか平気で言い、服装や化粧など身なりにも口出ししてくるような人でした。
そんな相手でも志乃なりに好きでいてもらえるように努力はしていたけれど、うまくいかずに破局。
もともと志乃は流れで男性と付き合ってしまう、ちょっとふらふらした恋愛ばかりする、いわゆる恋愛下手な女子でした。
なんとなくで植物を買っては枯らすという癖もあり、それはまるで恋愛にも同じことが言えるようでもあり。
引っ越しの手伝いに来てくれた親友のナナコ(木村文乃)とオカマの天ちゃん(松坂桃李)に励まされつつ、一緒に過ごしている時は普通に笑えていた志乃ですが、夜になり1人きりになった途端に切ない気持ちにやられてしまいます。
窓を開けて庭を眺めながら感傷的になっていると正樹の幻影が現れて「男なら誰でも良いじゃん、君はそういう女じゃん」と言い放たれて、失恋の傷の痛みに泣いていたら隣の部屋の窓が開きました。
志乃が咄嗟に挨拶すると、ふわふわした髪で髭面の隣人は、他愛ない言葉を交わしたあと屈託のない顔で笑って気持ちよさそうに夜風を浴びました。
生まれ変わると決めた矢先の、恋心
翌日、志乃は天ちゃんが働いているレンタルビデオ店でバイトを紹介してもらうことになり、家からほど近い店に向かうと“店長”は隣人・菅原京志郎(綾野剛)でした。
「女の子は可愛ければ採用」の一言で採用が決まり、従業員の心得的な動画を見ている時、派手なアクセサリーやピアスは駄目だという注意事項が流れれば京志郎は志乃の耳のあたりを覗きこみ、明るすぎる髪色は駄目だという注意の時には気安く髪を触ってきました。
これまでの志乃だったらきっと簡単に“落ちて”しまっているところですが、簡単に好きになってはいけないと自制します。
生まれ変わると決めたのです。
そんな矢先、隣の部屋の庭にある植物を眺めていた志乃は、京志郎の彼女・あかり(光宗薫)と鉢合わせしました。
立派な植物を褒めたらトマトをひとつ投げてくれたけど、“性格の悪い女”だと思いました。
バイトでは慣れないことで失敗ばかり、危うく好きになりかけた隣人には性格の悪い彼女付き、なんだかやるせない気持ちでカップはるさめを食べながら休憩を過ごしているとバイト先の歓迎会という名目の飲み会に誘われました。
志乃は飲み会の席で酔いに酔って元彼たちの幻影まで見て喚き散らし、起きたらアパートに帰っていました。
自分の部屋ではなく、隣人の京志郎の部屋に。
無防備な寝顔を眺めてふわふわの髪に触れ、髭を触っても目を覚まさない京志郎の腕の中で二度寝しかけたところで運悪くあかりが帰ってきてしまいました。
「出てって!」と泣き叫ぶあかりの声から逃げるように外へ出た志乃でしたが、このことがきっかけで京志郎への気持ちを自覚してしまったのでした。
15分だけの2人きりの時間
遅番に入って4回目、夜道は危ないからとアパートまで送ってくれる京志郎と15分一緒に歩いて帰るのも4回目。
何か起きそうで何も起きない、微妙な会話をしながら曖昧な距離を保ったままの15分が過ぎると玄関のドアノブにはビニール袋がかかっていて、中には京志郎の部屋の庭のトマトが入っていました。
京志郎いわく「彼女なりの謝罪の気持ち」だというトマトを志乃は複雑な気持ちで受け取りました。
志乃は、今のアパートに越してきてからもう植物は買わないと決めていたのですが、今度は絶対に枯らしたくないとクワズイモの大きめの鉢植えを買いました。
新しい恋を“枯らせない”と決心した志乃でしたが、ある日のバイトの帰りに遠回しに自分の気持ちを伝えたところ、京志郎からは「あかりと別れる気ないから」とハッキリ言われてしまいます。
気まずいから一緒に帰るのももうやめようと言う京志郎に何とか縋りつく言葉を探していた志乃は勢い余って「好き、大好きです!」と言ってしまうのでした。
この時すでに京志郎的には、これ以上志乃との距離が近づくのはまずい心境でした。
そんななか突然あかりが姿を消しました。
勢いまかせ、なりゆきまかせ
新宿にある弟の店で酒を飲む京志郎は落胆していました。
弟はあかりについて、探偵を偽って素性を調べていたのです。
あかりという名前は偽名で、仕事も在宅で出会い系のサクラをやっていたという話ですが実際のところ何をしていたのか疑わしいと言います。
弟いわく京志郎は“騙されていた”とのこと。
天ちゃん経由であかりの失踪を知った志乃は、心のどこかでチャンスだと思いつつ、寂しさを埋めるだけの行きずりの苦い関係で終わってしまうのは嫌だとも思っていました。
京志郎の気がまぎれるなら行きずりでもなんでも、いやいや、それじゃダメなんだってと自問自答を繰り返しているところに京志郎が帰ってきました。
まさに“寂しさを埋めるだけの行きずりの女”を連れて。
しかし帰ってきたところを見られていた京志郎は、その女を“志乃が怒ったら嫌だ”という理由ですぐに返しました。
もう気持ちが止められない志乃は「寂しかったら私のところに来てほしい」と口走ってしまい、関係のない人から、寂しさを紛らわせる人に昇格。
合鍵を渡し合い、デートもして、仕事中にもスタッフルームでイチャイチャしてみたりして、2人は勢いのままに付き合い始めました。
ある時、志乃は天ちゃんが所属する“劇団めばち娘”の舞台を見に行って劇団の衣装の仕事の面接を受けました。
服飾系の学校に通っていたこともあり、ほぼ即で採用。恋愛に仕事に充実した日々のなか、ふとした時によぎる不安は見ないふりをして過ごしていました。
フタをしきれなかった不安
渋谷ナオミという作家の書いた「旅の彩光」という本が書店に並んでいました。
渋谷ナオミというペンネームであかりが書いた、その本を見つけた京志郎は自分とあかりのことが記してある内容を読みました。
その頃、志乃は衣装の仕事をしている劇団の千秋楽を迎えていました。
打ち上げが朝までかかるというメールを志乃から受け取っていた京志郎が、志乃の部屋で待っていようとして不意に窓の外を見たところ、庭にあかりがしゃがんでいました。
今さらと突き放そうとしましたが、あかりは「母親が死んでしまって自分には京志郎しかいない」と泣きました。
志乃は打ち上げの流れで行った劇団員の家で雑魚寝から目を覚まし、静かに荷物を持って帰宅しようとして、駅で京志郎の姿を見つけました。
「バイクで事故った友達を送った」という雰囲気、普段は街中でキスなんかしないのに唐突にしてくるところ、温泉に行こうと言い出すところ。
怪しい、と女の勘が言うのを志乃は知らんぷりしました。
この日を境に、志乃に甘えたり好きだと言ったりしながら定期的に“事故った友達”のところへお見舞いに行く京志郎。
ある時、京志郎が出かけたあとに志乃が部屋を掃除していて、服をどかしたところで渋谷ナオミの小説を見つけてしまいます。
著者近影の斜め後ろから写っている作者は、正面からの顔がわからないにしても、どう見てもあかりでした。
目に見えているものだけ信じていればいいと自分で自分に言い聞かせる志乃は、いつかの京志郎との約束通りに温泉に行きました。
熱海について秘宝館に行って、高台から海を眺めて旅館について。
部屋にある露天風呂を楽しみながらも、あかりの小説のことが脳内をチラついて、旅館のおいしいごはんを楽しんでいる時もチラついて、切り出したところで京志郎の携帯が鳴って言い出せなくなってしまう志乃。
京志郎が1人で大浴場に行ったタイミングで携帯を盗み見ると着信履歴には何度も“田中”という名前が並んでいました。
いけないことだとはわかっていながらリダイヤルをかけると、出たのはあかりでした。
志乃は怒りにまかせて男子の浴場に殴り込みに行き、この2週間会いに行っていたのはあかりだったんだろうと問い詰めます。
京志郎は北海道に生まれ1歳から母親と二人暮らしだったあかりは母から逃げるようにして上京し、母が死んだのは自分のせいかもしれないと泣いたり、かと思えば唐突に笑ったりと情緒不安定な様子で放っておけなかったと話しました。
喧嘩したまま言葉も交わさずに同じアパートに帰ったら、それぞれのドアの郵便受けに“アパート取り壊しのお知らせ”が入っていました。
京志郎はこれを機に一緒に暮らそうと言って、志乃への気持ちを証明させて欲しいと言いますが、志乃はきっと何度も同じことを繰り返すだけになると拒否します。
さらには自分と付き合ったことも正当化したいだけで、最初から誰でも良かったんだと言い放ち合鍵を返して2人の関係は終わりました。
人を好きになるって、最悪。
1年後。
劇団めばち娘は上り調子で、天ちゃんは映画の準主役に抜擢されたりするほどになっていました。
志乃はといえば、他の劇団やアイドルの衣装の仕事が入るようになり、憧れだった服飾の仕事で生活が成り立つようになりました。
ナナコは幸せそうな妊婦となり、話題は志乃の恋愛事情になります。
あれから独り身でいるし京志郎とも連絡すらとっていないと言うと、志乃は渋谷ナオミの最新刊を渡されました。
ナナコが言うには、そこにはあかりと京志郎と志乃のことが書いてあるといいます。
あかりと京志郎が別れたことも、京志郎がちゃんと志乃のことを想っていたということも書いてある、と。
渡された本を読んで後日、志乃は渋谷ナオミのサイン会に足を運びました。
「また会えて良かった」というあかりに「もう2度と会いたくないけどね」と笑って、差し出された手に握手をして書店を出ていきます。
その日は劇団めばち娘のトークイベントが開催される日でした。
会場は偶然にも京志郎の弟のバー。
そしてひょんなことから現在、京志郎が店の裏で弟と一緒に住んでいることを知りました。
今更元通りになんてなれないと自分に言い聞かせる志乃の目の前に京志郎が現れました。
衝動的に逃げ出す志乃を、京志郎は追いかけます。
考えて、やめて、考えて、繰り返してやっと心が平穏になってきたところなのにと言う志乃に、自分の態度や行いで信じさせると言う京志郎。
それでもやっぱりあの時隠れてあかりのところに会いに行っていたことが引っかかったままの志乃は京志郎を受け入れられずに、言い負かされることなく拒否し続けました。
すると京志郎は志乃を抱えて走り出しました。
男らしく忘れようとしたのに、と言いながら指すのは隣同士で住んでいたアパートに志乃が置いて行ったクワズイモが増えに増えた庭。
愛してよ、という言葉にまたキレた志乃の言葉をきっかけに胸の内をぶつけあって怒鳴り合って、志乃は最後に「京ちゃんなんて大っ嫌い!」と言い捨てて京志郎にキスをしました。
『ピース オブ ケイク』感想
共感できすぎる作品
vito
まぁ私には肝心の京志郎みたいな相手は現れていないわけですけど?
vito
まったく同じ状況ではないにせよ、恋愛における感情的なものに関しては志乃に共感する人って結構多いんじゃないかなぁと思います。
vito
なので、どちらかというとキュンキュンしたい時に見る恋愛映画ではないかなという感想です。
場面だけ切り取れば結構おいしいんですけど。
vito
ちなみに私が一番ギクっとした志乃のセリフは「幸せだと感じるほど怖くて、不幸の準備をしてしまう」です。
このセリフに思うところのある人にとってはなかなかしんどい作品だと思うので判断基準としてどうぞ。
しんどいとか言って手元にDVDで持っておきたい作品だったりもして
志乃にこれでもかというほど感情移入したからというのもあるけど、空気感というか雰囲気とか、なんだかんだで結構好きだったりもします。
vito
志乃の親友ナナコは木村文乃、オカマの天ちゃんは松坂桃李、レンタルビデオ店の川谷という青年は菅田将暉、映画監督を目指している青年は中村倫也、劇団めばち娘の千葉さんは峯田和伸。
vito
そして監督が田口トモロヲっていうのも良いですね。
こういうの撮るんだ意外…という印象です。
バイプレイヤーだったりナレーションも上手かったり多才ですね。
vito
『ピース オブ ケイク』まとめ
映画「ピースオブケイク」
5年前の作品ですが、主演の多部ちゃん&綾野剛以外も豪華!
松坂桃李、木村文乃、菅田将暉、柄本佑、峯田和伸、1シーンだけ中村倫也も
自身も俳優でもある監督・田口トモロヲさんの人脈ですかねー?このキャスト見るだけでも大満足♪ pic.twitter.com/ttAxIChN9g— さんかく (@dashi56133180) April 13, 2020
以上、ここまで『ピース オブ ケイク』をレビューしてきました。
- 振り回されるような恋愛映画を探している人におすすめです
- 主演はもちろん、脇役のキャストにグッとくるものがあったら見た方がいい!
- 見終わったあとクワズイモの鉢植え買おうかな、と思ったのは私だけでしょうか
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