韓国で2000年に公開され、映画賞を総なめし、日本でも話題作となった『ペパーミント・キャンディー』。
監督は『バーニング 劇場版』のイ・チャンドン、主演は韓国映画界の重鎮ソル・ギョングと実力派女優ムン・ソリです。
この監督と主演2人は、2002年の『オアシス』でもタッグを組みました。
列車に飛び込んだ男が、死の間際に「美しい人生を振り返る」という不思議な構成なのですが、美しい思い出だけでなく、主人公ヨンオが生きていけなくなるほど人生や人格を大きく変えてしまった歴史的事件なども次々とわかっていくのが面白い映画です。
- 韓国史と関係する、ヨンオの人格を変えた出来事とは?
- 初恋の人「スニム」との関係は?行く末に注目!
- ヨンオは本当に「美しい人生」を歩んできたのか?
それではさっそく、ネタバレありで映画『ペパーミント・キャンディー』をレビューしていきたいと思います。
目次
映画『ペパーミント・キャンディー』作品情報
作品名 | ペパーミント・キャンディー |
公開日 | 2000年10月21日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | イ・チャンドン |
脚本 | イ・チャンドン |
出演者 | ソル・ギョング キム・ヨジン ムン・ソリ パク・セボム ソ・ジョン キム・ギョンイク |
音楽 | イ・ジェジン |
【ネタバレ】映画『ペパーミント・キャンディー』あらすじ・感想・解説
久々のピクニック、そして列車の前に…
陽気のいいある日、とある田舎の鉄橋の河原で「カリボン峰友会」(昔ソウルのカリボンドン地区で働いていた人たちの組合)のピクニックが20年ぶりに開催されていました。
そこへスーツ姿で現れたのはキム・ヨンホ(ソル・ギョング)。
久々に見て、昔と変わったヨンホに会の仲間たちは驚きます。
みんな彼の消息が気になっていたのですが、連絡がつかず心配していました。
しかし、久々の楽しいひと時にも関わらず、一人だけ場違いなスーツ姿のヨンホは、突然叫んだり川に飛び込んだりと、奇妙な行動をとります。
そんな彼を心配する会の仲間たちですが、どうすることもできません。
そしてなんと、ヨンホは鉄橋に上がって、線路の上に立ち「帰りたい!戻りたい!!」と叫びながら、迫りくる列車の前に立ちはだかるのです。
気づいた仲間の一人が必死に止めようとしますが、すでに時遅く…ヨンホは列車に轢かれてしまいます。
ここから、ヨンホの「過去の記憶」がプレイバックされていきます。
カメラ
死の3日前、よれよれの服と無精ひげ姿のヨンホは、この日とある海岸で2人の男たちから拳銃を買い取ります。
その後、車の中で口にくわえてみたり、頭に当ててみたり、さらに昔共同経営をしていた知人に向かって発砲したりと、奇怪な行動をとるヨンホ。
家族とも離れ畑のビニールハウスに住むヨンホは、ふと家族に会いたくなりかつてのアパートを訪れるのですが、元妻ホンジャ(キム・ヨジン)にはドアのチェーンも外してもらえません。
彼を慕う愛犬が駆けつけてきますが、触れることも許されず、娘にも会えずと散々なヨンホ。
ビニールハウスに戻ると、一人の男性が待っていました。
最初は借金取りか警察かと思っていたヨンホですが、男性の正体を知ると動揺を隠しきれなくなります。
その男性は、ヨンホの初恋の女性スニム(ムン・ソリ)の夫だったのです。
彼は、スニムが病気で余命いくばくもない状態で、ヨンホに会いたがっていると言うことを話します。
ショックを隠し切れないヨンホですが、スニムに会いに行くことを決意します。
そして、病院の集中治療室にいるスニムの変わり果てた姿を見て、耐えられなくなるヨンホ。
昨日までは会話もできたというスニムの死ぬ前の願いは「ヨンホに会うこと」でした。
その願いが叶う前に昏睡状態になってしまったスニムですが、ヨンホが語り掛けると涙を流すのです。
そしてスニムの夫から、その昔スニムがヨンホのためにお金をためて買ったカメラを渡されます。
大切な思い出の詰まったカメラですが、生活に困り質屋に売ってしまうヨンホ。
そして、カメラの中に入っていたフィルムだけ渡され、そのフィルムを見てヨンホは大泣きするのです。
人生は美しい
1994年、警察時代の先輩と家具屋を共同経営し、裕福な暮らしぶりをしているヨンホ。
ヨンホは妻ホンジャの浮気を知り、相手の男とホンジャに暴力をふるうも、実は自分も浮気をしていました。
ある日浮気相手と入った食堂で、過去にヨンホが拷問をした男と久々に顔を合わせることになります。
とても気まずい2人。
男に「今はどこの警察で働いているのですか?」と聞かれるヨンホですが、「警察はもう辞めました」と答えます。
その後またトイレで出会うのですが、ヨンホはその男に「人生は美しい、だろ?」と問いかけるのです。
刑事時代のヨンホ、スニムとの再会
1984年、兵役終了後に刑事となったヨンホ。
ある日突然、呼び出され逮捕者の拷問をするように言われます。
自分自身混乱しながらも、激しく暴力を振るうヨンホ。
それからしばらくして、徴兵前に働いていた「カリボンドン」で出会った女性スニムが会いに来ます。
うれしいはずですが、冷たくあしらってしまうヨンホ。
スニムに「あなたは変わったけど、あなたの手は変わらない」と言われたヨンホですが、なんと、側にいたまだ恋人でもないホンジャの下半身を誉められた手で撫でて見せるのです。
悲しい気持ちになるスニムですが、最後に必死にお金を貯めてヨンホのために買ったカメラを手渡そうとします。
その後、お見送りの駅のホームで「こんなのは、もういらない」と言い、カメラをスニム返すヨンホ。
しかし、スニムの乗った電車が見えなくなると号泣するのです。
かとリーニョ
その後ヨンホは、自分を慕ってくれていたホンジャと結婚することになるのです。
面会
刑事になる前は兵役に出ていたヨンホ。
1980年、彼を慕っていたスニムは、ヨンホに面会にいくのですが、その頃は各地でデモが起き、「厳戒令下」であったため面会が許されません。
その頃、出動命令が下ったヨンホは、身支度に手惑い上官に蹴りつけられていました。
大切に飯盒にしまっていた、スニムからもらった“ペパーミントキャンディー”がこぼれ落ち、必死に拾うヨンホ。
トラックに乗り込み移動中、スニムが道を歩いているのが見えるのですが、ヨンホは声もかけられませんでした。
当時、長年独裁を続けたパク・チョンヒ大統領が暗殺され、それをチョン・ドファンが受け継いで更なる軍事独裁路線を進もうとしていたので、各地で反政府デモが相次いでいました。
かとリーニョ
ヨンホも光州市にやってきますが、夜の市街戦で足を撃たれてしまいます。
そして、停車中の列車の裏で隠れていると一人の少女が現れました。
ヨンホに、「家に帰りたいが、いつもの道は軍隊がいて帰れないからこの線路の先の道へ通してほしい」と懇願する少女。
ヨンホはほかの兵士に見つからないように「早く通れ!」と少女に言って急かします。
少女が線路を歩いていく中、ほかの兵士が近づいてくるのを見て焦ったヨンホは、さらに急かすつもりで発砲します。
しかし、焦って撃ったためにその銃弾は…少女に当たってしまったのです。
あまりのショックと衝撃で茫然とするヨンホは、こと切れた少女を抱き上げて号泣しました。
ピクニックでの出会い
1979年、まだ兵役に行く前。
とある景色のいい山で、川沿いを若い男女が愉快に歩いている中、その河原で花を見つめているヨンホ。
そこにスニムが優しく声をかけます。
ヨンホは笑顔で話しながら「いつかカメラを持って、名もない花を撮りたい」と言います。
スニムは毎日工場で包んでいるというペパーミントキャンディを差し出し、ヨンホはそれを美味しそうに口に含みました。
そして、ヨンホは「ここに来たことがないのに、なぜかよく知っているような気がする」と言うのですが、スニムは「それは夢で見たのでは?その夢が、いい夢ならいいのに」と返します。
ヨンホはスニムに河原に咲いていた一輪の花を渡しました。
その後、若者たちが輪になって「どうすればいいんだ、君に去られてしまったら…」と歌う中、山の鉄橋の方を見て涙を流すヨンホ。
かとリーニョ
韓国史を一人の男と重ねた傑作
かとリーニョ
ソル・ギョング演じるヨンホは、激動の韓国史を象徴する存在。
「光州事件」では兵役中で現場に参加し、その後チョン・ドファンの「軍事政権下」では学生運動を弾圧し拷問をする刑事になり、そして警察をやめた後は家具屋で成功するものの、97年のアジア各国の急激な通貨下落「IMF通貨危機」で文無しになるなど、韓国の近代の重大事件の影響をもろに食らっています。
かとリーニョ
過去を徐々にプレイバックしていく構成の妙も見事ですが、韓国史の重大事件をこれでもかと入れ込んで一人の男の人生を描いたイ・チャンドン監督は、本当にあっぱれ!です。
「光州事件」や「軍事政権時代」は、さまざまな作品で描かれていますが、このように個人の目を通して描くのかと、その目の付け所の素晴らしさを実感できました。
かとリーニョ
『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー賞を受賞するはるか前、世界に韓国映画のレベルの高さを知らしめた、ぜひみなさんにご覧頂きたい傑作です!
映画『ペパーミント・キャンディー』あらすじ・ネタバレ感想・解説まとめ
以上、ここまで韓国映画『ペパーミント・キャンディー』についてご紹介させて頂きました。
- 「光州事件」や「軍事政権下」を生き、狂わされた男の人生を描く
- ソル・ギョングの迫真の演技に圧倒される!
- 韓国の80年代以降の歴史背景を一気に見ることができる