映画『Peace ピース』ネタバレあらすじ・感想!人間が見習うべき猫社会とは?

ピース

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猫映画は様々な国で制作されていますが、そんな中でも高齢者社会と猫社会を照らし合わせた異色の猫&人間ドキュメンタリー映画『Peace ピース』をご紹介します。

ポイント
・高齢者社会とネコ社会を重ね合わせたドキュメンタリー
・観察映画というスタンスで高齢社会の問題を身近に感じられる
・戦争経験者の語る「命の値段が一銭五厘」の意味

本作はナレーションや音楽、さらには説明のテロップ等を一切なくした「観察映画」と称されるドキュメンタリーです。

一見「それはさすがに見ていて退屈では…?」と思うかもしれませんが、リアルな高齢者社会の問題を身近に感じられるほか、老夫婦の生活と社会の問題が地続きになっていると実感させられる、大変興味深い作品でした。(猫の仕草もちゃんとかわいいです…!)

それでは『Peace ピース』をネタバレありでレビューします。


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『Peace ピース』あらすじ【ネタバレあり】

柏木家の庭と野良ネコ

岡山県に暮らす柏木老夫婦。その庭には多くの野良猫が住み着いている。夫・柏木寿夫が野良猫にエサをあげているが、なかには他の猫のエサを横取りしていく泥棒猫もおり、寿夫は頭を抱えている。

寿夫はNPO法人が運営する「福祉有償運送」でドライバーを務めている。高齢であったり、体に障がいをもつ人を安い運賃で目的地まで送迎するサービスだ。利用者の多くは田舎に暮らす独居老人や、親が高齢になった障がい者の方々。彼らに親身に寄り添う寿夫は、岡山で初めてできた障がい者施設について「当時はもともと暮らしていた人たちから、偏見の目もあった」とこぼす。

一方、妻・廣子も同じNPO法人で働いており、訪問介護や事務職を務めていた。廣子は大通りから奥まった場所に建つ古びた一軒家を尋ねる。中で暮らすのは身寄りのない91歳の独居老人・橋本だ。家の中はお世辞にも清潔とは言えず、廣子は訪問前に必ず虫よけスプレーを体に振りまく。家の中にはネズミがせっけんをかじった後や、その糞が見られる。

橋本の暮らしを心配する廣子だが、橋本は「結婚もせず、誰に気を使うことなく生きるのも悪くない」と返す。しかし橋本は肺がんを患っており、生活保護で生活しながらホスピスケアを受けている状態だった。

ほとんどボランティアとして活動する「福祉有償運送」

柏木家には10~20年も前から野良猫が住みつくようになっていた。エサをあげれば子猫も増え、成長した猫はある時を境にふっといなくなる。こうして現在まで、柏木家の庭に猫が入れ替わりで訪れるようになった。

寿夫が勤める「福祉有償運送」はほぼボランティアのようなもので、収益はほとんど出ない。政府からの援助もないので、母体となっている訪問介護事業所から何とかお金をもらっている状態だった。それでも続ける理由を聞かれると、寿夫は「惰性だよね」と苦笑する。

後日「福祉有償運送」として働きたい人々が集まる講習会が開かれ、寿夫も講師として参加をする。そこでいかに「福祉有償運送」が労力のわりに収益がなく、ボランティアをする気持ちでないと務まらないかを説明する。寿夫は「なぜこの事業を続けるのか」という内容に対して、「お金には変えられないものがあるから」と話すのだった。

命の値段は一銭五厘

寿夫が野良ネコにエサをあげ続けることに対して、廣子は常によく思っていなかった。猫が増えれば、その分エサの後始末や糞尿の問題も出てくる。それを夫に言っても理解されず、そのことに対して寿夫はノーコメントとはぐらかす。少し前から姿をみせる泥棒猫は、だんだんと元からいた猫の縄張りを奪ってしまい、ほかの猫たちは隅に追いやられてしまった。

廣子が橋本の自宅に訪れると、新聞が何日も取り込まれておらず、家の鍵もかかっている。一瞬、最悪の事態かと空気が張り詰めるが、暫く呼びかけると橋本が姿を現した。この日、橋本は初めて自らが経験した戦争の話をする。当時は生きて帰ってくることが「恥」とされるほど熾烈な時代で、橋本は生きて帰ってきたことを今でも素直に喜べないような口ぶりだった。当時は招集令のハガキ代にちなんで「お前たちの命は一銭五厘」と上官に言われたと語る。過酷な時代を生きた橋本の話を、廣子は親身になって聞いていた。

柏木家の庭にも小さな変化が起きた。ほかの猫から煙たがられていた泥棒猫が、皆と一緒にエサを食べていた。「ほかの猫が許したんだろう」と、寿夫はネコたちを見守りながらぽつりとつぶやくのだった。

『Peace ピース』感想

高齢者社会とネコ社会を重ね合わせたドキュメンタリー

本作は柏木家の庭に訪れる猫の様子と、柏木家が務めるNPO法人による介護事業の実態を、同時に描いた作品です。一見関係のない2つのテーマですが、徐々に共通点が見えてくる興味深い構成となっています。

柏木家の庭で築かれるネコ社会では、すでに何度もやってきている野良猫グループがあり、そこへ”泥棒猫”と呼ばれるよその猫がエサを横取りしていきます。当然ほかのネコからは威嚇され、仲間に入ることはできません。

一方で、本作で柏木夫妻が訪問する高齢者のほとんどが独居です。体が不自由になり、社会に参加する機会がどんどん失われていく上に、政府から十分な援助も受けることができない状態が見て取れます。

姿かたちは違えど、仲間外れにされているネコと、社会に参加する機会がなくなっていく高齢者の立場は非常に似ています。もちろん、高齢者が同じというのは「泥棒」という点ではなく「社会に参加することが難しい」点です。

そんな構図を意識してみると、ラストでよそ者だったネコが、ほかのネコとたちと一緒にエサを食べているシーンは希望に溢れていると同時に、私たち人間が見習うべき社会のお手本として観ることができました。

高齢社会の問題を身近に感じられる観察映画

日本はかなり前から高齢者社会と言われ続け、高齢化の勢いは留まることを知りません。本作は2010年に制作されたものですが、この当時の介護業界はかなり過酷であることが分かります。柏木氏がカメラの前でこぼしたように、事業はほぼボランティア状態。何より、高齢者を介護している柏木夫妻もかなり高齢のはず…。

こうした実態を、数字などのデータや多くの人にインタビューするのではなく、終始柏木夫妻の目線で撮影された映像で見せていきます。本作は、介護の問題を体感すると表現した方が近いとさえ感じられます。

特に、身近に高齢者のいない人にとっては多くのシーンが未知の領域。「福祉有償運送」という事業があること、住宅街の奥まった場所にあり、今にも壊れそうな家にはどんな人が住んでいるのかなど、決して数字や人づての話からは知りえない、高齢者社会の実態をまざまざと思い知らせる作品でもあるのです。

命の値段は一銭五厘

作中のラストで独居老人の橋本氏が話した「お前たちの命は一銭五厘だ」という、戦時中のエピソード。これは戦時中に召集令や死亡通知書を送るための切手代を、兵士の命に置き換えたものです。戦争の悲惨な状況を伝える上で有名なエピソードであり、当時日本兵がどれほど兵士の命を軽くとらえていたのかが分かります。

橋本氏がこれほど残酷な戦争体験をしたにもかかわらず、国の支援を満足に受けられないまま、孤独に古びた家で暮らす様子はかなりショッキングです。橋本氏は家族はおろか、当時の同級生も多く戦争で亡くしていました。

橋本氏に満足いく援助が行っていない一方で、彼らを支えるNPO法人も、2010年当時は不安定な状況でいたのも問題です。「福祉有償運送」も収益はほぼないなど、私たちが普段知ることができない問題が浮き彫りになっている作品でもありました。

『Peace ピース』あらすじ・感想まとめ

要点まとめ
・高齢者社会とネコ社会を観察し続ける異色ドキュメンタリー
・観察映画というスタンスによって高齢社会の問題を身近に感じられる
・戦争経験者の語る「命の値段が一銭五厘」は戦場から送るはがきの切手代だった…

以上、ここまで『Peace ピース』をレビューしてきました。

75分と比較的短い上映時間であり、情報量も必要最低限まで絞った本作。

ミルトモ 編集部

非常にシンプルな構成ですが、それによって物事を知る以上に、体感させられる力を持ったドキュメンタリー映画となっていました。介護問題が身近ではない人も、本作を観ると「自分が高齢者になったときはどうなっているのだろう?」と、自分事として置き換えてみることができるでしょう。
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