太宰治の“一番ポップ”な青春小説がキラキラとあざやかに完全映画化。
自称“新しい男”と「意地悪」が口癖の若い看護師、「いやらしい」が口癖の熟した看護師。
3人の恋はどこへ向かうのでしょうか?
- 太宰治の生誕100年を記念して公開された映画
- “一番ポップ”という謳い文句なだけあってどこかカラっとしていて明るい作品です
- しかしそれでいて登場人物の心理描写はもどかしいほどリアル
それでは『パンドラの匣』をネタバレありでレビューします。
目次
『パンドラの匣』作品情報
作品名 | パンドラの匣 |
公開日 | 2009年10月10日 |
上映時間 | 94分 |
監督 | 冨永昌敬 |
脚本 | 冨永昌敬 |
原作 | 太宰治 |
出演者 | 染谷将太 川上未映子 仲里依紗 窪塚洋介 ふかわりょう 小田豊 杉山彦々 KIKI 洞口依子 ミッキー・カーチス |
音楽 | 菊地成孔 |
【ネタバレ】『パンドラの匣』あらすじ
“新しい男”
1945年、夏。
弱い自分の体を憎みながら医者の言いつけを守らずに畑仕事で痛めつけるようにして、桶に張った井戸水に顔を埋める利助(染谷将太)。
血を吐いたことは誰にも内緒にしておき、周りが気付いた時には手遅れでぽっくり死んでやるつもりでした。
自分で耕した畑で、お百姓さんの真似事をしたまま倒れて死ぬのが本望だとさえ思っていました。
しかし、日本が戦争に負けたのを機に新しい時代に希望を抱きます。
敗戦に悲しみ暮れる家族たちに結核であることを打ち明け、治療のために健康道場という診療所に入院しました。
戦争に負けたことで命が惜しくなったわけではなく、敗戦宣言の日を境に生まれ変わったからというのが理由です。
道場では患者も看護師もあだ名をつけられるのが習わしで、利助は「ひばり」というあだ名をつけられました。
ある時、健康道場から、詩人のつくし(窪塚洋介)が退場することになりました。
常日頃、道場内で交わされる「がんばれよ」の声掛けに「ようしきた」と答えて去っていくつくしを、マア坊(仲里依紗)は切ない表情で見つめていました。
そしてつくしと入れ替わりになるタイミングで新しい看護師がやってきました。
どこかよそよそしく地味で古臭い、その看護師のあだ名は“竹さん”(川上未映子)に決まりました。
竹さんは赴任早々にひばりを気に入り、配膳したおひつのごはんを他の患者より多く入れてアピールしてきたりもしました。
しかし“新しい男”になると決めているひばりは贔屓になびくことなく、わざとごはんを残して竹さんに「いやらしい」と言わせます。
軽みの境地
竹さんがやってきてから少しした頃、つくしの使っていたベッドに大学生が入ってきました。
あだ名は“固パン”(ふかわりょう)。
流暢にクセのある英語を話しキザな固パンはたちまち看護師たちからの人気を得ました。
ある夜、寝ている時に固パンが呼吸を詰まらせてちょっとした騒ぎになりました。
そこへやってきた竹さんが「紀州の殿様、お通り」と囁くと詰まっていたものが取れたように穏やかな呼吸を取り戻したのでした。
ひばりは、まるで魔法をかけたような出来事に目を奪われました。
日常が過ぎていく一方でひばりはつくしと手紙のやりとりをしていました。
そこには竹さんについてのことも書いたのですが、地味で好かない女などと評して、無意識につくしが興味をもたないような書き方をしていました。
ひばりは、自覚がないものの竹さんのことを好いていたのです。
それに気付いていたマア坊は「竹さんを好きになってはいけない」と忠告しますが、自覚がないせいでひばりには何のことだかよくわかりませんでした。
数日後、つくしが道場へ遊びに来ます。
そして竹さんを一目見て好きになってしまいました。
それまでひばりに寄越していた手紙を、竹さんに寄越すようになりました。
ある時ひばりはマア坊から布団部屋に呼び出されます。
つくしを想っていたはずのマア坊は、つくしからの手紙で妹くらいにしか思われていなかったことに気付いていました。
そして今つくしが竹さんを想っていることにも気付いてか、ひばりをも竹さんに奪われてしまう前にという気持ちからか「周りのみんなからは、あなたと私はイイ仲だって言われているのよ」と言い出しました。
どうするの?と疑問を投げ付けて、マア坊はひばりの布団部屋を出て行きました。
夜の道場
つくしが来ていた夜に、他の病室から回覧板が回ってきました。
マア坊の派手な格好や孔雀というあだ名の看護師の厚化粧を酷評し、2人を追放しようというほかの看護師たちのたくらみでした。
ひばりは回覧板を回してきた病室へ行き、“おもしろい作戦がある”と告げます。
そしてその足で竹さんのところへ回覧板を持って行きました。
過ちを改めるなら早い方が良いと竹さんに提案すると、竹さんはおもむろに髪にさしたピンを取り、かつらを取り、またかぶりなおしながら「マア坊は可愛い子だ、孔雀はいい人だけどお化粧が下手だ」と言いました。
それをいじめたりしたらいけない、とも。
竹さんは道場内の一斉放送で問題となっている2人が気持ちを改めて明日の朝には爽やかな身なりにするということを患者たちに伝え、マア坊と孔雀に直接謝罪させました。
その裏で、どうにもマア坊たちを悪く言った病室の患者たちに対しての怒りがおさまらない“かっぽれ”(杉山彦々)はその病室に殴り込みに行きますが、部屋に入ったところで血を吐いて死んでしまいます。
陽を浴びて
騒動のあと、ひばりは庭に出て竹さんを探しました。
その途中、通りがかった池でつくしが竹さんにあてたのであろう手紙が落ちているのを拾いました。
炊事場で床を磨いている竹さんを見つけ「庭に出たか」と聞きましたが、とぼけられてしまいます。
そして竹さんは裸足で出てきたひばりを座らせ、足を拭き、自分の草履を貸してあげました。
翌年、ひばりの母が見舞いに来たある日。
ひばりは停留所までのお見送りという名の外出を許されます。
そして歩きながら母と場長の会話で、竹さんが寿退職することを知りました。
ひばりはつくしに竹さんが結婚してしまうことと、一目見た時から好きだったということ、つくしにあてた手紙に竹さんの悪口ばかり書いた理由を綴ってぐちゃぐちゃに丸めました。
あれこれ書いては丸めているうちに眠ってしまい、朝の背中のブラッシングの時間になっていました。
竹さんにブラッシングしてもらいながら、ひばりは「おめでとう」と言いました。
マア坊の口紅の話を何気なくして、他愛ない会話の流れが途切れた時。
竹さんはひばりに対になった人形を片方プレゼントしました。
病院を出てバスで去っていく竹さん。
途中の停留所で乗り込んできたつくしが、竹さんの手を握りました。
【ネタバレ】『パンドラの匣』感想
太宰治は気になる。でも小説を読むのは気が乗らない、なんて人にオススメ
vito
彼の書いた小説の中で「パンドラの匣」が好きだという人は結構いると思います。
でも普段あまり小説に触れない、太宰治?「人間失格」の人?くらいの認識な人からしてみれば“太宰治”の書いた“戦後間もない頃”の“結核療養所”の話なんてキーワードだけ伝えたらジメっとした薄暗い雰囲気の重たい話だろうなぁなんて思い込まれてしまうのかな、とも思います。
人間の後ろ暗い部分だとか、つつかれたくないような部分に関しての描写は割と少なくて、『パンドラの匣』に関して言うならひばりがつくしとの手紙のやりとりで竹さんを何の魅力もない女性のように書いて伝えたところくらいです。
vito
あとは割と他愛ないというか、穏やかな、太宰治にしては明るい話だと思います。
後味も悪くないし。なので心に余裕がない時でも気軽に見られるというか。
小説を読むのは苦手だけど有名な文豪が書いた話がどういうものかちょっと興味はある、なんて人におすすめの話かな。
原作からの改変はあるけど雰囲気を感じるのにはちょうどいいという意味で。
vito
好きな場面など
一つ前の項目でも書いたように、私にしてはそこまで登場人物に感情移入しなかったのでその分グッとくる場面もそんなに多くはなかったりするのですが。
vito
電気をつけたり消したり、ついたり消えたりするなかでマア坊の声が怒っているようにも笑っているようにも何重にも聞こえてくる場面。
これは小説では味わえない感覚なので、映像で見てよかったなと思う部分です。
マア坊絡みの場面では他にも、そういう音とリンクする演出みたいなのが見られます。
ひばりが窓から、下で洗濯物を干しているマア坊に話しかける場面もそう。
vito
あとは誰の何とかではないけど診療所内の合言葉みたいな「やっとるか」「やっとるぞ」とか「がんばれよ」「ようしきた」っていう掛け合いがリズミカルで好きです。
『パンドラの匣』まとめ
「パンドラの匣」観た
太宰治の同名小説の映画化作品。
結核療養所でのあれこれ。
特に何か大きなことがあるわけでもない。普通の生活を送っている。だけどなぜか色んなことが気にかかって、歯切れの悪いところが心を浮わつかせて、またテンポも良くて面白かった。雰囲気もとても良い。 pic.twitter.com/p9cJ6gqa52— 四月の生活💐 (@darma_2014) April 11, 2020
以上、ここまで『パンドラの匣』をレビューしてきました。
- 死と隣り合わせの結核の診療所を舞台に淡々と朗らかに進行していくストーリー
- 太宰治に対して暗いイメージしかない人にこそ見て欲しい作品
- 意外とすんなり楽しめたなぁ、なんて人には生田斗真の『人間失格』もオススメしておきますね