そう遠くはない昔、あるところに変人ばかりが集まる病院がありました。
院内一の嫌われ者の偏屈ジジイ大貫と毎日毎日同じ絵本を読み続ける少女パコが出会った時、奇跡が起きます。
- 目にも鮮やかな原色で繰り広げられるめくるめく世界
- 強烈な個性あふれるキャラクターの実写とCGを駆使した場面が楽しい!
- 見た人の心に“何か”を残す作品だと思います
それでは『パコと魔法の絵本』をネタバレありでレビューしていきます。
▼動画の無料視聴はこちら▼
目次
『パコと魔法の絵本』作品情報
作品名 | パコと魔法の絵本 |
公開日 | 2008年9月13日 |
上映時間 | 105分 |
監督 | 中島哲也 |
脚本 | 中島哲也 門間宣裕 |
出演者 | 役所広司 アヤカ・ウィルソン 妻夫木聡 土屋アンナ 阿部サダヲ 加瀬亮 小池栄子 劇団ひとり 山内圭哉 國村隼 上川隆也 貫地谷しほり 木村カエラ |
音楽 | ガブリエル・ロベルト |
【ネタバレ】『パコと魔法の絵本』あらすじ
遠くはない昔、ある病院での物語
両親が郊外に出てしまってから、大きな屋敷で1人で暮らしている男の元に、男の父親のおじとほんの一時期仲良くしていたという老人・堀米(阿部サダヲ)が訪ねてきました。
堀米が見たかったものは「お前が私を知っているというだけで腹が立つ」が口癖の、男の父親のおじが所有していた仕掛け絵本。
それはもうバラバラになったものをつぎはぎして、抜けたページもある絵本「ガマ王子対ザリガニ魔人」でした。
あれはもう何年前の話だったか…とある、病院での出来事です。
堀米が絵本を開き、語り始めました。
夜空には星がまたたき患者たちは安らかな眠りにつき、看護師は悪魔に姿を変えドクターはピッチピチのタイツを履く。そんな夜でした。
看護師・タマ子(土屋アンナ)、ドクター・浅野(上川隆也)にとどまらず入院患者も個性的です。
ギプスがかゆいと夜な夜な待合室の公衆電話で愚痴る消防士の滝田(劇団ひとり)、自殺未遂を繰り返しては病院に戻ってくる薬物依存の室町(妻夫木聡)、ジュンペイという舎弟(?)の安否をずっと気にかけているヤクザの龍門寺(山内圭哉)、ジュディ・オング好きのオカマで子持ちの木之元(國村隼)、謎の入院患者で神出鬼没な堀米。
そして横暴で傲慢な院内一の嫌われ者、大貫(役所広司)。
大貫は入院患者ですがホテルに外泊したりもするほどの奔放ぶり。
甥っ子・浩一(加瀬亮)の妻である看護師の雅美(小池栄子)も手を焼いてばかりです。
病院には毎年恒例の行事がありました。
サマークリスマスは毎年みんなで劇をする行事です。
浅野としては今年はピーターパンをやりたいようでしたが患者たちはみんな乗り気ではありません。
そんな病院の中庭で毎日絵本を読んでいる少女がいました。
イジワルばかりして傍若無人でワガママ放題のガマ王子が主人公である絵本を元気な声で読み上げる少女はパコ(アヤカ・ウィルソン)という名前です。
ずっと1人きりで頑張ってきた大貫という男
大貫は無一文から切磋琢磨して起業し会社を成長させ、会議中に倒れるその時まで最前線で戦い続けてきた人でした。
そんな人が一日中ベッドの上でおとなしくしていなければならないというのは無理な話でした。
堀米は大貫が“たまたま”押しそうなところにボタンを置いては、ボタンきっかけで突然現れて謎のクイズを出したり、寸劇を始めたりしておちょくることを楽しんでいました。
ある時、中庭で大貫とパコが出会います。
いつも座っているベンチを大貫に取られてしまったパコは地面に座って、いつもの絵本を読みました。
読んでいる途中、大貫はパコから絵本を借りて読み聞かせてあげました。
弱い生き物は死んで強い強いガマ王子だけが生き残ったという勝手なストーリーを読み上げた大貫に、パコは「ありがとう」と返しました。
居心地悪そうに去って行った大貫はベンチにライターを忘れて行きます。
パコはそれを拾って「きれい」と呟きました。
翌日、浩一は大貫がいない間に会社の売り上げが5パーセントアップしたことを報告しに来ました。
1人で作り1人で育てあげた会社は、自分がいなくても成り立ってしまっているという現実に直面した大貫は中庭の花をめちゃくちゃにむしりました。
イライラしたままの大貫は中庭のベンチに向かいます。
そこではパコが絵本を読んでいました。
昨日の話をしても覚えていない、知らないというパコに腹を立てた大貫はタバコを吸おうとしますがライターがないことに更に苛立ちました。
パコが拾ったライターを渡すと、盗まれたと勘違いした大貫はパコの頬を殴りました。
パコが入院している理由とは
パコが7歳の誕生日を迎える前日、家族で出かけたドライブの帰り道のこと。
乗っていた車がトラックと衝突して、落ちた崖の先は深い深い海でした。
その事故で両親は死んでしまいました。
パコは生きているのも奇跡という状態で、脳の記憶を司るところに障害が残ってしまいました。
一日かけて覚えた何もかもを、夜眠り翌朝になると忘れてしまうのです。
次の日、木之元は病院の室外機が稼働したことに気付きます。
その室外機は霊安室に繋がっているもの。
つまり、誰かの死が近いのではないかと想像して震えました。
病院の待合室で木之元がザワザワと噂話をしているのを大貫は蹴散らし、タバコを吸おうとします。
なかなか火がつかないライターは、会社を作ってから初めての黒字が出た時に記念に買ったものでした。
絵本を読もうとやってきたパコに、大貫は話しかけて名前を教えました。
やっぱりパコは大貫のことを覚えていませんでした。
今日もまたワガママなガマ王子の絵本を読むパコに大貫は「そんな本を読むのはやめろ、自分が他の絵本を買ってやる」と言いますが、パコはどうしても絶対に毎日ガマ王子の絵本を読まなければならないと言います。
それがどうしてなのか尋ねた大貫に、パコは嬉しそうに絵本の最後のページを見せて“おたんじょうび おめでとう 毎日読んでね”と母親からのメッセージを見せました。
朝起きたらベッドのところにあったと言うパコは毎日7歳の誕生日を繰り返しているのです。
そのことに切なくなった大貫はいたたまれなくなってパコの頬に触れました。
パコは、昨日大貫が頬に“触れた”ことを覚えていました。
大貫は、頬に“触った”のではなくて殴ったんだとは言えませんでした。
大貫とパコ、タマ子と室町
来る日も来る日も、大貫は絵本を読むパコに話しかけます。
毎日毎日、自分を覚えていないパコの頬に触れて、名前を教えて、絵本を読んであげます。
中庭でも、待合室でも、いつしか大貫がパコに絵本を読み聞かせるのは日常の風景になっていました。
いつしか、大貫は絵本のガマ王子のように自分がした横暴なふるまいを悔やむようになりました。
そんなある日、自殺未遂を繰り返す室町が癇癪を起しているところにタマ子が居合わせた時のこと。
室町は昔、有名な子役でした。
しかし成長して顔も体も変わってしまって、子供の頃と同じようにはいかなくなってしまったことに悩まされていました。
子役の自分の幻影を見て苦しみ、死にたいけれど死ねないという地獄の苦しみの中にいました。
タマ子はどうにかしてあげたいと思いましたが、何もしてあげられないことに苦しんでいました。
浅野はそんなタマ子を見て、大貫も同じことを言っていたと言いました。
中庭では大貫が今日もパコに絵本を読んであげていました。
大貫は“明日もパコの心にいたい”そんな気持ちで毎日絵本を読んであげていました。
世界一しあわせな絵本
ある日、待合室に患者が集められ、大貫がサマークリスマスに患者のみんなで「ガマ王子対ザリガニ魔人」の劇をやりたいと提案します。
患者たちの中は、いままで散々バカにして横暴に振る舞ってきたというのに今更お願いなんてされても聞く気になれないと反対する者もいます。
特に大貫を嫌っていた室町は「何が芝居だ」と絵本を踏みつけました。
それを見ていたタマ子は、ビビって逃げているだけの俳優に素人の根性見せつけてやるとタンカを切りました。
主人公のガマ王子役の滝田を筆頭にをはじめ、サマークリスマスの練習が始まります。
そんな日々の中これまで蹴散らしてきた患者たちや看護師たちと、大貫の仲が少しずつ近づいていきました。
しかし。
ザリガニ魔人役なのに子役の時のように可愛い芝居しかできない自分に絶望した室町が窓から飛び降りようとした時、たまたま廊下を通った滝田が止めようとして一緒に落ちて大けがを負ってしまいます。
茫然としている室町を見つけたタマ子はロッカールームまで引きずって行きながら、自分の生い立ちと看護師になった理由を第三者目線の物語のように語りました。
このことがきっかけで室町の役者魂に火が付きます。
そしてサマークリスマス当日がやってきました。
病院全棟を使って「ガマ王子とザリガニ魔人」開演です。
怪我をしてしまった滝田の代わりにガマ王子を演じるのは大貫です。
たった1人の観客パコのために、みんなも全力で演じます。
劇の最中、みんなの輪から外れたところで顔を合わせた浅野とタマ子は、ある患者について声を潜めて会話を交わします。
その人の病状は医学ではもうどうしようもないところまで進行してしまっていました。
そして医学で予想のつく余命は、とっくに超えてしまっているところでした。
さて劇の方は、みんなザリガニ魔人に食べられてしまって、ザリガニ魔人と助手のヌマエビだけになってしまった池。
惨状の場に現れたガマ王子はパコと力を合わせて戦いに挑みます。
役目を終えて観客になったみんなも応援します。
最後のシーンに差し掛かった時、大貫は発作を起こして倒れてしまいます。
中断しかかった時大貫が「最後まで読んでやらないといけない。明日じゃダメなんだ」と言い、泣いてしまって続きを読めないタマ子の代わりに室町が絵本を読みます。
感動のシーンとともに死んでしまったと思われた大貫でしたが、ただの発作でした。
少し休んだら目を覚ましたのです。
真実のラストで余命をとっくに超えてしまっていたのは、大貫ではなくパコでした。
本来なら大貫と出会う事さえなかったはずの命は、大貫と絵本を読んで過ごす日々のなかで普通の子どものように元気に輝いていました。
ガマ王子の絵本がビリビリになっていたのは、この時病室で大貫が「この本はパコと読む本だ。こんなものいらん!」と破ってしまったからでした。
永い眠りについたパコは夢のなかでガマ王子に頬に触れられ、嬉しそうに笑うのでした。
そしてパコの心に残ろうと必死になっていた大貫は、いつのまにかみんなの心に残る人になっていました。
【ネタバレ】『パコと魔法の絵本』感想
最後まで絵本みたいな世界観の映画
vito
でも映画館では一度も見てないんですよね。
ものすごく後悔してます。
大きなスクリーンで見たらきっとアミューズメントパーク感あったんだろうなぁ。
最初から最後まで世界観がずっと絵本の中にいるみたいで目が楽しい作品です。
物語自体も心に残るものがあるし、登場人物のキャラクターの濃さも凄く好きです。
特に完全悪みたいな見た目の看護師2人が大好きなんですよねぇ…タマ子も雅美は劇中劇の間も濃い。
タマ子と室町の関係も大好きだし、雅美が出てきた時は一番びっくりしました。
vito
物語全体のことを言うなれば、大貫と絵本の中のガマ王子がリンクしてるのがグッときます。
話が進むにつれてガマ王子と同じように、これまで周りにワガママを言ったり横暴なことばかりしてきたことを悔やむあたりとか。
vito
多分私がタマ子と室町の関係が好きなのはそのあたりが絡んでいるんだろうなぁ…見始めは、タマ子もやっぱり看護師だから自殺未遂ばっかり繰り返してばかりいる室町のことが放っておけないんだろうなくらいに思っていたんですけど。
それこそ大貫とパコ、タマ子と室町っていう両方の関係を並走させて“似てるな”と思わせるだけのためのものだと思ったというか。
そしたらタマ子はずっと室町のことが大好きだったとかいうエモ展開ですよ。
vito
あとは木之元とか浅野、タマ子あたりが中盤から匂わせていた“もう死んでしまう”患者について大貫のことだとミスリードする展開のさせ方がうまいなぁと思いました。
vito
なんかちょっと心が濁ってるなぁと思う時とか、単純に泣きたいなぁと思っている時に見たくなる作品です。
好きな場面など
パコの病気のことを知って何かしてあげたいと思った大貫が浅野と会話している場面で、涙はどうしたら止まるのかと聞くところが好きです。
泣いたことがない人にとっては、涙を止める方法がわからないんだっていうことにハッとしました。
vito
そしてやっぱり好きな場面としても書きたいタマ子と室町について。
もう本当に好きな2人なので書かせていただきますけど、タマ子が自分の生い立ちから室町への気持ちを話すのが物語風に第三者としてっていうのがたまらないです。
vito
ちょっと乱暴に語りながら室町のことを引きずって辿りついた先はロッカールームで、タマ子のロッカーをバン!って開けたら愛がぎっしり詰まっているわけですよ。
vito
もしかしたらこれは物語の中の誰に感情移入するかによって泣きどころが全然違ったりするのかもしれないな、とこれを書いていて気が付きました。
この記事を読んでいる人の中で『パコと魔法の絵本』を見た人、これから見る人、誰に感情移入してどこで泣いたか教えてくれたら嬉しいです。
『パコと魔法の絵本』まとめ
以上、ここまで『パコと魔法の絵本』をレビューしてきました。
- 濁った心がクリアになるような無垢で少し切ない物語
- カラフルでゴチャゴチャした世界観が好きな人におすすめです
- きっと大人も子供も楽しめる作品だと思います
▼動画の無料視聴はこちら▼