2010年代以降、日本でも海外アニメーションは人気が高まり、以前はイベント上映や映画祭等でしかスクリーンで観ることができなかった各国の作品が続々と一般劇場で公開されています。
今回はそんな近年公開された海外アニメーションの中でも、世界中の映画祭で注目を集めたおすすめ作品をご紹介します。
目次
海外アニメ映画おすすめ名作10選
『エセルとアーネスト ふたりの物語』
冬になると書店でよく見かける名作絵本「スノーマン」等で日本でも有名なイギリスの作家レイモンド・ブリッグスが、自身の両親の人生を描いた絵本を忠実に再現したアニメ映画『エセルとアーネスト ふたりの物語』。
戦争を経験し、激動の20世紀を生き抜いた夫婦の40年間を丁寧に描き出します。
ストーリーは、1928年のロンドン。
牛乳配達員のアーネストとメイドのエセルは出会い、恋に落ちて、やがて結婚します。
そして、小さな新居を構え、最愛の息子レイモンドが誕生します。
そんな平凡ながらも幸せに満ちた日々も束の間、やがてイギリスは第二次世界大戦に突入していき―。
本作は、主人公夫婦が特別な困難にぶつかる様を描くわけでなく、世界中どこにでもいるような‘普通の夫婦’が人生という荒波を共に寄り添って、乗り越えていく姿を温かく見守っています。
皆に祝福されての結婚、念願の庭付きマイホーム、息子の誕生、第二次世界大戦下の混乱や成長した息子が連れてくるガールフレンド、そして自分たちの身に静かにやってくる‘老い’―。
小松崎 ともえ
そして、家族、パートナーや何気ない日々の大切さを改めて思い出させてくれる作品です。
また、ポール・マッカートニーが本作のために書き下ろし、自ら歌うエンディング曲も注目ポイントです。
『ディリリとパリの時間旅行』
フランスアニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督が、パリが繁栄した華やかな時代といわれる19世紀末から20世紀初頭の至福のベル・エポック期を描くアニメ映画『ディリリとパリの時間旅行』。
第44回セザール賞最優秀アニメ作品賞を受賞しました。
ニューカレドニアからパリにやって来た好奇心旺盛な少女ディリリは心優しい配達人の青年オレルと偶然出会います。
そして、その頃のパリは市民を震撼させる少女誘拐事件の話題で持ちきりでした。
ディリリとオレルは街で出会う偉人たちにヒントをもらい、助けられながら事件の謎を追っていきます。
果たして誘拐された少女たちは見つかるのでしょうか。
本作はエッフェル塔や凱旋門など美しいパリの街並みや観光名所だけでなく、この時代を生きた誰もが知っている偉人たちが惜しみなく登場するのも注目ポイントです。
小松崎 ともえ
そして、室内装飾はオルセー美術館やマルモッタン美術館などの協力を得ているという贅沢さ。
このように、パリ好き、美術好き、歴史好きにはたまらない要素がたくさん詰まった知識欲が刺激される必見の作品です。
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
19世紀のロシア、サンクトペテルブルクで北極探検に向かい行方不明となった最愛の祖父を探し出すために、自ら北極圏へと旅立つ少女の過酷な冒険を描くアニメ映画『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』。
フランスとデンマークの合作です。
世界最大のアニメーション映画祭である第39回アヌシー国際アニメーション映画祭で観客賞を受賞し、生前の高畑勲監督も本作を高く評価されていたようです。
日本では最初、東京都写真美術館ホールでの小規模公開でしたが、作品のレベルの高さから徐々に口コミが広がり、公開館数も増えてスマッシュヒットになりました。
14歳の貴族の子女サーシャは、1年前に北極航路の探検に出たきり行方不明となっている大好きな祖父の身を案じていました。
しかし、祖父の探検隊はいまだ見つからず、祖父と家族の名誉は失われてきていました。
そんな状況を打開するため、ロシア高官であるサーシャの父親はサーシャを皇帝の甥である王子に気に入らせようとします。
しかし、サーシャが祖父の再捜索を王子に懇願したため、不興を買うことに。
父親から叱責されたサーシャは、自ら祖父を探し出すことを決意しますが…。
本作は、ポスタービジュアルだけ見るとシンプルな画なので、可愛らしいあっさりした物語かと思いますが、しっかりとした大冒険活劇です。
小松崎 ともえ
『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』が長編デビューであるレミ・シャイエ監督の最新作『カラミティ(仮題)』は西部開拓史上、初の女性ガンマンとして知られるマーサ・ジェーン・キャナリーの子供時代の物語です。
第44回アヌシー国際アニメーション映画祭で見事グランプリを獲得し、日本でも2021年に公開予定です。
アヌシー国際アニメーション映画祭 長編アニメーション部門 クリスタル賞(グランプリ)受賞しました。10月のフランス公開ののち、日本では2021年に公開を予定しております。日本の配給は前作『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を手掛けたリスキットです。https://t.co/WHbkAaYzYN pic.twitter.com/vnYIhCe93n
— 映画『カラミティ(仮題)』公式 (@calamity_movie) June 21, 2020
小松崎 ともえ
『アヴリルと奇妙な世界』
行方不明の家族を捜す少女アヴリルが架空の設定のパリで繰り広げる大冒険を描く、フランスのヌーベルSFファンタジーアニメ映画『アヴリルと奇妙な世界』。
第39回アヌシー国際アニメーション映画祭にてグランプリを受賞しました。
小松崎 ともえ
科学者ギュスターブは、ナポレオン3世から戦争の秘密兵器の開発を命じられますが、完成前の爆発事故で命を落としてしまいます。
しかし、これにより戦争は回避され、その後の歴史は大きく変わります。
1941年のパリはナポレオン5世に支配され、産業革命が起こらず、蒸気機関だけが頼りとなっていました。
そんなパリに暮らす少女アヴリルは、行方不明の科学者である両親と祖父を捜す旅に出ますが―。
本作は、主人公アヴリルの声を『サンドラの週末』『マリアンヌ』『エディット・ピアフ 愛の讃歌』などの実力派女優マリオン・コティヤールが担当しています。
アヴリルのビジュアルは日本のアニメに見慣れている人ほど、最初は可愛くないなと思ってしまうかもしれませんが、コティヤールの名演によりだんだんとチャーミングに感じられます。
小松崎 ともえ
『ブレッドウィナー』
1999年の設立以来、世界から注目を集め続けるアイルランドの制作会社、カトゥーン・サルーンのアニメ映画『ブレッドウィナー』。
カトゥーン・サルーンはピクサー、スタジオジブリに並ぶアニメーションスタジオとして常に新作が待ち望まれています。
本作は、設立メンバーの1人であるノラ・トゥーミー監督作品でタリバン政権下の過酷なアフガニスタンを生き抜く少女を描き、第90回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされました。
小松崎 ともえ
11歳の少女パヴァーナは、戦争で荒廃したアフガニスタンのカブールにある小さなアパートで、生計を立てる父親を手伝いながら家族と慎ましい暮らしをしていました。
そんな中、父親がタリバンに逮捕され、パヴァーナたちの生活は一変します。
女性が一人で家を出ることは禁じられているため、パヴァーナは髪を切り、‘少年’になりすまして一家の稼ぎ手(ブレッドウィナー)として家計を支えながら、刑務所に入れられた父親を救い出す方法を探そうとしますが…。
本作は、日本ではあまり詳しく知られていない2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン国内での混乱が描かれています。
タリバン政権は厳しい戒律を定め、国民の自由を奪い、特に女性は男性の同伴者がいなければ外出ができないという、とても2000年代の話とは思えない男尊女卑が横行します。
そのため、父親が逮捕された後のパヴァーナの家族に降りかかる理不尽や暴力は現代の話とは思えないものばかり。
更には、タリバンを攻撃するためのアメリカ軍の脅威も迫ります。
小松崎 ともえ
アフガニスタンは現在も混乱が続き、2019年12月には現地で人道支援に取り組んできた中村哲医師が銃撃され死亡する事件も記憶に新しいです。
『ブレッドウィナー』はパヴァーナの力強い生き様と家族愛に心打たれ、アフガニスタンに少しでも早く平和が訪れることを願わずにはいられない作品です。
『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
アイルランドのケルト神話を基に、幼い兄弟の大冒険を圧倒的な映像美で描くアニメ映画『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』。
先程ご紹介した『ブレッドウィナー』と同じカトゥーン・サルーン制作で第87回アカデミー賞長編アニメーション賞ノミネート、2015年東京アニメアワードフェスティバルではグランプリを獲得しました。
監督はカトゥーン・サルーン設立メンバーの1人であるトム・ムーアです。
海ではアザラシ、陸では人間の姿となる妖精セルキーの母親と人間の父親との間に生まれた兄弟、ベンとシアーシャ。
ベンは幼い頃、両親と共に妹シアーシャが生まれてくるのをとても楽しみにしていました。
しかし、ある日を境に母親はまだ赤ちゃんのシアーシャを残して、海へ消えてしまいました。
それ以来、母がいなくなったのはシアーシャのせいだと思い込んでいるベンは日々彼女にきつく当たります。
そんな中、6歳の誕生日を迎えたシアーシャは父親が隠していたセルキーのコートを見つけ、海へ入ってしまいます。
今後を心配したベンとシアーシャの祖母は2人を町へ連れていきますが、フクロウ魔女にシアーシャがセルキーだと気づかれてしまい―。
本作は海の描写が幻想的で美しく、アザラシなど登場する動物たちもみんなチャーミングなので全編動く絵本を読んでいるように楽しめます。
小松崎 ともえ
トム・ムーア監督は長年日本のアニメーションからも影響を受けており、随所にはスタジオジブリ的な要素を感じさせつつもケルト神話を基に、ジブリやピクサーとも一線を画す夢心地のような優しい世界観を作り上げています。
『ぼくの名前はズッキーニ』
母親を亡くした少年が孤児院で出会う人々との関わりの中で成長していく姿を描くスイス、フランス合作のストップモーションアニメ映画『ぼくの名前はズッキーニ』。
第89回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、全米映画批評サイトのロッテントマトでも驚異の満足度100%と評価されました。
小松崎 ともえ
オフィシャルHP最速チケット先行が決定しました‼️
<抽選申込受付期間>1月29日(金)正午 〜2月1日(月)23:59明日正午から受付開始します👇 #ぼくの名前はズッキーニ https://t.co/2n0mg3TRcV
— 舞台「ぼくの名前はズッキーニ」公式 (@zucchini2021) January 28, 2021
9歳の少年イカールは、旦那の浮気によりアルコール依存症に陥ったネグレクト気味の母親と二人暮らし。
母親は毎日ビールを飲んではイカールにきつく当たっていました。
そんな中でも、イカールは母親がつけた‘ズッキーニ’というあだ名を大切に屋根裏部屋で日々を大人しく過ごしていました。
しかし、ある事故により母親は亡くなり、イカールは孤児院に入ることに。
最初は孤児院の子供たちと折り合いが悪かったイカールですが、次第に同じ心の痛みを共有する友人として打ち解けていきます。
本作は一見するとポップで可愛い映画のようにみえますが、虐待を受けた子供たちの心の傷や立ち直りを描く作品であり、ヘビーな内容です。
小松崎 ともえ
しかし、本作は温かみのある粘土人形から作り上げられた多彩なキャラクターたちがその重いテーマを和らげて映画を観やすくしています。
最初は主人公イカールの青白い顔が私たち日本の観客には見慣れないかもしれませんが、最後には母思いのイカールがとても愛らしく見えます。
小松崎 ともえ
『ゴッホ 最期の手紙』
『ゴッホ 最期の手紙』は世界的に有名な絵画「ひまわり」「星月夜」などで知られるオランダの印象派画家、フィンセント・ファン・ゴッホの死の謎に迫る全編油絵風のアニメ映画。
イギリス、ポーランドの合作で第41回アヌシー国際アニメーション映画祭では観客賞を受賞しました。
郵便配達人ジョゼフ・ルーランの息子アルマンは、父の友人である自殺した画家のゴッホが弟テオに宛てた手紙を託されます。
テオに手紙を渡すためにパリへと向かったアルマンは次第になぜゴッホが自殺したのかに疑問を持ち始め―。
小松崎 ともえ
ダグラス・ブース、シアーシャ・ローナン、エイダン・ターナー等の俳優陣の演技を撮影し、それを約125人の絵描きがゴッホの絵画に登場する人物の風貌や雰囲気に寄せながら油絵で再現するという大変な労力がかけられた作品です。
本編時間の96分間、動く油絵を鑑賞できる贅沢な芸術体験ができます。
ゴッホといえば、一時期共同生活を送っていた画家ゴーギャンとの確執や自身の左耳を切り落とす事件など気難しく神経質な印象がありますが、本作では身近な人たちが知るゴッホの人間性にも迫っており、そんな彼のイメージが少し変わるかもしれません。
また、ゴッホの死に関しては比較的最近に提示された新たな説の方を採用しており、彼の人生とは何だったのか、深く考えされられます。
小松崎 ともえ
『失くした体』
パリの医療施設から切断された手が元の体を求めて逃げ出し、街をさまようという異色のフレンチアニメ映画『失くした体』。
第72回カンヌ国際映画祭批評家週間のグランプリ受賞、第43回アヌシー国際アニメーション映画祭ではグランプリと観客賞をダブル受賞しました。
『アメリ』の脚本家としても知られるギョーム・ローランの小説「Happy Hand」が原作であり、独特の世界観が繰り広げられます。
医療施設から逃げ出した‘切断された手’は元の体である青年ナウフェルを捜します。
ネズミやハトに追い回されながらも街をさまよう手は、何かに触れるたびにナウフェルとの記憶がよみがえっていきます。
果たして‘切断された手’は無事にナウフェルを見つけられるのでしょうか。
手が元の体を求めてはい回るというストーリーだけで狂気のホラー映画かと思ってしまいますが、話の内容は手の持ち主であるナウフェルの屈折した恋愛とそこからの立ち直り、そして手が思い出すナウフェルが幸せだった頃の回想です。
小松崎 ともえ
アクティブな手とは反対にナウフェルはうだつの上がらない男として登場しますが、それには理由があり、手が思い出すナウフェルの幸せだった頃の記憶との対比が切ないです。
物語のラストまで観ると原作の「Happy Hand」というタイトルが重く心に響きます。
『父を探して』
全編セリフやテロップなしで描かれる言葉の壁を越えた表現で、世界中の映画祭から絶賛されたブラジルのアニメ映画『父を探して』。
第38回アヌシー国際アニメーション映画祭ではグランプリと観客賞をダブル受賞し、第88回アカデミー賞では南米作品としては初めての長編アニメーション部門にノミネートされました。
田舎の少年クーカは両親と三人で幸せに暮らしていました。
しかし、ある日突然、クーカの父親は出稼ぎのために大都会へ出て行ってしまいます。
いつまでも父親は戻らないため、クーカは探しに行くことを決意。父を追って都会へ出ていきますが、そこはクーカにとってまさしく未知の世界でした。
主人公クーカのビジュアルは洋服のボタンみたいで可愛らしく、世界観もカラフルなため一見すると幼児向けアニメーションのようにもみえますが、環境破壊や戦争、過酷な労働など資本主義への社会風刺が込められています。
これはかつて長い独裁政権を経験した、ブラジル出身のアレ・アブレウ監督ならではの独自の描き方です。
政治問題や社会問題を扱う実写映画は多数ありますが、『父を探して』では手描きメインの柔らかいアニメーションにその問題を織り込むことで、幅広い層を惹きつけています。
そして、固いテーマだけでなくクーカの大冒険は躍動感に溢れ、多彩な風景や音を楽しめます。
小松崎 ともえ
海外アニメ映画おすすめ名作10選まとめ
- 『エセルとアーネスト ふたりの物語』
- 『ディリリとパリの時間旅行』
- 『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
- 『アヴリルと奇妙な世界』
- 『ブレッドウィナー』
- 『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』
- 『ぼくの名前はズッキーニ』
- 『ゴッホ 最期の手紙』
- 『失くした体』
- 『父を探して』
いかがでしたか。
2021年も多数の作品が日本で公開予定です。
今後も海外アニメーション映画の発展には目が離せませんね。