「誰もが誰かを搾取している」
この世界の構造に、あなたはどこまで自覚的でいられるだろうか。
映画『愚か者の身分』は、歌舞伎町の裏側で生きる若者たちの”今”を切り取りながらも、どこまでもリアルに、どこまでも人間臭く描き出す、闇バイト型青春サスペンスだ。
原作は第2回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説。『今際の国のアリス』や『幽☆遊☆白書』を手がけるTHE SEVENが、満を持して劇場公開作に参入。監督は永田琴、脚本に向井康介。主演は北村匠海、共演に林裕太と綾野剛。
目次
作品情報
タイトル: 『愚か者の身分』

(C)2025映画「愚か者の身分」製作委員会
公開日: 2025年10月24日(金)
監督: 永田琴
脚本: 向井康介
原作: 西尾潤「愚か者の身分」(徳間文庫)
キャスト: 北村匠海、林裕太、山下美月、矢本悠馬、木南晴夏、綾野剛
配給: THE SEVEN / ショウゲート
公式サイト: http://orokamono-movie.jp
公式X(旧Twitter): @orokamono_1024
あらすじ
舞台は歌舞伎町・一番街。ネオンが眩しいその裏で、タクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)は戸籍の売買を行う”闇バイト”に手を染めている。SNSで女性を装い、身寄りのない男性から個人情報を引き出す、危うい日々。
2人は歌舞伎町で刹那的に生きている。何かを得るためではなく、ただ今日を楽しくやり過ごすために。闇の世界で生きながらも青春を謳歌していく。
彼らをこの世界へと導いたのは、兄貴分の梶谷(綾野剛)だった。
先輩後輩という関係性に宿る、小さな優しさと信頼――それだけが、この世界のささやかな救いだった。
やがて、タクヤとマモルはこの危うい日々から抜け出そうとするが、その行く手には、より深い闇が待っていた。
見どころと感想(※ネタバレなし)
マスコミ試写会にいってきましたので試写感想です。ネタバレは極力なし。
◆ 路地裏に潜む“日常”が胸を打つ
『愚か者の身分』は、絵に描いたような「非日常の犯罪劇」ではない。
むしろ、日常のすぐ隣にある、リアルな裏稼業・闇バイトの世界を描いている。
印象的だったのは、アジの煮付けの家庭料理。
ワンシーン挟まれる家庭的な料理の場面が、本作の「人間を捨てきれない若者たち」というテーマを象徴しているように思える。
闇に染まりきっていない彼らの姿には、強い共感を抱かずにはいられない。
◆ 綾野剛の色気と優しさに撃ち抜かれる
本作で特筆すべきは、やはり綾野剛の存在感だろう。
“闇”の側にいる人物でありながら、彼女に対してだけはひたすら優しい。そのギャップがたまらない。
どこか達観した口調と、どこか子供のような無防備さが同居していて、「人間らしさの極み」のように映る。
俳優・綾野剛の魅力が最大限に発揮された1作だと断言できる。
◆ 構成と演出:3人の時間軸が交差するロードムービー的な味わい
物語は時系列を前後しながら、3人の視点が次第に絡み合っていく。
この巧みな構成が、単なる逃亡劇に終わらせない「物語の厚み」を生んでいる。
逃亡劇のテンポの良さと人間描写の緻密さ。
どこまでも苦しく、どこまでも切なくけれどわずかな希望をも感じさせる展開が秀逸だ。
ミルトモ 編集部
薬を常備しているのは持病もちだったのだろうか。
◆ 騙す者と搾取される者――多層構造の「闇」が見せる社会の本質
この映画の恐ろしさは、登場人物たちの闇が「底」ではないという点にある。
詐欺に加担している者も、実は誰かに搾取されていて、その上にはさらに上位の搾取者がいる。
この入れ子構造が描くのは、「現代の搾取社会そのもの」だ。
ミルトモ 編集部
だからこそ、彼らの“愚かさ”が他人事には思えない。
まとめ:どこまでもリアルで、どこまでも優しい──心に残る一作
『愚か者の身分』は、決して派手な作品ではない。
しかし、私たちのすぐそばにある「社会の歪み」と「人のやさしさ」を、真正面から描いた傑作だ。
観終わったあと、胸の奥がひりつく。
それでも、「人を信じてみたい」と思わせてくれる。
🎬 映画『愚か者の身分』は2025年10月24日(金)全国公開。
ミルトモ 編集部