大林宣彦監督映画おすすめ10選!『HOUSE』『時をかける少女』『転校生』など代表作をまとめ!

大林宣彦監督映画おすすめ10選!『HOUSE』『時をかける少女』『転校生』など代表作をまとめ!

出典:IMDB

2020年3月に逝去された大林宣彦監督。

戦後日本における自主映画の草分け的存在でもあると同時に、CMディレクターとしても多くの話題作を手掛けてきたことで有名です。

監督のみならず、プロデューサーを兼任したり、音楽監督を務めたり、また役者として自らも映画に出演したりと枠にとらわれることなく幅広く活動されていました。

商業映画デビュー後は、アイドル映画から反戦映画まで様々なジャンルの作品を長年生み出し、世界中の映画ファンから愛された監督でもあります。

今回は遊び心富んだ初期作品から、代名詞でもあるアイドル映画、そして「尾道三部作」の2作品を中心に、いますぐ自宅で鑑賞できる大林宣彦監督作品を10作品ご紹介します。

大林宣彦監督作品おすすめ10選

『HOUSE ハウス』(1977年)


大林宣彦監督の商業映画デビュー作でもある『HOUSE ハウス』。

当時としては、CMディレクター、自主映画出身で助監督経験がない監督が長編映画を任されるというのは異例中の異例のことで、映画界の新しい流れを作った作品でもあります。

また、大林監督は監督業以外にプロデューサー業も兼任し、メディアミックスを巧みに活用したりと、映画の宣伝活動も当時としては画期的な方法をとっていました。

物語の前半は清く美しい少女漫画のようなメルヘンな世界観で、アニメーションや書き割りなど様々な技法が用いられています。

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特に主人公の少女たちがオシャレのおばちゃまの館にたどり着くまでの道のりは、ポップな雰囲気で70年代のカルチャーをたっぷり味わうことができますよ。
『HOUSE ハウス』

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しかしながら、羽臼家に到着してからはその明るい雰囲気が一転し、ホラー要素が一気の強くなります。

生首の描写や、少女たちが次々と家に食べられていく様子を、当時の最先端技術を駆使し描いているのですが、コメディ要素が含んでいるせいで観ていて苦にはなりません。

『HOUSE ハウス』

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残虐なはずのシーンも、クスリと笑えるような演出が施されており、オシャレな雰囲気すらも感じられます。

若手女優を魅力的に撮ることに長けた大林監督作品らしく、池上季実子、大場久美子、神保美喜などの今では大物女優たちのフレッシュな姿が眩しいのも、この作品の魅力の1つです。

『HOUSE ハウス』

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メインキャラクターの7人の少女たちは池上季実子以外は新人で、映画制作前にハウスガールズとして、週間少年マガジンでグラビアや大磯ロングビーチにて水着でのキャンペーンを行ったりと、アイドル的な人気も博しました。

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7人の個性豊かな若手女優の中でも、特に主役のオシャレを演じた池上季実子の艶めかしさは、18歳とは思えないぐらいです。

劇中では、すでに大物女優の片鱗を垣間見ることができます。

『HOUSE ハウス』

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劇中では『トラック野郎』『男はつらいよ』などのパロディなどもあり、シュールな展開の中にもエッジの効いた遊び心がたっぷり。

30代の大林監督の撮りたいもの、やりたいことがたっぷり詰まったおもちゃ箱のような映画で、その独特な世界観は定期的に観たくなってしまう中毒性に溢れています。

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公開から43年経っても、その魅力は色褪せることなく、海外でもコアなファンがいるのも納得できる作品です。

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『金田一耕助の冒険』(1979年)


主人公は言わずと知れた名探偵・金田一耕助なのですが、この作品は横溝正史の短編集「金田一耕助の冒険」の1作品である「瞳の中の女」のパロディ映画です。

実はこの作品が日本で初めてのパロディ映画と言われています。

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とにかく難しいことは起こらず、気楽に楽しめるので、疲れた週末の夜などに何も考えずに観るのにはおすすめです。

先にご紹介した『HOUSE ハウス』同様、こちらの映画も古き良き時代のコメディ漫画のような展開で進んでいきます。

当時の流行りの音楽や映画、CMなどのパロディが映画全編にふんだんに使われており、名作として世に残る映画としてでなく、娯楽として消費されるために制作された映画と言えるでしょう。

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観ていると、たとえパロディの元ネタが分からない世代だとしても、まるでタイムカプセルを開けたかのような懐かしい気持ちになってしまいます。

これは当時の流行りや娯楽をギュッと閉じ込めた娯楽映画だからこそ味わえる魅力と言えるのではないでしょうか。

映画史上に残る「名作」では、なかなか味わえ得るものではありません。

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この映画で、従来の金田一耕助像を求めるのはやめておきましょう。私たちが知っている金田一耕助は、この映画には出てきません。

その代わり、なんだか憎めない、そして、とびっきりチャーミングな金田一耕助に出会えます。

古谷一行演じる金田一はビジュアルは、まさにイメージそのもの。

しかしながら、前述の通り、従来の金田一とはかけ離れています。

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金田一だけでなく出てくるキャラクター全てがかなり強烈で唖然としてしまうぐらいです。

しかも、出演しているのが田中邦衛、松田美由紀、志穂美悦子、斉藤とも子、峰岸徹、岸田森、檀ふみ、夏八木勲、岡田茉莉子、三船敏郎、三橋達也らのビックネームの俳優陣に加えて、さらに「金田一」シリーズの原作者である横溝正史やプロデューサーのお角川春樹、高木彬光、笹沢左保ら著名人らが出演と、やたらと豪華すぎる顔ぶれが次々と出てきます。

そんな豪華な顔ぶれが勢ぞろいしているのにも関わらず物語は、実にしっちゃかめっちゃか。

ジェットコースターのように、あっちこっちに話が展開していきます。

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観続けていくと物語がどこに向かっているのか分からないからこそ、思わず夢中になっている自分に気付くことでしょう。

終盤には意外な人物の正体が明らかになり、物語として一応の落とし前がつくことに感動すらしてしまいます。

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観終わった時には、劇中の軽快なテーマ曲があなたの耳に残っていること間違いありません。

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『時をかける少女』(1983年)


有名な「尾道三部作」の2本目であり原田知世のスクリーンデビュー作品でもある本作品。

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あなたの番です』とは違う原田知世の魅力がたっぷり味わえます。とにかくあどけなく、その純粋さが画面越しでも分かるくらいです。

角川春樹が原田知世に惚れ抜いたというのも十分に納得できます。

『時をかける少女』

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そして、彼女のあまりの純粋さから「この映画で引退させよう」と周りの大人たちが話していたのも頷けるくらい、芸能界の荒波にこんなピュア少女を晒したくないという親心のようなものさえ湧いてきます。

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実際には、みなさんご存知じの通り、原田知世は現代まで芸能界の荒波にのまれることなく生き残っているので、そんな心配は無用なのですが。

「時をかける」というタイトルのインパクトから、映画を見る前のイメージでは、原田知世がタイムスリップさながら様々な時代をかける映画かと思いきや、かける「時」は意外にもコンパクトです。

だからこそ、1度目と2度目と同じ時と巡り会う際に生じるズレがとても絶妙です。

大げさすぎずない演出が、非現実的なストーリー展開なのに妙なリアリティを感じさせます。

物語の佳境である人物の正体が分かった時、映画の初めに感じていたモヤモヤなどが全て解決し、かつ、伏線がキレイに回収されるのは見事の一言です。

物語が実にシンプルに収まっています。

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個人的には、全ての人間の記憶が調整されてしまった後の一夫の祖父母の会話に切なくなってしまいました。

「尾道三部作」が「初恋」そして「子どもから大人への成長」をテーマにしているように、この作品もヒロイン・和子の初恋と成長がテーマです。

『時をかける少女』

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しかし和子は、最終的に自分の初恋の記憶を失いなってしまいます。

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これは、他の尾道作品と大きく違う点と言えるでしょう。だからこそ、映画のラストに出てくる成長した和子のどこか寂しげな様子や、また、記憶をなくしているはずなのに薬学の研究者になっている事実、そしてラストの「再会」シーンに観ている側は心打たれてしまいます。

あれだけにドラマチックな経験をして「あなたについていきたい」とすがるほどの初恋をしたのに、和子にはその記憶がない。

『時をかける少女』

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だけれども消されたはずの記憶がどこか影になって彼女の心の片隅に残っているのではないか。

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そんなことを匂わせて終わるラストに、ただただセンチメンタルな気持ちにさせられてしまいます。

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『天国にいちばん近い島』(1984年)


当時の日本ではあまり知られていなかったニューカレドニアを舞台にした作品で、ほぼ全編、ニューカレドニアで撮影が行われた作品です。

画面いっぱい南国のビーチや自然、街並みが美しく映し出されます。

ロードムービー的な要素もあり、異国の風情を満喫できる映画です。

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ストーリーに関しては色々と突っ込みどころがあるのですが、東京からニューカレドニアへ「天国に近い島」を探しにきた少女・万理と「日本」を夢の国と憧れている現地の日系の少年タロウとのやり取りは実に興味深く感じました。

ありきたりな言葉ですが、天国なんてものは本当は一番近くにあるのかもしれないと思わせてくれる作品です。

この作品はとにかく原田知世演じる万理の可愛さと控え目に見せかけた強引さで物語が進んでいきます。

そもそも主人公がニューカレドニアに来たのは、幼い頃に亡き父から聞いた「天国に一番近い島」を探すためでした。

しかしながら島の明確な情報は全くなく、頼りになるのは主人公の感覚だけ。

ですので万理が「ここは私の天国の島じゃありません。」と言ってしまえば、島探しの旅はまた振り出しに戻るわけです。

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実際に、2度ほどそういったシーンが登場します。

映画の後半に差し掛かる頃には「頼むから、ここがそうだと言ってくれ」と観ている方がお願いしたくなるくらい、多くの人の好意と協力を得ての島探しになってしまいます。

そんな旅の最後の最後に、万理が見つけた「天国」はとても意外な場所で、そして、心温まる場所にありました。

拍子抜けする人もいるかもしれませんが、万理の出した結論に安堵感すら感じられました。

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万理は「天国の島」だけでなく、大好きだった父親にも再会できたのではないかと思える演出はとても美しいものです。結局のところ人間にとって場所は重要でなく、誰といるかが大切なのかもしれません。

この映画の原田知世は前作の『時をかける少女』よりも垢抜けています。

『天国にいちばん近い島』

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そして前述の通り、彼女の可愛さなくしてはこの物語は展開していきません。

少し前に「可愛いは正義」というキャッチコピーがありましたが、まさにその言葉の通り、その可愛らしさで少々無理な問題も解決してしまいますし、誰もが万理に救いの手を差し伸べます。

本人も認めるくらいのドジなところもある万理は、度々トラブルを引き起こしたとしても問題はありません。

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エセガイドの深谷がチャーター機で離れた島に連れって行ってくれるし、日系の少年・タロウは彼女のために貯金を差し出し、知り合って間もない老婆は快くお金を貸してくれるし、現地の人々からも優しくしてもらえる。まさに可愛いは正義、そして可愛いは最強の一言に尽きます。

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『さびしんぼう』(1985年)


「尾道三部作」の3作目であり、主人公の少年・ヒロキ目線で描かれた初恋物語です。

初恋の甘酸っぱさとほろ苦さが感じられる作品になっています。

「人を愛することは寂しいこと」という大林監督の考えをベースになっており、8mm映画時代にも同名の作品を何本も撮影しているくらい、この「さびしんぼう」という造語は大林監督にとって特別なものでした。

劇中ではショパンの「別れのうた」が度々流れ、重要な役割を果たしています。

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実はこの曲も大林監督にとって思い入れ深い曲だったのです。

ショパンの伝記映画『別れのうた』に少年時代に深い感銘を受けた大林少年は「いつかショパンの曲のような映画を作りたい」という想いを抱きます。

その長年の想いが実現したのが、この『さびしんぼう』です。

大林監督にとって、この映画は少年時代からの想いが詰まった作品だったのではないでしょうか。

ヒロインの富田靖子は、さびしんぼうと橘百合子、そして未来の百合子とその娘と合計4役演じています。

純情可憐なヒロイン百合子とは対照的な両性的でサバサバとしたさびしんぼうをイキイキと演じている姿がとても印象的です。

個性的なさびしんぼうの外見、真っ白に塗られた顔や独特なアイメイクにカーリーヘアも富田靖子だからこそ、とびっきりキュートに仕上がっています。

『さびしんぼう』

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結局のところ、さびしんぼうの正体がなんだったのかははっきりと分かりません。

ヒロキの母親の娘時代の分身のようでもありますし、もっと以前から存在していた別の何かのようにも感じられます。

さびしんぼうの正体の答えは、きっとそれぞれが見つけ出すものであり、もしかすると見つけ出す必要もないのかもしれません。

余談ですが、さびしんぼうの衣装であるオーバーオールは、彼女が尾道に着て来ていた私物だったそうです。

この映画は、あくまでもヒロキの初恋物語です。

しかしながら母親の初恋や百合子の家庭事情など、物語性がありそうなエピソードが見え隠れしています。

とはいえども、明確にそれらのエピソードが描かれることはありません。

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だって、これはあくまでもヒロキの初恋物語なのですから。

ただ母親の初恋に関しては明確に描かれることはありませんが、さらりとさびしんぼうが語ってくれているので、観ている方も容易く想像することができます。

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しかし冷静に考えてみると、母親が自分の息子に初恋相手の名前を付けたり、初恋相手の面影を息子に押し付けるかのようにピアノや勉強を強要している姿に少し怖さも感じてしまう人もいるのではないでしょうか。それだけ、母親にとって「カズキ」君との初恋は忘れがたいものだったとも考えられますが、なかなかのものです。

そして、それに気づいても反抗したり、必要以上に複雑に感情を抱かない息子のカズキも理解がありますが、全てを知った上で母親に文句を言うこともなく温かく見守る寡黙な父親に深い愛情を感じました。

このように、劇中では余計な争いも事件も起きません。

ただただ初恋の切なさや美しさが描かれているのみです。

『さびしんぼう』

出典:IMDB

スマホやSNSが幅を利かしている現代では、初恋といえども、このような切なさや寂しさを感じることは、もう不可能のように思います。

だからこそ、余計に劇中で描かれるヒロキの恋心やさびしんぼうの涙が美しく感じられました。

何事もインスタントな現代を生きる私たちの前にはさびしんぼうは現れてくれないのかもしれません。

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映画のラストのナレーションが語るような未来がヒロキに待っているのか、もしくは自身の母親と同じように初恋の思い出を抱えながら「今」を愛して生きていくのか、ヒロキがどちらの人生を進むのかは分かりません。ただ、どちらに進んだとしてもさびしんぼうの思い出がある限り、きっと幸せに生きていけるのではないかと思わせてくれる映画でした。

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『異人たちとの夏』(1988年)


映画のタイトの「異人」とは海外の人のことかと思いきや、文字の通り「人と異なる」もののことだと気づいた時には、この映画の持つ不思議な魅力に惹きつけられていました。

風間杜夫演じる主人公の原田英雄は、決して品行方正で万人受けするタイプの人間とは言えません。

劇中でも描かれている通り、仕事にかまけていた故に、妻と離婚し、息子とも決していい関係を築けているとは言えません。

特に物語の初盤では、どことなく業界人特有の鼻持ちならないキザな性格が見え隠れしています。

そんな主人公の英雄も、亡くなったはずの両親の前では、まるで10代の少年そのもの。

そして片岡鶴太郎と秋吉久美子演じる両親も、自分たちの年齢を越えてしまっているのにもかかわらず、英雄を少年のように扱います。

劇中では死に別れた親子の感動の再会といったドラマチックな演出はありません。

まるで以前からそうしていたかのように、英雄が浅草の実家を訪ねると、当前のように両親が出迎えます。

英雄が、おかしなことと理解しながらも、何度も亡き両親の元に足を運ぶのが分かるくらい、2人から流れる空気は懐かしく優しいものです。

そして両親との別れのシーンは淡々と描かれ、まるで蜃気楼のように英吉と房子は消えてしまいます。

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夏の終わりのように、ほんの少しの悲しさを感じさせる別れのシーンはノスタルジックで美しいです。

しかし英雄のマンションを舞台とした現実パートの後半は若干ホラーな展開が待ち受けています。

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「まさかのあなたも異人でしたか」と言ってしまいたくなるくらいです。

一夏に、複数の異人と過ごした英雄。

彼が生気を奪われるくらい老け込んだ原因は、両親でなく、もう1人の異人のせいだったのではないかとも考えられますが、答えは映画の中では明確にされていません。

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ただ、異人と過ごした一夏の経験によって、英雄が大きく変わったということはラストの彼と息子のやり取りから伺えます。

英雄の父親・英吉を演じた片岡鶴太郎ですが粋な江戸っ子を演じさせたら右に出るものはいないんじゃないかと思うぐらいの男っぷりが素敵です。

身長も決して高いわけではないですし、飛び抜けたハンサムというわけではないのに、この人が醸し出す「粋ないい男」オーラには、妙な説得力があります。

後ほどご紹介する『SADA〜戯作・阿部定の生涯』でも、こちらも女好きだけども憎めない粋ないい男を演じています。

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イケメンと持て囃される若手俳優は巷に数多くいますが、ここまで粋な男の魅力を出せる役者は、なかなかいないのではないでしょうか。

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『女ざかり』(1994年)


永遠の銀幕のヒロイン・吉永小百合が主演で、三國連太郎、津川雅彦など実に重厚な役者が勢ぞろいした作品です。

とは言えども、作品自体は重苦しくなく、軽快に進んでいきます。

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登場人物たちの会話のテンポが心地よい上に、物語の展開も停滞することがないので、特別大きな事件が起きるわけではないのに、観ていて飽きません。

また吉永小百合=清純派というイメージが強いと、この映画の中の吉永小百合像は意外に思う人もいるかもしれません。

大林監督が「あなたのシワが撮りたい」と吉永小百合を口説いたと逸話がある作品ですので、いわゆる「女優・吉永小百合」とは異なるイメージの吉永小百合が観ることができる貴重な作品でもあります。

吉永小百合演じる弓子は、本人が語るようにいい意味で「凡人」です。

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吉永小百合が演じる役に親近感を覚えたのは初めてでした。

弓子はいい意味で「凡人」でもありますが、周りが引いているのにも関わらずに、自分の意見を語り続けるシーンでは「イタさ」すら感じさせますし、鈍感さも感じさせる人物でもあります。

さらっと描かれていますが、津川雅彦演じる大学教授・豊崎と10年もの間、不倫関係であったり、非社会的勢力の親分と対等に語り合ったりと、なかなかの肝っ玉がすわった女性でありながらたおやかさやも持ち合わせている女性です。

そんな彼女が論説委員として初めて書いた社説がとある事件を起こしてしまいます。

弓子を恋い慕う浦野を三國連太郎、そして弓子の恋人である豊崎を津川雅彦と2人の名優が最高にチャーミングな中年男性を演じています。

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不器用で粗野だけども純粋さを持ち合わせている浦野と知識人でありながら可愛げのある豊崎とタイプの違う男性に愛されるなんて女冥利尽きるの一言。さすが小百合様です。

そんな魅力的な2人とも、窮地に立たされた弓子のために、あの手この手で彼女を救おうとしますが、最終的には弓子が隠し持っていた「最終兵器」には敵いません。

他にも、藤谷美紀が演じた弓子の娘の千枝の存在も物語のスパイスになっています。

どこか儚げで、死の幻想に取り憑かれている千枝の様子は、何か起こしそうで目が離せない存在です。

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そんな彼女も、母の窮地を救うために身を張るのですから、弓子はどれだけ果報者なんでしょう。

最終的には、銀幕の大スターだった叔母やその恋人だった総理大臣まで巻き込みながら、弓子が出した結論は、きっと本人すらも想像していなかったものでした。

「凡人」である弓子が政治、会社、そして人間、家族といった様々な舞台裏をひょんなことに覗いてしまった結果、出した結論に観ている側はそれぞれ賛否両論の意見を持つかもしれません。

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しかしながら物語の終盤に、車窓からの風景を見て「どこまで行っても、人の家ね」とつぶやく弓子からは、仕事にしても、人生においても、他人のものじゃない、他人に左右されない、自分のものを手に入れようとする意志が感じられました。

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『SADA〜戯作・阿部定の生涯』(1998年)


かの有名な阿部定事件をベースにした作品で、時間系列や登場人物の多くが多少のフィクションや名前の変更はあるものの忠実に描かれています。

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黒木瞳が主人公の定を14歳から演じているのですが不思議と違和感を感じません。

当時、黒木瞳は30代後半ですが、10代の少女・定から30代のしっとりとした色気溢れる定まで丁寧に演じきっています。

『SADA〜戯作・阿部定の生涯』

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この映画が史実と大きく異なる点としては、定の初恋の人であり、龍蔵に出会うまでの想い人だった岡田の存在です。

この映画では、岡田の存在は定の人生に大きな影響を与えています。

岡田が架空の存在だと分かりながらも、彼が定に「心」を与えていなかったら、メスを渡していなかったら、阿部定物語は起きていなかったのかもしれないと思うぐらいです。

定の半生と事件の特質からベッドシーンが多い作品ですが、不思議なくらい色気がないベッドシーンが多いです。

むしろ、相手によっては妙に滑稽なものもあります。

特に兄と慕う滝口や恩人でもある立花との後半のベッドシーンは、定の言葉通り、お義理そのもの。

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快楽や情緒など一切なく、ただの「行為」であり、実に滑稽です。

しかしながら、劇中では印象的だったベッドシーンもいくつかあります。

定が芸妓になって客を取るようになり、定の上を代わる代わる様々な男が通り過ぎていくシーンは、とても印象的です。

彼女の上で腰を振る男たちの映像と交互に映し出される定の姿は、歌を口ずさみながら心ここにあらずといった様子なのに、目が話せないぐらい色っぽく艶やかです。

短い場面でながらも定が多くの客を取り、娼妓に身を落としていったのかが分かる演出になっています。

また物語の終盤、龍蔵の帰りを1人待つ定が布団の上でドーナツを食べるシーンは、どんなベッドシーンよりも妖しく、そして色っぽいです。

定にとってドーナツは初恋の人・岡田との思い出の品であるからこそ、より一層に艶っぽく見えるのかもしれません。

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そして、そのドーナツのシーンによって、定は完璧に岡田との思い出と決別したようにも見受けられました。

前述の通り、14歳から31歳までの阿部定を演じきった黒木瞳の魅力や色気が十分に味わえる作品でもあります。

そして後半に出てくる片岡鶴太郎演じる龍蔵も、定が惚れてしまうのも無理はないなと思わせる色男風情があり注目です。

『SADA〜戯作・阿部定の生涯』を無料で見れる配信サービスは?
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『理由』(2004年)

2004年12月の劇場公開前に、同じ年の4月にすでにWOWOWでドラマ放送された話題作です。

宮部みゆきの同名小説が原作となっています。

あまりの登場人物の多さから、映像化は不可能と言われていました。

その前評判の通り、登場人物の数はメインキャラクター以外は覚えきれないくらい多いです。

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そして、ちょっとした役でもなかなかのビックネームが多数出演しているので、そういった役者さんたちを見つけてみるのも楽しいですよ。

ストーリーの構成が面白く、ほとんどのシーンが登場人物たちのインタビューで描かれており、ドキュメンタリー番組を見ているかのように物語は展開していきます。

哀愁的に登場人物それぞれの証言によって見えてきた真実は、家族に恵まれず、人の愛し方を学べなかった1人の人間の悲劇でした。

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この映画のテーマの1つは「家族」と言っても過言ではないでしょう。

劇中でいくつかの家族が登場します。

そして、それぞれの家族が色々な問題を抱え、物語の主軸となる殺人事件によって多かれ少なかれ影響を受けます。

そもそも殺人事件の被害者たちもまた、偽装「家族」でした。

被害者となった4人それぞれが実の家族とは暮らせない事情があることが、事件後の関係者のインタビューで分かります。

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偽装といえども、4人が過ごした時間は実の家族よりも濃いものだったのではないかと思うと、家族の存在意義というものも考えさせられてしまう作品です。

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『転校生 さよならあなた』(2007年)


1982年公開の「尾道三部作」の1作目である『転校生』のリメイク版です。

オリジナル版が尾道を舞台にしているのに対して、この作品では舞台は長野になっています。

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そのため、それぞれの作品を「尾道転校生」と「長野転校生」と呼び分けるファンもいるとか。

尾道版と長野版の違いは映画の舞台だけではありません。

例えば、尾道版では転校してきたのは一美なのに対して、長野版では一男だったり、2人が入れ替わる場所や方法も全く違うといった具合に、細かい違いが多々あります。

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しかし数多くの違いがあれど一番大きな違いは何と言っても、長野版の後半で一美が病を患うことでしょう。

一美の病気については、長野版のオリジナルストーリーです。

長野版の後半は、一美の病が物語の主軸となります。

入れ替わったまま一美が死んでしまえば、一美からすると心は一男の肉体の中で生きているけれども、自分自身の肉体を失うことになり、逆に一男にとってみれば自分の肉体は生き続けてはいるものの、心は死んでしまうのです。

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その運命を受け入れた2人が中身が旅館で抱き合いながら「さよなら、私」「さよなら、俺」と囁き合うシーンは美しいとしか言いようがありません。

一美の病の設定があるからこそ、尾道版よりも2人の関係性に切迫感が溢れ、物語がよりドラマチックになっています。

80年代「尾道三部作」は青春や初恋の甘酸っぱさやほろ苦さ、そして少女や少年が大人に変わる複雑な時期を描き、現代においても多くのファンに愛されている作品です。

また、特に『時をかける少女』『さびしんぼう』はアイドル映画の要素が強い作品として評価されています。

「尾道三部作」の1作目である『転校生』は大林監督が44歳の時の作品です。


そして長野版の『転校生 さよならあなた』が公開されたのが、それから25年後である2007年。

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大林監督が70歳を目前に制作された新生『転校生』は、リメイク版とされてはいるものの、全くの別作品と言ってもいいのではないでしょうか。

それくらいテイストが異なります。

25年前には描かれなかった「死」を扱うことで、長野版は結果的に前作よりも青春の輝きや切なさが昇華されたと言っても過言ではありません。

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「尾道転校生」「長野転校生」併せて観ても、時代背景の違いや設定やストーリーの違いなどが楽しめておすすめです。またオリジナル版とリメイク版のそれぞれの主人公たちの演技を見比べるのも、楽しいですよ。

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大林宣彦監督作品おすすめ10選:まとめ

今回、大林監督の初期作品とも言える80年代、90年代の作品を中心にご紹介しました。

商業映画のデビューである『HOUSE ハウス』や『金田一耕助の冒険』は、マンガチックでどこか非現実的な世界観が魅力な作品から、原田知世ら若手女優を起用したアイドル映画、そして晩年では反戦映画と時代や自身の人生を反映して大きく作品のテイストに変化があることも大林作品の特徴です。

しかし、どんなにテイストが変わっても、女優の描き方がとてもうまい監督でもありました。

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どの作品からも、女性に対する憧れとリスペクト、そして監督自身の優しさが伝わってきます。

「映像の魔術師」とも呼ばれた大林監督の作品には、確かに映像が技術的にも面白かったり、美しかったりする映画が多くその魅力はどんなに時代を重ねようとも色褪せません。

コロナウィルスの影響で公開が延期になってしまっている遺作『海辺の映画館ーキネマの宝箱』は、12年振りに尾道で撮影された作品です。


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最後にメガホンを取った作品が、縁が深い尾道が舞台というのに不思議な縁を感じてしまいます。

2020年公開予定ですが、まだ公開日は発表されていません。

大林監督作品の集大成とも言える新作の公開が今から楽しみです。