『2分の1の魔法』は『トイ・ストーリー』や『リメンバー・ミー』を世に送り出したピクサー・アニメーション・スタジオの最新作です。
かつては魔法が溢れていたのに、科学技術が進歩したことで今ではすっかり魔法が消えてしまっている世界が映画の舞台となります。
少年の成長と兄弟の絆をファンタジーな世界観でありながらも現代社会と通じる舞台で描き、ハートフルな作品に仕上がっています。
- とにかく兄弟が尊い!
- ファンタジーの世界が舞台でありながらも現代につながるメッセージ性が多々ある作品です。
- 『モンスターズ・インク』の前日譚『モンスターズ・ユニバーシティ』のダン・スキャンロン監督の実体験に基づく心温まる物語です。
それでは『2分の1の魔法』をネタバレありでレビューしていきます。
目次
『2分の1の魔法』作品情報
作品名 | 2分の1の魔法 |
公開日 | 2020年8月21日 |
上映時間 | 103分 |
監督 | ダン・スキャンロン |
脚本 | ダン・スキャンロン ジェイソン・ヘッドリー キース・ブーニン |
出演者 | トム・ホランド クリス・プラット ジュリア・ルイス=ドレイファス オクタヴィア・スペンサー |
音楽 | マイケル・ダナ ジェフ・ダナ |
【ネタバレ】『2分の1の魔法』あらすじ
父親に会いたいイアンが手にしたのは、魔法の杖と不死鳥の石!
世界はかつて魔法であふれていました。
魔法使い、ユニコーン、妖精、マーメイド、そしてドラゴン。
けれど電化製品や自動車が普及すると人々は便利な生活を選び、やがて魔法は世界から消えてしまいました。
イアン・ライトフットは、そんな魔法が失われた世界で暮らす、16歳の誕生日を迎えたばかりの少年。
優しいけれど内気な性格が災いして学校でも友達はいません。
生まれる前に亡くなった父親ウィンデルに会いたいという願いは、日々強くなるばかり。
父親の声が唯一残っている古いカセットテープを聞きながら、空想の会話をするほどです。
そんなイアンは16歳になったことで、今までの自分を変える決意します。
言いたいことをちゃんと言い、車の運転を習い、パーティーに同級生を招待する!
しかし、学校では自分の意見をはっきり言えずじまい、自動車講習でも高速で合流ができず失敗。
勇気を出してクラスメイトを誕生日のパーティーに誘ってみるものの、兄バーリーのせいで逃げ帰ることになってしまいました。
弟のイアンと違ってバーリーは、高校卒業後に進学も就職もせず、何やら駆け回っている魔法オタク。
陽気で元気一杯ですが母親ローレルには心配され、周囲にも変わり者と思われています。
取り壊し予定の古い噴水を守ろうとして騒ぎを起こし、ニュースになったばかりの少年です。
そんな兄弟にローレルは、亡くなる前にウィンデルから預かっていたという大きな包みを渡します。
イアンが16歳になった時、兄弟に渡すよう言われていた贈り物の中身は、何と魔法の杖と不死鳥の石と言われる宝石でした。
そして手紙に書かれていたのは、復活の魔法。
バーリーは大興奮で呪文を唱えますが何も起きません。
何度試しても何も起こらず、バーリーと母親が諦めて部屋を出て行ってから、何気なくイアンが呪文を唱えると、何と魔法が発動。
父親の姿が足からだんだんと現れていきますがイアンは上手く魔法を操れません。
しかし、助けようとしたバーリーを拒んだため、魔法は途中で失敗、不死鳥の石も消えてしまいます。
そしてウィンデルの下半身だけがよみがえってしまったのでした!
呪文の効力は魔法を唱えてから24時間で、その間だけ死者をよみがえらせるというもの。
そしてその後二度と、よみがえらせることはできないのです。
新しい不死鳥の石を探し出し、ウィンデルを24時間以内に完全によみがえらせようと、イアンとバーリーは下半身だけのウィンデルも一緒に、バーリーの愛車・ユニコーンが描かれたグウィネヴィアに乗って冒険の旅に出発します。
イアンは兄のバーリーと、不死鳥の石を探す冒険の旅へ
魔法オタクのバーリーは、石のありかは伝説の戦士マンティコア・コーリーが知っているはずと言い、マンティコアの酒場を目指します。
それはバーリーがはまっているボードゲームの知識でした。
しかし着いた場所は、子どもたちが大勢いるファミリー向けのレストランでマンティコアはその店の店長として普通に働いていたのでした。
不死鳥の石のありかを示す地図が欲しいという兄弟が渡されたのは、子ども向けのクイズが書かれた用紙。
本物の地図を渡してと頼むものの、冒険は危険だからとマンティコアに拒まれます。
しかしイアンが以前は危険を顧みず冒険をしていたはずと訴えると、マンティコアは昔の自分自身を取り戻し暴れ始め、吐いた炎で店は火事になってしまいます。
地図は燃えてしまいましたが子ども向けのクイズが石のありかを示していると気付いたイアンとバーリーは、クイズの答えであるカラスダケに向かうのでした。
一方、子どもたちが消えたこと、石を探すためマンティコアの酒場に向かったと気付いたローレルは、二人を車で追い駆けていました。
火事で燃えてしまったマンティコアの酒場に到着したローレルは、不死鳥の石を取ると呪いが発動して石のドラゴンに襲われることを兄弟に伝え忘れたと、マンティコアから聞きます。
しかもドラゴンを倒すために必要な剣を、お金に困って質屋に入れてしまっていたマンティコア。
ローレルは子どもたちを助けるため、質屋で何とか剣を手に入れると、マンティコアと一緒にカラスダケに向かいます。
その頃イアンとバーリーは、カラスダケに向かう経路についての意見が対立。
イアンは高速道路を使えばすぐだと言い、バーリーは冒険には困難な道を行くのも必要だと言うのです。
結局時間を短縮するため、高速道路を使うもののガス欠になってすぐ高速を下りることになってしまいます。
魔法で予備のガソリンタンクを大きくしようと試みるイアンですが失敗してバーリーを小さくしてしまったのでした。
小さな兄と、下半身だけの父親を連れてガソリンスタンドに向かったイアンは、そこで妖精のバイクギャングと遭遇。
ガソリンやお菓子を買った後、ふとしたことからバーリーが妖精と口論になり、危険な妖精たちに追われることに。
イアンは必死に逃げるうちに、苦手だった高速道路での合流や車線変更に成功、妖精たちの追撃を振り切ります。
バーリーの身体も元通りになりますがそこで危険運転だと警察官に車を停められてしまいます。
兄弟は魔法で母親の恋人のケンタウロス、警察官のコルトの姿に変身してその場をやり過ごそうと考えます。
途中までは上手くいくものの、魔法は嘘をつくと少しずつ解けてしまうものでした。
警察官たちの「バーリーは厄介者」という言葉にイアンが違うと答えた時に魔法が解けたことで、バーリーはひどく傷付くのでした。
兄弟たちはひとまず車を発進させますが、怪しんだ警察官たちは本物のコルトに連絡を取り、兄弟の嘘はばれてしまうのでした。
そうとも知らないイアンとバーリーは、先程の件が原因でケンカになっていました。
言い合いが酷くなったところで、下半身だけのウィンデルが二人を巻き込んで踊り出したことで、兄弟は何とか仲直り。
イアンは兄を信じることを決め、高速ではなく兄が言う道で行こうと提案します。
そうして下道を進み始めた兄弟たちは、コルトが追って来ていることを、まだ知りませんでした。
イアンとバーリーが振り切った妖精たちは、カーチェイスの果てに、バイクを数人で操るのではなく、翼で飛ぶことができるようになっていましたがそんな妖精たちのせいでローレルの運転する車がまさかの事故を起こしてしまいます。
車が使えなくなったローレルは、妖精たちが翼で飛ぶ姿を見てマンティコアに翼を使って飛ぶことを提案します。
やがて夜も明け、順調にカラスダケに向かっていたグウィネヴィア号の前に、強大な地面の裂け目が出現します。
橋を下ろすためには、イアンが魔法で空中を渡って行き、裂け目の向こうにあるレバーを引くしかありません。
念のため腰にロープを巻き付けたイアンは、強く信じることで魔法を成功させ、見えない道を歩いて行きます。
命綱のロープが途中でほどけるアクシデントはあったものの、イアンは何とか裂け目を渡り切ったのでした。
橋を渡った先にあったのは、大きなカラスの石像でした。
カラスの視線の先には、また別のカラスの像があることを発見した二人は、カラスが示す先に不死鳥の石があるのではと思い付きます。
それは、高速道路を使っていたら、決してわからないことでした。
その時、コルトたち警察官がやって来ます。
家に連れ帰られそうになり、グウィネヴィア号で逃げる二人。
しかし行き止まりに追い詰められ、イアンは稲妻の魔法で道を防ごうとしますが上手くいきません。
バーリーは思い入れのあるグウィネヴィア号を大きな岩にぶつけ、道を防ぐことに成功。
兄弟は父親を連れて徒歩でカラスの石像が示す方向を目指すことになります。
長い道のりの果てに最後のカラスの像に辿り着いた二人は、川のような印とバツ印が書かれた石板を見つけます。
近くにあった川の先に不死鳥の石があると推理し、イアンが魔法で大きくしたスナック菓子を舟の代わりにして兄弟は先を進みます。
バーリーはそこで初めて弟に、父親が亡くなる前に怖くて病室に入ることができずさよならが言えなかったことを後悔していると話します。
遺跡に着いた二人は、仕掛けられている数々のトラップを力を合わせてくぐり抜けます。
そして辿り着いた先は―。
イアンが通う高校の前でした!
呪いの発動、兄弟は父との再会を果たせるのか?
冒険が振り出しに戻ったこと、もう日が暮れ始めていることで、回り道をしたせいで時間を無駄にしたとイアンはバーリーに対して怒りをあらわにします。
父親が消えてしまうまでの少ない時間だけでも二人で過ごしたいとイアンは父親を連れてその場を離れます。
よみがえったウィンデルとしたかった夢を書いたメモを、イアンはもう無理だと諦めながら見直します。
キャッチボールをする、運転の仕方を習う…。
そうして初めてイアンは、父親としたかったことのすべてをもう、兄のバーリーと共に過ごした日々の中で、叶えていたことに気付いたのでした。
一方バーリーは、絶対に自分たちは間違っていなかったと、不死鳥の石を探していました。
そこで目に入ったのは、取り壊し予定の噴水です。
バーリーは持っていた石板が入るくぼみをみつけ、そこに石板をはめ込みます。
すると隠されていた不死鳥の石が現れバーリーは石を掴みますがその時、石にかけられていた呪いが発動して赤い煙が出現、高校の校舎や学校の壁を煙は巻き込み、巨大な石のドラゴンの形になったのでした。
ドラゴンは石を取り返そうと、バーリーに襲いかかります。
そこへ空を飛ぶマンティコアの背中に乗ったローレルが現れ、剣でドラゴンに立ち向かいます。
イアンはその間に、復活の魔法を唱えます。
徐々にウィンデルの上半身が現れますがドラゴンが迫ってきていました。
バーリーは、自分がドラゴンを引き付けるから父親と会えと、弟に言います。
けれどイアンは、自分の夢はもうバーリーが叶えていてくれた、だからバーリーが父親に会って今度こそちゃんとさよならを伝えてと告げ、ドラゴンに立ち向かいます。
イアンは短い旅の間に覚えた魔法をすべて駆使して見事にドラゴンを倒しますが崩れた石に阻まれて父親と兄の元には行けません。
石の隙間から二人が談笑する姿、ハグをし合う姿、そして父親の姿が消えていくまでを見守ることになります。
バーリーはイアンを助けてから、父親と話した内容を教えます。
そうして最後にウィンデルからだと言ってイアンを強く抱きしめたのでした。
冒険の後の、それから
イアンは短い冒険を経験したことで、自分に自信を持つことができ、高校で魔法の講義も行えるようになりました。
同級生たちとも仲良くなったようです。
ローレルの恋人であるケンタウロスのコルトもパトカーに乗ることなく、自らの自慢の脚で駆けていくように。
再開したマンティコアのレストランは今までと違って少しばかり荒々しいものになっています。
今回の事件で人々の意識が変わり、世界に少しずつ魔法が返ってきたのです。
バーリーの新しいグウィネヴィア号には、イアンが描いたユニコーンの姿が。
二人は仲良くグウィネヴィア号に乗ると、イアンの魔法で空を飛んで出発したのでした。
【ネタバレ】『2分の1の魔法』感想
イアンとバーリーの兄弟愛が尊い!
内気な弟と、破天荒の兄。
『2分の1の魔法』はそんな兄弟が24時間という短い時間とは言え意義ある冒険で、大きな成長を遂げる物語です。
死んだ父親にもう一度会って短い時間でもいいから一緒に過ごしたい。
そんな兄弟の純粋な願いに、ついつい共感してしまう人は多いはずです。
くりす
けれど物語が進むに従ってバーリーの想いがわかってくると、兄弟の見方が変わってきます。
真面目なイアンに対して厄介者と言われるバーリーですが父親にさよならを言えなかったことをずっと後悔していて二度と後悔するようなことはしたくないと思って自由に生きていたのです。
改めて考えると、バーリーは純粋な少年なのです。
19歳でフラフラしているとは言え古いものにも価値があると、取り壊されそうな遺跡を守ろうと一生懸命だったり、何より弟だけが魔法を使えるとわかってもひがんだり嫉妬したり一切しないのです。
魔法が大好きだからこそ自分も使えたらいいのに、どうして自分じゃないのか、と思って当たり前なのに。
バーリーは負の感情をまったく見せず、イアンが上手く魔法を使えるように助言し、支え、応援するのです。
今までもそうしてきたように。
くりす
イアンもずっと父親に会いたいと願っていたのに、大切な兄にさよならをちゃんと言わせてあげようと、父に会えるチャンスを譲ります。
自分が父親としたかったことはすべて兄ともう果たしていたからと。
くりす
ローレルが子どもを思う気持ちはもちろん伝わってきましたが、本作はあくまで兄弟の物語だと思います。
イアンとバーリーの絆の深さ、思い合うことの強さと尊さ、お互いを信じる姿にきっと胸を打たれるはずです。
ダン・スキャンロン監督自身が1歳、お兄さんが3歳の時に父親を亡くされていて父親の声はカセットテープで知るだけという実体験からきている物語なだけあり、イアンの心情などがあまりにリアル。
兄弟姉妹がいる人には、胸に刺さるシーンも多いかも。
くりす
原題『ONWARD』の意味
『2分の1の魔法』の原題は『ONWARD』。
前進、この先へ、向上するといった意味です。
くりす
ディズニーやピクサーのタイトルは、日本ではより内容がわかりやすい、マーケティングしやすいものに変えられますが本国ではシンプルに単語一語のものもいくつかあります。
たとえば
- 『アナと雪の女王』は『Frozen』
- 『塔の上のラプンツェル』は『Tangled』
- 『リメンバー・ミー』は『Coco』
- 『カールじいさんの空飛ぶ家』は『Up』
- 『メリダとおそろしの森』は『Brave』
- 『レミーのおいしいレストラン』は『Ratatouille』
並べてみると、日本ではやはり耳あたりの良い、子どもたちがわかりやすい、覚えやすい、内容が想像しやすいものがあえて付けられているなと思います。
くりす
さて本作は、邦題もわかりやすくて良いのですが物語の内容的には原題に込められた意味が物語のすべてだと思います。
兄弟が父親をよみがえらせるため、物理的に「前へ進む」だけでなく、内面も大きな成長を遂げたという結末。
くりす
『2分の1の魔法』に込められた現代社会に向けたメッセージ
ディズニー、ピクサーのアニメーションは、子どもたちだけでなく大人にも伝わる現代社会におけるメッセージがいつも込められています。
本作『2分の1の魔法』は、魔法が消えたとはいえ、エルフが主人公でケンタウロスやペガサスがいるファンタジーの世界が舞台。
それでも本作で扱われているテーマは、現代社会に通じるものばかりです。
生活する上で便利になったことで、何か大切なものを失っていませんか?という警鐘。
家族のあり方はそれぞれ、家族観の多様性も目を向けましょう、何より大切なのは家族間の絆の深さでは、という考え。
人も社会も急激な変化を無理に求めずとも一歩ずつでも前に進んでいくことが大事なのでは、という問いかけ。
くりす
さて本作のチャレンジは、クライマックスシーンにこそあると思っています。
従来の映画なら、きっとイアンが父親と会うことこそがゴールになったはず。
父親とハグをしてさよならをする。
きっととても感動する泣けるシーンになったと思います。
けれど監督は、そうしなかった。
あえてイアンは遠くから父親と兄が再会する姿を見つめて終わるという流れになっています。
くりす
父親という存在を知らなくても母親や、何より兄がいつも見守り、愛してくれていたと気付けたことこそイアンの成長でもあります。
あまりに近すぎてあって当然すぎて気付いていない大切なことが周囲にきっとあるはずという、そんなメッセージが込められていたように思います。
くりす
『2分の1の魔法』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
🌈ディズニー&ピクサー最新作🌈
『#2分の1の魔法』大ヒット上映中✨イアンが魔法を使うには、自分や相手を心から信じることが必要。
大切な人との絆が、一歩踏み出す勇気になる‼
内気な少年イアンと陽気な兄バーリー。
魔法で半分だけ復活した父を蘇らせるため冒険の旅へ🚘💨 pic.twitter.com/2erwxgIqWi
— ディズニー・スタジオ(アニメーション)公式 (@DisneyStudioJ_A) August 25, 2020
ここまで『2分の1の魔法』をレビューしてきました。
- 兄弟尊い!バーリーの弟への愛情と、イアンの決断には泣かされます。
- しっかりと構成が考えられた脚本は、伏線の張り方や回収もお見事。
- 前に進む勇気をもらえる心温まる物語です。