『オン・ザ・ロック』は2020年10月に公開されたヒューマンドラマ映画です。
監督・脚本はソフィア・コッポラ、配給はA24、主演はラシダ・ジョーンズとビル・マーレイ、楽曲は仏バンド「フェニックス」という強力な布陣で製作されました。
- ガーリーカルチャーの象徴、ソフィア・コッポラの最新作
- 夫の不倫疑惑を確かめるべくニューヨークを駆け巡る父娘を軽快に描く
- あざやかに前時代的な価値観の否定を提示する怒涛の終盤
それではさっそく『オン・ザ・ロック』をネタバレなしでレビューします。
目次
『オン・ザ・ロック』作品情報
作品名 | オン・ザ・ロック |
公開日 | 2020年10月2日 |
上映時間 | 97分 |
監督 | ソフィア・コッポラ |
脚本 | ソフィア・コッポラ |
出演者 | ビル・マーレイ ラシダ・ジョーンズ マーロン・ウェイアンズ ジェシカ・ヘンウィック |
音楽 | フェニックス |
『オン・ザ・ロック』あらすじ・感想【ネタバレなし】
ソフィア・コッポラとは?
『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』などで知られる映画監督フランシス・フォード・コッポラの娘であり、1999年『ヴァージン・スーサイズ』で自身も長編映画監督デビューしました。
2003年の『ロスト・イン・トランスレーション』でアカデミー脚本賞ほか多くの賞を受賞しました。
『ロスト・イン・トランスレーション』の大ヒットによって、過去に俳優業でゴールデンラズベリー賞を受賞した不名誉や“フランシス・コッポラの娘”という肩書きに向けられる親の七光り的な印象を覆しました。
ねお
また、彼女が描く純朴な少女像は、権威主義的な男性目線の作品では描くことができないため、女性の支持を多く集めてガーリーカルチャーを象徴するアーティストの1人としてソフィア・コッポラの名前は必ず挙がります。
ねお
そんなソフィアの最新作『オン・ザ・ロック』で描かれるのは「母親」。
自身も母親となり子育てと並行して創作活動に取り組む彼女が到達した新境地は、期待を超えた素晴らしい内容でした。
NYを駆け巡る父娘を軽快に描く
ニューヨークで夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)と2人の子どもと暮らすローラ(ラシダ・ジョーンズ)は家事と育児のかたわら執筆活動にも励み、多忙ながら充実した生活を送っていました。
しかし、夫が新しく配属された女性同僚と残業や出張で多くの時間を共に過ごすようになり不倫を疑いはじめます。
そこでローラは、男女の問題に詳しいプレイボーイで資産家の父親フェリックス(ビル・マーレイ)に相談します。
話を聞くや否やディーンの尾行調査に乗り出す父フェリックスと、そんな父親に翻弄されながらニューヨークを駆け巡る娘ローラをコミカルに描いた物語です。
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した『SOMEWHERE』(2010年)では怠惰な生活を送るハリウッドスターの幼い娘クレオに、前述の『ロスト・イン・トランスレーション』では売れっ子写真家の夫と距離を感じている若い妻シャーロットに自身を投影しましたが、本作におけるローラも中年期に差し掛かっていくソフィア自身といえます。
ねお
心地良さを生み出す要素としてノスタルジックなニューヨークの風景と音楽も重要です。
オシャレな“憧れの都市”的な見せ方はせず、あくまで“自然体な生活の場”としてのニューヨークを美しく見せる切り取り方がハイセンスです。
そして、音楽はソフィアの夫トーマス・マーズがフロントマンを務めるフランス出身のロックバンド「フェニックス」が担当しました。
ねお
鮮やかで清々しい終盤の展開
ゆるやかだった時間の流れは、ローラとフェリックスが浮気の現場を押さえようとついにディーンの出張先のメキシコまで後をつけてしまう映画終盤になって大きく変化します。
それまでもプレイボーイであるフェリックスの女性を見下す発言を皮肉まじりにいさめてきたローラですが、ついに我慢の限界を迎えます。
ねお
終盤には父娘の間にあるジェネレーションギャップや、ジェンダー観のズレがはっきりと示されますが、そもそも映画序盤のフェリックスの「女性の胸を見て欲情するのは男性の本能。」みたいな発言なども(ビル・マーレイのチャーミングな演技でごまかしても)許されるものではありません。
だからローラは「いつも自分のことしか考えていない。」「もっと理性的になって。」と痛烈に父を非難しますが、「女性蔑視的な古い価値観」を否定しつつも、その豪傑さで掴んできた功績という部分は尊敬に値するものとして終始一定の距離感で父と接しています。
ねお
『オン・ザ・ロック』あらすじ・感想まとめ
『オン・ザ・ロック』はコメディドラマとしても、アートフィルムとしても、フェミニズムの観点でも完成度の高い秀逸な作品でした。
- 「母親」を描くソフィア・コッポラの新境地
- 魅力的なNYの風景、音楽と一体となって流れるゆるやかな時間が心地良い
- ローラを通じて伝わるソフィア自身の価値観が心に刻まれる
『オン・ザ・ロック』は2020年10月2日から劇場公開がスタートしています。
皆さんもぜひ観てみてください。