大手広告代理店で働く野菜嫌いな女性と、同性愛者であることを隠しつつ高校教師をしているベジタリアンな男性が同居する事に!
対照的な2人の日々は、にがくてあまい?
- 原作は小林ユミヲによる漫画作品
- わかりやすく丁寧に描かれる人物像、テンポの良い物語に引き込まれます
- 監督は『九月の恋と出会うまで』やTHE BAWDIES、マカロニえんぴつなどのMVも手掛ける草野翔吾
それでは『にがくてあまい』をネタバレありでレビューしていきます。
▼動画の無料視聴はこちら▼
目次
『にがくてあまい』作品情報
作品名 | にがくてあまい |
公開日 | 2016年9月10日 |
上映時間 | 96分 |
監督 | 草野翔吾 |
脚本 | 大歳倫弘 |
原作 | 小林ユミヲ |
出演者 | 川口春奈 林遣都 淵上泰史 桜田ひより 新田真剣佑 SU 中野英雄 石野真子 |
音楽 | 渡邊崇 |
【ネタバレ】『にがくてあまい』あらすじ
野菜が苦手な女と、女が苦手な男が一緒に暮らすということ
大手広告代理店で働く江田マキ(川口春奈)はランチよりも仕事を優先するほどの仕事人間、お昼時でもゼリー飲料を片手にパソコンとにらめっこするほどです。
仕事ができて、素敵な彼がいてしっかり者。
そんな周りからのイメージを保つために職場の人たちに軽い嘘をつくことは厭わないマキ。
しかし本当のところ仕事ができるのは事実でも、彼氏はいない、野菜嫌いな偏食家。
好物はジャンクフードだったりします。
そんなマキが行きつけのバーで飲み過ぎて倒れた翌朝、目を覚ますと散らかり放題だった部屋は綺麗に片付いていて、台所には料理をする男性がいました。
男性は片山渚(林遣都)、昨晩たまたまバーに野菜を届けに来た名門私立・黒川高校の教師です。
渚は丁寧に仕込み野菜を余すところなく使ったミレットスープを作っていました。
野菜嫌いのマキは一旦はスープを回避してサプリで済ませようとするのですが、意を決して食べてみたところ嫌いなはずの野菜が美味しく思えました。
一夜をともにした上に朝食まで作ってくれたというのに、さらっと何事もなかったかのように帰ろうとする渚をマキは引き留めます。
勘違いして怒り出したマキに渚は「女性には興味がない」と同性愛者であることを打ち明けました。
しかしマンションを出なければならないという時期にあったマキは職場の人たちについている“彼氏と同棲する”という嘘も頭にチラつき、渚が高校教師であることとそんな職業の人が同性愛者であることを口にして「一緒に住もう!」と半ば脅迫するように決めてしまいました。
少しずつ変わっていくマキの毎日
無理やり渚の家に転がり込んだマキは、遠い親戚という設定で同居生活を始めることになります。
渚はベジタリアンなので肉禁止、それでいて料理は渚が作るという取り決め。
お弁当まで用意されてマキの食生活は変わっていきます。
職場の人から大好きなハンバーガーを差し出されても、渚のお弁当を優先する始末。
疲れて帰って「ただいま」と言うと「おかえり」と帰ってくる嬉しさ、あんなに嫌いだった野菜を美味しく食べられる嬉しさ。
マキはどうにかして渚を振り向かせようとネットで匿名の質問をしたり、街行く女性が話していたマンガの話を鵜呑みにして男装してみたりしますが暖簾に腕押し状態。
そんな折、マキの実家から荷物が届きます。
渚は送り主の“ハルバルファーム”に目の色を変えました。
そこは有機野菜を育てている有名な農園で、マキの実家でした。
マキが高校生の頃に父が脱サラして始めた農家。
そのせいで家庭は貧乏でめちゃくちゃになりました。
マキの野菜嫌いは、父が原因でした。
マキが人生を賭けたほどの仕事
マキがメインで進めている仕事、ゴーヤーのCMにキャスティングされた子役・青井ミナミ(桜田ひより)は葛藤していました。
子役から女優になろうとしているセンシティブな年頃、エゴサーチすれば誹謗中傷。
舞い込んできたマキの会社のCMの仕事もNGを出してしまいます。
このことが原因でマキは仕事がバタつき、渚にも強く当たるようになります。
お弁当も食べている時間がないからいらないと言い、完全に余裕をなくして切羽詰まったマキは上司から叱られるヘマをします。
これからの人生を賭けたほどの仕事が理由もわからないままに駄目になり、マキは渚に泣きつきました。
そんな時に渚が作ったのはゴーヤーの冷やし茶碗蒸し。
CMを作るならゴーヤーを好きにならないといけないよ、という渚なりの優しさでした。
苦みが魅力ではあるけれど、それが苦手で敬遠する人も多い食材すら美味しく料理する渚に、マキは茶碗蒸しの作り方を教えてもらいます。
そしてマキは自分で作った茶碗蒸しをミナミの楽屋まで持って行き「苦手なものがあっても全力でフォローする。きっとそこには新しい可能性があるはずです」と言って帰りました。
マキの帰った楽屋でミナミは、茶碗蒸しを美味しそうに食べてCMの仕事を引き受けることにしました。
立花アラタという男
ある時、渚が風邪をひいてしまいます。
マキは自分が治すと張り切って、仕事よりも渚を優先して“最優先事項”としてお粥の作り方を調べたりします。
そして材料を買い込んで家に帰ると見知らぬ男が渚にキスをしていました。
男はインドから帰ってきたという立花アラタ(淵上泰史)だと名乗ります。
もともと渚が済んでいる家はアラタの住んでいたところでした。
そして渚に男性の良さや、料理を教えたのもアラタでした。
翌日、渚の風邪は治ったものの見事にアラタにうつっていました。
そのまま家に居つこうとしたアラタがマキの部屋に余っている布団を借りようとした時、事件が起こります。
押し入れにしまったままの布団にキノコが生えていたのです。
このことが原因でマキと渚は口論になり、売り言葉に買い言葉でマキは出て行くことに決めます。
その頃、マキは偶然元彼のカイトと再会していました。
高級マンションに住み、ネットで星4.5の会員しか頼めない高級料理をデリバリーして振る舞い、空いている部屋を使って良いと言うカイトにマキは何の魅力も感じませんでした。
結局帰ったマキは渚の作ったキノコのシチューを一緒に食べて仲直りしました。
泣くほどうまいと泣きながら食べるマキは、元彼に会って来たことを打ち明けます。
渚は味がわからなくなるとティッシュを渡して、マキを励ましました。
そして食後に麦茶を出してくれました。
それはマキがずっと探していた実家で飲んでいた麦茶でした。
飛び出したきり何年も実家に帰らずにいたマキに、渚は「帰ってみれば?一緒に行ってやるから」と言います。
マキは渚に渚が忘れられずにいるという“兄”のことを聞きました。
マキが実家に帰らなかった理由
渚は家を後輩の馬場園あつし(新田真剣佑)に任せて、トラックでマキの実家へと向かいます。
ハルバルファームのファンである渚はあわよくば野菜がもらえるかもしれないという気持ちでついて行ったのです。
渚はマキの父・豊(中野英雄)と台所に立って料理をします。
マキは母・操(石野真子)と2人、餃子の皮を作りました。
実家からマキに野菜を送り続けていたのは母ではなく父でした。
自分のせいで家族がめちゃくちゃになってしまったこともあり、立派に野菜を作ることで誠意を見せたかったのです。
母はそんな話のあと、マキに一つお願いをしました。
脱サラして貧乏な生活をおくるなかでマキにどうしても成人式に晴着を着させたかった父は、立派な着物を買っていました。
しかしハタチを前に家から出て行ってしまったマキは一度もそれを着る事はなく。
せっかくだから親孝行だと思って晴着を着て欲しい、というのが母のお願いでした。
マキは両親と渚と食卓を囲みながら、自立すると飛び出したくせに誰かに頼らないと生きていられない自分が嫌で帰れなかったと打ち明けました。
トマトの花言葉
マキと両親が打ち解けて和気あいあいとしているところに、渚の携帯が鳴ります。
送られてきたのは何枚かの写真でした。
アラタが馬場園にイタズラしている写真でした。
慌てて渚が電話すると、アラタはインドで婚約したから女性と結婚するということを告白しました。
渚は疲れて眠ってしまったマキを置いて1人で先に帰ることにします。
車のエンジンをかけた時、父が助手席に乗ってきて「マキをもらってくれないか」と言いましたが、渚は自分が女性に興味がないことを伝えました。
一方、寝ていたマキのところにアラタからメールが入ります。
今日は渚の兄の命日だから、墓参りに行くように説得してみて欲しいという内容でした。
マキは飛び起きてバッグを手にし、晴着の裾をたくし上げてバイクに跨り渚のトラックを追いかけました。
マキは渚と会って父のことも野菜のことも克服できたから、自分も渚に前に進んで欲しかったのです。
渚いわく車で8時間の道のり、お墓につくころには日付が変わってしまっていました。
それでも渚は「ここに来られたのはお前のおかげだ」と言いました。
翌日、マキのお弁当はトマト尽くし。
職場の人たちに食べてもらおうとすると、1人がお弁当の中にあったトマトの花を見つけます。
そして“トマトの花言葉は、感謝”であることを話しました。
マキは「やっぱりこのお弁当独り占めする」と言って、美味しそうに食べるのでした。
【ネタバレ】『にがくてあまい』感想
渚と暮らしたい
vito
こんな人と一緒に生活してたら凄く心が穏やかに過ごせそう。
とか、マキみたいな生活をしている私は思ってしまいました。
vito
なんかこう切羽詰まった時とか弱った時に、渚みたいに格言的なことを言ってくれる人っていいですよね…。
説教臭くなく押し付けがましくもない丁度いいところでの言葉というか。
vito
常にふんわりほんわかしてるわけじゃなくて時に感情まかせに怒りをぶつけてきたりするようなところも好きです。
仏じゃないんだからそりゃ怒りもしますよ。
売り言葉に買い言葉で「出て行け!」とか言ったりもしますし。
そういう人間臭さみたいなものが好きです。
vito
そんな渚に、仕事でうまくいかない時に背中を押してもらったり、野菜嫌いの原因となった父に会いに実家に帰るきっかけをもらったり、元彼とのことで励ましてもらったりして少しずつ人として変わっていくマキを見ているとこっちまで元気をもらえる気がする。
そんな映画です。
vito
強がって生きているわけじゃないけど、それなりに見栄を張って職場ではデキる女として過ごしていて。
でも本当はきっと寂しがりで弱いところもあるんだよなぁっていう。
印象に残っている場面の一つに、仕事がうまくいかない時にマキが渚に「少しくらいほめてよ。頑張ったねって言ってよ」みたいなことを言って泣きつくところがあるんですけど。
そこにマキの素のところが表れている感じがして好きです。
だからなんかそういう、まったく同じ経験や生活をしているわけではないにしても自分とどこか重なる部分がある人にとっては心に響くものがあると思います。
同性同士の恋愛もの好きにも、ごはんもの好きにも見て欲しい
渚はゲイだし、それを匂わせるような視線の送り方とか仕草が際立つ場面もあります。
だから苦手だったり偏見があったりする人には楽しめないかもしれない。
逆を言うと、苦手でもなく偏見もない人にとっては楽しめると思います。
vito
『おっさんずラブ』はそもそも渚を演じた林遣都が出演してたからっていうところが大きいですけど、どっちも掠ってると思うのは顔が良いゲイと美味しそうなごはんという組み合わせについて。
両作品にあるゲイ同士の恋愛的な場面はないけど、たぶんこの物語にそれは必要なかったと思うから何の問題もないです。
vito
ゲイだ何だとかマイノリティがどうのとか無関係として“ごはんもの”の作品が好きな人にも見て欲しかったりします。
渚の作るごはんが本当に美味しそうなんですよ、最初に出てくるスープからもう全部。
すごく丁寧に料理をする人なんだなっていうのが伝わってくる見せ方も注目です。
vito
一部始終を映しているわけではないし、それこそ具材を切ったり鍋に入れたりとかその程度なんですけど、そもそもとして男性が料理をしているさまが好きな人にはグッとくると思います。
vito
マキの父と渚が台所に立っている場面も好きです。
渚がベジタリアンであることを打ち明けて、餃子に肉の代わりに何を入れるかっていう話をしているあたりがとても良いです。
心がちょっと弱ったりしているような時におうちでのんびり見て、見たあとはあったかいスープか何かを飲みながらほんわかするっていうのがイチオシです。
『にがくてあまい』まとめ
『にがくてあまい』
Netflixにて。原作未読。コメディ風感動物語。食事や家族という、その有り難みを忘れがちな大事な存在に光を当てる展開が特長。川口春奈と林遣都の子供っぽい演技も見どころ。食わず嫌いせず挑戦すれば世界が広がるーこれは映画にも当てはまる大切な真理。イメージと異なる良作。 pic.twitter.com/GSt227qkaJ
— シネマン(映画好き) (@cineman_0727) May 6, 2020
以上、ここまで『にがくてあまい』をレビューしてきました。
- 普通に生きていたら接点がなさそうな2人、という設定が好きな人には刺さるかもしれない
- 同性愛が絡む作品はもちろん、ごはんものが好きな人には絶対見て欲しいです
- なんだか弱ってしまう時、寂しい時、元気が欲しい時に見たくなる映画
▼動画の無料視聴はこちら▼