『ペンギン・ハイウェイ』のスタジオコロリドと『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』の岡田磨里がタッグを組んだアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』。
子役時代から活躍を続ける女優・志田未来と、今大注目の人気声優・花江夏樹のダブル主演ということもあり、公開前から話題になっていた作品です。
そんな本作は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため公開日が延期されていましたが、劇場での公開を中止しNetflixにて全世界独占配信をするという思い切った選択がされました。
2020年6月18日から配信が開始され、ネット上では続々と感想の声が上がってきています。
ということで、今回はアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』をネタバレありでご紹介します。
目次
『泣きたい私は猫をかぶる』作品情報
作品名 | 泣きたい私は猫をかぶる |
配信開始日 | 2020年6月18日 |
上映時間 | 104分 |
監督 | 佐藤順一 柴山智隆 |
脚本 | 岡田麿里 |
出演者 | 志田未来 花江夏樹 寿美菜子 小野賢章 千葉進歩 川澄綾子 大原さやか 浪川大輔 山寺宏一 小木博明 |
音楽 | 窪田ミナ |
『泣きたい私は猫をかぶる』あらすじ【ネタバレなし】
自由奔放な無限大謎人間!でも本当は…
笹木美代(志田未来)は、明るくて陽気な中学2年生の女の子。
空気を読まない言動や行動で周囲を驚かせ、クラスメイトからは“ムゲ(無限大謎人間)”というあだ名で呼ばれています。
しかし、本当は複雑な家庭環境から多くの悩みを抱えており、いつも自分の気持ちを隠して無理やり笑顔で過ごす日々を送っていました。
そんなムゲは、熱烈な想いを寄せるクラスメイト・日之出賢人(花江夏樹)へ毎日果敢にアタックを続けますが、全く相手にされません。
無謀ともいえる状況でもめげずにアピールし続けるムゲには、誰にも言えない、とっておきの秘密がありました。
実は、ある雨の夏祭りの夜、お面屋にいた猫店主(山寺宏一)から「かぶると猫の姿になれる」という不思議なお面をもらい、猫の太郎として日之出の家に通っていたのです。
普段はクールに振舞っている日之出も本当は悩みを抱えており、太郎にだけは素直な気持ちを打ち明けることができたため、支えとしていたのでした。
“人間”の姿だと距離を取られ、“猫”の姿だと近づける…。
日之出との関係、家族との関係に悩むことなくいられる猫の姿に、ムゲは自由さや心地良さを感じるようになっていきます。
そんなある日、ムゲは再び現れた猫店主から“人間”としての自分を捨て、“猫”として生きることを迫られます。
『泣きたい私は猫をかぶる』声優・キャラクター
志田未来 / 笹木美代(ムゲ)、猫の太郎
- 中学2年生の女の子。
- 自由奔放で空気を読まないエキセントリックな行動を取ることから、“ムゲ(無限大謎人間)”と呼ばれている。
- クラスメイトの日之出が大好きで、無謀な猛アタックを繰り返す。
- 10歳の時に両親が離婚し、現在は父、父の婚約者・薫と3人で暮らしている。
- お面屋の猫店主からもらった猫のお面をかぶり、猫の太郎として日之出の家に通っている。
花江夏樹 / 日之出賢人
- ムゲのクラスメイト。
- クールで成績優秀。
- 果敢にアピールしてくるムゲにそっけない態度で接する。
- 昔飼っていた愛犬・太郎への想いが強く、猫になったムゲを太郎と呼んで可愛がる。
寿美菜子 / 深瀬頼子
- ムゲのクラスメイト。
- ムゲの行動に半ば呆れながらも見守っている。
- 小学生の頃からの付き合いのムゲに深い友情を感じている。
小野賢章 / 伊佐美正道
- ムゲのクラスメイト。
- 日之出の親友で行動をともにしている。
- ムゲの行動を茶化すわけでもなく、いつも笑顔を見ている。
山寺宏一 / 猫店主
- ある雨の夏祭りの夜にムゲが出会ったお面屋の店主。
- 二足歩行の猫で、自由自在に収縮する巨体を持つ。
- 太郎として日之出の元に通うムゲの前に度々現れる、神出鬼没。
【ネタバレ】『泣きたい私は猫をかぶる』感想
今ここにある生活と非日常の世界
『泣きたい私は猫をかぶる』は、前半と後半で物語の様相がガラッと変わります。
本編だけでなく予告映像の段階ですでに、前半=青春・恋愛を思わせる日常シーンと、後半=猫の島の存在を映した非日常シーンの二層構造になっていました。
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公式サイトでも“青春ファンタジー”と謳っているのですが、実際に作品を観てみると、非日常的なパートよりも前半の日常パートのほうが印象深いです。
主人公のムゲがそのあだ名の通り、如何に無限大謎人間なのか。
普段どれほど陽気で明るいのか。
周囲はどのような反応をしているのか。
テンポ良く映し出していきます。
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観ているこちらがムゲの無限大謎人間加減を理解したところで、本当のムゲの姿が明かされます。
それが家庭での姿です。
父親と再婚しようとしている女性・薫とのぎくしゃくした関係や、薫の愛猫・きなこに好かれていない様子、父親の能天気な様子、ムゲが気を遣って笑っている様子などが描かれ、ムゲが家庭では平穏を保つために自分の思っていることを隠したり、感情を抑えていることがわかります。
そして、実母が自分を置いて出て行ってしまったことで捨てられたと感じていたり、自分が暮らしている家も父と薫の空間だと気にしていたりと、自分には“居場所”がないと思っているようです。
ムゲは“居場所がない”、“誰かから愛されたい”という気持ちが強く、その気持ちが想い人である日之出への感情と重なって、「早く日之出と結婚してこの家を出たい」という願いにまで膨らんでいます。
よくいえば真っ直ぐで純粋、悪くいえば短絡的で浅はか。
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一方、猫に姿を変えたムゲ=太郎の目線で描かれる日之出の日常も、悩みとともにありました。
学校での日之出は成績優秀でクールな男の子ですが、自分の想いを素直に口に出せないことについて悩んでいました。
そのため、勉学第一の母親に自身の将来の夢や進路希望を伝えられず、家庭では暗い表情でいることが多いです。
しかし、祖父の営む陶芸工房では活き活きとした様子を見せ、太郎と遊ぶ時に見せる笑顔は幼い子供のようでした。
太郎には何でも素直に話せるため、とても信頼しているように見えます。
このように、見えないところで1人葛藤していること、思っていることをひた隠しにしていることが共通しているムゲと日之出ですが、それを知っているのは太郎として日之出の元に通っているムゲだけです。
お互いがお互いの居場所になれるはずの2人なのに、その距離は縮まったかと思った途端、小さな綻びから崩れていきます。
「猫でいたほうがいい」
日之出に拒絶されてしまったことで人間である自分を捨ててもいいと思ってしまったムゲは、怪しい猫店主の思惑通り心まで猫に近づいていってしまいます。
こうして物語の後半になるにつれて、ムゲは猫になり始め、人間としてのムゲは行方不明になってしまいました。
やがて、猫のお面をつけて太郎になったムゲのように、ムゲのお面をつけてムゲになった猫が現れます。
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ただ、ムゲが猫になっていくだけでなく、新しいムゲが現れるという展開はゾッとするものがありました。
自分が、自分の人生が、乗っ取られてしまう恐怖です。
このように後半での展開にゾッとするのも、前半の日常パートという土台があるからです。
ムゲがどのようなことで、どのように悩んでいたか、そしてムゲになりきっている者の正体を知っているからこそ、背筋が凍る思いをするのです。
「自分が誰に支えられてるのか、いつもいなくなってから気づくんだ」
日之出の台詞にこのようなものがありましたが、これは後半の非日常パートでムゲが気づいていくことでもあります。
どこかにあるかもしれないファンタジーな世界を夢見るよりも、今ここにある生活を幸せに向けていったほうがいい。
いつもそばにいる大切な人の存在を、心から愛するほうがいい。
愛されることを願う前に、まずは自分が自分を愛してあげたほうがいい。
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ムゲと日之出が一歩成長し、これから先の未来を自分の手で切り拓いていく姿は、きっと輝いていることと思います。
雨、お祭り、そして異世界へ
ムゲがお面屋の猫店主に出会う“雨のお祭りの日”。
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この日はムゲと実母の気持ちのすれ違いが起きてしまった日であり、雨はムゲの心の涙だったのかもしれません。
また、物語の裏では日之出と母親の気持ちのすれ違いも起きていたため、日之出の心の涙だったのかもしれません。
その時は2人とも、こんな世界なくなってしまえばいいと願っていました。
もし、タイミングやその時にいた場所が違えば、お面屋の猫店主に出会っていたのはムゲではなく、日之出だったかもしれませんね。
しかし、実際に出会ったのはムゲでした。
燈籠の並ぶあの道を歩いていたのは、ムゲだったからです。
神社やお祭りは、何かと異世界への入り口として描かれます。
本作もそうで、お祭り、燈籠、鳥居などがきっかけになっていました。
ムゲが猫になりかけてしまい、人間に戻るため猫の島へと向かう時も、そちらへ渡るための入り口には鳥居がありました。
ムゲは律儀に手を合わせてからくぐっています。
劇中、手を合わせるシーンはもう一つあります。
それは日之出が自宅で父の仏壇に手を合わせるシーンです。
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猫の島で出会った元人間の猫たちは、「(人間であることから)逃げてきた」と話していました。
人間としての人生を捨てたということは、人間としては死を迎えたといっても過言ではありません。
逆もまた然りで、猫としての人生(猫生)を捨てて人間になった者は、猫としては死を迎えたことと同義です。
「勇気あるよね、こんなところへ来るの」
元人間の猫が、日之出のことをこう評価するシーンがあります。
この言葉を聞いたムゲは、それまでの不安げな様子から、少し誇らしげな顔に表情が和らぐのでした。
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ちなみに鳥居は、学校からの帰り道にムゲと友達の頼子が二手に分かれるY字路にも立っています。
そして、猫の島でのキーポイントとなる御神木の内部は、猫になったムゲと日之出が出会った公園のオブジェと似た構造になっています。
2人も御神木の内部を見上げて、あのオブジェを思い浮かべています。
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こうなるべくしてあの場所で出会ったということでしょうか。
見事なキャスティングと音楽の素晴らしさ
主人公・ムゲを演じたのは、子役時代から活躍を続ける女優の志田未来。
声優としてもスタジオジブリの『借りぐらしのアリエッティ』『風立ちぬ』、テレビアニメ『僕のヒーローアカデミア』などで好演しており、本職の声優陣とはまた違った味のある演技を披露しています。
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また、ムゲの想い人である日之出を演じた花江夏樹は、今引っ張りだこの人気声優。
2019年に大ヒットしたテレビアニメ『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎を演じており、2020年10月16日公開予定の続編『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』も期待されます。
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もう一つ、特筆したいのが音楽の存在。
NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』や、アニメ映画『劇場版マクロスΔ 激情のワルキューレ』で音楽を手掛けた窪田ミナが参加し、瑞々しくファンタジックな音楽で世界観を強めています。
さらに、主題歌と挿入歌、エンドソングの全3曲を担当したのが、今話題を集めている男女二人組ロックバンド・ヨルシカ。
映画「泣きたい私は猫をかぶる」がNetflixにて配信開始されました。
ヨルシカで主題歌・挿入歌・エンドソングを担当させていただいております。
是非、ご覧ください!https://t.co/PdQcjYRRaK— ヨルシカ(n-buna、suis) / Official (@nbuna_staff) June 18, 2020
ネット時代に活躍する彼らの音楽を劇場の音響で聴くことを楽しみしていたので、それが出来なくなったのは残念でしたが、3曲とも書き下ろしの新曲ということで、本作に合った切なくてほんのりと温かい楽曲が顔を揃えていました。
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『泣きたい私は猫をかぶる』まとめ
🐈 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
『#泣きたい私は猫をかぶる』
只今より配信スタート!
___________🐾#Netflix にて全世界独占配信中‼あなたも『#泣き猫』で大切なものに気づくはず✨
さぁ!今すぐ猫の世界へ👇https://t.co/tjPrmbCb4p pic.twitter.com/MtXFIRj7Gs
— 映画『泣きたい私は猫をかぶる』 (@nakineko_movie) June 18, 2020
いかがだったでしょうか。
タイトルの「猫をかぶる」が、ことわざ的な意味と、実際に猫のお面をかぶることのダブルミーニングになっている本作。
大切な人に会いたくなる、そして大切な人と自分自身のことを今よりもっと大切にしたくなる物語です。
『泣きたい私は猫をかぶる』は、Netflixにて2020年6月18日から配信中。
ぜひご覧ください!