『孤狼の血』の白石和彌監督最新作は、パートナーを殺されたギャンブル依存症の男の物語。
自暴自棄になりながらもなんとか生きていく主人公を泥臭く演じるのは香取慎吾。
ギャンブルを辞めることができないどうしようもない人間なのに、見ていると愛着が湧いてしまう人間味あふれる映画です。
- パートナーを殺した犯人が誰か、最後まで分からないミステリー要素も楽しめる
- 実年齢に合った当たり役・郁男を演じる香取慎吾の演技に魅了される
- 依存症をなかなか改善できない様子がリアルで、主人公のキャラに次第に飲み込まれる
それでは、さっそく映画『凪待ち』をネタバレありでレビューしたいと思います。
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目次
『凪待ち』作品情報
作品名 | 凪待ち |
公開日 | 2019年6月28日 |
上映時間 | 124分 |
監督 | 白石和彌 |
脚本 | 加藤正人 |
出演者 | 香取慎吾 恒松祐里 西田尚美 吉澤健 音尾琢真 リリー・フランキー |
音楽 | 安川午朗 |
【ネタバレ】『凪待ち』あらすじ・感想
これまでの香取慎吾のイメージを一新する作品が誕生
白石和彌監督と言えば、『日本で一番悪い奴ら』や『孤狼の血』、そして『麻雀放浪記2020』など、人間の負や悪い部分を全面に押し出した作品が多く、その作品の中でも特に悪い立場のキャラクターが脚光を浴びています。
本作『凪待ち』もそうした白石監督の特色を強く描いたものになっており、香取慎吾が演じる主人公の木野本郁男は、パートナーである昆野亜弓(西田尚美)と長く付き合いつつも結婚はせず、競艇に明け暮れる日々を送っています。
亜弓のへそくりから金を盗むこともあり、亜弓はそれを黙認して、いつか郁男が真っ当な生活を送るようになってくれると信じていました。
愛する者の金を使ってギャンブルをする。
りずむ
感情を露わにし、人を怒鳴り、時には暴力をふるい、自分のダメさを痛感して人目もはばからずに泣き叫ぶ。
40歳を超えた香取慎吾にとって、ギャンブル依存症で感情を抑えきれないこの郁男は、今までのどの役よりもリアルに見えてピッタリの役と言えます。
序盤はストレートなダメ男の様子を描く
物語は郁男の日常からスタートします。
印刷所に勤務していた郁男は、同僚の渡辺健治(宮崎吐夢)と競輪場でギャンブルに明け暮れていました。
渡辺は他の従業員から執拗な嫌がらせを受けていて、その渡辺を助けたことで郁男まで印刷所での勤務ができなくなるほどになり、2人で共に退職することになってしまいます。
郁男が新しく働くことになったのが宮城県石巻市にある印刷所でした。
住居は亜弓の実家。
職場は亜弓が小さい頃からお世話になっていた人物で、製氷工場で働く小野寺修司(リリー・フランキー)に紹介された場所。
歩みをはじめ、様々な人間のサポートを受けて新しい生活をスタートすることになります。
新生活を送ることをきっかけにして、郁男はギャンブルから足を洗うことを一度決意しました。
しかし、新しい職場で休憩している時に社員が競輪の話をしているのを聞き、結局その社員らが入り浸っているノミ屋を利用し、今までのようにギャンブルにのめり込んでしまうのです。
また、その行為を「ノミ行為」と言います。
りずむ
が、ギャンブルへの誘惑風景を回転させることで、ギャンブル依存症の人間の心境をうまく表現していて、妙にリアルに感じさせます。
突如訪れる悲劇が、郁男(香取慎吾)をさらに狂わせる
亜弓には娘の美波(恒松祐里)がいて、彼女も郁男と一緒に暮らしていました。
ある日、亜弓と美波は親子喧嘩をし、美波が家を飛び出していってしまいます。
夜になっても帰らず、郁男と亜弓は車で探しに行くのですが、途中で美波の育て方について、今度は郁男と亜弓が口論となり亜弓を降ろしてしまいます。
その後、郁男は一人で美波を見つけ、亜弓が心配しているからと電話させます。
しかし、その電話に出たのは亜弓ではありませんでした。
亜弓は郁男の車を降りた後、何者かによって殺されて、その遺体が遺棄されていたのです。
美波は自分が家出をしたことで亜弓が死んでしまった…と自分を責め続けていました。
数日後、郁男は自分が車から亜弓を降ろしたせいでこうなったと美波に打ち明けます。
それを聞いた美波は、ずっと自分が苦しんでいるのにそれを語ろうとせず黙っていた郁男に怒りを露わにし、2人の仲も険悪な状態になってしまいます。
そして郁男にはさらに事件が降りかかります。
勤めていた印刷所の金が何度も抜かれていることが発覚し、競輪について従業員にアドバイスをしたことで、彼らがノミ屋に入り浸るようになりました。
さらに金を抜いたことも郁男が疑われてしまいます。
しかし、実際に金を抜いていたのは郁男ではなく、郁男と共にノミ屋に足を運んでいた尾形大輔(黒田大輔)でした。
印刷所内で郁男は尾形に怒りを露わにし、暴力をふるった挙句、会社の器械を壊してしまったことでクビになってしまいます。
愛する人、さらに職も失ってしまった郁男は完全に自暴自棄になり、さらにノミ屋に入り浸るようになってしまいます。
「死んだ方がまし」な人間を支える人々の愛情
自暴自棄となった郁男ですが、それでも周囲の人間は彼を見捨てることはありませんでした。
それは紛れもなく、みんなの亜弓に対する信頼から来ているものでした。
小野寺は、職を失った郁男に対して、しばらく生活できるようにと金を貸すほどでした。
また、始めは会話を交わすこともなかった亜弓の父で漁師の勝美(吉澤健)は、郁男を連れ出し漁に出かけます。
そして、戻ってくると自分も前科があったことから妻との結婚を猛反対され、それでも結婚したこと、妻がいたから今の自分があることを語り始めます。
さらに、もう漁師を辞めるからという理由で船を売って得た大金を郁男に授けるのでした。
その時に、ノミ屋でできた借金をその金で清算することを伝えます。
勝美は郁男の状況を知った上で金を渡したのです。
本来であれば誰からも相手にされなくなってもおかしくない状況の郁男をなんとか更生させようとしたのは周囲の人々と亜弓の愛でした。
りずむ
勝美から渡された金でノミ屋=暴力団につけていた借金を返済したものの、残った金をまたノミ屋で一発勝負のために使ってしまいます。
そのレースは勝ったのですが、掛け金が多額だったため、支払いを拒んだ暴力団員に襲われ、結果的に金を持ち逃げされてしまいます。
自分の愚かさを再認識した郁男(香取慎吾)に襲い掛かるさらなる悲劇
亜弓を失い、その亜弓のおかげで周囲の人から与えられた愛情をも裏切り、借りたお金までギャンブルにつぎ込んだ結果全てを失ってしまい、郁男の生活は荒れ果ててしまいます。
酒に酔い、町で行われていた縁日の中でチンピラに絡んで逆に暴力を受けているところを小野寺に助けられながらも「死んだ方がマシなんだよ!」と泣き叫ぶ郁男に、小野寺は「あんたはここで死んだ。もういっぺん生まれ変わってやり直したらどうだ」と声をかけます。
その後、郁男はその言葉の通り生活を見つめなおし、小野寺の働いている製氷工場で働き始めました。
しかし、そんな郁男に衝撃が走ることになります。
工場で働いている最中、警察がやってくるのですが、刑事たちは最初に亜弓殺害の疑いをかけていた郁男には目もくれず奥へ進んでいきます。
そして、逮捕状を突き出した相手は、なんと郁男を見捨てず助けてきた小野寺だったのです。
小野寺は郁男に対して申し訳なさそうな素振りを見せることもなく連行されていくのでした。
りずむ
もしかしたら小野寺が郁男に対して度々優しさを見せて更生させるきっかけを作ったのも、亜弓を殺してしまったことへの罪償いだったのかもしれません。
しかし、彼にはある種サイコパスな一面もあったように思えます。
その理由の一つが、亜弓がずっと郁男と行きたがっていた「世界一きれいな海」の名前です。
郁男も美波もその場所の名前を覚えていなかったのに、警察に逮捕された時に郁男にその名前をつぶやくシーンがあります。
微笑ともとれる表情をする小野寺からは、自分の方が亜弓のことを知っているぞという優越感のような雰囲気すら感じられるのです。
郁男(香取慎吾)なりの正義が爆発した瞬間
小野寺は郁男を助ける一方で、彼が石巻にやってきた時からずっと、亜弓とは赤の他人だったのだから美波と一緒に住むことはできないと言ってきました。
しかし、そうした反対をする人間が捕まったことで、郁男は亜弓の実家に身を寄せることもできるようになります。
勝美や美波も、そうした方が良いと思っていたようです。
ですが郁男は、自分は疫病神だからここにはいられないという手紙を書き残し、亜弓の実家を出ていってしまいます。
そして、石巻を去ろうと駅で電車を待っていた時に、待合室のテレビに流れたニュースに絶句します。
それは、なんと川崎で一緒に働いていた渡辺が逮捕されたというニュースでした。
元職場の印刷所に殴り込みに入り、従業員にけがを負わせたというのです。
実はその前の晩、渡辺から郁男の元に電話がかかってきていました。
その時は万船券を当てたのだろうと何気ない会話をしていました。
しかし実際は、渡辺が行動を起こす前に一度、自分をずっと慕ってくれていた郁男と話をしたかったのでしょう。
それを見た郁男は何かが吹っ切れ、電車に乗ることなくノミ屋がある建物に入っていきます。
制止を振り切り、郁男は暴れまわり、モニターなどを次々と壊していきます。
しかし、相手は暴力団なので勝てるわけがありません。
大勢の組員がやってきて、郁男は組の事務所にとらえられてしまいます。
りずむ
渡辺が印刷所に押し入ったのも、ただ退職を迫られたことへの腹いせというわけではないでしょう。
職場の人間にいじめのような対応をされ続けていたのに、結果的に渡辺と郁男だけが追いやられる羽目になってしまった。
りずむ
闇博打は当然違法ですし、それに手を染めた郁男の罪は自業自得かもしれません。
しかし、結果的に勝美の金を奪い取ったノミ屋を許せなくなり、金を取り返すために危険を承知で乗り込んだ。
郁男なりの仁義と正義を貫こうとしたのでしょう。
本当の居場所を見つけた郁男(香取慎吾)
組の事務所に連れて行かれたら本来であれば無事で帰れるはずがありません。
しかし、実はこの組の組長の命を、昔に勝美が救ったことがあったため、勝美は郁男を助けるために事務所に入ってきます。
そして組長に対して、郁男は自分のせがれだから助けてやってくれと言い、組長も借りを返すという形で郁男を返すことを承諾します。
何から何まで助けられっぱなしだった郁男は、外で待っていた美波と3人で歩き出した時にとうとう感情を抑えきれずに号泣します。
その後、組員が亜弓の実家までやってきて、郁男が最後にノミ屋で勝った分の大金を持ってきました。
その金で郁男は勝美が売った船を買い戻します。
後日、生前に亜弓が残していた婚姻届に郁男も自分の欄を記入し、そして3人で船に乗り、婚姻届を海に流します。
りずむ
さらにこのシーンでは、船の操縦を勝美から郁男に変わる場面が出てきます。
その姿は、まさに親が子に仕事のやり方を教えるようで、郁男が家族と共にこれから新しい人生を送ろうとしている様子が感じられるエンディングになっています。
白石監督と香取慎吾の人間性の融合
今作も暴力など男の弱さと愚かさを描くことで、最終的に主人公の内にある強さを表す作品になりました。
しかし、今回は特に周囲の人たちの愛情も強く表現したことで、人間の脆さをリアルに感じられる内容になっています。
りずむ
そして、40歳を超えて強くなってきた大人の男としての色気を、白石監督作品の良さでもある男臭さを強く感じられる世界観が最大限にまで引き出しているのは間違いません。
『凪待ち』まとめ
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— 映画「凪待ち」公式 (@nagi_machi) 2019年6月28日
以上、ここまで『凪待ち』について紹介させていただきました。
- 復興途中の石巻市の風景が、郁男が少しずつ人生をやり直している姿とシンクロする
- 香取慎吾史上最高の当たり役と言っても過言ではないキャラクターの熱演っぷり
- 鑑賞後は郁男をただのダメ男と思えず、見守っていきたくなる
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