児童養護施設の子供たちを追うドキュメンタリー『ぼくのこわれないコンパス』シンポジウムレポート

児童養護施設の子供たちを追うドキュメンタリー『ぼくのこわれないコンパス』シンポジウムレポート

(C)ミルトモ

児童養護施設に暮らす子供たちが直面している問題を扱うドキュメンタリー映画『ぼくのこわれないコンパス』の被写体であるトモヤ(21)と、ナレーションを務める、イランの孤児院で育ったサヘル・ローズがシンポジウムに登壇しました。

4歳から7歳までイランの孤児院で過ごし、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めるなど、難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちによりそっているサヘル・ローズが、本作のナレーターとして抜擢されました。

クラウドファンディングの認知度アップのため、この度、元毎日新聞、BuzzFeed Japan記者の石戸諭氏が、トモヤと、サヘル・ローズ、マット・ミラー監督に、本作を作る意義や日本のみならず海外の児童養護施設の子どもたちの現実について、詳しく聞きました!

『ぼくのこわれないコンパス』マット・ミラー監督、トモヤ、サヘル・ローズ登壇レポート

−−マット監督、このドキュメンタリーを制作する意図をお教えください。

マット・ミラー監督「この映画を製作したきっかけは父にあります。父は戦後、アメリカ人のお父さんと日本人のお母さんの元に佐世保で生まれました。父はネグレクトを経験し、その後見捨てられ、孤児院で育ちました。彼が経験したトラウマは大人になっても影響していて、僕自身にも影響を及ぼしました。なので、子供のトラウマ、メンタルヘルス(心の健康)、養護施設の子供の支援についての映画をここ日本で作ろうと思いました。」

マット・ミラー監督

(C)ミルトモ

−−トモヤさん、ネグレクトや虐待の当事者が自分から顔を出して、名前の一部を明かして発信していくことはとても辛いことだと思うし、大変だと思うんだけど、出演することに決めた理由を教えてください。

トモヤ「養護施設にいた頃も大変な時はあったんですけれど、自分が18歳で児童養護施設を出てから急に一人で暮らすことになるため、色々大変で自分だけじゃなく周りもそういう大変な思いをしているというのが色々な人に伝わればいいなと思いました。マットさんにこの話を頂いて、少しでも自分の経験を知ってもらえたらと思い、協力しました。」

−−トモヤさんの人生の転機は、2011年の東日本大震災ですよね?中学1年になった2012年の出来事を、話せる範囲でお教えいただけますか?

トモヤ「中学校1年くらいからネグレクトや虐待を受けました。最初は軽くて、『これをしなきゃご飯を食べられない』程度だったけれど、『これをしたよ』と言っても『次はこれをやらないとご飯はないよ、外に出れないよ』ということが重なっていって、しまいには、自分の部屋の外から鍵をかけられて、強制的に出られないということがありました。」

トモヤ

(C)ミルトモ

−−マットはサヘル・ローズさんにナレーションをお願いしたとお聞きしました。サヘルさんは本作のドキュメンタリー部分をご覧になっていかがでしたか?

サヘル・ローズ「美しい映画だと思いました。美しく、透明で、聡明であり、今まで児童養護施設を題材にした映画とはまた違った角度から、彼らの言葉でなく視線や空気や子供たちが出すモールス信号が描かれていました。頼れる大人、家族がそばにいない子供たちが、どういうスピードで大人になっているのか、何を抱えてしまうのか、一人一人の中に生まれてくるインナーチャイルドという存在が画面を通して浮かび上がってきました。観た方が、一人一人の子供たちと出会ってくれて、「●●施設の子たちはこう」という固定観念をとっぱらって、普通の子供だとわかってもらえると思いました。

この映画を観て思ったのは、子供の現状ももちろん知ってもらいたいのと同時に、大人を救ってあげないといけないということです。大人が孤立してしまって受け皿がないと、思わず自分の子供に手をあげてしまって、傷ついて施設に入ってしまうという負の連鎖が続いていく中で、大人も救わなくてはいけない。この映画を観て、大人自身も救われてもらえたらいいなと思いました。」

サヘル・ローズ

(C)ミルトモ

−−サヘルさん、本作に参加することを決めたのは、サヘルさんの過去とトモヤくんの過去が共鳴するものがあったからと聞きました。どのようなことがあったんですか?

サヘル・ローズ「私は親の顔も覚えていないし、存在を知らないんですけれど、親の匂いってどんな匂いなんだろう。皆、鏡を観た時に、自分の目はお母さん似だとか、家族と似ているというのが感じられると思うけれど、それが全くない中で、鏡を見た自分が誰の子なのかすごく不安があります。

私は7歳まで孤児院にいたんですが、泣きたい時に泣けるってすごく大事だと思うんです。でも施設の中にいる時は、泣ける子もいれば泣けない子もいる。抱きしめてくれる職員さんが、全員に平等にいない。職員が1対1で対応できるわけじゃないのが現実なんです。その中で、親の愛情が欲しかったという気持ちは、国、性別問わず、どの子たちにも通じる部分だと思います。7歳で今の育てのお母さんに出会った私は愛情をもらえているんですが、子供は0〜5歳にどういう状況下に置かれるかによって、その後の精神状態が決まってくるんです。私は今34歳ですけれど、施設にいた時に見てもらえなかった精神面と埋めてもらえなかった心の空洞がいまだにあって。自分の中には、施設で育った子供がいるんです。一見「明るいサヘル」と思われるんですけれど、そうじゃない、取り残してきた部分があるんです。

トモヤくんを見て、鏡越しでもう1人の自分を見ている気がします。そういう想いを一人でも多くの子がしないように、心のケアが大切だと思っています。本作はそういうことを伝える映画です。」

サヘル・ローズ

(C)ミルトモ

−−トモヤくんは、今の話を聞いてどうですか?

トモヤ「すごい泣きそうです。」

−−サヘルさんは現在はボランティア活動もされていると聞きました。

サヘル・ローズ「お金の支援だけじゃなくて、子供たちは人の瞳に自分が映るということを求めているんです。物を与えればいいというわけではなくて、子供たちに会いに行く、抱きしめてあげる。『自分は今誰かの瞳に映っているんだ』という存在を確認できる相手を誰しも求めています。

私は日本の施設の子供たちと関わるようになって、その子たちが退所した時が問題だと知りました。施設の中にいれば守られていて、ご飯も食べられたりだとかするんですけれど、18歳を過ぎて社会に出た後、社会でどう生きて行くかが問題なんです。保証人になってくれる家族がいるわけでもない。免許を撮るにもお金が必要。孤立する子供たちがたくさんいるので、その子たちが孤立しないように、生きて行く道づくりをするのが私の関わり方です。」

−−ナレーションを担当することで、期待することは?

サヘル・ローズ「2年くらい前に、マットさんから『こういう映画を考えているんだけれど、どう思う?』とメッセージがきて、感想を送ったり意見交換をしました。今年になって、『ナレーションをやっていただけないか?』と言われました。私はいつもは自分からやりたいということが言えないんですが、『やらせていただきたい』『やります』と手をあげたんです。なぜなら、心から寄り添えると思ったんです。

ナレーションって、一歩引いて見ることも必要かもしれないけれど、声で関わるもう一人の子供として存在したいし、自分もこの映画で救われているので、他の子たちを救えるもう1つの存在になれればいいなと思っています。」

サヘル・ローズ

(C)ミルトモ

−−マットは、1年前に本作の記者会見を行って、クラウドファンディングは順調に集まったと聞いているんですけれど、再度クラウドファンディングをやることになった理由は?

マット・ミラー監督「2019年に記者会見をやって、ハフポストの記事のおかげで、ソーシャルケアワーカー、実際の施設、日本で子供を養子に迎えた家族など色々な方からメールをいただきました。当時すでに撮影はほぼ終わっていたのですが、映画にこれを加えてより深い作品にできると思いました。

また、無償でお手伝いをしたいというオファーもいただきました。そういった無償のポストプロダクション作業が今年の4月から6月にアメリカと日本で予定されていましたが、新型コロナウィルスの影響が思っていたよりも深刻で、すべてストップしなくてはいけなくなりました。8月まで作業ができず、チームのみんなが経済面や家族などそれぞれの状況に対処しなくてはいけなくなりました。もともと無償でお手伝いをしてくださるはずだった話がなくなり、組織していたチームが解散となってしまいました。4月からどうやってチームを編成できるかを考え、リサーチや話し合いの末、チームの再編成ができ、12月までに完成させたいと考えています。

もともとは最初に映画祭に出品して、劇場公開をしたいと思っていたのですが、新型コロナウィルスで状況が変わりました。オンラインなどで行っている現在の映画祭よりも、配信サービスの方がより多くの人に届くのではないかと思っています。配信サービスとすでに話を始めていて、来年の冬には公開したいと思っています。もともとこの映画を作る目的は、専門家や施設の方々などに、日本で関心を高めてもらうためのリソースとして使ってもらうためなんです。」

マット・ミラー監督

(C)ミルトモ

−−最後のメッセージをお願いします。

サヘル・ローズ「ここからはみなさんが広めてくださらないと色んな方に伝わらないです。決まった人しか関心を持たないのではなく、子供たちは社会の子供たちなので、社会全体に関心を持ってもらうためのきっかけづくりは、皆さんのお力を借りるしかできないので、どんどん広げて頂きたいです。今施設にいる子や未来の子供たちが救われるので。」

トモヤ「こういう状況は一般社会に明るみに出ないとわかってもらえないと思うので、少しでも世に出て、みんなの目に入ってもらえたらなと思います。」

マット・ミラー監督「僕は施設の子供たちをサポートすることに情熱、ミッションを感じています。ここにいる登壇者さんもコラボレーターだし、記事を読んでくださる方もコラボレーターだと思っています。幼少期は大切だというメッセージを一緒に広められればと思います。」

▼インタビューもあわせて読む!▼

このドキュメンタリー映画の完成に向け、到達しない場合は1円も受け取ることができない「All or Nothing 方式」を採用した150万円を目標とするクラウドファンディングで9月22日(火)17時まで寄付を募っています。

ぜひ、社会的意義に共感いただいた方々は、お力添えをいただきたいです。以下URLより詳細をご確認ください。

URL:https://bit.ly/3lyBW6o

ドキュメンタリー映画『ぼくのこわれないコンパス』作品情報


第二次世界大戦後、孤児として日本の児童養護施設で育った父親のルーツを辿りたいと2006年に来日したアメリカ人の映像作家マット・ミラーは、児童養護施設で暮らす子どもたちがアウトドア体験を通して自分の道を自分の力で切り拓ける「生きる力」を育むことを目的とする認定特定非営利活動法人『みらいの森』で映像を撮るようになった。

現在、日本の児童養護施設に入所している子どもたちの内、約6割は虐待を経験しているが、この子どもたちにはカウンセリングなど十分なメンタルヘルスのサポートが無いこと、さらに原則18歳の高校卒業と同時に施設を退所することが定められており、まだ経済力がない中、衣食住すべての自立が求められるという現実を知り、ショックを受け、社会への発信が必要だという思いに至る。

その『みらいの森』の参加者の一人・トモヤ(現在21歳)は、マットとの出会いと交流をキッカケに「自分と同じような境遇にある子どもたちの、声なき声の代弁者になりたい」と決意。

18歳以下の児童養護施設の子ども達は、親の同意書が必要になってくる等の理由から、ドキュメンタリーに顔や声を出すことは難しい。

親の同意なく出演できる年齢となったトモヤは、児童養護施設の子ども達を代表し、本ドキュメンタリーの被写体となることに同意した。

トモヤが12歳だった2012年6月、実の母親とその夫がメモと1,000円だけを残して数日外泊していることを学校の先生が知り、母親の帰宅まで児童相談所に保護される。

13歳になった9月には学校の健康診断で背中に痣が見つかり、児童相談所で数日、一時保護所で2ヶ月過ごした後、児童養護施設に入所。

そこで見つけた安心できる生活と、『みらいの森』との出会いなど10代の自分に起こった出来事をトモヤ本人が自分の言葉で告白。

本作は、これまで直接聞く機会がほとんどなかった子どもたちの心に光を当て、児童虐待やネグレクト、そして子ども達のメンタルケアの欠如などの社会問題に正面から向き合い、社会に発信することで、関心をもってもらうことを目指している。

本作のナレーターとして、4歳から7歳までイランの孤児院で過ごし、国際人権NGOの「すべての子どもに家庭を」の活動で親善大使を務めるなど、難民キャンプや孤児・ストリートチルドレンなど子どもたちによりそっているサヘル・ローズを抜擢。

本編より8分のプレビューと、監督による動画メッセージもどうぞ。


このドキュメンタリー映画の完成に向け、到達しない場合は1円も受け取ることができない「All or Nothing 方式」を採用した150万円を目標とするクラウドファンディングで9月22日(火)17時まで寄付を募っています。

ぜひ、社会的意義に共感いただいた方々は、お力添えをいただきたいです。以下URLより詳細をご確認ください。

URL:https://bit.ly/3lyBW6o