2000年公開の『アンブレイカブル』、そして2016年公開の『スプリット』の続編となっており、20年の時を経てシャマラン監督の3部作が今作で完結します。
- 前2作鑑賞することは必須条件、というより義務レベルの一見さんお断り作品。
- やっぱりすごいジェームズ・マカヴォイの演技力。
- 見事な伏線回収と予測不能なラスト。シャマラン・ワールド全開!
それではさっそく『ミスター・ガラス』についてレビューしたいと思います。
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目次
『ミスター・ガラス』作品情報
作品名 | ミスター・ガラス |
公開日 | 2019年1月18日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | M・ナイト・シャマラン |
脚本 | M・ナイト・シャマラン |
出演者 | ジェームズ・マカヴォイ ブルース・ウィリス アニャ・テイラー=ジョイ サラ・ポールソン サミュエル・L・ジャクソン |
音楽 | ウェスト・ディラン・ソードソン |
【ネタバレ】『ミスター・ガラス』あらすじ・感想
『ミスター・ガラス』を観る前に前2作の鑑賞を推奨
まず第一に『ミスター・ガラス』は、前作『スプリット』はもちろんのこと『アンブレイカブル』を観てから鑑賞することを、強くおすすめします。
何故なら、2作品の主要人物が勢揃いするのが『ミスター・ガラス』だからです。
そうは言っても…という方に、ものすごく簡単な内容の紹介を。
『アンブレイカブル』はブルース・ウィリスが主人公、デヴィッド・ダンを演じました。
イライジャは、サミュエル・L・ジャクソンが演じています。
大規模な列車事故で、唯一生き残ったデヴィッド。自分が今まで大きな怪我や病気をしたことがないと気づき、やがて超人的な力を持っていることを知ります。
デヴィッドにアドバイスをくれたのは、異様に脆い肉体を持つ、アメコミ収集家のイライジャ。
デヴィッドは危険人物を察知する能力にも目覚め、まだ発覚していない少女監禁事件を解決。
イライジャにお礼を言いに行ったところで、列車事故はイライジャが起こしたことを知ります。
イライジャはあまりに脆い自分の肉体と対極の、超人的な人間も世界にはいると考え、その人物を探し出すために事故を起こしたのでした。
デヴィッドは警察に通報し、メディアに「ミスター・ガラス」と名付けられたイライジャは逮捕されます。
そして精神病院に収容されたのでした。
『スプリット』は、多重人格者の主人公ケヴィンを、ジェームズ・マカヴォイが演じました。
女子高生のケイシーは父親を亡くした後、叔父に引き取られたものの、性的虐待を受けている少女。
人と距離をおき友達もいないケイシーは、ある日クラスメイトと一緒に誘拐されてしまいます。
誘拐したのは、多重人格者のケヴィン。ケイシーたちは何とか逃げようとしますが、2人のクラスメイトは殺されてしまいます。
ケヴィンの精神科医フレッチャー博士も異変に気づきますが、ケヴィンを訪ねてきて殺されます。
ケイシーは博士のメモからケヴィンの本名を知り、名前を言うことで、ケヴィン本人の人格を呼び出すことに成功します。
しかし24番目の人格で暴力的なビーストが現れ、ケイシーも追い詰めらてしまいます。
ところがビーストは、ケイシーが虐待を受けていることを察して、彼女に何もせず姿を消したのでした。
そして、悲惨なこの事件のニュースがテレビから流れるダイナーにいたのは、『アンブレイカブル』のデヴィッドだったのです。
『アンブレイカブル』から『スプリット』、そして『ミスター・ガラス』のエンディングまでの流れ。約20年かけて堂々の完結!
ここから『ミスター・ガラス』に、物語は続きます。
『アンブレイカブル』、『スプリット』の主要人物も総出演します。
息子ジョセフと一緒に、ホームセキュリティの店を営んでいるデヴィッド。
ジョセフの助けを借りながら、自警者として街の犯罪者を罰する日々を送っていました。
そんなある日、まだ事件になっていない、女子校生監禁事件を捜査していたデヴィッドは、犯人のケヴィン=ビーストと対決することに。
女子校生たちは助かりますが、デヴィッドとケヴィンは駆けつけた警察に身柄を拘束され、精神病院に収容されます。そこはイライジャが入院させられてる病院でした。
精神科医のステイプルが、3人の治療を担当することになります。
デヴィッド、ケヴィン、イライジャに対して、あなたたちに特殊能力はない、自分が特殊だと思い込んでいる精神疾患、もしくは前頭葉が肥大している病気だ、と主張するステイプル。
しかし3人は、ステイプルの主張を簡単には受け入れられません。
やがて薬漬けになっていたはずのイライジャが、ケヴィンに接触。
2人は病院から逃亡しようとして、デヴィッドとケヴィン=ビーストが戦うことに。
そこである真実が明らかになります。
イライジャが起こした列車事故、イーストレイル117号の事故で、ケヴィンの父親が亡くなっていたのです。
ケヴィンは父親の死後、母親から虐待されたことが原因で、解離性人格障害になったのです。
父親が死んだ原因を知り、イライジャに襲いかかるビースト。イライジャに致命傷を与えます。
そんなビーストに話しかけ、ケヴィンの人格を呼び出すことに成功するケイシー。しかしケヴィンは、警察に射殺されてしまいます。
唯一の弱点である水で弱っていたデヴィッドも、駆けつけた警察にいきなり水たまりに顔を押しつけられ、溺死させられそうになります。
そこへステイプルがやって来て、デヴィッドに手を伸ばします。
その手をつかんだデヴィッドが見た映像は、謎の組織の会合。
秘密組織は、スーパーヒーローは社会の秩序を乱すと考え、特殊能力を持った人間たちを監視し、ときに介入して長い間ヒーローの存在を隠し続けていたのです。
ケヴィンを射殺したスナイパー、デヴィッドを水に押しつけた警官、ステイプル医師には黒い三つ葉のクローバーのタトゥがあり、みんな秘密組織の一員だったのです。
デヴィッドもそのまま、殺されてしまいます。
ステイプルは組織に事態は収拾したと報告しますが、そこでイライジャの真の計画に気づきます。
イライジャはわざと監視カメラに映りやすいよう移動して、デヴィッドとビーストの戦いも映像に残していたのです。
そしてこの映像データを受け取ったのは、イライジャの母親ジョセフ、ケイシー。殺された3人の特別な存在だった人たちです。
3人は映像をネットで拡散。その後駅に集まって、スマートフォンを見ながら驚く人々の反応を並んで見ます。
こうしてイライジャのスーパーヒーローは存在することを明らかにする、という夢は叶えられたのでした。
シャマラン監督が、『アンブレイカブル』制作時から考えていたという、エンディング。
これで3部作は完結だと、はっきり監督が断言されています。
これが始まりじゃないのかと寂しい気持ちもありますが、エンディングは確かにしっかりピリオドが打たれた作りとなっています。
そんなシリーズフィナーレに相応しい三作目『ミスター・ガラス』は、『アンブレイカブル』からリアルで観ていたシャマランファンには、感涙ものの作品でした。
何せ18年前と同じキャストですよ。
ブルース・ウィリスにサミュエル・L・ジャクソン。
デヴィッドの息子でジョセフ役のスペンサー・トリート・クラークも成長して同じ役を演じてくれているという。
イライジャの子どもの頃のシーンは『アンブレイカブル』のソフトの特典映像にある、未公開シーンの一つでもあります。
こだわりが流石すぎるシャマラン。
『アンブレイカブル』から約20年経っていることも、『ミスター・ガラス』を作ることに必要な時間だったと思えてきます。
初期編集版は三時間越えと聞くと、どれだけこだわりのシーンがあったか知りたくなります。
ちなみに今作、監督ご本人もチラリと出演しています。
これも相変わらずのお約束ですよね。
シャマラン監督、こだわりの数々。
シャマランワールドが全開な今作『ミスター・ガラス』。
細かいこだわりがキャストだけでなく、あちこちに見られます。
まず、秘密組織の存在。
名前も明らかになっていませんが、街のレストランなどに集まり、特殊能力を持った人間について話し合い、世間に知られないようにするため暗躍している組織。
彼らの手首にある、三つ葉のクローバーの黒いタトゥにも意味があるのでは?と、考察されています。
三つ葉のクローバーは、キリスト教で三位一体のシンボルだとか。父なる神、子なる神、精霊の意味だそうです。
そして欧州では、3の数字を重要視している民族もいるそうです。
秘密組織のメンバーは、キリスト教の熱心な信徒なのかもと思えますが、監督は組織については明言されていません。
わかっているのは、組織が特殊能力を持つ存在を監視し、世間に知られそうになる前に病気だと本人を納得させ、無理なら殺しも厭わないということ。
そしてメンバーの数は、少なくなさそうであること。あと年齢も人種も様々なこと、ですね。
3という数字にこだわりがあるのか、映画の主役的キャラクターも3人、彼らの特別な存在も3人。ケヴィンの人格も3の倍数の24。
映画で強調されている色も3色です。
デヴィッドの緑、ケヴィンの黄色、イライジャの紫。この3色にも意味があると、シャマラン監督はTwitterで答えています。
まず、デヴィッドの緑。
これは心理的に緑が、生命の特性と連想させるから、人々の命の救世主なんだ、ということだそうです。
デヴィッドは正義の側の人間ですから、緑は確かにぴったりです。
自警団の活動をしているとき着ているレインコートは緑で、精神病院でも緑の服を着せられています。
ケヴィンは黄色。常に黄色の衣装を着ています。
こちらもシャマラン監督曰く、黄土色・マスタード色は、ヒンズー教や仏教での宗教的セレモニーの衣装を連想させるから、だそうです。
ビーストは傷つけられた人たちを救う伝道者、という。
『スプリット』でビーストがケイシーを殺さなかったのは、ケイシーが傷つけられている少女、ビーストにとっての「穢れていないもの」だったからなので、伝道者のたとえも頷けます。
ちなみにケイシーは『スプリット』の後、叔父を刑務所送りにし、現在は里親の家で小さな子どもたちと一緒に暮らしているようで、前作を観終わって心配していた身としては『ミスター・ガラス』での生活に、ほっとしたものです。
最後にイライジャの紫。
紫には昔から世界的にも、高僧や特権階級が身につけることを許されていた色としての歴史がありますが、シャマラン監督もロイヤリティを連想させるから、と言っています。
イライジャは自分のことを、重要な人物だと考えている、コミックのメインキャラキターだ、と。
IQが異常に高いイライジャは、思想的に確かに紫がよく合います。
エンディングでは、デヴィッド、ケヴィン、イライジャと特別なつながりがあった3人は、それぞれの色を身に付けています。
「色」で面白いのは、シャマラン監督がSNSで発信したように、3人が自分たちの能力に疑問を持ちだすと、映像の中で3人のカラーが色褪せていくところです。反対に、強い信念が感じられると、色濃くなっています。
ステイプルが3人をカウンセリングするシーンでは、最初は紫がかった濃いピンク色だった部屋が、だんだんと白くなっていきます。
3人の心の動きも、こんなところでもわかるようになっています。
他にも、実はコミックショップのお客さんが『アンブレイカブル』と同じお客だったり、『スプリット』と同じテレビリポーターのニュースが流れたり。
カメオ出演しているシャマラン監督のキャラクターが『アンブレイカブル』や『スプリット』と同じだったり。
そんなところも注目して見てみると、また違う楽しみ方ができますよ。
多重人格者を演じるジェームズ・マカヴォイの、卓越した演技力。
救世主であるデヴィッドがヒーローなら、傷つけられている人たちには手を出さないものの、一般人を殺してしまっているケヴィンはヴィラン=悪役。
そんなケヴィンは24の人格があるのですが、ジェームズ・マカヴォイは見事に多人格を演じ分けています。
9歳の男の子から、潔癖症で神経質な青年、社交的な男、女性、ビーストという野獣のような存在まで。
エンドロールで、マカヴォイが演じたキャラクターの名前が流れますが、思わず笑ってしまうほどの人数です。
その人数を、話し方や姿勢、手の動きや表情、視線ひとつとっても、まるで違う人間に見えるよう演じるマカヴォイを見るだけでも、シリーズを観る価値はあると断言できます。
そして、ケイシー役のアニャ・テイラー=ジョイ。彼女もとても素晴らしいです。
今は平穏に暮らしていても虐待され続けた過去を持ち、ケヴィンに特別な何かを感じている少女を、魅力的に演じています。
ケイシーがケヴィンに感じているのが、同情なのか恋なのか共感なのか、しっかり言葉にはされませんが、そのすべてが絡み合っているような複雑さ、ケヴィンを助けたいという想いはしっかり伝わってくるんです。
ケヴィンは最後、自分の人格を取り戻してケイシーの前で死んでしまいますが、マカヴォイとアニャが演じていたからこそのカタルシスはあったと思います。
ヒーロー映画全盛期の今、シャマラン監督が描いた「ヒーロー」とは。
『アンブレイカブル』でヒーローの誕生を、『スプリット』で悪であるヴィランの誕生を描いたシャマラン監督。
『ミスター・ガラス』では、ヒーローと悪の対決を見せてくれるのかと思いきや「ヒーローという存在の真の誕生」を描いているように感じられます。
またケヴィンは、父親を亡くした後に母親に虐待されたことで解離性人格障害となり、他人格に身体の支配権を乗っ取られていたような状態でした。
その父親が亡くなった原因は、イライジャが起こした事故。
デビィッドが特殊能力を持っていると自覚するようになった、列車事故でもあります。
すべての起因がイライジャの起こした列車事故だとすると、正義が現れる時はまた悪も生まれる、というヒーローもの不変の概念が『アンブレイカブル』から19年経って改めてシャマラン流で示されたとも思えます。
『ミスター・ガラス』を見ると、『アンブレイカブル』で自分の考えを立証するため列車事故を起こした、身勝手な大量殺人者でもあるイライジャに、同情めいた気持ちがわいてくるような展開になっています。
このことは、単純に「正義と悪」という簡単な図式ではなくなった、現代のヒーローものと通じているかもしれません。
しかし、現在のアメコミヒーローとの大きな違いは、派手なアクションや人類の危機などを、描いているわけではないこと。
デヴィッドとケヴィンの戦いは純粋な力のぶつかり合いで、空を飛んだり、超能力を使うわけではありません。
はっきり言えば、アメコミ映画の大作と比べ、とんでもなく地味です。
ところが思い返せば、元々初期のヒーローは、空も飛べませんでした。
けれど能力も敵も年々インフレしているような状態で、ダイナミックな戦闘シーンにすっかり慣れてしまっている現代。
そんな中で示された原点回帰な戦い方に、ヒーローのオリジンストーリーを見せられたと感じます。
そしてヒーローという存在を知らしめようとしたイライジャの取った行動は許せるものではないし、完全に間違ってはいたのですが、彼の狂信的とも言える信念の根本には、誰の人生にも意味がある、誰もが特別な存在だ、というシャマラン監督の観客へのメッセージが込められているのではないでしょうか。
ぜひ、シリーズ3作を続けて鑑賞して、シャマランワールドを堪能して下さい。
ラストにまさかの感動が待っているはず。
そうは言っても、最後に不満点も2つほど挙げさせていただきます。
デヴィッドが殺されるのはつらいです、監督…。
3時間20分とかいう初期編集版も見せて下さい、お願いします。
『ミスター・ガラス』まとめ
「トイレの電気が突然消えたり、点灯したり。ピカピカに磨いた直後のエレベーターに手形がついていたりね。ひとりでは絶対にいたくない場所だよ」
映画『#ミスター・ガラス』撮影現場は心霊スポット? サミュエル・L・ジャクソンが明かした裏話 https://t.co/ulsJGljtHI pic.twitter.com/UEcdVrQe2a
— ホラー通信 (@horror2_) 2019年1月7日
以上、ここまで『ミスター・ガラス』について感想を述べさせていただきました。
- 相変わらずの驚きが待っているシャマラン作品。クライマックスからの二段構えのどんでん返しの先は、まさに予測不可能なエンディングが。
- ジェームズ・マカヴォイは、やっぱり非凡の役者だったと再確認。
- アメコミ映画全盛期の今に描かれた、シャマラン流「ヒーロー」誕生の物語。
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