映画に欠かせないものと言えば映画音楽。
これまで数々の名曲が名作を彩り、単体でも愛されてきました。
この記事では映画音楽の歴史を歴代の偉大な作曲家たちと共に振り返ります。
映画音楽の歴史
無音のサイレント映画にも音楽はあった
かつて、映画がまだ無声映画しかなかった時代。
ニコ・トスカーニ
史上初の映画音楽はシャルル・カミーユ・サン=サーンス(1835-1921)が作曲した『ギーズ公の暗殺』(1908)の音楽です。
セルゲイ・プロコフィエフ(1891-1953)の代表作の一つである『交響組曲 キージェ中尉』ももともとは映画『キージェ中尉』(1938)のために書かれた劇伴でした。
無声映画の時代、映画自体には音が無いので劇伴は映画館で生演奏されました。
劇伴の演奏はピアノ演奏や小編成のアンサンブルの場合が多かったようですが、予算の豊富な映画の場合、オーケストラが生演奏する場合もありました。
アメリカの映画館にはシアターオルガンという特殊なオルガンとそれを弾くための専門の演奏者がいました。
シアターオルガン、またはシネマオルガン、劇場オルガンとは無声映画の上映に際して使われた特殊なオルガンです。
音楽を奏でるだけでなく、動物の鳴き声や機関車の音など効果音を出すこともでき、無声映画時代の演出に重要な役割を担っていました。
熱心な愛好家により保存されており、少ないながらも現存します。
1927年ウーリッツァー社製作のシアターオルガン「Mighty Wurlitzer」
ニコ・トスカーニ
一応説明すると、活弁士とは活動写真(映画)上映の際に傍らでその内容を解説する専任の解説者のことです。
今日のナレーターの前身みたいなものでしょうか。
なぜ、アメリカのように音楽にしなかったかと言うと、外国映画を上映する際、文化背景等の違いから解説役を置く必要があったという背景がありました。
また、日本の伝統芸能である文楽には太夫という語り手がいますが、これは活弁士と通じるところのある役割です。
ニコ・トスカーニ
シアターオルガンも活弁士も少ないながら今も現存しますが、これらの文化は映画が技術の進歩により音を手に入れたことで衰退してしまいました。
音を手に入れた映画
史上初の実写トーキー(音声付き映画)は『ジャズ・シンガー』(1927)です。
録画も録音も19世紀末には存在していた技術ですが、トーキーで画期的だったのはフィルムとレコードという別々の媒体から再生される映像と音を同期させる方法が発明されたことです。
このように「映像はフィルム」「音はレコード」と収録媒体をセパレートした方式をヴァイタフォンと言います。
『ジャズ・シンガー』より
ところが、当時のレコードは壊れやすく、音と映像の同期を継続するのは困難でした。
そこで発明されたのがサウンドトラック方式です。
もともとフィルムには映像のみが収録されていましたが、この方式では画像コマから独立した音声用トラックが存在します。
この音声用トラックのことをサウンドトラックと呼びます。
ニコ・トスカーニ
以後、サウンドトラック方式はトーキーの主流となります。
ディズニーは様々な映像の技術革新をもたらしましたが、『ジャズ・シンガー』の翌年に公開された『蒸気船ウィリー』(1928)もこのサウンドトラック方式を採用しています。
ニコ・トスカーニ
『蒸気船ウィリー』本編
音の効果は絶大です。
バラエティやニュース番組には番組で使う選曲を行う専門のポジションがあるらしいですが、音楽一つで映像の印象が大きく変わります。
また、音楽以外の音も非常に重要な要素です。
これは商業映画を普通に見ていると気付きづらいことです。
ニコ・トスカーニ
音の情報量は画の情報量に比べればずっと少ないですが、それでも決して無視できるものでありません。
試しに音の悪い映画を観てみるとわかると思いますが、音の悪い映画は観ていてストレスが溜まります。
録音がダメダメで音の粒が揃っていないとリズムが悪く、見栄えにも影響してきます。
あと、音が悪いと単純にセリフが聞き取りづらいです。
というわけで、音の影響は非常に強力です。
ニコ・トスカーニ
映画音楽の代表的作曲家たち
マックス・スタイナー(1888-1971)
- 『キングコング』(1933)
- 『風と共に去りぬ』(1939)
- 『カサブランカ』(1942)
戦前、戦後のハリウッドを代表する大作曲家です。
それまでサウンドトラックとはごく小規模の編成で行われるものでしたが、スタイナーは『キングコング』で史上初めて映画のサウンドトラックに大規模なオーケストラを動員しました。
以後、劇伴にオーケストラを起用するのはごく普通のことになります。
スタイナーは生涯で26回アカデミー賞候補になり、3回受賞。
ニコ・トスカーニ
バーナード・ハーマン(1911-1975)
- 『市民ケーン』(1941)
- 『めまい』(1958)
- 『サイコ』(1960)
- 『タクシードライバー』(1976)
ヒッチコックは『ロープ』(1948)の全編ワンカット風リアルタイム進行の構成、『めまい』のめまいショット(ズームアウトしながらカメラを前方に動かす技法)など様々な実験を行い映像における表現を開拓しました。
そのヒッチコックと何度もコンビを組んだのがバーナード・ハーマンです。
ハーマンの劇伴で真っ先に挙げるべきものと言えばやはり『サイコ』でしょう。
ニコ・トスカーニ
ガラスを引っ掻いた時のような不快な不協和音が鳴り響く、普通に聞くにはとても鑑賞に堪えない曲です。
ですが、これがサスペンスシーンと重なると絶大な演出効果を発揮します。
劇伴とは演出の一部であり、それ単独ではなく映像や舞台と合わさってこそのものです。
そういう意味で『サイコ』の音楽は正しく劇伴と言える逸品でしょう。
ニコ・トスカーニ
ハーマンは『引き裂かれたカーテン』(1966)の音楽を巡ってヒッチコックと対立し、以降は決別。
ヒッチコックとのコンビ解消後も質の高い仕事を続け、死後の公開となった『タクシードライバー』の音楽も高く評価されました。
ジェリー・ゴールドスミス(1929-2004)
- 『猿の惑星』(1968)
- 『チャイナタウン』(1974)
- 『オーメン』(1976)
- 『ランボー』(1982)
- 『トータル・リコール』(1990)
- 『L.A.コンフィデンシャル』(1997)
映画音楽の進化過程において重要な役割を果たした作曲家です。
まず、挙げておきたいのがSF映画の名作『猿の惑星』の音楽です。
『猿の惑星』は退廃的情緒の漂う、どこともわからない惑星(有名なオチ)が舞台になった独特の世界観ですが、音楽も独特です。
ゴールドスミスは普通の楽器以外に大量の金属製のボウルを用意して打楽器代わりにそれを使いました。
金属を叩いた時の乾いた音が独特の情感を醸し出しています。
ニコ・トスカーニ
ゴールドスミスは様々なジャンルの音楽を手掛けましたが、特にサスペンスの音楽を得意としており、もっと古典的なスタイルの劇伴でも成功しています。
個人的には『チャイナタウン』と
『L.A.コンフィデンシャル』のハードボイルドな音楽が印象に残っています。
レオポルド・ストコフスキー(1882-1977)と録音技術の進化
ストコフスキーはイギリスの指揮者・編曲家ですが、主にアメリカで活躍しました。
とりわけフィラデルフィア管弦楽団の地位を大きく向上させたことで名高く、同楽団にあっては1912年から1940年までの長期にわたって常任指揮者の地位にありました。
彼の演奏スタイルは一言で表現すると「派手」。
ニコ・トスカーニ
派手でわかりやすい演奏でクラシックの大衆化に貢献をした人物です。
ストコフスキーは伝統にとらわれない探求心の持ち主でもありました。
より良い音響を求めて舞台上におけるオーケストラの配置も研究し、それまで多く採用されていた第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを左右両翼に分けた配置を、現在のようにまとめて配置する形を生み出したのは彼で、この配置は「ストコフスキー・シフト」と呼ばれています。
ニコ・トスカーニ
まだマイクすら発明されていないアコースティック録音時代(1910年代)から積極的に録音を行い、ステージ真下に地下室を作って、当時最高の技術を誇ったウェスタン・エレクトリック社の音響研究所を誘致。
本番と録音を聞き比べながらマイクロフォン、アンプ、スピーカーなど音響機器の性能向上に貢献しました。
そんな彼が手兵であるフィラデルフィア管弦楽団を率いてサウンドトラックを担当した『ファンタジア』(1940)は映画の歴史においても音楽の歴史においても重要な技術的意味合いがあります。
それは同作が史上初のステレオ音声作品であるということです。
ここでちょっと録音技術について解説します。
ニコ・トスカーニ
それまで録音方法にはモノラル録音しかありませんでした。
モノラルとは一本のマイクで録音して一つのスピーカーで再生する方式です。
1940年代当時はそれが当たり前でしたし、1950年代後半ごろまでは一般的な録音方式でした。
対してステレオ(ステレオフォニック)とは二本のマイクで録音して左右二つのスピーカーで再生する方式です。
この方式を使うとより自然の音に近くなります。
ニコ・トスカーニ
例えばホールで音楽を聴いている時、右の耳で聞いている音は直接舞台から聞こえてくる音ではありません。
右側の壁で反射して聞こえてくる音です。
同様に左耳で聞こえる音もまた左側の壁で反射して聞こえる音です。
音源が同じでも反射の仕方が違うため、右耳と左耳で聞いている音は微妙に異なります。
ニコ・トスカーニ
二本で録音し左右二台のスピーカーで再生するステレオではこの左右の耳で聞くズレを疑似的に再現することができます。
グスターヴ・ホルスト(1874-1934)作曲の『惑星』で聞き比べてみましょう。
下記はほぼ同年代に同じ指揮者が同じ楽曲を録音したモノラル版とステレオ版です。
1954年のモノラル録音 マルコム・サージェント指揮 ロンドン交響楽団
1957年のステレオ録音 マルコム・サージェント指揮 BBC交響楽団
ニコ・トスカーニ
これがステレオの効果です。
メディアにおける音の進化という点でストコフスキーは映画史においても重要な役割を果たしました。
『ファンタジア』はステレオ録音が一般化するふた昔ほど前の作品です。
光学式録音機という特殊な方法で録音されたため一般家庭のオーディオ機器では再生できず、ステレオ録音の一般化までには至りませんでしたが、それでも技術の発展において重要な役割を果たしたことに変わりはありません。
ストコフスキーは以後も積極的に録音を行い、95歳で亡くなるまで生涯現役でした。
ニコ・トスカーニ
スタンリー・キューブリック(1928-1999)
- 『2001年宇宙の旅』(1968)
- 『時計じかけのオレンジ』(1972)
- 『バリー・リンドン』(1975)
- 『シャイニング』(1980)
キューブリックは映画監督で脚本家でプロデューサーであって作曲家ではありません。
クリント・イーストウッドやトム・ティクヴァのように自作の音楽を手掛けているわけではありません。
ニコ・トスカーニ
まずはこちらをお聞きください。
これは映画『2001年宇宙の旅』のテーマ…ではありません。
ドイツの作曲家リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)が作曲した交響詩『ツァラトゥストラかく語りき』の冒頭部分です。
この曲は映画のために書かれた曲でもなければ、宇宙を表しているわけでもないフリードリヒ・ニーチェ(1844-1900)の哲学書を音楽で描写した映画の内容と全く無関係の楽曲です。
それにも関わらず、『2001年宇宙の旅』のオープニングに驚くほどピッタリとハマっています。
ニコ・トスカーニ
『時計じかけのオレンジ』の選曲センスは不健康な芸術性を感じます。
アレックス(マルコム・マクダウェル)と仲間たちのバイオレンスな日常を描いたシークエンスは陽気で軽快な『泥棒かささぎ』の序曲が流れていますが、暴力的映像と優美な音楽が対位法的な効果を発揮しています。
ニコ・トスカーニ
18世紀を舞台にした歴史モノの『バリー・リンドン』では、ほぼすべての楽曲が舞台になった時代に存在した楽曲です。
冒頭はゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)のサラバンドが使用されていますが、悲劇の結末を予兆させるとても良いチョイスだと思います。
ホラー映画の傑作として名高い『シャイニング』では現代音楽を積極的に採用しています。
話が俄然盛り上がってくる中盤あたりで使われているバルトーク・ベーラ(1881-1945)の『弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽』など現代音楽特有の技法がホラーの不穏さと絶妙にマッチした選曲です。
ニコ・トスカーニ
世界的な名匠として知られた黒澤明はクラシックが好きで、頭の中では映画のどの場面にどの楽曲を使うかというイメージがあったらしいです。
実際のクロサワ映画でクラシックはほとんど使われたことがありませんが、使っていたらどんな効果を発揮したか。
ニコ・トスカーニ
ジョン・ウィリアムズ(1932-)
- 『ジョーズ』(1975)
- 『未知との遭遇』(1977)
- 『スター・ウォーズ』シリーズ(1977~2019)
- 『スーパーマン』(1978)
- 『インディ・ジョーンズ』シリーズ(1981~)
- 『E.T.』(1982)
- 『ジュラシック・パーク』(1993)
- 『シンドラーのリスト』(1993)
- 『ハリー・ポッター』シリーズ(2001~2011)
『スター・ウォーズ』のテーマや『E.T.』のテーマなどモーツァルトやバッハの代表作よりも有名かもしれません。
ニコ・トスカーニ
演出としての劇伴で最も純度が高いのはやはり『ジョーズ』でしょうか。
音楽単独だと何のことかさっぱりわからない楽曲ですが、画面と合わさることでとてつもないサスペンス効果を発揮しています。
『スター・ウォーズ』のテーマはいかにも壮大な物語が始まりそうな絢爛さ。
『スーパーマン』のテーマは今にも飛び立ちそうな飛翔感があります。
『未知との遭遇』はたった5つの音符で構成されたシンプルなモチーフの繰り返しですが、地球外生命体との接触という非日常性を感じる神秘さがあります。
元はジャズピアニストで、ボストン・ポップス・オーケストラの指揮者としても活躍した器用な人でもあります。
ニコ・トスカーニ
こちらの録音はクラシック音楽の名門レーベル、ドイツ・グラモフォンから発売されています。
ウィーン・フィルと共演した『ジュラシック・パーク』のテーマ
武満徹(1930-1996)
- 『切腹』(1962)
- 『怪談』(1965)
- 『どですかでん』(1970)
日本人でアカデミー賞を受賞した作曲家と言えば、今のところ坂本龍一だけですが、現代音楽のフィールドで国際的に高く評価された作曲家といえばやはり武満徹を挙げるべきでしょう。
現代音楽の名作として名高い『ノヴェンバー・ステップス』は決してポピュラーとは言えない現代音楽というジャンルの中で最も有名な楽曲の一つです。
『ノヴェンバー・ステップス』は伝統的な邦楽器である琵琶と尺八をオーケストラと融合させた楽曲ですが、武満は同作を手掛ける前にもいくつかの映画音楽で邦楽器を使っています。
時代劇の名作『切腹』では琵琶。
小泉八雲の古典を原作にした『怪談』では琵琶と尺八を使用しています。
ニコ・トスカーニ
これらの経験が『ノヴェンバー・ステップス』に繋がることになります。
決して聞いていて心地の良い音楽でありませんが、その気になればもっと一般的な楽曲も書けた人でした、
ニコ・トスカーニ
ハンス・ジマー(1957-)
- 『レインマン』(1988)
- 『バックドラフト』(1991)
- 『ライオン・キング』(1994)
- 『グラディエーター』(2000)
- 『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(2003)
- 『ダークナイト』(2008)
- 『インセプション』(2010)
ハリウッドで活躍するドイツ人作曲家。
キーボードとシンセサイザーの演奏者として活躍したのち、作曲家としてデビューしました。
もともとシンセサイザーの演奏者だったため、シンセサイザーとオーケストラを融合させたサウンドを特徴としています。
ニコ・トスカーニ
オーケストラにシンセサイザーを融合させ、ここぞというところではそこにコーラスまで被せてきます。
アカデミー賞を受賞した『ライオン・キング』
ゴールデングローブ賞を受賞した『グラディエーター』
など、いずれも話のスケールに見合った特大のサウンドを作り出しています。
バラエディ番組でよく使われている『バックドラフト』
『パイレーツ・オブ・カリビアン』
もジマーらしいスケールの大きな楽曲ですね。
近年はとりわけ、クリストファー・ノーランとのコンビが多く、『バットマン ビギンズ』(2005)以降ほとんどの作品で音楽を手掛けています。
シンセサイザーとオーケストラを融合し、同じモチーフを反復する『インセプション』のテーマはジマーらしい壮大な楽曲に仕上がっています。
エンニオ・モリコーネ(1928-2020)
- 『荒野の用心棒』(1964)
- 『夕陽のガンマン』(1965)
- 『続・夕陽のガンマン』(1966)
- 『ウエスタン』(1968)
- 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)
- 『ミッション』(1986)
- 『アンタッチャブル』(1987)
- 『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988)
- 『海の上のピアニスト』(1988)
- 『ヘイトフル・エイト』(2015)
2020年に亡くなったイタリアの名匠です。
1960年代にデビューし、若いころはマカロニウェスタンの音楽で鳴らした人でした。
ニコ・トスカーニ
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』あたりを境目に、美しいメロディラインを前面に出したいかにもイタリアの作曲家っぽいスタイルを確立します。
『ミッション』のテーマである「ガブリエルのオーボエ」などモリコーネの美質が良く出た美しい楽曲です。
ジャズを大胆に取り入れた『海の上のピアニスト』は劇中でも音楽が重要な役割を果たすので、サウンドトラックだけでもかなり楽しめます。
ニコ・トスカーニ
映画音楽が専門でない作曲家たち
1950年代後半あたりを境目に、劇伴はアカデミックで伝統的なオーケストラ以外にも門戸が開かれるようになりました。
フランス映画『死刑台のエレベーター』(1958)はモダンジャズの巨匠マイルス・デイヴィスが映像を観ながら即興で作った楽曲を使用しています。
『或る殺人』(1959)はジャズの巨匠、デューク・エリントンが音楽を手掛けています。
『卒業』(1967)はフォーク・デュオのサイモン&ガーファンクルの楽曲が使われていますし、『イージー・ライダー』(1969)ではロックが大胆に使用されています。
『夜の大捜査線』(1967)、『ゲッタウェイ』(1972)、『カラーパープル』(1985)などの音楽を手掛けたクインシー・ジョーンズはジャズのアレンジャーとして活躍していた経歴の持ち主です。
ロックバンド、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドはポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)で初めて映画音楽を手掛け、英国アカデミー賞の候補になると、以降はアンダーソン作品の常連になり『ファントム・スレッド』(2017)ではアカデミー作曲賞の候補になっています。
ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアッティカス・ロスはデヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でアカデミー賞を受賞。
レズナーとロスは以降のフィンチャー監督作すべてで音楽を担当しています。
グリーンウッドやレズナーの劇伴を聞いていると、現代において音楽は複雑化しているということを感じさせられます。
ニコ・トスカーニ
おまけ:劇伴の演奏は誰がしているの?
劇伴は今でもオーケストラが起用される場合が多いです。
では、そのオーケストラのメンバーはどのような人たちなのでしょうか?
ニコ・トスカーニ
まず1パターン目は、フリーランスの演奏家を集めた寄せ集めです。
1950年代のハリウッド映画全盛期には映画音楽を演奏するための腕利きフリーランス演奏家がロサンゼルスに大勢集まっていました。
今でもフリーランスの演奏家は相当数存在し映画産業に関わっているはずですが、当時のフリーランス奏者は映画音楽だけで飽き足らずクラシック音楽を演奏するためにグレンデール交響楽団というオーケストラを自主運営していました。
引退した名指揮者ブルーノ・ワルター(1876-1962)に当時の最新技術であるステレオ録音のセッションをしてもらうため、コロンビア社はコロンビア交響楽団という急ごしらえのオーケストラを編成しましたが、コロンビア交響楽団の団員は多くがグレンデール交響楽団の団員でもあったと言われています。
ニコ・トスカーニ
もう一つは普段から団体として活動しているオーケストラの起用です。
とりわけ映画音楽に積極的なのが1904年に創設されたイギリスの名門、ロンドン交響楽団です。
戦前から積極的に映画音楽を演奏してきたロンドン交響楽団は『来るべき世界』(1936)で初めて映画音楽を手掛けると以降『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』、『スーパーマン』『インディ・ジョーンズ』シリーズなどで演奏を担当し、比較的近年では『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』(2014)、『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)なども手掛けています。
ロンドンのオーケストラは映画音楽に積極的であり、1932年創設の名門、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団も『アラビアのロレンス』(1962)、『ミッション』(1986)、『ロード・オブ・ザ・リング』(2001~2003)三部作の劇伴を演奏しています。
普段映画音楽をやらないオーケストラが劇伴をやることも稀にあります。
ジョン・ウィリアムズが手掛けた『リンカーン』(2012)の劇伴はアメリカの名門、シカゴ交響楽団の演奏。
『パフューム ある人殺しの物語』(2006)はクラシック界随一の名門であるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が当時の首席指揮者だったサイモン・ラトルの指揮で演奏しています。
ちなみに劇伴のセッションですが、お金がかかるので1日で終わらせる場合が多いらしいです。
ニコ・トスカーニ
映画音楽の歴史を作曲家と共に振り返る:まとめ
というわけで、今回は劇伴の歴史と代表的作曲家についてまとめてみました。
今回の記事を書くにあたり、大変参考になったドキュメンタリー映画がありますので、こちらもあわせてどうぞと案内して締めくくりにしたいと思います。
『すばらしき映画音楽たち』(2017)
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