2021年9月11日より公開された映画『ミッドナイト・トラベラー』。
2015年にタリバンから死刑宣告を受けたアフガニスタンの映画監督であるハッサン・ファジリ自ら3台のスマホを使って、家族とともにヨーロッパを目指す旅を撮影した前代未聞のドキュメンタリー作品です。
アメリカ軍の撤退により再びタリバン政権が息を吹き返したアフガニスタン。
残るも地獄ですが、アフガニスタンから去ることもまた地獄でした。
マルコヤマモト
目次
映画『ミッドナイト・トラベラー』作品情報
作品名 | 『ミッドナイト・トラベラー』 |
公開日 | 2021年9月11日 |
上映時間 | 87分 |
監督 | ハッサン・ファジリ |
脚本 | エムリー・マフダビアン |
出演 | ナルギス・ファジリ
ザフラ・ファジリ ファティマ・フサイニ ハッサン・ファジリ |
音楽 | グレッチェン・ジュード |
映画『ミッドナイト・トラベラー』あらすじ
アフガニスタンを逃れ難民生活を送る一家の旅を描いたドキュメンタリー
2015年、アフガニスタンの平和を題材にした映画を撮影した映画監督のファジリ・ハッサン。
しかし、映画の内容がタリバンの怒りに触れたため主演男優は殺害され、ハッサンには死刑宣告が下されることに。
ハッサンは、同じく映画監督である妻のファティマとまだ幼い娘のナルギスとザフラを連れて、ヨーロッパを目指す5600キロの旅に出ることを決意します。
映画人であるハッサンは、その過酷な旅路を3台のスマホを使って映像に残すことにしました。
ハッサンの死刑宣告後、一時カザフスタンの友人宅に身を寄せていた一家は、1度アフガニスタンへ戻りその後イラン、タジキスタン、トルコ、ブルガリアなどの国々を経て最終目的地であるドイツを目指します。
しかし、幼い娘たちを連れたその旅路は過酷を極めるものでした。
トルコでは密入国を斡旋する業者に騙されぼったくられたり、道中は山道や荒野を夜の間に徒歩で移動することも。
辿り着いたルーマニアでは難民キャンプに収容されますが、衛生環境は劣悪。
さらに難民・移民排斥を訴える地元民たちとのトラブルが警察沙汰になり、どこへ行っても居心地は全く良くありません。
人としての尊厳を傷つけられながらも、過酷な旅を記録するハッサン一家はついにセルビアまで辿り着きます。
野宿をしながらも再び難民キャンプでの比較的安全な生活を手に入れることができた一家ですが、隣国ハンガリーへ移動するためには厳しい審査があり、また入国審査の順番待ちリストには大量の名前が記載されていたのです。
なるべく先を急ぐために難民キャンプを出たいハッサンと、娘たちの安全を考え時間がかかっても順番を待って合法的に入国したい妻・ファティマ。
そんな折、次女ザフラが行方不明になる事態が発生します。
もしもの時を考えたハッサンですが、カメラを回すことを決意。
マルコヤマモト
映画『ミッドナイト・トラベラー』感想【ネタバレあり】
難民生活を選んだ一家の苦悩の旅路がリアルに描かれる
スマホによって映し出された映像が衝撃を与え、2019年サンダンス映画祭の審査員特別賞ほか23の映画祭で高い評価を得た映画『ミッドナイト・トラベラー』。
マルコヤマモト
2001年の同時多発テロ以降、アフガニスタンにおいて戦いを続けていたイスラム原理主義組織・タリバンとアメリカ。
戦いを続けるうちに情勢は変わり、映画の始まりとなる2015年には再びタリバンが優勢になっていました。
あらすじでも紹介した通り、映画監督のハッサンがタリバンから死刑宣告を受けたことから一家は難民になる道を選びます。
マルコヤマモト
一家は砂漠や山道・荒野を歩きわたり、業者からは「金を払わないと娘を誘拐する」脅され、食料も少ないなか森の中でのキャンプを余儀なくされるなど過酷すぎる状況が続きます。
手振れもピンボケも含めたスマホの映像は、まるで一家とともに旅をしているように感じるほどリアルです。
映画の最後ではハンガリーのトランジット施設で過ごす一家が映し出され、旅がまだ終わっていないことが明らかになります。
一家は有刺鉄線で囲まれた狭い収容所に入れられ、庭に子供用の遊具等はあるものの居心地が良さそうな場所ではありません。
マルコヤマモト
ハッサン一家がどのように暮らしているのか不安になりましたが、その後ハンガリーでの対応に痺れを切らした一家は無許可でドイツへ入国し西部の小さな村で暮らしているようです。
しかしドイツ政府からは最初に難民申請を受けたハンガリーへ戻るように求められているため、現在弁護士を立ててドイツで暮らせるように交渉中とのこと。
マルコヤマモト
それでも明るいハッサン一家に勇気をもらう
マルコヤマモト
ハッサンと妻のファティマ、長女のナルギスと次女のザフラの4人から成るハッサン一家の、逃亡生活の中にある普遍的な日常を映し出したホームビデオのような映像も印象的。
マルコヤマモト
海がない内陸国のアフガニスタンで生まれ育ったナルギスがトルコで初めて海や波を見た際の興奮具合や「水が怒っているみたい!」という子供ならではのユニークな表現、そして心からの笑顔に緊張がほぐれました。
そしてどんな時も強い気持ちで家族を支える妻のファティマのカッコ良さ!
アフガン女性でありながら映画監督という顔を持つファティマの芯の強さが、過酷な旅と子供たちを支えたのだと思います。
マルコヤマモト
両親2人が映画監督というだけあって、子供たちがカメラ慣れしていることも作品成功への鍵となったのでしょう。
自然体な子供たちの姿や家族の様子が今作での唯一の癒しでした。
ハッサンがこの旅を映画にしようと決めたことも、行方不明になったザフラを探す際にもカメラを回そうという考えが頭をよぎったことも、彼の天職が映画監督であることを表していて唸りました。
マルコヤマモト
SNSでのみんなの感想・評判
急遽、時間ができたので「ミッドナイト・トラベラー」を鑑賞。人類は山ほど問題を抱えているけど、難民、差別、宗教、国境、政治と色々考えさせられる映画でした。非常に困難な状況なのに、この映画監督の家族を見てると心が暖まる面もありました。知ることはとても大事。 pic.twitter.com/vUQbOKXcya
— ベースロシモフ(荒井) (@bass_rosimofu) September 12, 2021
『ミッドナイト・トラベラー』シアター・イメージフォーラムにて鑑賞。これは必見。いろんな自分の中のグチャグチャも吹っ飛びました。ともに映画監督である夫婦。それが、「映画的なシーン」をしっかり撮れてしまう、または撮りたいと思ってしまうサガでもあり使命でもあり、その意識をもっての動画。 pic.twitter.com/VtFJ38hbpj
— babby (@cipriani_s) September 11, 2021
渋谷のシアター・イメージフォーラムで映画「ミッドナイトトラベラー」を鑑賞😌 アフガンを出てから生の瀬戸際に立たされ続け、逃れ続ける家族。映像は抑制されたタッチが印象的でした。娘と2人で観に行ったので、感想を話しながら我が家に帰りました。#ミッドナイトトラベラー pic.twitter.com/t4gGVEuKdi
— amin_n (@ami_kahon) September 13, 2021
『ミッドナイト・トラベラー』鑑賞@イメージフォーラム。ハッサン・ファジリ監督作。タリバンから死刑宣告を受けた監督が、家族と共にアフガニスタンを脱出。難民となり安住の地を求め旅をするドキュメンタリー。当事者でしか描けない映画があると思いますが、本作はまさにそれ。 #twcn
— aida ronpe (@ronpekun) September 13, 2021
昨今のアフガン情勢を顧みてじわじわと注目を集めている映画『ミッドナイト・トラベラー』。
ミニシアター系の作品ですが座席は間引いて発売されていたものの予想以上に観客が多く、アフガン問題に関心を持っている人や知りたい人がたくさんいるんだな、と安心しました。
すでに映画を観た方の感想にもあるように、「知ることが大事」。
映画『ミッドナイト・トラベラー』は、まさに私が今知りたいアフガン問題、タリバン、難民問題を連動して知ることができ、鑑賞後はニュースを見ても割と自分の中での「何で?」が減った気がします。
マルコヤマモト
映画『ミッドナイト・トラベラー』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
映画『ミッドナイト・トラベラー』予告編🎬https://t.co/ww5497iB0X
アフガニスタンからヨーロッパまで5600km。
安住の地を求めて旅する難民家族が3台のスマホで自らの旅を撮影した前代未聞のセルフドキュメンタリー!9月11日(土)イメージフォーラム他全国順次公開 pic.twitter.com/0NguIlwUtJ
— 映画『ミッドナイト・トラベラー』9.11(土)イメージフォーラム他全国順次公開! (@mdntr) June 30, 2021
マルコヤマモト
まさに、当事者にしか描けない手法でアフガン問題や難民問題を訴える衝撃的なドキュメンタリー作品でした。
マルコヤマモト
アフガニスタン問題だけでなく、様々な知識を得ることができるドキュメンタリー映画というジャンル自体にもハマりそうです!
タリバン政権下のアフガニスタンで再び何が起ころうとしているのか?
女性の権利や尊厳がどれだけ迫害されるのか、一家はなぜ難民になる道を選んだのか。
今世界で起こっていることを知るために、『ミッドナイト・トラベラー』をぜひ鑑賞してほしいです。
また映画『ミッドナイト・トラベラー』は、上映者を募集しているということ。
マルコヤマモト