街で一番オシャレな花屋・mellowを営む青年のもとにはさまざまな常連さんがやってきます。
それぞれに不器用な片想いを抱き、交差するさまを描いた恋愛群像エンターテイメントです。
- 2020年1月公開、田中圭主演の恋愛映画
- 監督・脚本は『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』の今泉力哉
- もどかしいくらいの片思いの気持ちを登場人物と一緒に感じられる作品
それでは『mellow』をネタバレありでレビューします。
目次
『mellow』作品情報
作品名 | mellow |
公開日 | 2020年1月17日 |
上映時間 | 106分 |
監督 | 今泉力哉 |
脚本 | 今泉力哉 |
出演者 | 田中圭 岡崎紗絵 志田彩良 松木エレナ 白鳥玉季 SUMIRE 新井郁 山下健二郎 五頭岳夫 ともさかりえ 小市慢太郎 |
音楽 | ゲイリー芦屋 |
【ネタバレ】『mellow』あらすじ
街で一番オシャレな花屋、mellow
独身青年、夏目誠一(田中圭)の営む花屋“mellow”、ここにはさまざまなお客さんがやってきます。
ある時、学校の友達に小さめの花束を作って欲しいと女子中学生・水野陽子(松木エレナ)がやってきました。
夏目は陽子が花束を贈る相手を思い浮かべるためにいくつか質問をします。
おとなしいか活発か、部活は何か、好きな色は何か…答えたくないことは答えなくていい、答えても良いと思える範囲だけで想像できるイメージを花束にします。
夏目はお会計の方法も少し不思議です。
陽子が「これで足りますか?」と千円札を何枚も出すと、夏目は一枚だけ引き抜いて「あとは他のプレゼントとかデートに使ってください」と言いました。
夜、夏目はラーメン屋さんに青い花を持って行きます。
父(小市慢太郎)から受け継いだこの店を営んでいる古川木帆(岡崎紗絵)に軽く挨拶をし、いつものように店の奥に入って行って仏壇に供えた花を取り換えます。
そのあとラーメンをすすっている時。
背後にいるカップルが喧嘩を始めました。
なんだかワケアリの様子の武田さん(新井郁)という女性と、川上さん(山下健二郎)という男性。
川上は「武田さんと一緒になるために妻と別れた、けれどいざ一緒になれる状況になったら妻といた時のほうが居心地がよかった」と言います。
別に妻に未練があるというわけではなく、好きなのは武田さんなんだけれど踏み込めないようなのです。
結局2人はこの場を以て別れ、武田は去り際に「川上さんには一生、私以上に好きになる人なんてできないと思います」と吐き捨てました。
好き同士のはずなのに別れを選んだ2人の話が耳に入っていた夏目は、思わず泣いてしまっていました。
そして気まずそうに会計を済ませる川上に「追いかけなくていいんですか?」と聞きます。
川上は「彼女のために別れたというよりは、自分のためだから。」とだけ言って店を後にしました。
mellowの常連、宏美
翌日、おはよう、と店に入ってきたのは夏目の姉・原田郁(清水ゆみ)と、その娘・さほ(白鳥玉季)です。
そして「家は出られたんだけど、そこから学校へは行けなかった」と“いつものように”さほを預けていきました。
そこにテスト明けで授業が3限からだと言う女子中学生・浅井宏美(志田彩良)がやってきます。
母親がサロンドヴォーグという美容室を営んでいる宏美もmellowの常連で、さほとも顔見知りの仲です。
お昼時、夏目はさほとラーメン屋に行きました。
さほと初対面だった木帆は伝票に“さほ”と書いて、さの字に一本の棒を足します。
「私は、きほ」と名乗って距離感を縮めて、自分も小学校に行けない日があったことや父親のことを少し話しました。
その帰り、さほは夏目に木帆のことが好きなのかと聞きました。
その頃、宏美は後輩である陽子に呼び出されていました。
陽子は「ずっと前から好きでした。付き合って下さい」と言います。
そして告白と一緒に差し出したのは、前の日にmellowで作ってもらった花束でした。
2人は宏美の提案で一緒にお昼を食べることにします。
宏美は3月の卒業のタイミングでもなく、12月の今、告白したのはどうしてなのか聞きました。
陽子は2年生の中にライバルがたくさんいるから早く言いたかったと返します。
そして話題は花束のことになり、mellowの話になりました。
楽しげに昼休みを過ごす2人を、物陰から見ている生徒がいました。
変わった形の夫婦
妻から別れを切り出した一組の夫婦がありました。
この妻、サロンドヴォーグで宏美の母に何やら相談していた青木麻里子(ともさかりえ)もまたmellowの常連客です。
この相談していたことこそが別れの原因、つまり麻里子は他の男性に好意を抱いているのです。
夫の方は「別れる前にその男に想いを伝えてみてからじゃダメか」と提案しました。
うまくいくならそれで良いし、うまくいかなければ自分のところに戻ってきてほしいと言います。
そんな青木家にやってきたのは夏目でした。
さほと一緒に作った花を玄関に活けて麻里子と話しているところに夫が顔を出します。
作業を済ませて、夏目は2人が別れることを告げられました。
そして麻里子から、夏目のことが好きだと言われます。
二週間に一度花を飾りにやってくる夏目のことが好きだとまっすぐに伝えてくる様子に、夏目はうろたえました。
夫の目の前でどうしてこんな話をするのか、理解できなかったのです。
せめて1対1で話してくれたなら、自分にその気はないから旦那さんと幸せに暮らしてくださいと言えたのに…と伝えると夫が怒りだしました。
そして、隠せば良い、みたいに言ったのが許せないと語気を荒げて夏目に当たります。
想いを受け止めるどころか異常事態であるとする夏目を見て、そんな夏目に「人の心がない」とまで罵倒する夫を見て、麻里子は「これからも何事もなかったように花を飾りに来てほしい、全部忘れてください」と言いました。
結局夏目は“普通じゃない”夫婦に翻弄されて麻里子の夫に罵倒までされ、花も突き返されてしまいました。
木帆に響いた言葉
後日、ラーメン屋で夏目は木帆に青木夫婦のことを話しました。
木帆が「夏目さんってモテるんですね」と言ったことから軽くお互いの恋愛の話になり、言葉が途切れたあと。
木帆は「うちのラーメン、おいしいですか?」と聞きました。
夏目は「まぁおいしいですよ」と答えます。
木帆は、父が切り盛りしていた時とやっぱりどうしても同じというわけにはいかず、今月の23日で店をたたもうと思っていると打ち明けました。
でも閉店することは貼り出して掲示したりしたくないと言います。
終わるのがわかって通う心理は、何だか埋め合わせのような気がして嫌だったのです。
木帆としては、最後に自分が行ったとか、その人に会えたとか、そういった“情”で自分が満足したいだけのエゴだと思うのです。
それを聞いた夏目は、情だけじゃダメなのかな、と言って「ふっとなくなったら悲しむ人、絶対いると思う」と言いました。
夏目は木帆の父がまだ生きていた頃、入院している病院にお見舞いに行った時「あいつがラーメン屋やめる時に渡してくれないかな」と手紙を託されていました。
その頃、木帆は女友達(SUMIRE)に近況報告をしていました。
木帆は店をたたんだら海外に行くつもりでいましたが、そのことを伝える気はありませんでした。
離れるから伝えるっていうのは自分のエゴでしかないと言う木帆に女友達は、じゃあその気持ちは誰が知るの?と返しました。
木帆は、そんなのは誰も知らないままで自分だけのものだと言います。
木帆の性格をわかっている女友達はそれ以上追及せず、好きってことは伝えなくても海外に行くことくらいは伝えたらどうかと言い、ぼそっと「ふっといなくなったら悲しむ人はいると思うけどね」と言いました。
想いを伝える、ということ
木帆はサロンドヴォーグへ行き、宏美の母と話しながら店が24年続いていることを知ります。
他愛ない話をしながら髪を綺麗にしてもらったあと、ラーメン屋をたたむことを伝えました。
その頃、宏美は陽子を屋上に呼び出していました。
そして自分も好きな相手に告白しようと思っていると打ち明けて、どうせフラれるから付き合ってほしいと言いました。
やがてmellowにやってきたのは、宏美と陽子でした。
陽子の好きな相手が宏美だとは知らずに、この間の花束と告白はどうだったか聞く夏目。
相手がその場にいるけれどそれは明かさずに嘘なく答える陽子。
そして夏目が宏美の恋愛事情を聞こうとした時、宏美は前に聞いた“思春期に男子は花が嫌いになる”という話をしだしました。
夏目にもそんな頃があったのかと聞くと、夏目は好きな子ができて思春期の男子となっても花が嫌いにならなかったと言います。
そこから夏目が恋をした相手が花屋の娘だったとか、その恋はどうなったのか…という話になりました。
結局宏美は告白せず、2人が一緒に帰っているところに、陽子が告白した時に影から見ていた子が現れました。
そしてフラれて気まずくなるのが嫌で言えずにいたけれど、告白してフラれたのに陽子と仲が良いままなのにモヤモヤしたこと、それと自分も宏美のことが好きだということを伝えてきました。
宏美は陽子の時と同じように断りましたが、その子は「伝えたかっただけだから良いんです」と言いました。
ラーメン屋の閉店の日
夏目がラーメン屋に行くと、掲示しないと言っていたはずの閉店の貼り紙がありました。
そして木帆の髪形が変わっていたことにも気付きます。
木帆は、店を閉める最後の日に…と夏目にお願い事をしました。
翌日、mellowの開店前から店の前で待っていた宏美は夏目に告白しました。
昨日言おうと思っていたけれど言えずにいて眠れなくなって、伝えるだけでも伝えたいという気持ちになったのでした。
想いを知った夏目は「ありがとう。でも、ごめんなさい」と言いました。
それから時間が経ちラーメン屋の閉店の日。
夏目は、100本のバラを木帆に届けました。
お願いされていたことです。
木帆はお店を訪れてくれた人に1本ずつバラを配りました。
すべて配り終えた頃、夏目がやってきます。
木帆が作る最後の一杯のお客さんは夏目です。
しかしそこに「まだ間に合うかい?」とおじいさん(五頭岳夫)がやってきました。
夏目は自分の分だったラーメンをその人に譲ります。
昔と変わらないと満足そうにして、最後のバラの花を受け取って幸せそうに帰っていくおじいさんを2人は笑顔で見送りました。
そのあと、店の片づけをしている木帆の様子を眺めていた夏目は木帆の父の話を切り出します。
ラーメン屋をやる前は何をしていたのかとか、ラーメン屋を始めたきっかけとか、生前お見舞いに行った時に聞いた話を。
木帆は、建築を学ぶために留学しようとしていた時に父が倒れたことを話し始めます。
店をたたむことで、またそこからやり直そうと思っているということも。
今度はちゃんと自分の意思で海外へ行こうと決心したのは“憧れ”からだと木帆は言いました。
そして「帰ったら読んでください」と夏目に手紙を渡しました。
二つの手紙
木帆は店を閉めたあと仏壇のところに手紙があることに気付きます。
夏目が、父の入院中に預かっていた手紙でした。
そこには父の少しの後悔の念、そこに纏わる本音、最後には“好きなように生きて欲しい”と書いてありました。
同じころ夏目も木帆からの手紙を読んでいました。
木帆はラーメン屋を営みながら金銭的にも精神的にも夏目に支えられていたということ、夏目のことが好きだということが書いてありました。
ラーメンには特に思い入れがなかったことや、ラーメン屋を継いでからのことも。
木帆が守りたかったのは味ではなくて、人が集う店という場所でした。
でも建築について勉強し直したかったこと、自分には何もないから人が集う“場”を作りたいという思いから閉店という道を選んだのでした。
想いを受け取った夏目は翌日、淡いピンクや白い花を使って花束を作りました。
そしてラーメン屋に向かいます。
外を掃除しながら空を見上げていた木帆は振り返った先に花束を持つ夏目の姿を見つけて、空を指さし「飛行機」とはにかみました。
【ネタバレ】『mellow』感想
緩やかに描かれるありそうな恋物語
ゆったりとした時間で進む、広い世界のどこかにありそうな小さな世界の話。
設定もエピソードも、現実的に絶対ありえないとは言い切れない。
それぞれの結末も。
vito
誰かを好きになることだとか、それを伝えること、伝えないこと、タイミング…そんな、普段生活していて身近にあることが描かれています。
2020年公開作品ということもあって割と現代的な描写も多いかなと思ったりします。
さほがたまに小学校に行けないことだとか、陽子が宏美を好きという同性に対しての恋心だとか。
青木夫妻のことに関しては年代とか関係ないことではあると思うけど、夫にオープンにした上で離婚を切り出すっていうのは一昔前だったらありえなかった…いや今も割とありえないような気がする。
vito
夏目と木帆は、その後どうなるのかなぁというのが気になるところではあるんですけど。
どうなるんでしょうね。
憧れとか尊敬とか相手を尊重する的な気持ちを寄せ合う同士だと私は思うわけですけれども。
vito
『mellow』の心に引っ掛かった場面
宏美が夏目に告白しようとして陽子と一緒にmellowを訪れた時、「今じゃないと思う」みたいなことを言ってその日は告白せずに帰るんですけど。
vito
木帆もラーメン屋の閉店の日に夏目と話している場面で、自分の意思じゃなく海外に行けなくなった時、ちょっと安心したっていう話をするんですよ。
今じゃなかったんだ、みたいな。
vito
機が来れば踏み込めるはず、きっとその時が“今”なんだろうな、みたいな。
vito
私は特にそんな風に宏美や木帆に「わかる…」って言いつつ見ていたから、夏目はストーリーテラーみたいな、それぞれの物語を回す人物みたいに見えました。
vito
『mellow』まとめ
以上、ここまで『mellow』をレビューしてきました。
- きっと誰にでも少しくらいは感情に心当たりのある場面があるんじゃないかな、と思う作品
- 好きな相手がいる人も、いない人も、見終わったあと心がほんのりあったかくなるはずです
- 誰かに想いを伝えるか悩んでいる時や、何かに踏み込むか迷っている時に見ると一歩踏み出せるかも?