舞台は1997年のフィリピン。
無実の罪を着せられたホラシアは、30年間の刑務所での生活の経てようやく釈放されました。
そんなホラシアは、社会的弱者へ優しさの手を差し伸べながらも、ある復讐を計画をします。
- 第73回ベネチア国際映画祭金獅子賞作品
- 白黒の生み成す、光と影の世界
- 静かだが、物語全体から感じられる重み
それではさっそく『立ち去った女』をレビューしたいと思います。
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目次
『立ち去った女』作品情報
作品名 | 立ち去った女 |
公開日 | 2017年10月14日 |
上映時間 | 228分 |
監督 | ラヴ・ディアス |
脚本 | ラヴ・ディアス |
出演者 | チャロ・サントス=コンチョ ジョン・ロイド・クルーズ マイケル・デ・メッサ |
【ネタバレ】『立ち去った女』あらすじ・感想
フィリピンの怪物的映画作家。ラヴ・ディアス監督
ひとつひとつの作品が長時間に及ぶことで知られるラヴ・ディアス監督。
今回の『立ち去った女』は、3時間48分に及ぶ長編作ですが、最長11時間に及ぶ作品も作るラヴ・ディアス監督にしては、極短とも言われている作品です。
2014年『昔のはじまり』ではロカルノ国際映画祭金豹賞を、2016年には8時間に及ぶ『痛ましき謎への子守唄』でベルリン国際映画祭銀熊賞を獲得しています。
そんなフィリピンの怪物的映画作家とも名高いラヴ・ディアス監督の入門作品としても謳われる『立ち去った女』は、1997年のフィリピンが舞台。
トルストイの短編作品「God Sees the Truth But Waits(神は真実を見給ふ、されど待ち給ふ)」からインスピレーションを受けたと言います。
本作は、激動の時代にフィリピンで生きる人々の現実を厳しくもまた美しく描き出しています。
常に一定の距離が保たれる、傍観者としての視点
『立ち去った女』では、BGMは一切流れません。
また、画面は白黒で、登場人物をクローズアップするようなショットもあまり見られません。
そのため、人の表情や動作からの情報が読み取りづらく、私たちはほとんど物語の傍観者としての視点に立たされます。
淡々と語られる物語を前に、私たちはどこか孤独に陥ります。
感情移入や、興奮を求める方には、あまり受け入れられない映画かもしれません。
しかし、静かに物事を考えたい。または〝観る“と言う体験自体に至福の感覚を覚える人には、あっという間の大切な映画体験になること間違いありません。
カメラとは対照的に、積極的に社会的弱者と関わっていくホラシア
淡々としたカメラワークは、物語を静かに見守る神の視点と言っても過言ではないほど客観性があります。
しかし、ストーリを要約すると、とても入り込んだヒューマンドラマとなっています。
無実の罪を着せられ、30年間刑務所で生活をしていたホラシアは、元小学校の教師。
ホラシアは、監獄の中で受刑者の子供に勉強を教えるなど、その中での人間関係に積極的に関わっていました。
そして、そんな彼女の親友であるペトラが、ある日実は自分が真犯人であったことを自白します。
ホラシアは釈放され、ペトラはのちに自殺してしまいますが、彼女に無実の罪を着せた真の黒幕であり、ホラシアの元恋人である資産家のロドリゴへの復讐を計画します。
しかし、ホラシアはその計画の最中で出会う、社会的弱者と言われるような人たちに救いの手を差し伸べていきます。
ここに彼女の積極性が見られるとともに、出てくるキャラクターもなかなか個性的です。
卵売りの貧しい男性に、障害を抱えるホームレスの女性、そして強烈な登場シーンから、映画に独特の雰囲気を与える性同一性障害のホランダ。
ホラシアが彼らに優しさの手を差し伸べ、次第に心を通わせていく姿からは、まさか復讐を企む女性とは思えぬほど善良です。
ホラシアにとって、そうした人助けはほとんど自然なものであるかのようにも思われます。
そんなホラシアは、無実の罪で30年という歳月を刑務所で過ごし、家族との普通の生活を奪われました。
しかし、一方の資産家ロドリゴは、そんなホラシアの幸せを壊したにもかかわらず、毎週教会に通う熱心なキリスト教徒であり、何事もないかのように大切な家族と裕福で幸せな生活を送っています。
ホラシアの復讐を知ったホランダは、ホラシアに恩を返すためにロドリゴを銃殺し、自ら罪を被るシーンは衝撃的でした。
その後、ホラシアは行方不明になった息子を探すためにマニラへと船で旅立ちます。
ロドリゴへの復讐が終わったからと言っても、彼女の失われた30年を取り返すための旅は続いていくのです。
『立ち去った女』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
いち早くラヴ・ディアスを観た竹中直人さん、絶賛コメント!! ”何か”に対する怒りを持っている人間でいるかどうか ”目をつぶってしまう人間でいるかどうか”そんな思いをぼくはこの映画から感じた。心して観ないとあなたは打ちのめされてしまうだろう。— 竹中直人(俳優・映画監督) pic.twitter.com/HPIGcMpP2R
— 立ち去った女 (@tachisattaonna) 2017年10月15日
以上、ここまで『立ち去った女』について紹介させていただきました。
- 罪とは何か、魂の救済とはなんなのかを静かに、しかし確かな重圧で映し出す
- リアリティがあるにも関わらず象徴的な「スロー・シネマ」
- 怪物的映画作家ヴ・ディアス監督の入門作品
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