解散から半年が経った交響楽団が、破天荒すぎる謎の指揮者をきっかけに再結成!
しかし指揮棒の代わりにトンカチを振り回す指揮者に反発する楽団員たち。
一か月後の演奏会は成功するのか…?
- 原作は音楽をテーマにした作品を数多く生み出している、さそうあきらの人気コミック
- 破天荒すぎる指揮者・天道徹三郎に、見ているこっちまで振り回される!?
- およそ1年にわたってバイオリンを特訓したという松坂桃李の演技に注目
それではさっそく映画『マエストロ!』をネタバレありでレビューしたいと思います。
目次
『マエストロ!』作品情報
作品名 | マエストロ! |
公開日 | 2015年1月31日 |
上映時間 | 129分 |
監督 | 小林聖太郎 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
原作 | さそうあきら |
出演者 | 松坂桃李 西田敏行 miwa 古舘寛治 大石吾朗 濱田マリ 河井青葉 池田鉄洋 モロ師岡 村杉蝉之介 小林且弥 中村倫也 斉藤暁 嶋田久作 松重豊 宮下順子 淵上泰史 でんでん |
音楽 | 上野耕路 |
【ネタバレ】『マエストロ!』あらすじと感想
中央交響楽団の再結成と、謎の指揮者
幼いころに父親が弾いてくれたバイオリンの音、天から降り注ぐようなその音色だけの夢をみる香坂真一(松坂桃李)は若きバイオリニスト。
ミュンヘン交響楽団から届いていた不採用の通知を捨てて一息つき、バイオリンをケースにしまって向かったのはプレハブ倉庫でした。
不況のあおりを受け、長い歴史をもつ中央交響楽団が解散して半年。
才能あるものはほとんど海外のオーケストラに引き抜かれてしまいました。
音楽の道を諦めて再就職をしたものもいるなかで、降って湧いた再結成の話。
一か月後の演奏会に向けて、音楽を諦めきれない者たち=負け組たちが集まったのです。
指揮者は天道徹三郎(西田敏行)という、楽団員たちが誰も聞いたことのない人物でした。
どうせ三流だと笑いながら噂しつつ練習を始めようとしたところで、フルート奏者が一人足りないことに気が付きます。
遅れてきたフルートの二番手は他のメンバーと違いアマチュア、つまりアルバイトで雇われた少女・橘あまね(miwa)でした。
演奏会のプログラムは楽団にとってなじみのあるベートーヴェンの交響曲第5番「運命」と、シューベルトの交響曲第7番「未完成」。
指揮者が到着しないままに香坂の音頭で音を合わせ始めると、倉庫の二階で作業している大工のおじさんがトンカチを鳴らす音が響きました。
その邪魔な音に香坂が「練習中だからやめてくれ」と声をかけると、おじさんは階段から降りてきました。
関西弁で乱暴な言葉を使いながら足場から降りてくるおじさんは、先ほど“三流だろう”と噂していた指揮者・天道徹三郎でした。
指揮者が信用に足らない楽団員たちはコンサートマスターである香坂の動きを窺っていましたが、天道に指摘され渋々練習が始まります。
大工姿でトンカチを指揮棒代わりに指揮をする天道と、どこか訝しげな楽団員たち。
この日はひたすら「運命」の冒頭だけを練習して一日が終わりました。
「次のオーケストラまでに君らを銭の取れる演奏家にする」天道は、そう言いました。
謎の指揮者の不思議な力
ところで楽団員たちは、誰が自分たちを再結成のために集めたのかが気になり出します。
皆が口をそろえて「関西弁の女の子が電話をしてきた」と言うヒントで、その正体があまねであるという真相に辿りつきます。
あまねはというと、定食屋さんでご飯を食べている時に天道からスカウトされたと言います。
オーディションもなく、ただご飯を食べているだけの時に「オーケストラで笛を吹かないか」と声をかけられたのです。
翌日、もう一曲の「未完成」を練習することになります。
シューベルトがたった二楽章だけで作曲をやめてしまった、その名の通り“未完成”の楽曲。
人生の九割はリードを削っていると言うほどこだわりのあるオーボエの伊丹秀佳(小林且弥)の音と、クラリネットの可部直人(村杉蝉之介)の音が合っていないと天道が指摘したことをきっかけに、伊丹が本番用に取っておいたとっておきのリードを使わざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
一方、ホルンの島岡脩三(嶋田久作)は音色で差し歯を指摘され「今日中に歯医者に行け」と吐き捨てられました。
来る日も指揮棒ではなく大工道具を振り指揮をする天道に、楽団員の不満は香坂にぶつけられるようになっていきます。
しかしある日の練習中、「運命」を演奏していたときのこと。
香坂は、それまで何度やっても飛び出していたあまねのフルートの音が飛びださなくなったことに気が付きました。
それだけではなく、他のパートの音も再結成当初より良くなっていました。
手の都合で振っているわけではない指揮で揃っていく演奏。
楽団員の不満が消えたわけではありませんが、天道に対して不思議な実力を感じ始めていました。
演奏会のスポンサーが撤退!?
練習に励む毎日のなか、天道が5年前に起こした詐欺事件が原因で演奏会のスポンサーが降りると言い出します。
香坂たちがステージマネージャーの相馬宏明(松重豊)を訪ねていくと、詐欺に引っ掛かったのは相馬で、天道は詐欺師ではなく騙された相馬を見かねて「節税になるから」と双方合意の上で壺を買い取ったというのが事実でした。
相馬は昔、香坂の父が楽団に所属していたころもステージマネージャーをしていて、香坂の父と天道が同じ時期に同じ楽団にいたことを話し始めます。
一度その時に天道が指揮者をして、「運命」と「未完成」を演奏するはずでした。
しかし当時の天道もまた相変わらずめちゃくちゃなことばかりしていて楽団員の反感を買っていたために演奏会は開かれませんでした。
演奏会の当日に楽団員が全員ボイコットしたのです。
当時と同じ曲目で、香坂が同じくコンマスを務める楽団で、天道は何をしようとしているのか。
香坂は、天道がなぜ自分を誘ったのか疑問を抱き始めます。
そんな折、スポンサーの撤退が正式に決まりました。
せっかく練習したんだから演奏したいという声を上げる楽団員と、解散だと言い放つ楽団員。
コンマスである香坂は、「解散します」と言いました。
別れた妻に慰謝料を払わなくてはならない者もいれば、音大に通う娘の学費が必要な者もいる。
みんな生活で精一杯なのだからと各々が自分に言い聞かせるようにあきらめの表情を浮かべました。
ふたたびの解散、落胆する楽団員たち
演奏会の中止、すなわち楽団の解散という話になったその日。
第一バイオリンの村上伊佐夫(大石吾朗)はどうにもならない現実に落胆して電車に飛び込もうとしました。
間一髪のところで大声を上げたのは天道でした。
駅のホームで、自分の命より大切だというバイオリンで初めてオーディションで受かった時の曲を演奏させます。
天道の指揮と向かい合いマンツーマンで繰り広げられる演奏に人々は足を止め、演奏が終わると拍手に包まれました。
同じころ、香坂は酔いつぶれた足でバイオリンを弾きながら歩いていました。
本体だけで九ケタ、弓は値段がつけられないそれを惜しげもなく弾くのを聞いていたのはあまねでした。
気持ちのいい音だというあまねに対して、香坂は否定します。
父親の音には近づけないというのです。
そんな時、天道が姿を消しました。
家財道具をすべてヤクザに持って行かれるのを見ていたあまねが見つけたのは手描きの楽譜と“天道ハル”の名前が入った医療費の領収書。
あまねは自転車をかっ飛ばして香坂を拾い、事情を説明しながら領収書にあった病院を訪ねると、何本もの管で繋がれてベッドの上に横たわる天道ハルと思しき女性は香坂を見て「和彦さん」と声をかけました。
香坂の父と見間違えたのです。
香坂は病室でバイオリンを弾きます。
病室の空気やにおい、昔そこで父が弾いていたバイオリンの音を思い出しながら。
夢だと思っていた音は、父と天道の音でした。
その時まだ子供だった香坂に「この世で一番美しいものは音楽でしょ?」と声をかけたのが、天道ハルでした。
“天籟”の音
楽団の解散後、コントラバスがの今泉徹(池田哲洋)が忘れ物を取りに倉庫にやってきたとき、天道が一人で指揮をしていました。
その振りを見て何の楽曲のどこかわかってしまった今泉は楽器をケースから出して演奏しだします。
ティンパニーの丹下浩(中村倫也)も、他の楽団員も演奏したい気持ちを消せず示し合わせたように集まってきます。
そして香坂が家のドアを開けた時、何かが落ちる音がしました。
ドアにひっかけてあった「一緒にやろう!」というあまねからのメッセージ付きの封筒の中には、手書きの楽譜が入っていました。
楽譜の隅に見つけた“天籟”の文字は、父が生前語っていた「演奏の後の静寂のなかに訪れるもの」。
香坂はそれを見て楽団に戻ることを決心します。
演奏会当日、ホールは満員御礼。
本番前のピリピリした空気の中、それぞれが各々のルーティーンとも言うべき時間を過ごします。
全員がステージに揃い、香坂の音をきっかけに音を合わせ、天道が指揮台に立ちました。
振るわれた腕で数名の楽団員が、練習の時よりテンポが速いことに気が付きます。
駆け抜けるような圧巻の演奏から楽団員の呼吸が聴こえるほどの静寂の後、観客たちは割れんばかりの拍手でスタンディングオベーションの大盛況でした。
翌日、演奏会の二日目。天道はハルと姿を消しました。
楽団員から様子がおかしい、と呼び出されて香坂がステージに向かうと、開演15分前のホールの客席は無人でした。
そこに相馬が現れ「事情は後程話します。みなさんは本番の準備を」と言い出しました。
揉め事になりかけたとき、客席に入ってきたのは車椅子のハルと、それを押す天道でした。
程なくして天道の口から出た言葉は“死にかけの相方のために、みんなの素晴らしい演奏を聞かせたい”なんてことではなく、世界で一番いい耳を持っているハルを満足させるような演奏をやってみろという挑戦状のようなものでした。
それは、たった一人のためのレクイエムでした。
香坂には“天籟”の音が聴こえました。
演奏会のあと倉庫を片付けて立ち去ろうとする天道を、楽団員たちは外で待っていました。
天道は「天籟の音が聞こえたか」と香坂に話しかけ、香坂は指揮棒を差し出して「これはあなたの棒です。マエストロ」と返しました。
『マエストロ!』のざっくりとした感想など
いつかの暑い日に、重くない話が見たいなぁと思いながらレンタルショップをふらふらしていて手に取ったのが『マエストロ!』でした。
vito
結果、特に見る季節を限定する作品ではなかったけれど、寒くなってきた時期に見て正解だったなと個人的に思います。
別に作品内の季節の描写が色濃いわけではなくて、ほとんど“なんとなく”の感情なんですけど。
見終わったあとに心が温かくなる感じが冬向きかな、っていう。
ちなみにその初見のときにキャストを確認していたはずなのですが、記憶力があまりない私は実際に借りた時には誰が主演かなんてこともすっかり忘れていて。見始めて、ようやく松坂桃李!!ってなる始末。
最近よく彼の出演作を見ていたので、また新たな一面を見られて楽しかったです。
vito
さて物語は、一度解散してしまった交響楽団を軸に展開していくわけですが。
きっとこれは楽器を演奏した経験のある人が見たら二割り増しで楽しめるんだろうなと思いました。
何の楽器も縁がなく生きてきた私も、経験者が羨ましいと思いつつしっかり楽しみましたけど。
だから逆に楽器に縁がなく、そこまで興味もないっていう人でも普通に楽しめる作品だとも言えます。
vito
最低、最悪から入った人物が最終的に皆の認める存在になるまでのプロセスが見事だなぁと思います。
ハッピーエンドものとか、見たあと心がスッとするような話が好きな人に超おすすめ。
個性豊かな楽団員たちの描写
オーケストラということで出てくる人数が割と多いんですが、全員ではないまでもそれぞれのストーリーが丁寧に描かれています。
香坂とあまねは楽器を手にしたきっかけや、父親との思い出から楽団の再結成からの葛藤など。主軸の人物なので特に細かく内面的な描写もされていると思います。
vito
誰も雑に扱われていないところが『マエストロ!』の好きなところでもあったりするんですが、細かくそれぞれの話を書くとこれから見るのがつまらなくなってしまうと思うので割愛しますね。
vito
本当に“あらすじ”なので、ここまで読んでしまった人でも「こんなこと書いてなかったじゃないか!」と思うようなことがあったりもします。
誰にでも起こり得るような物語ではないけど、なんだかちょっとイイ話を見たい人はぜひ見てみてください。
vito
『マエストロ!』まとめ
「『この世で一番美しいものは音楽』僕もそう思います。だから映画は負けっぷりを観てもらうしかない、その潔さに感動しました。」ー吉田大八さん(映画監督) #マエストロ pic.twitter.com/m0GbGOAbfh
— 映画『マエストロ!』 (@maestro_2015) February 12, 2015
以上、ここまで『マエストロ!』についてネタバレありで紹介させていただきました。
- 一度解散した交響楽団が再結成するなんて胸アツきっかけから始まる物語
- 楽器演奏の経験がある人はもちろん、経験も興味もない人でもきっと楽しめる作品です
- 個性豊かなキャスト陣のなかで一人でも好きな役者さんがいるなら見た方が良い!