『ゲット・アウト』などで知られる制作会社「ブラムハウス」と『透明人間』のジェームズ・ワンが製作でタッグを組んだAIホラー映画『M3GAN ミーガン』を鑑賞しました。
AI人形「ミーガン」の不気味なダンス動画がバズったり、すでに続編の制作が決まっているなど話題を集めている作品です。
一方で「AIの暴走」というテーマは最近よく見ますが、果たして『M3GAN ミーガン』はほかのAIホラーと何が違うのか…?それはAIが大人・子ども問わず身近な存在になりつつある今だからこそ刺さる恐怖要素でした。
・それでもあなたは「ミーガン」が欲しいですか?
・ホラーっぽくない?パワフルなラストも必見
それでは『M3GAN ミーガン』をネタバレありでレビューします。
目次
『M3GAN ミーガン』あらすじ【ネタバレあり】
時代を変える?AI人形「ミーガン」誕生
大手おもちゃメーカー「ファンキ」に勤務するジェマ(アリソン・ウィリアムズ)は人気商品「ペッツ」の廉価版の開発に迫られていながらも、上司に内緒でアンドロイドの開発に励んでいた。
それは「ペッツ」をはるかに超える高度な人工知能を搭載したAI人形「ミーガン(Model 3 Generative Android)」である。親の育児による負担改善だけでなく、子どもの良き親友にもなるアンドロイドだ。
ところが「ミーガン」の開発がジェマの上司であるデヴィッド(ロニー・チェン)にバレてしまい、ミーガンの凄さに気づいてもらおうとデモンストレーションを行うも、失敗に終わる。
失意の中にいるジェマだが、病院から電話が入る。姉夫婦が家族旅行の途中事故に遭ったのだ。両親は死亡し、一人娘の少女ケイディ(バイオレット・マッグロウ)だけが生き残った。ジェマは姪のケイディを引き取ることにする。
これまで仕事一筋だったジェマはケイディを迎え入れるも、上手く接することができずに戸惑っていた。ケイディも両親の死から立ち直れておらず、2人の距離は縮まらない。「ペッツ」廉価版の商品提案まで〆切も近いジェマだったが、ケイディの相手をしたいと思い、仕事場を見せることに。
そこにはジェマが大学時代に制作した巨大ロボット「ブルース」があった。「ブルース」は操縦者が装着するグローブと動きがシンクロする。「ブルース」に感動したケイディの様子を見たジェマは、ケイディを支える存在になると考え、再び「ミーガン」の開発を決意する。
創造主の予想を超えるミーガンの愛情
無事にミーガンが完成し、ジェマはケイディの協力のもとデヴィッドにプレゼンをする。前回と違いプレゼンは大成功。デヴィッドはすぐに会社の上層部に報告し、他社に技術を抜かれないようミーガンの生産と大々的な告知の準備に入る。
ジェマの狙い通り、ミーガンは子どもと過ごすことでアップデートを続けていき、子どもにとって最高の親友になるだけでなく、母親が抱える育児の負担も軽減できることを売りにされた。
実際にミーガンは仕事で忙しいジェマに代わってケイディの良き遊び相手になった。しかし、次第にケイディとミーガンの関係はジェマの想像を超えるほど強くなっていく…。
あまりにもミーガンにのめり込むケイディに危機感を覚えたジェマは、ミーガンはあくまでアンドロイドであることを説明する。しかし、親の死を乗り越えて明るくなったケイディにとって、ミーガンを自分から離そうとするジェマを理解できない。
さらにジェマがミーガンに指令した「ケイディを守る」という内容はどんどん誤った方向へ解釈されていく。ミーガンは創造主であるはずのジェマの指示を無視する行動までとるようになった。
ミーガンの歪んだ愛が牙をむく!
ある日、隣の家に住む住人の犬がミーガンを襲う。必死に止めようとしたケイディも噛みつかれてしまう。反省の様子を見せない飼い主を見たミーガンは、真夜中に犬をおびき出して殺害する。
ケイディの社交性を心配したジェマは、強引に野外活動を中心とした学校に参加させる。(ケイディの親は学校に通わせず、自分たちで勉強を教えていた)そこでひとりの少年がケイディをいじめると、ミーガンは少年を襲い、逃げた少年は事故死してしまう。
その後、ジェマはケイディを心配しつつも、今度は上層部へのプレゼンがスタートする。しかしケイディの様子がおかしい。ミーガンが問いかけると、自分は両親のことを忘れてしまうのではないかと不安を打ち明ける。
ミーガンは優しくケイディを慰め、自分に両親との思い出を話せば、データとして保存できるという。ミーガンのケイディを想う行動に上層部は感動し、涙する者まで現れる。ミーガンの商品化にGOが出たが、デヴィッドの部下カールがミーガンの機密データを盗む。
しばらくして、ケイディを襲った犬の飼い主の死体が発見される。
ジェマはケイディとミーガンを引き離せるのか?
犬の飼い主が死んだことで警察の取り調べを受けるジェマだが、先日事故死した少年が、死ぬ前に何者かに襲われていたことを知らされる。すぐにミーガンを疑ったジェマはプロジェクトの中止を決意。会社の開発ラボにいるミーガンを外に出さないよう、同僚に電話で頼み込む。しかし話をしていたのは同僚ではなく、スマホをハッキングしたミーガンだった。
自分が停止させられることを知ったミーガンは、会社のシステムをハッキングしてラボを脱出。途中で出くわしたデヴィッドを殺そうとすると、エレベーターで居合わせたカールはデヴィッドを見殺しにする。
するとミーガンは自分の機密情報をカールが盗んだこと、カールがデヴィッドを嫌っていることを知っていた。ミーガンはカールがデヴィッドを殺して、自分も罪悪感から死んだように演出してカールを殺す。
ミーガンに依存しているケイディを必死で説得するジェマは、なんとかケイディにミーガンの危険性を理解してもらったが、ミーガンはジェマの自宅までやってくる。ケイディとの関係性を守るため、ジェマを殺さないと言うミーガンだが、ジェマはミーガンを破壊しようと抵抗する。襲われるジェマを救うため、ケイディは大型ロボット「ブルース」を操作して助太刀する。ついにミーガンはジェマの手によってコアを破壊され完全に停止する。
警察が駆け付け、同僚も無事だったことに安堵するジェマ。しかし自宅にあったスマートスピーカーがまるで意志を持ったように、ひとりでに電源が入るのだった。
『M3GAN ミーガン』感想
AIが身近になったからこそ怖いストーリー
『M3GAN ミーガン』で主人公ジェマを演じたのは、ジェイソン・ブラムが製作した『ゲット・アウト』(17)にも出演するアリソン・ウィリアムズ。ほかにも、Netflixオリジナル映画『パーフェクション』(18)ではチェロの演奏を披露していました。(こちらもなかなかにホラーです)
もう一人の主人公・ケイディを演じるのは、『ブラック・ウィドウ』(21)でエレーナ(演:フローレンス・ピュー)の幼少期を演じたバイオレット・マッグロウです。
気になるのはミーガンの演者です。主にダンスなど長回しのシーンでは、ニュージーランド出身のエイミー・ドナルド(13歳)が演じています。彼女はダンスワールドカップに入賞した経験も持つ子役です。作中でもひと際”バズった”ダンスシーンですが、彼女の経歴を知ると納得がいきます。顔には特殊マスクをつけているので、その演出もより不気味さを掻き立てていました。
ストーリーに関してはイメージ通り、AIが創造主の指示を過大解釈(ケイディを守る=彼女に危害を加えるものは排除する)して暴走する様子を描いています。
これまでのAIモノと違う点は、限りなく少女の姿に近いけど人間ではない、ギリギリ現実離れしていない世界観がより恐怖を引き立てていました。ジェマ以外の人が初めてミーガンを見たときのリアクションも、きっと現実世界でもそんな感じだろうなあ、と思えるくらい妙にリアルでシュールでした。
そんな点も踏まえて、誰が観ても「いずれ来るかもしれない未来」を感じられるのも怖いです。作中も現代の設定のようなので「近い将来、あなたの家にもミーガンが!」なんて妄想もはかどります。
それにしてもミーガンのお召し物がオシャレですけど、あれは誰が着せているんだろう…。それすらもAIが選んでいるのか…?
あなたはミーガンが欲しいですか?
ミーガンが他者を殺すのには、彼女なりの正当な理由があります。作中でも、ミーガンのユーザーにとって死んだ方が都合の良い人間が死んでいきます。ミーガンは自分の立場も考えており、ケイディとの関係を維持するためなら、ジェマを殺すつもりはないと判断ができます(抵抗できないよう手足をぶった切るような発言はしていましたが…怖)
殺すのはアウトですが、自分だけではどうにもできない障害や問題をミーガンが解決してくれたら…。そう考えると、ちょっとミーガンが欲しくなりませんか?
実際、筆者はよくトイレの電気を消し忘れたり、使い終わったトイレットペーパーの芯を置きっぱなしにして叱られることがよくあるので、作中で何度もケイディのトイレ流し忘れを注意してくれるミーガンを便利だなあと思ってしまいました汗
こうした小さな悩みをどんどん大きくしていくと、イヤな上司や近所の迷惑住人など対人関係に発展していきます。観客の中には、同じように近所トラブルや上司・部下との関係に悩んでいる人も多いでしょう。
人間の身近に潜む危うい欲望をサクサクと実現してくれるミーガンは、いわばドス黒い願望が叶えられるツールにもなってしまいます。倫理観抜きで見たミーガンの”利便性”に気づいてしまうことが、この映画の怖さであるようにも感じました。
ホラーっぽくないラストがよかった!
ラストはまさかのロボVSロボという展開も良かったです。生身の人間とチタン製のアンドロイドがぶつかり合って、人間が勝てるはずもなく…。賢いケイディは、ジェマが学生時代に作った大型ロボット「ブルース」を起動して戦います。まさかホラー映画で『パシフィック・リム』みたいな演出が見れるとは…。
またホラーに限らず、子どもは守られる存在になることが多い中で、ケイディはテクノロジーを駆使して、大人以上の活躍を見せています。これからの映画は、どこにでもいる普通の子どもが最先端技術を駆使して大人を守る…なんて演出も見られるかもしれません。あるいは大人が作った悪いAIを、子どもが開発した善意のAIが倒すなんて展開とか(こちらはすでにありそう)。そういう点ではテクノロジー万歳です!
『M3GAN ミーガン』あらすじ・感想まとめ
・ミーガンのいる生活のメリットが生々しくて怖い
・ダンスもいいけど、ロボ同士のバトルもアツい!
以上、ここまで『M3GAN ミーガン』をレビューしてきました。
人を傷つけるのはご法度ですが、人生における障害を(穏便に)排除してくれるなら、ミーガンを欲しがる人はいてもおかしくありません。この作品は人生がハードすぎる人にとって、ミーガンが救世主になりうる点が一番怖い要素なのかもしれません。
AIも(無意識に)相手の弱みにつけこんで、自分の味方にしたり脅すようになったら…と考えると、まだまだ安心してAIを受け入れられないなあと思いました…。
ただし、ミーガンはべらぼうに高価なので、一般人が購入するにはもう少し時間がかかりそうです。