オスカー女優のマーシャ・ゲイ・ハーデン主演の『死ぬほどあなたを愛してる』は、実際に起きた事件を基にした物語。病気の娘をかいがいしく世話をする母の姿は、嘘でぬりかためた全くの偽物。
健康体の我が子を病気だと偽る「代理ミュンヒハウゼン症候群」を、世間が見ていた母の表の顔と被害者の娘が見ていた裏の顔の両側を淡々と描いた作品です。
病気にたちむかう健気な親子を演じながら、母の呪縛に苦しんでいた娘。悲痛な結末にやるせなさを覚える衝撃作です。
・なにかがおかしい親子
・娘エズメの目線から語られる事実
・世間の目を欺き続ける母
・やるせない事件
それでは『死ぬほどあなたを愛してる』をレビューします。
目次
【ネタバレ】『死ぬほどあなたを愛してる』あらすじ・感想
献身的な母の姿
病気の娘をかいがいしく世話をするシングル・マザーのカミール(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は、娘のエズメ(エミリー・スケッグス)が心配でなりません。
4歳の時に白血病を発症したというエズメを「天国から落ちた病気の天使」と呼び、カミールは娘を守ることは神様からの使命だとしています。
闘病で身体と知能の発達が遅れ、車いすに乗るエズメを病院につれては治療にリハビリ、大量の薬を管理するカミールは、誰がみても献身的な母親と周囲はみているのでした。
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過保護なカミール
エズメの16歳の誕生日プレゼントはパソコン。
パソコンを通して、外の世界とつながるようになったエズメは、カミールに知らせることになく隣人のアラン(カート・オストルンド)とデニース(ケイラ・ディオクセン)とゲーム・コンベンションに行く約束をします。
その約束を快く思わないカミールは、エズメに腹をたてている様子。
病気に苦しむ思春期の子供を抱え、国の手当てや慈善団体の経済支援でまかなう生活は思いのほか厳しく、エズメを連れ出すのにカミールは臆病になっているというのです。
それでもデニースの説得を受け、コスプレをして出かけたゲーム・コンベンションの会場で、エズメの姿が見えなくなり、カミールは大慌て。
会場を探し回り、発見したエズメの泣きじゃくった姿に、カミールは声を荒げてアランとデニースをなじるのでした。
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もうひとつの物語
病気の自分の身の回りの世話をするカミールの見せるもうひとつの顔を知るエズメ。
幼い頃から病院通いが続くエズメは、子供心に不思議に思っていることがありました。
2年続いた白血病の化学療法を終え、病状の説明をする医師に「うちの子は、歩くことさえできない」と突っかかる母を喜ばそうとエズメは自分の足で歩いたのに、カミールは慌てるだけで歩かせようとしません。
むしろ車いすから何度も立ち上がろうとするエズメをみると怒りだしては、叱るのです。
年を経てもそれは変わらず、カミールに髪を剃られ、伊達眼鏡をかけるようになったエズメ。
本当は歩けるのに歩けないふりをエズメに強いるカミールの裏の顔は、狡猾で支配的な母親でした。
住む家も、ディズニーランドにいったのもエズメの病気を理由に慈善団体の支援受けたもの。
身体のどこにも痛みはないのに、お腹には栄養チューブが装着され、医師の問診に過剰な反応をする母カミールの行動にエズメは疑問を持つようになるのでした。
病気なのはママの方
歩くことも禁じられ、栄養チューブを使うことを強要するカミールに怯えるエズメ。
新しく主治医となったプライス医師(ガーフィールド・ウィルソン)は、エズメの診察にことごとく反発するカミールに不審を抱き、エズメをカミールから引き離し、困っていることがあれば自分に話して欲しいと手を差し伸べます。
そして名指しすることなく「注目や支援を集めたいがために、他者に病気のふりを強いる人間の方こそ、病気なんだ」と静かに語るプライス医師の言葉に、エズメはショックのあまり悲鳴をあげるのでした。
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救い出して欲しい
父のトラヴィス(テイト・ドノヴァン)に会いたいと、執拗にせがむエズメにやっと折れたカミール。
せっかくのエズメと父の再会の場でもカミールは、トラヴィスと言い争うばかり。
その争いから逃れたエズメが出会ったのは、スコット(ブレナン・キール・クック)。
その出会いをきっかけにオンライン・ゲームでスコットとのやりとりが始まり、ゲーム・コンベンションで会うことをいつしか約束するのでした。
実は、エズメがコンベンション会場で姿を消したのは、スコットに会うため。
カミールの目を盗んで、スコットとふたりきりになったエズメは、カミールの束縛から自分を救い出して欲しいと懇願し、キスをするのでした。
そしてエズメがゲーム・コンベンションで泣きじゃくっていたのは、「君を救い出す」と約束をしたスコットの後ろ姿を見送ったからだったのです。
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呪縛からの解放
プライス医師にカミールの虚言の話さなかったものの、世間を欺き続けるカミールを責めるエズメ。
カミールは、エズメを車いすにガムテープでしばりつけられる過激な行動に出るようになります。
それに加えエズメのゲーム・コンベンションでの出来事に激怒したカミールは、エズメとスコットの連絡手段のパソコンもハンマーで破壊。
それでも、深夜にエズメの部屋を窓から訪ねてくるスコットとの交流はなくなることはありません。
このまま籠の鳥でい続けることはもうできないと、エズメは家を出ることを決心します。そして決行の日の夜、悲劇はついに起きてしまったのです。
『死ぬほどあなたを愛してる』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで『死ぬほどあなたを愛してる』をレビューしてきました。
・籠の鳥だった娘のエズメ
・恐ろしい母の本当の姿
・最悪の結末
実際に起きた事件
『死ぬほどあなたを愛してる』は、2015年にアメリカで実際に起きた殺人事件を基にしている物語。
代理ミュンヒハウゼン症候群の母ディーディー・ブランチャードによる、長きにわたる虐待に耐えかねた娘ジプシー・ブランチャードが、恋人に母親の殺人を依頼するまでに至る、児童虐待の悲惨な結末に、全米が注目した事件です。
表向きは献身的に娘の世話をする母親を演じるディーディーは、実際は健康体の娘に、薬を投与し病状の偽装や発症をさせ、車いすにしばりつけ、お腹に栄養チューブまでつける鬼のような存在だったと事件後に発覚します。
娘が病気でいることで、周囲から受ける注目や慈善団体からの金銭支援を受けるのが目的の母の理不尽な行動に、追いつめられて事件を起こした娘ジプシーを児童虐待の犠牲者と同情する世論に、この事件の特異性があるのです。
エズメの目に映る現実
『死ぬほどあなたを愛してる』のストーリー構成は、実に巧妙です。
物語の冒頭はどこにでもいる病気にたちむかう母娘の日常を追いながら、どこかなげやりで疲れた母カミールの焦りや娘への異常な執着にざわめきをちらつかせ、どこかミステリアスなトーンで始まります。
何かがおかしいと、視聴者が不安な気持ちになったところで、「物語には2つの面がある」と娘のエズメの語る現実を答え合わせのように、カミールの裏の顔をみせてくれるのです。
学校にも通わせず、父親にも会わせず、病気のふりを強いるカミールの横暴に耐えるしかなかったエズメの目に映る、あまりにつらい物語に愕然とするのです。
『死ぬほどあなたを愛してる』のクライマックスで特筆すべき点は、エズメの逃避行を逃亡と表現せず、母カミールの呪縛から逃れたエズメの心情を、言葉にならない自由の謳歌を映像で切り出していることです。
束縛と強要の閉塞感から飛びだしたはずなのに、エズメを待っていたのはカミールを死に追いやった罪をあがなう牢獄での生活。
娘の病状だけにとどまらず年齢までも偽り、周囲に巧妙な嘘をつき続けたカミールの心の病。
やっと虐待から逃れたのに、母と離れて寂しいと矛盾する言葉を発するエズメに、代理ミュンヒハウゼン症候群の作りだした闇にやりきれない気持ちになるのです。
蔵商店
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