近年、国内外を問わずLGBTQ関連の映画やドラマが続々と公開、放送され1つの作品ジャンルとして確立されてきています。
今回はその中からとくにおすすめの外国映画を、社会派とラブストーリー重視の作品で分けて紹介します。
目次
LGBTQ映画おすすめ5選【社会派編】
『BPM ビート・パー・ミニット』
1990年代初めのパリで、エイズ患者やHIV感染者への不当な差別や偏見に抗議した実在の団体、ACT UP Parisに所属する若者たちの活動を描く青春ドラマ『BPM ビート・パー・ミニット』。
監督・脚本のロバン・カンピヨ自身が団体のメンバーであった経験を基に描き、第70回カンヌ国際映画祭ではグランプリを獲得しました。
エイズ治療がまだ確立せず、世界的にも差別や偏見が横行していた1990年代初頭。
パリで活動するACT UP Parisはそのような世論の風潮を正そうと、あらゆる抗議活動を行っていました。
そのメンバーであるショーンは、HIV陰性でありながらも活動に参加する青年ナタンと恋に落ち、深く愛し合います。
しかし、ショーンはすでにHIV感染しており、次第にエイズの症状が表れ…。
‘ACT UP’とは、1987年にニューヨークのレズビアン&ゲイコミュニティを中心に結成された団体であり、「沈黙=死」を合言葉に製薬会社や政府などへ抗議活動を行いました。
当時はエイズ禍と呼ばれ、エイズ患者やHIV感染者に対して悪評や誤情報が飛び交い、心無い差別が横行する時代でした。
そのため本作に登場する‘ACT UP Paris’もそのような状況を打開するために活動を行いますが、製薬会社に血のり爆弾を持って襲撃したり、勝手に高校に押し入ってコンドーム配りを始めるなど過激な行動をします。
小松崎 ともえ
本作の原題である『120 battements par minute』とは通常よりも早い心拍数を意味しています。
権利を勝ち取るために激しく戦い、限りある時間を懸命に生き抜いた彼らへの想いが込められているのかもしれません。
本作に登場するショーンはそれを体現したキャラクターであり、またエイズが悪化し衰弱していくショーンを最期まで献身的に支えるナタンとのラストは印象的です。
小松崎 ともえ
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『ダラス・バイヤーズクラブ』
HIV陽性を診断され、余命30日と宣告された男が身体に負担の少ない未承認の薬を売る組織を設立。
それを妨害する製薬会社や国を相手に生きるための戦いをした実在の人物、ロン・ウッドルーフの波乱の半生を描く人間ドラマ『ダラス・バイヤーズクラブ』。
主役のロンをマシュー・マコノヒー、ロンの相棒となるトランスジェンダーのレイヨンをジャレッド・レトが演じ、第86回アカデミー賞、第71回ゴールデングローブ賞では2人そろって最優秀主演&助演男優賞を獲得するという快挙を成し遂げました。
1985年、酒や女、賭け事に興じてその日暮らしの自堕落な生活を送る男ロン・ウッドルーフ。
ある日彼はHIV陽性と診断され、余命30日と宣告されます。
しかし、当時のアメリカには認可治療薬が少なかったため、ロンは生き延びるために代替薬を求め国外へ出向きます。
その後偶然出会ったトランスジェンダーのレイヨンを相棒に、未承認薬を販売する‘ダラス・バイヤーズクラブ’を設立しますが…。
マシュー・マコノヒーといえば、『ダラス・バイヤーズクラブ』より以前の作品『マジック・マイク』ではマッチョな男を演じでおりましたが、本作では主人公のロンを演じるために21キロの減量を果たしました。
小松崎 ともえ
そして、ジャレッド・レトも13キロ以上の減量に成功。
実在の人物ではありませんが、この物語での重要なロンの相棒、美しいトランスジェンダーのレイヨンを熱演しました。
本作ではそのような徹底した役作りで臨んだ2人が演じる、ロンとレイヨンの友情も見どころ。
ロンは最初、同性愛者を心良く思っておらず、国外から調達した未承認薬の販売に手を貸すと押しかけて来たレイヨンとはゲイコミュニティに販路を広げるためにしぶしぶ手を組みました。
しかし、レイヨンやその仲間たちと行動を共にするうちに、ロンはみんなの良さを理解していきます。
スーパーでレイヨンをバカにする男に遭遇した時には、その男を締め上げて追い払うなど次第に心境が変化。
レイヨンも自分をかばってくれたロンの行動を見て、嬉しそうにはにかみます。
そして、ロンは設立した‘ダラス・バイヤーズクラブ’の会員のためにも、少しでも良い薬を調達しようと積極的に動きます。
しかし、当時は副作用が強い別の投薬を推奨していた政府や製薬会社がロンたちを妨害。
‘個人の健康のために薬を飲む権利’が侵害されるという事態に、ロンは徹底抗戦の構えをとります。
小松崎 ともえ
実際のロン・ウッドルーフ本人はHIVの診断を受けてから7年後の1992年まで生き延びました。
1人の男が挑んだ生きる権利のための戦いをぜひ見届けて下さい。
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『ミルク』
1970年代、同性愛者であることを公表して公職に就いたアメリカ初の政治家ハーヴェイ・ミルクの半生を描く人間ドラマ『ミルク』。
マイノリティたちの権利と平等を守るために戦い、1978年に凶弾に倒れたミルクはタイム誌が選ぶ20世紀の英雄100人の中に選ばれており、今もアメリカ国民の尊敬を集める人物の1人です。
第81回アカデミー賞では、最優秀脚本賞とミルク役のショーン・ペンが最優秀主演男優賞を見事獲得しました。
金融や保険業界で働いていた同性愛者のミルクは年下の恋人スコットとサンフランシスコに移住し、小さなカメラ店を始めます。
人柄の良いミルクは地元のゲイやヒッピーたちに慕われ、店は彼らのよりどころに。
そして、彼らを快く思わない保守派に対抗し、新しい商工会を結成します。
その後も世間の差別や偏見と戦い続けたミルクは、市政執行委員会の選挙に立候補することになり…。
人種やマイノリティでの差別を無くすために戦った著名な活動家や政治家は多数いますが、本作はその中でも日本ではあまり知られていないアメリカの偉人ハーヴェイ・ミルクの生きざまについて知ることができます。
ゲイであることを公表し、マイノリティへの偏見に満ちた1970年代に政治家として当選することは大変困難なことでした。
立候補したことへの脅迫にも屈せず、積極的な活動で支持者を増やしますが連続して落選。
くじけそうになるものの、当時のサンフランシスコ市長マスコーニや多くの有権者の応援を得てついに初当選する場面は、アメリカの歴史が動いた瞬間です。
小松崎 ともえ
そして、ミルクの人柄の良さだけでなく有権者から注目されるための戦略的なアピール方法や、相次ぐ恋人との不幸な別れなど決して幸せとは言い切れない彼のプライベートな部分も明かされ、ドキュメンタリーのように観ることもできます。
また、マイノリティの市民権を脅かす悪法が提案されたり、ミルクを殺害した市政執行委員ダン・ホワイトとの確執なども作品独自の解釈を踏まえつつ丁寧に描かれており、当時のミルクを取り巻く過酷な政治状況が理解できます。
小松崎 ともえ
『ストーンウォール』
現在に至るセクシャル・マイノリティの社会運動の原点となった1969年に起こった事件‘ストーンウォールの反乱’を参考に、独自のアレンジを加えて、1960年代のニューヨークに住むLGBTQの若者たちの苦悩と恋、そして自由を求める戦いを描いた青春群像劇『ストーンウォール』。
監督・製作は、自身もゲイであることをカミングアウトしている巨匠ローランド・エメリッヒです。
主人公のダニーはゲイであることが発覚し、両親に見放され故郷のインディアナ州からニューヨーク・グリニッジ・ビレッジのクリストファー・ストリートへやってきます。
そこでダニーはゲイのギャングを率いるレイや、政治活動家のトレバーらと出会うことに。
その街ではさまざまなセクシャル・マイノリティたちが身を寄せ合いながら暮らしていましたが、警察による暴力的で理不尽な捜査が激化していました。
そんな中、彼らが常連として通うバー‘ストーンウォール・イン’にも捜査の手が。
ダニーたちの怒りはついに限界を越え、警察との全面対決に発展していきます…。
小松崎 ともえ
しかし、反乱がおこったいきさつや、当時のセクシャル・マイノリティを取り巻く厳しい状況などがよく理解できる作品になっています。
主人公のダニーをなにかと気にかけるレイの保護者ぶりや、苛酷な環境でも明るく生きようとするクリストファー・ストリートの個性豊かな住人たちは注目ポイントです。
1960年代のアメリカでは同性愛者は精神疾患とみなされ、まともな雇用もなく飲食店では酒も飲めないという正に‘人にあらず’のような非人道的な扱いを受けていました。
本作は、当時の抑圧されてきた人々がリスクを恐れず立ち上がった様を描き、彼らの戦いが今のアメリカでのLGBTQの権利獲得にしっかりとつながっていることが理解できます。
また、登場人物たちがゲイのアイコンとして親しまれたジュディ・ガーランドの話をする場面も多々あり、現在ではジュディの死が‘ストーンウォールの反乱’のきっかけになったという説もあります。
小松崎 ともえ
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『パレードへようこそ』
1984年、サッチャー政権下のイギリスで実際にあった炭坑労働者たちのストライキと、彼らを支援するために募金活動をした同性愛者たちとの友情をユーモアに溢れた温かな視線で描く『パレードへようこそ』。
1980年代のロンドンの街並みやファッションが再現され、カルチャー・クラブ、ザ・スミス、ブロンスキ・ビートなど当時の名曲が作品を盛り上げます。
サッチャー首相が発表した炭坑閉鎖案に抗議するストライキに心を動かされた青年マークは、彼らを支援するためにゲイの仲間たちと募金活動を始めます。
マークは‘LGSM(炭坑夫支援レズビアン&ゲイ会)’を立ち上げ、集めた寄付金を送ろうと全国炭坑労働組合に連絡しますが、ゲイという理由で彼らの申し出はことごとく無視されることに。
そのため、直接炭坑に連絡を取り始めるマーク。
そして唯一受け入れてくれる炭坑を発見し、さっそくそこの代表者と会うことになりますが…。
実話を基にしたLGBTQ関連映画は過去のセクシャル・マイノリティを取り巻く過酷な状況から、重厚なストーリーが多いですが、本作は終始明るく楽しい作品となっています。
とくに善意の寄付の申し出をあしらわれても諦めず、また新聞に中傷記事を書かれてもそれを逆手にとって自分たちのチャリティーパーティーを成功に繋げるマークたち‘LGSM’のポジティブさには元気をもらえます。
そして、勘違いから‘LGSM’の寄付を受け入れてしまい、彼らを異星人のごとくみていたウェールズのディラス炭坑の人々が次第にマークたちの優しさを理解し歩み寄っていく過程には、観ている方も心が温かくなります。
また、炭坑の奥様方のパワフルかつチャーミングなキャラクターも必見。
そして、‘LGSM’とディラス炭坑の住民たちとの絆の象徴となるシーンである‘プライド・パレード’は、先程ご紹介した『ストーンウォール』で描かれる‘ストーンウォールの反乱’を記念して、世界中に広まったものです。
小松崎 ともえ
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LGBTQ映画おすすめ8選【ラブストーリー編】
『アデル、ブルーは熱い色』
フランス発の人気コミックが原作であり、第66回カンヌ国際映画祭では最高賞のパルムドールを受賞した『アデル、ブルーは熱い色』。
パルムドールは本来、監督のみに授与される賞ですが、作品に深く感銘を受けた審査員長スティーブン・スピルバーグの計らいによって主演のアデル・エグザルコプロスとレア・セドゥにも授与され、カンヌ映画祭史上初めての出演者がパルムドールを手にしたことでも話題になりました。
教師を目指す高校生アデルは、青い髪をした美大生エマと運命的な出会いを果たします。
エマの知性や独特の雰囲気に魅了されたアデル。
エマもアデルを意識するようになり、やがて2人は激しく愛し合います。
数年後、念願の教師になったアデルは画家となったエマと同棲し、幸せに過ごしていましたがある時から2人の気持ちは次第にすれ違っていき…。
『007 スペクター』では美しいブロンド髪のボンドガールを演じたレア・セドゥですが、本作では印象的な青い髪に中性的な魅力を持つ美大生エマを演じています。
小松崎 ともえ
また、顔のアップのシーンが多く、アデルとエマの熱のこもった絡み合う視線や2人が次第に惹かれ合っていく様がリアルに伝わってきます。
そして、アデルとエマが全裸で互いを激しく愛撫しあう濃密なラブシーンも必見。
レア・セドゥとアデル・エグザルコプロスの美しい裸体を惜しげもなく堪能できます。
アブデラティフ・ケシシュ監督はどのシーンもリアリティーを追求するため、60回以上テイクを重ねることもざらな大変な現場だったとのこと。
また、本作はアデルとエマの蜜月の日々だけでなく、セクシャル・マイノリティに対する2人の家族の温度差や長年の交際で分かってくる互いの考え方の相違などもまるでドキュメンタリーを観ているかのように丁寧に描かれ、本編の179分という長尺に監督の熱意が感じられます。
小松崎 ともえ
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『リリーのすべて』
1930年代に世界初の性別適合手術を受けた実在のデンマーク人画家と、その妻の献身的な愛を描いたドラマ『リリーのすべて』。
性別の違和感に苦悩する主人公アイナー・ヴェイナー(後にリリー・エルベと改名)をオスカー俳優のエディ・レッドメインが熱演。
主人公を支える妻ゲルダをアリシア・ヴィキャンデルが演じ、第88回アカデミー賞の最優秀助演女優賞を獲得しました。
風景画家として活躍するアイナーはある日、同じく画家である妻ゲルダから女性モデルの代役を頼まれ、その時に自分の内面にある女性的な部分を感じ取ることに。
それ以来、アイナーは‘リリー’という名前の女性として過ごす日々が増えていきます。
そんな夫の様子に最初は戸惑うゲルダでしたが、次第に彼を理解していき、心と体の不一致に苦悩するアイナーを支えようとします。
本作では今から100年近く前のトランスジェンダーの先駆者となったリリー・エルベの生き様が描かれ、この難役に挑んだエディ・レッドメインの高度な演技力に圧倒されます。
物語の最初では、襟の高いフォーマルスーツを着こなしたり、妻ゲルダとイチャイチャしていたアイナーが女性モデルの代役でタイツやヒールを身に着けて以降、どんどん女性としての本当の自分を発見し、生まれ変わっていく過程は注目ポイント。
小松崎 ともえ
また、愛する夫アイナーが女性になっていくという当時の常識では考えられないような状況を目の当たりにする妻ゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルも迫真の演技を披露。
最初はアイナーの変化を受け入れられず、元に戻ってほしいと願っていたゲルダが葛藤を抱えながらも、最愛の夫の気持ちを尊重し、性別適合手術へ後押しをしていくまでの表情はゲルダの辛い心情がよく伝わってきます。
しかし、医者からアイナーが精神病者呼ばわりされた時も決して匙を投げず、正当な診断をしてくれる医者を諦めずに探し続けるなど、アイナーが‘リリー’として生きることができたのはゲルダの支えがあったからこそ。
小松崎 ともえ
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『霜花店 運命、その愛』
高麗時代末期の朝鮮半島を舞台に、世継ぎ問題に揺れる男色の王とその寵愛を受ける護衛隊長、そして美しい王妃との愛憎渦巻く三角関係を濃厚に描く歴史ドラマ『霜花店 運命、その愛』。
監督・脚本のユ・ハは、実際に男色の可能性があったとされる高麗時代の王をモデルに本作を制作したそうです。
政治的支配を受けていた‘元’から嫁いできた王妃との間に子供がいないことを悩んでいた高麗王は、世継ぎ問題の解決策として信頼している近衛部隊長のホンニムに自分の代わりに王妃を懐妊させるように命じます。
しかし、男色の王にとって愛していたホンニムに王妃の相手をさせることは辛い選択でした。
ホンニムと王妃も最初は仕方なしと考えていましたが、身体を重ねるうちに2人は次第に惹かれ合っていき…。
小松崎 ともえ
そんな王とホンニムの関係性だけでなく、まるで官能小説のようで本当にしているのではないかと疑いたくなるような、ホンニムと王妃の複数回にも及ぶ大胆なベッドシーンには目が離せません。
ホンニム演じるチョ・インソンと王妃を演じるソン・ジヒョが、抗えない欲望に飲まれていく様を体当たりで演じています。
そして、そんな2人の変化を敏感に感じ取った王は嫉妬に狂い、可愛さ余って憎さ百倍の凶行に走っていきます。
物語の後半で王がホンニムに対して行った過激な仕打ちは、他の作品ではお目にかかれない非道なもの。
大きく狂った3人の運命は、果たしてどうなってしまうのか。
小松崎 ともえ
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『ブロークバック・マウンテン』
第78回アカデミー賞では8部門ノミネートで監督賞、脚色賞、音楽賞の3部門を受賞したゲイ映画の金字塔『ブローク・バックマウンテン』。
監督は『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』『ジェミニマン』の巨匠アン・リーが務めました。
主演は2008年に亡くなった若き名優ヒース・レジャーと、現在も活躍中の実力派ジェイク・ギレンホール。
小松崎 ともえ
1963年のアメリカ、ワイオミング州。
ブロークバック・マウンテンの期間限定での仕事に参加しに来た、カウボーイのイニスとジャック。
最初はたまたま一緒に組んでいた2人でしたが、共に同じ時間を過ごして仕事をこなすうちに、いつしか彼らの間には友情以上の感情が芽生え始め…。
物語の前半は、ブロークバック・マウンテンの厳しい環境下のなかでお互いに助け合うイニスとジャックが少しづつ打ち解けて精神的、肉体的にも結ばれていく様子が美しい自然を背景に丁寧に描かれます。
本作は先程ご紹介した『ストーンウォール』と同じ1960年代が舞台となっており、セクシャル・マイノリティへの風当たりが今では考えられないほど厳しい時代でした。
そして、イニスは過去に自分の故郷に住んでいた同性愛者がなぶり殺しにされたこともトラウマとなり、自分に愛を注いでくれるジャックになかなか素直になれません。
物語の後半、山での仕事が終わり2人はそれぞれ家庭を持ちましたが互いを忘れられず、その後20年近く逢瀬を重ねることに。
イニスの妻アルマが2人の関係に気付き、ひどく傷つく姿をみると、結婚しながらも関係を断ち切れないイニスとジャックが不誠実な浮気者にしかみえません。
小松崎 ともえ
辛い時代を生きた彼らの半生が描かれた後のラストシーンで、イニスが自分の正直な気持ちを言葉にする姿は観る人の心に深く染み渡る名場面となっています。
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『ゴッズ・オウン・カントリー』
‘神の恵みの地(ゴッズ・オウン・カントリー)’と呼ばれるイギリスのヨークシャー地方を舞台に、家族の代わり牧場を1人で管理する孤独な青年と、そこに短期労働者としてやってきたある男との運命の出会いを描きます。
本作は映画監督のグザヴィエ・ドランも絶賛し、映画批評サイトRottenTomatoesでは99%フレッシュの高評価を獲得しました。
ジョニーは年老いた祖母と病気の父に代わり、イギリスのヨークシャー地方にある家族経営の牧場を1人で管理していました。
孤独でやり甲斐を感じられない牧場での過酷な毎日、ジョニーは酒と行きずりのセックスで気を紛らわせます。
そんなある日、羊の出産シーズンでの短期労働のため、ルーマニア移民のゲオルゲという青年がやってきます。
はじめは何かと衝突してばかりの2人でしたが、羊の世話を通して2人の距離は次第に近づいていき…。
監督・脚本を務めたフランシス・リーは本作が初長編作品であり、また実家がイギリスのウエスト・ヨークシャーで農場を営んでいることもあって、羊の世話や牧場の労働シーンなどは監督自身の実体験が込められリアリティが追及されています。
そして、リー監督が育ってきたヨークシャーの景色は大変美しく、見どころの1つ。
小松崎 ともえ
そして、寂れた農場でやさぐれた生活を送っていたジョニーの心を変えていくゲオルゲの良い男ぶりも注目ポイント。
仕事ができて料理も上手、羊の扱いにも慣れてて子羊にせっせとミルクを飲ませてあげるシーンは子羊もゲオルゲも愛らしいです。
最初はケンカばかりだった2人が打ち解け合っていく様子は、微笑ましく観ることができます。
先程ご紹介した『ブロークバック・マウンテン』と、『ゴッズ・オウン・カントリー』は農場を舞台にした作品という共通点が。
また、1960年代を描いた『ブロークバック・マウンテン』ではゲイがばれると命の危険がありましたが、現代の話である『ゴッズ・オウン・カントリー』では、主人公のジョニーが近場で比較的気軽に一夜を共にする相手を見つける様子が描かれています。
小松崎 ともえ
また、フランシス・リー監督・脚本の最新作『アンモナイトの目覚め』は2021年4月9日(金)から日本でも公開予定。
ケイト・ウインスレットとシアーシャ・ローナンの初共演作品であり、人間嫌いの古生物学者の女性と裕福な化石収集家の妻が正反対の立場を乗り越え、互いに惹かれ合っていく姿を描きます。
小松崎 ともえ
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『君の名前で僕を呼んで』
北イタリアの避暑地で出会った17歳と24歳の青年の、生涯忘れられないひと夏の恋を描くビタースウィートな傑作『君の名前で僕を呼んで』。
主人公のエリオ役のティモシー・シャラメは初主演ながら、第90回アカデミー賞では主演男優賞にノミネートされました。
他にも作品賞、脚色賞、歌曲賞の全4部門でノミネートされ、本作は脚色賞を受賞しています。
1983年夏、家族に連れられ北イタリアの避暑地にやって来た17歳のエリオは、大学教授の父親が助手として招いた24歳の大学院生オリヴァーと出会いました。
オリヴァーは夏の間、エリオたち家族と暮らすことになっており最初は自信家なオリヴァーの態度に反発するエリオ。
しかし、何気ない日常を共に過ごすうちに、エリオはオリヴァーに特別な思いを抱くようになります。
飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍中のティモシー・シャラメの出世作となった本作は、シャラメの瑞々しい美しさを思う存分堪能できます。
彼が演じる主人公エリオは饒舌なキャラクターではないため、目線や仕草でオリヴァーへの溢れる好意を表現しており、弱冠22歳でのアカデミー賞主演男優賞ノミネートも納得の演技力です。
小松崎 ともえ
そして、本作はセクシャル・マイノリティが苦しい立場にあった1980年代の話でありながら、エリオとオリヴァーの関係を静かに見守るエリオの両親が描かれています。
やはり当時の世相は随所に反映されていますが、物語ラストの父親がエリオにかける温かい言葉は印象的で、感じの悪いキャラクターが出てこないところもLGBTQ映画としては珍しい作品です。
小松崎 ともえ
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『ムーンライト』
第89回アカデミー賞では、作品賞、脚色賞、助演男優賞を獲得。
とくに作品賞は、黒人だけのキャスト・監督・脚本家による作品が受賞したことは史上初であり大変話題になりました。
マイアミの貧困地域で暮らす少年シャロンは、家庭では麻薬常習者の母親から育児放棄され、学校では内気な性格から‘リトル’と呼ばれていじめられています。
そんな中、近所に住む麻薬ディーラーのフアン夫妻は偶然シャロンと出会って以降何かと気にかけてくれ、彼の心の支えでした。
そして、唯一の友人であるケヴィンもシャロンの良き理解者であり、いつしかシャロンは友情以上の感情を抱くようになりますが…。
監督・脚本のバリー・ジェンキンスと原案のタレル・アルビン・マクレイニーが共に住んでいた場所が同じで、母親がドラッグ中毒者という境遇が本作には反映されており、黒人貧困社会をとりまく過酷な実態を垣間見ることになります。
小松崎 ともえ
さらには、密かに想いを寄せていたケヴィンとも、‘ある出来事’のせいで絶縁状態に。
しかし、大人になったシャロンが遠ざけていた母親やケヴィンと再会し、過去と折り合いをつけながら精神的に大きく成長する姿には胸を打たれます。
小松崎 ともえ
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『ダンサー そして私たちは踊った』
ジョージア国立舞踏団の若きダンサーの切ない恋と成長を描くドラマ『ダンサー そして私たちは踊った』。
スウェーデン、ジョージア、フランスの合作で、第92回アカデミー賞外国語映画部門のスウェーデン代表に選出されました。
ダンサーである主人公メラブを演じるレヴァン・ゲルバヒアニは、実際にコンテンポラリーダンサーとしてジョージアで活躍しており、本作出演のため監督にスカウトされたそうです。
メラブはジョージアの国立舞踏団で幼少期から仲間たちと共に、ハードなトレーニングを積んできました。
そんな中、カリスマ的な魅力を持つ青年イラクリが入団、また同じ時期にメイン舞踏団の欠員補充のためのオーディションが開催されることに。
メラブはイラクリの才能に嫉妬心を持ちながらも2人は共に特訓を重ねます。
そして、次第にメラブはライバルであるはずのイラクリに惹かれていき…。
ジョージアでは現在も同性愛への反発が根強く、主演のレヴァンも最初はオファーを断ったそうですが、ジョージアの社会に変化を起こせるかもしれないと考え、参加を決めたとのこと。
しかし、本国公開時にはジョージア正教会から上映中止を求められたり、上映を阻止すべく極右集団が映画館を取り囲むなど、関係者一同は常に身の危険を感じながら制作に取り組みました。
そして、その甲斐あって世界各国の映画祭では高い評価を獲得し、喝采を浴びます。
小松崎 ともえ
日本で一時期ジェダイの騎士のようだと話題になった、民族衣装のチョハで力強く踊るメラブの姿は圧巻です。
他にもジョージアの街並みや食事シーンも印象的で、日本からはなかなか行けないジョージアの魅力を丸ごと堪能できる作品となっています。
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LGBTQ映画おすすめ13選まとめ
いかがでしたか。
年々作品の幅が広がってきているLGBTQ関連の映画に、今後も目が離せません。
これからも、LGBTQ映画には要注目です!
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