『レ・ミゼラブル』あらすじ・感想!ラジ・リがフランス郊外のリアルと根深い問題を描いた衝撃作【ネタバレなし】

『レ・ミゼラブル』あらすじ・感想!ラジ・リがフランス郊外のリアルと根深い問題を描いた衝撃作!【ネタバレなし】

出典:『レ・ミゼラブル』公式Facebbok

ラジ・リ監督の長編映画デビュー作となった『レ・ミゼラブル』はフランス国内で大ヒットを記録し、2019年のカンヌ国際映画祭では『パラサイト 半地下の家族』と最高賞のパルムドールを競いました。

ラジ・リ監督が『レ・ミゼラブル』で描き出したのは、極めてリアルな現代のフランス郊外の姿です。

ポイント
  • フランスにおける「郊外」の今を捉えた傑作
  • ラジ・リ監督の徹底したリアリズム
  • 負の連鎖の責任は誰にあるのか?

それでは『レ・ミゼラブル』についてネタバレなしでレビューしていきます。

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『レ・ミゼラブル』作品情報

『レ・ミゼラブル』

(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

作品名 レ・ミゼラブル
公開日 2020年2月28日
上映時間 104分
監督 ラジ・リ
脚本 ラジ・リ
ジョルダーノ・ジェデルリーニ
アレクシス・マネンティ
出演者 ダミエン・ボナール
ジャンヌ・バリバール
アレクシス・マネンティ
ジェブリル・ゾンガ
音楽 ピンク・ノイズ

『レ・ミゼラブル』あらすじ・感想【ネタバレなし】


フランスの「郊外」の歴史

『レ・ミゼラブル』の舞台は、パリから1時間半程度の郊外に位置するモンフェルメイユです。

この地は、ミュージカルとしても大ヒットを記録し続けているヴィクトル・ユゴーの同名小説「レ・ミゼラブル」で、主人公のジャン・ヴァルジャンが後に彼の娘となる少女コゼットに出会う舞台でもあります。

ヴィクトル・ユゴーが小説を発表してから150年以上が経過した現在のモンフェルメイユを、ラジ・リ監督は鮮明に描きだしています。

フランスにとって、「郊外」は常に闘争の場として存在し続けてきました。

フランスは様々な民族の人々で構成される移民国家ですが、その歴史には極めて複雑な経緯があります。

第二次世界大戦後の労働力不足を補うために、フランスは1945年に国家移民局を設立し、積極的に国外から移民を受け入れる姿勢を示していました。

しかし、1960年代後半からはフランス国内の失業率が高まり、フランス政府は移民を排除させる方向へ転換していくことになるのです。

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フランスで技能を身に着け、職を得て、フランスで一生暮らしていく覚悟を持って渡ってきた移民と、彼らをあくまで一時的な労働力として見なしてきたフランス政府との間に、決定的な溝が生まれたのです。

戦後にフランスに渡ってきた移民のなかで大きな割合を占めるのは、旧フランス植民地から渡ってきた人々です。

なかでも、戦後に特に増加したのがアルジェリア、モロッコ、チュニジアから渡ってきた、いわゆる「マグレブ移民」と呼ばれる人々です。

『レ・ミゼラブル』

(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

彼らは故郷を捨ててフランスに渡ったものの、結局はフランス社会に受け入れられず、十分な教育や職業訓練の機会を享受することができなかったのです。

現在の郊外には、第1世代としてフランスに渡った移民の子孫が多く暮らしています。

彼らは、故郷を知ることもなく、フランス社会に完全に溶け込むこともできずに、アイデンティの分断に直面しているという現実が少なからずあります。

移民が直面した困難について世代別に描かれている作品としては、1997年にヤミナ・ベンギギが発表した『移民の記憶』というドキュメンタリー作品が挙げられます。

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この作品は、憧れと期待感をもって海を渡ってきた父親、家族として呼び寄せられた母親、そしてフランスで生まれ育つ子どもという3者の視点から構成されています。

フランスにおいて移民が直面する深刻なアイデンティティの分断の問題と、そこから生まれる怒りは『レ・ミゼラブル』においても共通するテーマなのです。

『憎しみ』と『レ・ミゼラブル』

過去にフランスの郊外を描いた映画として有名なのが、1995年に公開されたマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』という作品です。


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若き日のヴァンサン・カッセルが主役の一人を演じていることでも知られています。

『憎しみ』は、『レ・ミゼラブル』と同じくパリ近郊の貧しい公営団地を舞台にしており、全編がモノクロで撮影されています。

この映画の主人公はパリ郊外に住むユダヤ系、アラブ系、そして黒人の若者の3人で、警察の横暴な対応にそれぞれが怒りを抱えています。

『憎しみ』は、郊外に住む若者の日常を切り取り、彼らの目線で物語は展開していきます。

そして、彼らが抱える怒りの行きつく先として、終盤には決定的なラストシーンが待ち受けています。

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『レ・ミゼラブル』は、『憎しみ』の構成から少なからず影響を受けて作られた作品であると言えると思います。

郊外の日常のなかには常に一定の緊張があり、少し糸がゆるんだ瞬間に物事が一気に悪化していくこと。

そして、郊外で起きる負の連鎖を止める術を誰も持っておらず、犠牲になるのはいつもそこで生まれる若者であり続けること。

『レ・ミゼラブル』

(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

どちらの作品にも、郊外に蔓延するどうしようもない怒りと苛立ちが閉じ込められています。

また、衝撃的なラストシーンを迎えた後に、一編の言葉が紹介されるというのも両者の共通点です。

ただし、『憎しみ』が若者3人の目線から切り取られた作品であるのに対して、『レ・ミゼラブル』は新しくモンフェルメイユに着任した新任刑事ステファンの視点から物語が進んでいきます。

ステファンは犯罪対策班に配属されますが、先輩刑事たちが移民に対して不当な職質を行い、時には暴力まで与えることに衝撃を受けるのです。

『レ・ミゼラブル』

(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

ステファンは郊外に足を踏み入れたばかりの新人であり、彼が抱える純粋な疑問や怒りは、映画を観ている観客と共通するものでもあります。

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ラジ・リ監督は、ステファンをモンフェルメイユに送り込むことによって、映画の視点に客観性を持たせ、状況をより大きく捉えることに成功していると言えるのではないでしょうか。

徹底したリアリズム

ラジ・リ監督は現在もモンフェルメイユで生活しており、この街で起こってきた出来事の数々を目撃しています。

2005年にパリ郊外で3週間にわたって暴動が拡大した際には、その様子を映像におさめ、WEBドキュメンタリー作品として発表。

2000年代の郊外に何が起こってきたのか、ラジ・リ監督が記録してきたすべての現実が長編映画の製作へと繋がっています。

『レ・ミゼラブル』は、2018年のワールドカップ優勝に人々が熱狂するセンセーショナルなシーンから始まります。

移民としての出自を持つ代表選手は国民のヒーローとして讃えられ、フランスは一体になったのだと言わんばかりに希望が満ち溢れているように見えるのです。

しかしそこから物語は極めて厳しい日常の姿を映し出し続けていきます。

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一瞬の間に存在したかもしれない希望を、冒頭のシークエンスに閉じ込める監督の技量は見事です。

物語の中盤では、ロマのサーカス団が飼っていた子ライオンが行方不明になり、そのことを巡って勢力同士の関係に亀裂が走るという展開があります。

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にわかには信じられませんが、これもラジ・リ監督が体験した日常のなかの一コマだというのです。

移民の若者に職質を重ね、挙句の果てに暴力をふるう警察を徹底的な悪として描くことも可能だったとは思いますが、『レ・ミゼラブル』はそのような分かりやすい二項対立の構図を映し出してはいません。

むしろ、警察も移民も、郊外での貧しさや、勢力争いに翻弄され続けている立場であることが伝わってくるのです。

『レ・ミゼラブル』

(C)SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

映画のラストで引用される、ヴィクトル・ユゴーの「友よ、よく覚えておけ、悪い草も悪い人間もない。育てる者が悪いだけだ。」という一説はラジ・リ監督のメッセージをまさに象徴するものです。

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どこか俯瞰したような目線から郊外を切り取る手法は、ラジ・リ監督の経験なくしては完成させられなかったものでしょう。

俯瞰したような視点という意味においては、『レ・ミゼラブル』のなかに出てくるドローンの存在は非常に効果的でした。

団地に住む移民の子どもがドローンを操縦しながら日常の一場面を眺めていたところ、たまたま警察と移民の子どもたちの抗争の場面を捉えるのです。

物語の展開を動かすアイテムとしてもドローンは重要な要素でしたが、視覚的にも空から映し出される団地の様子や、市場の様子は圧巻でした。

なぜなら、ドローンで映し出される小さな街角の数々においても、日々事件や抗争が起きていることが容易に想像できるからです。

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私たちが見ている物語は、全体のほんの一部にしか過ぎないのだということを痛感させられます。

『レ・ミゼラブル』まとめ

多くのフランス国民にとって、「郊外」は決してなじみ深い場所ではありません。

移民がひしめきあい、貧困にあえいでいても、それが国家全体の課題として解決されてこなかった歴史があるのです。

移民のサッカー選手の輝かしい功績にフランス国民全体が沸き立っても、問題はずっと深く根を張り続けています。

『レ・ミゼラブル』がフランスで大ヒットを記録し、マクロン大統領も鑑賞を公言していることは、少なからず本作が国全体に新たな視点から問題を提起したと言えるのではないでしょうか。

ラジ・リ監督がこれからどのような方法でフランス社会を切り取り、作品を撮り続けてくれるのか、そこに希望があるのだと信じています。

要点まとめ
  • 問題の出口が見えないフランスにおける郊外の現実
  • ドキュメンタリー作家としての才能を生かしたラジ・リ監督のこだわり
  • 観客に課題を投げかける衝撃のラストシーン

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