長年週刊連載の第一線で活躍し続け、時に鋭い社会風刺、時にギリギリのブラックジョークを生み出しては、業界関係者を震え上がらせている漫画界の鬼才・久米田康治。
一話完結の読みやすいストーリー構成の中で毎回一つのテーマから話を広げていく展開と、分かる人にはより一層突き刺さるネタ選びの上手さ、独特なキャラクターとネーミングセンスが人気を博し、たくさんの作品を手掛けてきました。
そして、久米田康治作品を語るうえで欠かせない点として挙げられるのが、「衝撃のラスト」です。
上記の通り、基本的に1話完結のギャグストーリーとして進んでいった作品が、最終回が近づくにつれて隠された伏線や衝撃の裏設定が次々と明らかになり、読了した時にはあまりの展開に圧倒される読者も少なくありませんでした。
今回はそんな久米田ワールドの中から、衝撃のラストを迎え、今なおファンから伝説として語られている作品をご紹介します。
この記事では、最終回の展開に関するネタバレも含みますので、未読の方はご注意ください。
久米田康治おすすめ漫画3選
『かくしごと』
- 父と娘のほのぼのした関係、しかしそこに隠された真実
- 連載とTVアニメの最終回を同時シンクロさせた妙技
- 漫画家久米田康治の半生を振り返る自叙伝のような作品
後藤可久士と10歳の娘・姫の平凡な父娘。
可久士は自身が漫画家であることを姫に隠しており、周囲も巻き込んで絶対にバレないように様々な手を凝らしていくハートフルホームコメディとして、物語は進みます。
しかし、その物語は本当はすでに7年前の出来事であり、可久士は漫画家を辞めた後に巻き込まれた事故により現在まで昏睡状態に陥っていました。
しかも、その後目を覚ました可久士は7年間の記憶を失っており、17歳になった姫を自分の娘だと認識することができません。
ショックを受けた姫でしたが、父の「隠し事」が「描く仕事」であることを知った姫は、可久士の記憶を取り戻すために奮闘し、そして…。
咲良
そして本作一番の妙は、原作の漫画とTVアニメの最終回をほぼ同じタイミングで制作するというメディアミックスの上手さです。
原作を読んでいる方もアニメを観ている方も最後まで結末が読めなかったので、その分最終回を終えた後の充実感は久米田作品でも随一でした。
もちろんギャグパートである「姫10歳編」も、ブラックなネタからほのぼのする家族愛まで幅広く、今から読んでも楽しめる作品です。
咲良
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『さよなら絶望先生』
- 個性豊か過ぎるキャラクターが織りなす異色派ラブコメディ
- あまりに多いネタの情報量
- 作品序盤から隠されていた裏設定に驚愕
『さよなら絶望先生』は久米田作品初のTVアニメ化作品であり、最出世作と言えます。
何事もネガティブにしか捉えられない高校教師・糸色望と、何事もポジティブしか捉えられない女子高校生・風浦可符香(P.N)が出会ったところから始まる本作は、他にも、何事もきっちりしていないと気が済まない生徒や不登校から一転して不下校になった生徒、あまりに普通過ぎる生徒など個性が豊か過ぎる面々が織りなす、異色派のハーレムラブコメディとして楽しむことができます。
また、久米田作品の特徴でもある社会風刺的なブラックジョークや業界関係者をいじった身内ネタなどが豊富であり、それらが文字の羅列や背景に描き込まれたりなど一作の中に含まれるネタの情報量があまりにも多いのが特徴です。
咲良
そして本作もギャグ漫画として進んでいく一方で、あまりにも衝撃的なクライマックスを迎えたことで、久米田作品の伝説に名を連ねました。
実は本作に登場する学校は、かつて自殺未遂で傷を負った女生徒たちによって構成された学校であり、かつて未練を残したまま亡くなった昭和の子供たちの依り代となって供養するための施設だったのです。
さらに、初めに登場したポジティブ少女の風浦可符香(P.N)は、実は高校入学の前にすでに事故で亡くなった赤木杏であり、学校の生徒たちは加符香(杏)からの臓器提供によって生き永らえた生徒でした。
臓器移植を受けた生徒たちはやがて加符香の人格を持つようになり、毎回誰かが交代で加符香の役を演じていたのでした。
生前の杏の事故を自分の責任と感じていた望は、卒業式の後に彼女たちがいる島へ向かい…。
咲良
しかし、生徒の一人である小節あびるが角膜移植の経験を話していたり、上記のように毎回誰かが加符香役を担当していたために必ず誰か一人の出番がなかったりと、物語序盤からこの設定が存在していたことが明らかになるにつれて、改めて久米田康治の世界観に驚愕したことを覚えています。
咲良
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『かってに改蔵』
- 久米田康治作品のターニングポント
- クセのあるキャラクターが繰り広げるブラックコメディ
- 伝説の最終回
連載は『さよなら絶望先生』より前ですが、その後OVAアニメ化されています。
とらうま高校の2年生・勝改蔵は改造人間であり、日夜悪と戦っている!…と本人は思っているのですが、幼馴染の名取羽美にすべり台から突き落とされたことにより天才から変人へ変貌してしまい、今日も奇行を繰り返しているのでした。
その奇行と思い込みの激しさから周りを巻き込みながら、天才塾というかつて改蔵の被害にあった元天才(自称)たちが勝負を挑んできたり、トラブルを起こすギャグストーリーですが、改蔵以外のキャラクターもひと癖ある人物が多く、さらに羽美や下っ端の坪内地丹なども当初のツッコミ役から次第に変人側へ移行していき、逆に改蔵がツッコミを務める展開にもなっています。
咲良
ところが、最終巻で最終回を迎える直前に物語が急展開し、この世界の真実が明らかにされます。
実はここは精神病棟の治療室であり、改蔵たちがいた世界は「箱庭治療」によって創り出された空想上の世界だったことが明かされるのです。
改蔵や羽美はその病棟の入院患者であり、最終回では治療が終了し、二人で退院して現実の世界へ踏み出していくところで物語は終了します。
ある意味では究極の夢オチとも言える衝撃の最終回は多くの読者から賛否を呼び、後に羽美の声を務めることになる声優の喜多村英梨も当時ショックを受けたと語っています。
しかし、久米田先生本人はかなり序盤からこの展開を構想していたことを後に明かしており、この頃から「衝撃のラストといえば久米田康治」の片鱗を見せていたのです。
咲良
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久米田康治おすすめ漫画3選まとめ
「絶望先生」作者にとって最終回は“供養”である。https://t.co/AczoL0N6zT
マンガ家・久米田康治さんが、「さよなら絶望先生」「かってに改蔵」や最新作「かくしごと」まで、“終盤の急展開”に込めた想いを赤裸々に語ってくれました。 pic.twitter.com/Hn8XBHrAw8
— ニコニコニュース (@nico_nico_news) December 1, 2020
これらの作品以外にも、元正統派スポーツコメディ(後に完全な下ネタ漫画)である『南国アイスホッケー部』や年下男子とのラブコメ『育ってダーリン』など今に繋がる多くのギャグ漫画作品から、羅列ネタの集大成『じょしらく』の原作(本人曰くフキダシ係)など、多くの作品を世に生み出してきた久米田康治。
中でも今回紹介した三作は、久米田康治=衝撃のラストという印象を確立させた作品でもあり、「あの久米田康治ならとんでもないラストを描いてくれるにちがいない!」というファンの期待を常に上回ってきた作品でもあります。
時事ネタや身内ネタも多く、後から読むには難しい点も少なからずあり、読む人を選ぶ作品ではあります。
しかし、だからこそ、刺さる人にはとことん突き刺さる久米田康治ワールドを楽しみにしているファンが多いのでしょう。
もしこの記事を読んで興味を持った未読の方は、一度この記事のことは忘れて、久米田康治ワールドの衝撃を受けていただきたいです。