韓国の近現代史を見ると軍事政権を象徴する”光州事件”や”1987年学生拷問致死事件”などがあり、韓国が本当の意味で民主化を果たすまではとても長い道のりだったことがわかります。
映画『KT』は民主化の過程で起きた実際の事件が題材で、さらに注目したいのが史上初の日韓合同作品という点。
日本ではそこそこ話題となりましたが、韓国では観客動員が全く見込めず2週間だけの公開となった「幻の作品」です。
佐藤浩市をはじめ日本の俳優陣の巧みな韓国語と、キム・ガプスをはじめとした流暢な日本語のセリフにも要注目です。
- 『KCIA 南山の部長たち』にも出てきた「KCIA」の役割とは?
- 「金大中拉致事件」の一連の犯行とその結末は!?
- 史上初の日韓合同作品に集結した両国の豪華俳優陣に注目!
それでは『KT』をネタバレありでレビューします。
目次
映画『KT』作品情報
作品名 | KT |
公開日 | 2002年5月3日 |
上映時間 | 138分 |
監督 | 阪本順治 |
脚本 | 荒井晴彦 |
出演者 | 佐藤浩市 キム・ガプス チェ・イルファ 筒井道隆 ヤン・ウニョン キム・ビョンセ 原田芳雄 香川照之 |
音楽 | 布袋寅泰 |
【ネタバレ】映画『KT』あらすじ・感想
「KT」を追う者たち
1971年、韓国では3度目の大統領選が行われ、朴正熙大統領の3選が決まったのですが、その当時彼を脅かす存在の候補者がいました。
それは野党候補の「金大中」。
敗れたものの予想をはるかに上回る票数を獲得した彼を含む「反対勢力」の存在を再確認した朴大統領は、自らの政権に反発する者はみな「武力」で弾圧します。
そんな中、金大中は日本とアメリカを行き来しながら亡命をし続け、「反朴政権と民主化運動」を続けていました。
この頃から日本にいるKCIA幹部たちは彼の行動に目を光らせ、金大中は追われる身になったのです。
金大中を日本で追うのは、当時駐日韓国大使館一等書記官だったキム・チャウンたち数人、彼らは本国KCIAからの命を受けてとある作戦を実行しようとしていました。
その任務の名は「KT作戦」。
当時日本では、作家・三島由紀夫が陸上自衛隊の東部方面総監部を襲撃し、自決するという事件がありました。
そしてしばらくして、その現場に「一輪の花」を置いていく自衛官の姿が。
その男は、陸上自衛隊のキャリア幹部・富田。
彼はいわゆる「日本のCIA」のような存在で、自衛官でありながら常に「日陰の中」での任務を遂行していました。
そんな彼に、朴大統領とは旧日本軍からの旧友である上司から「興信所を開設しろ」と命令が下ります。
日陰の仕事に飽き飽きし、自分の存在意義は?と自問自答し、退官を決めていた矢先の話。
富田は任務を引き受け、金大中を探すことになるのですが…。
金大中を追う中で、富田とチャウンの運命が交差していきます。
「密告者」と「守りたいもの」
金大中は日本にいる間は、在日韓国人の組織に守られているようです。
そこで彼の付き人に任命されたのが、在日韓国人のキム・ガプスですが、彼は若さと腕っぷしが強いという理由だけで任命され、これからなにが起きるのか分かっていません。
在日韓国人のスパイたちは、金大中を今後韓国に必要な人材だと考えて守ろうとしていたのです。
一方チャウンたちは、日本にいる間は興信所を開設した富田の力を借りて作戦を実行することになるのですが、この作戦の情報がどこかで漏れていると察します。
そして、チャウンは富田が開設した興信所に突然訪問し、「佐藤」と名乗りました。
さらにKCIAは、「在日やくざ」とも繋がりがあり、彼らにも協力を得ようとするのですが、「日本の警察は甘くない」と断われてしまいます。
そんな中、どこかから機密情報を引っ張ってきてスクープにするのが「くせありの記者」と呼ばれる神川。
彼は「KT」作戦のことも即座に一面記事で掲載させるのですが、この情報はどこから漏れているのか不思議でならないチャウンと富田は「内部に裏切者がいる」と確信しました。
肝心な金大中は、彼を慕う在日韓国人たちに「民主化運動」の演説をして歩き、ホテルを転々と回っているのですが、その行方がなかなかつかめず富田たちは焦ります。
そして、なかなか作戦がうまく行かず手を引こうとする富田に「この作戦を実行し成功しなければ、私の命が危ない」と、切実に訴え小切手を渡すチャウン。
家族を韓国に残し、最愛の子どもたちの将来や、娘に顔のアザの手術をさせたいと危険を顧みず動くチャウンに共感し、富田は小切手をもらい再び手伝うことを決めます。
そして、富田にも守りたい存在がいました。
それは、韓国人女性の李政美です。
富田は、別件で彼女を捜査中に心惹かれてしまっていました。
作戦実行、そして…
金大中拉致を手伝うことを決意した富田は、陸自の上官に「手を引け」言われても、「これは「日陰の人間」への宣戦布告だ」と言い放ち、そのまま無謀にも陸自を除隊します。
いよいよ、拉致の決行日。
その日、金大中は、病気療養中のヤン・イルトンが宿泊している東京千代田区の「ホテルクランドパレス」に招かれ対談をすることになっていました。
チャウンたちは対談を終えて部屋を出るところを廊下で待ち構え、金大中の拉致に成功します。
しかし、またどこかで作戦が漏れていたらしく、金大中の付き人も一緒に拉致しなければならなくなりました。
拉致はできたものの、作戦は難航します。
チャウンは、大胆にも拉致現場にあえて「指紋」を残していました。
疑問に思う富田に、これは「自分の身柄を守るための保険」だというチャウン。
かとリーニョ
そして金大中を乗せた車は、釜山行きの船に乗るため神戸港へ向かうのですが、そこへ富田の部下・佐竹が現れます。
彼は富田を迎えに来たというのです。
富田は佐竹と一緒に上官の待つ場所へ向かい、チャウンは予定通り金大中を船に乗せ韓国に向けて出発するのですが…。
「真の友情」と「捨て駒」
神戸港で部下・佐竹に連行された富田は、陸自の指令室で待つ上官たちの元へ向かいます。
そして上官から、アメリカの要請で「金大中の拉致を中止せよ」と命令があったため、それを手助けした責任を取って自決しろと命が下るのですが、すでに興信所を開設するときに退官が決まっている身であったので、富田は自決はしないと言い放ち部屋を出ていきます。
結局、日陰で生きてきた人間は最後まで日陰、自ら宣戦布告したものの“敗戦”した富田は、新聞記者・神川に一連の事件への関与および、陸自の上官と朴大統領との関係性を記事にしてほしいと願い出るのです。
一方、船で釜山に向かうチャウンたちは、とうとう密告者を見つけ殺害するも、そこにヘリの音が聞こえてきます。
甲板に出ると、なんと日本の陸自のヘリコプターが「拉致を中止しろ」と止めにきていました。
なんのことかさっぱりわからず、今までの苦労が「水の泡」になり悔しがるチャウンは、陸自のヘリコプターに向けて銃を乱射します。
結局、富田もチャンウも「捨て駒」でした。
国のため、愛する家族のため、守りたい人のために「手を汚してきた」2人。
かとリーニョ
日本も韓国も、結局はアメリカの手の平で踊らされていただけだったのです。
拉致された金大中は、無事に韓国ソウルで保護され自宅へ帰還。
そして結局拉致事件の一連の犯行は、拉致現場に指紋を残してきたチャウンの単独行動と判定され、富田は彼を救えませんでした。
その後富田は、政美と田舎暮らしをするため準備をしていました。
しかし、駅まで迎えに行く時、富田もまた政美の目の前で何者かに消されてしまうのです。
守るべきもののために戦った男たちの虚しい結末
韓国・日本、最後にはアメリカも絡む大事件となった「金大中暗殺未遂事件」。
かとリーニョ
しかし、そんな強力な政権でも最後には「アメリカ」の一言に従わなければならない…。
この点は現在でも日韓両国共に「もどかしい」部分でもあるでしょう。
この事件の後、軍事政権を18年間守り抜いてきた朴政権も終わりを迎えます。
かとリーニョ
この事件から生還できた金大中は、のちに韓国第15代大統領に就任、32年間に渡る軍事政権崩壊とともに、KCIAの存在もなくなりました。
そんな大きな時代のうねりに飲まれた富田とチャウン。
似た境遇の2人はお互いに「初めての異国の親友」でした。
キム・ガプス演じるチャウンが最後に船上で銃を乱射する場面は、本当に切なかったです。
また、佐藤浩市演じる富田も、まさか最後に!?と悲劇的な結末でびっくりしました。
今作の監督は『亡国のイージス』の阪本順治、音楽担当はBOØWYのギタリスト・布袋寅泰と日本人からすると豪華なメンバー。
かとリーニョ
映画『KT』あらすじ・ネタバレ感想
- 国を超えた「真の友情」とは?
- 個人の尊厳を捨てて国に尽くした結末のむなしさ
- 日本・韓国・アメリカとの関係性が明確にわかる
以上、ここまで韓国映画『KT』についてご紹介させて頂きました。