主人公のマリアを演じたキアラ・マストロヤンニが第72回カンヌ国際映画祭ある視点部門最優秀演技賞を受賞したことでも話題になった『今宵、212号室で』。
パリにあるホテルの一室を舞台に、次々と不思議な出来事が巻き起こるストーリは、まさに大人向きのファンタジー映画と言えます。
作中にたっぷり振りまかれているエスプリの効いたジョークに、マリアやイレーヌのフランス女性らしいカッコよさに痺れる女子は多いはず。
女友達と観に行けば、映画帰りに盛り上がること間違いなしの作品です。
- まるでおとぎ話のような大人向きのファンタジー映画
- 映画に出てくる女性たちのカッコよさに痺れること間違いなし
- 演劇作品のような演出手法でテンポよく進んでいくストーリー
それでは『今宵、212号室で』をネタバレありでレビューします。
目次
『今宵、212号室で』作品情報
作品名 | 今宵、212号室で |
公開日 | 2020年6月19日 |
上映時間 | 87分 |
監督 | クリストフ・オノレ |
脚本 | クリストフ・オノレ |
出演者 | キアラ・マストロヤンニ ヴァンサン・ラコスト カミーユ・コッタン バンジャマン・ビオレ キャロル・ブーケ クレール・ジョンストン |
音楽 | フレデリック・ジャンクア |
【ネタバレ】『今宵、212号室で』あらすじ・感想
主人公マリアの生き様が魅力的
映画の冒頭から、観客は主人公のマリアの強さに度肝を抜かれること間違いありません。
自分の浮気を火遊びとして、悪びれる様子もなく堂々と夫に立ち向かう姿は惚れ惚れするぐらいです。
しかし、バンサン・ラコスト演じる若かりし頃の夫・リシャールが指摘するように、その姿は周りから見ると自分勝手。
斎藤あやめ
そんなマリアをカトリーヌ・ドヌーヴの娘であるキアラ・マストロヤンニが好演しています。
40を越えた大人の女性の色気、でもいい男をみると少女のように表情豊かになりチャーミング、そして時には自分のしたことを悔やみ考え込む姿。
斎藤あやめ
「いい年した色ボケ女」とも捉えられかねない役柄なのに、マストロヤンニが魅力的に演じているからこそ、いつの間にかマリアを応援したくなり、かつマリアを羨ましくなってしまいました。
心の声と思い出が見せた不思議な幻想の一夜と夫婦の物語
マリアとリシャールの2人は、実に興味深い夫婦です。
もともとは、マリアからの求婚によって結婚したことが劇中でも語られています。
夫のリシャールには、マリアとの結婚直前までイレーヌという恋人がいました。
そして、マリアとの結婚後もリシャール自身はイレーヌとの関係を続けていこうとしていたことも劇中から伺えます。
しかし、結婚生活が20年経った今では、妻の浮気に激怒するくらいリシャールの方がマリアへの愛が強いようにも感じられる描写がいくつもありました。
実際にマリアに「あなただって浮気の1つや2つしたことあるでしょう。」と問われる場面でも、リシャールは「一度もない。」と断固として否定しています。
斎藤あやめ
劇中でも描かれているように、マリアはいい男に弱く気の多い女性です。
リシャールとの結婚生活中でも、幾度も浮気を繰り返しています。
斎藤あやめ
しかし、マリアが自由奔放にいられるのもリシャールに愛されているという安心感があってこそ。
絶対的な愛情を注いでくれるリシャールのことを若い頃に比べると「つまらなくなった」と感じても、帰る場所が明確だからこその安心感がよりマリアを自由にそしてわがままにしてしまっているように感じました。
浮気がばれた後、1人になりたいと自宅の向かえにあるホテルに引きこもったマリアの姿に、リシャールと言い争っていた時のような強さは感じられません。
夫の前では火遊びだと開き直ってみても、1人になると多少の罪悪感を感じているようにも見えるくらいです。
窓から自宅の様子が伺えるホテルの一室で、マリアの様々な想いや思い出が交差します。
その中には「自分のような女と結婚せず、初恋の人と結ばれた方が夫は幸せだったのではないだろうか。」といった漠然とした不安もあったかもしれません。
斎藤あやめ
朝が来て一晩自分の中の様々な声や思い出を見て聞いたマリアは、若かりし頃のリシャールとイレーヌ、そして現在のリシャールの3人が寝ている部屋の鍵を閉めて部屋を後にします。
まるで今まで敢えて触れないようにしていたものを、もう一度、自分の奥底に戻すかのように。
ホテルの前で交わされるマリアと現実のリシャールの短い会話で、マリアが夫の元に戻るであろうことを匂わせて、マリアの一晩の物語は終わります。
斎藤あやめ
そして、また212号室に戻って、また不思議な一夜を過ごすことになるのかもしれません。
ありがちな表現ですが、夫婦の形も様々。
『今宵、212号室で』は、ある夫婦の歴史を覗き見るような映画とも言えます。
舞台作品のような演出とエスプリの効いたジョーク
『今宵、212号室で』は、まるで舞台作品を見ているような映画です。
演劇的演出がふんだんに使われており、最後の最後まで結末が予測できず楽しめます。
斎藤あやめ
またフランス映画らしく、劇中には少々ブラックだけれどもエスプリの効いたジョークが絵描かれています。
ジョークといっても決して笑いを狙ったものではなく、登場人物たちはみんな真剣そのもの。
だからこそ観ている側には、余計滑稽だったり、思わずニヤリとしてしまう場面がたっぷりあります。
特に先ほどまで言い争っていたはずのマリアとイレーヌ、過去のリシャールの3人が窓辺でタバコを吸いながら、現在のリシャールを眺めているシーンはシュールながらも、オシャレで印象的だった場面の1つです。
斎藤あやめ
劇中で、過去のリシャールや恋人たちから責められるシーンで212号室の意味が明かされる時に、思わず膝を打つ気分になること間違いありません。
日本人女優では味わえない女優たちのカッコよさ
2人の女優、キアラ・マストロヤンニとカミーユ・コッタンの魅力的な姿もまた、この映画がとびきりオシャレに感じる要因の1つです。
キアラのVネックにデニムといったスタイルやカミーユのシンプルなワンピース姿など、決して着飾ったり、若造りしたりしていないのに、ハッと目を引くほど印象的でカッコいい姿がスクリーンに映し出されます。
日本人女優も、年齢を重ねても若々しく魅力的な人が増えてきました。
斎藤あやめ
フランス人だからと言ってしまえば、それまでですが、2人の女優たちからは年齢を重ねる美しさや色気をも学ぶことができます。
劇中では、マリアもイリーナも大胆なシーンがありますが、少し年齢を感じさせるボディラインすらも魅力的です。
映画の中で印象的だったシーンの1つに過去のイリーナが現在のイリーナと対面するシーンがあります。
イリーナにとっては、現在の自分の姿は納得がいかない上に否定したいものでした。
そんな過去の自分に、現在のイリーナは「失恋で辛かったのも最初の1年」と語りかけ、そしてマリアに「今の私と過去の私、どっちが幸せに見える?」と問いかけます。
斎藤あやめ
しかし、イリーナには予想外の未来をなかなか受け入れられません。
とやかく言う過去の自分に「自分が切り開いた人生だもの」と言い放つイリーナの姿は、もう素敵としか言いようがありません。
たとえ現在では想像しない未来が待っていたとしても、そこに辿り着いたのは自分の1つ1つの選択があってこそ。
斎藤あやめ
『今宵、212号室で』あらすじ・ネタバレ感想:まとめ
以上、ここまで『今宵、212号室で』をレビューしてきました。
- 舞台演出のような描写が面白い
- 少々シュールなジョークに、にんまりすること間違いなし
- 劇中の女性たちの姿がそれぞれ魅力的で勇気がもらえる