第27回釜山国際映画祭で好評を集めた韓国映画『高速道路家族』が4月21日(金)より公開されます。
“パラサイティック・スリラー”という異名を持つ本作では、高速道路のサービスエリアを転々とするホームレス一家と、裕福だけど訳アリ夫婦の出会いを描きます。
ときに可笑しく、ときにシリアスな展開が見どころの作品です。
・『万引き家族』の影響を色濃く感じるドラマ
・キャラクターの背景に隠れた重い過去
それでは『高速道路家族』をネタバレなしでレビューします。
目次
『高速道路家族』あらすじ【ネタバレなし】
サービスエリアを転々とするホームレス一家
ギウ(チョン・イル)とその妻ジスク(キム・スルギ)、そして2人の子どもであるウニとテクは高速道路のサービスエリアを転々とするホームレスだ。
ギウはサービスエリアにいる客に「妻の実家に行く途中、財布を無くしてしまった。ガス欠で困っているので2万ウォン(日本円で2,000円程度)を貸してほしい」と嘘をついて日銭を得ていた。
寝床はないのでギウたちはサービスエリアの敷地内にテントを張り、テントがなければ公衆トイレで寝るという状態だった。さらにジスクのお腹には赤ちゃんがいた。そんな状況でも父ギウは明るく振る舞い、子どもたちもギウの詐欺行為に加担しながらも、明るく過ごしていた。
ある時、ギウがいつも通りの手口で女性からお金をだまし取るが、女性はウニやテクの姿を見ると、慈悲深くもさらに多くのお金を渡した。
驚くギウたちだが、女性は嫌な顔もせず、その場を去っていった。
家具屋を経営する訳アリ夫婦
ギウたちに多くお金を渡した女性ヨンソン(ラ・ミラン)は、夫ドファン(ペク・ヒョンジン)と中古家具店を営む経営者だ。
彼女は困っている人や、社会的に立場の弱い人を見捨てられない性格で、野良猫にもエサをあげてしまうほどの性格だった。しかしヨンソンにはそうした存在を無視できない理由があった。
ヨンソンは別の日にサービスエリアを訪れると、そこで再びギウを見つける。ギウは自分に言ったこととまったく同じことを他人に話しており、自分が詐欺に遭ったと初めて知る。
一方、ギウが詐欺を働いている間、ウニとテクはサービスエリア内でかくれんぼをしているが、危うく車に轢かれそうになる。ウニたちを助けたのはヨンソンだった。
連行されるギウと残された家族の運命は…
ヨンソンはギウを警察に通報すると、後日ギウと家族は連行される。
しかしギウは警察に対して、「自分だけが詐欺をした」と説明し、ひとりだけ拘束される。通報したヨンソンは残されたジスクたちを放っておけず、店の休憩室に泊めることにする。
ヨンソンはジスクが妊娠何カ月になるか把握できていないこと、子どもたちが義務教育を受けていないことに衝撃を受ける。少しでも力になれればと、ヨンソンは残されたジスクたち3人の面倒を見ることを決意する。
ホームレス生活から解放されたジスクたちだが、2つの家族は思いもよらない出来事に直面する…。
『高速道路家族』感想
「太陽を抱く月」のチョン・イルなど豪華キャスト出演
本作で主人公ギウを演じるのは、2006年「思いっきりハイキック!」のユノ役でデビューを果たしたチョン・イル。
実は本作が7年ぶりのスクリーン主演復帰作品となっており、本国で大きな注目を集めました。
持ち前のルックスから「太陽を抱く月」「グッジョブ」など多くの作品で様々なキャラクターを演じています。
『高速道路家族』では、ホームレスという苦境にも関わらず、明るくひょうきんな性格を見せていますが、ホームレス生活をすることになった過去を知ると、彼の振る舞いに対する見方ががらりと変わる、難しい役を演じました。
ときおり見せる暗く悲しい姿も、普段の明るい振る舞いとのギャップがすさまじく、本作の見どころのひとつとなっています。
そしてもうひとつの家族で、中古の家具店を営む経営者ヨンソンを演じるのは『親切なクムジャさん』(05)にてデビューを果たしたラ・ミラン。
2021年には、コメディ映画『正直政治家 チュ・サンスク』(20)では、嘘がつけなくなってしまった政治家を演じ、青龍映画賞主演女優賞を受賞するなど、実力派俳優としても知られています。
過去作ではコミカルな役を演じることが多かったラ・ミランですが、『高速道路家族』では暗い過去を抱える人物をシリアスに演じています。コミカルさを完全に封印した演技は必見です。
監督は新鋭イ・サンムンで、ぺ・ヨンジュンが主演を務めた『スキャンダル』(03)を手掛けたイ・ジェヨン監督に師事しており、『バッカス・レディ』(16)などで助監督を務めています。
『万引き家族』の影響を色濃く感じるドラマ
家族が犯罪をしながら生計を立てると聞いて、まず思いつくのが是枝裕和監督の『万引き家族』ではないでしょうか。
『高速道路家族』では、そんな是枝監督作の影響を色濃く感じる演出や設定も観られるので、スリラーというよりはシリアスなヒューマンドラマに近い印象を受けました。
もちろんコミカルなシーンもいくつかあったり、ヨンソンがウニやテクに向ける優しいまなざしは、観る人の気持ちを温かくしてくれる魅力があります。
一方で、子どもたちが強制的に親の犯罪行為に加担せざるを得ない状況や、その状況を生んだきっかけが、人間だけでなく社会全体の問題として見え隠れする構図なども『万引き家族』や『誰も知らない』などに通じています。
登場人物を取り巻く過去や社会、そして他人に向ける目線がどんなものなのかを、改めて考えさせられる内容となっていました。
キャラクターの背景に隠れた重い過去
『高速道路家族』は主にギウとヨンソン、2つの視点を中心に物語が進みます。
ホームレス生活という状況下でも明るく振舞うギウと、経営者として社会的地位があるのに、どこか喪失感を持つヨンソン。この2つの家族が出会ったことで、2人の環境は一転します。
ギウは警察に連行されると孤独を抱え、明るかった時の様子から一転して、どんどん破滅の道を進み始めます。
ヨンソンは暗い過去を埋めるように、ジスクやウニ、テクに愛情と慈悲を注ぐように…。
ギウの家族がヨンソンの家族に“寄生”するというよりは、ヨンソンが迎え入れている状況も印象的です。
なぜそこまでしてヨンソンはジスクたち(それも自分をだました一家)に親身になれるのか?
そして、なぜギウはホームレス生活という選択に至ったのか?
表面上では「本人が好きでやっているから」とも見えそうですが、この2つの理由を知ったとき、果たしてすべて自己責任で片付く問題なのかと考えさせられます。
監督は本作のメッセージとして「世の中に対する恐れと心配、それでも感じられる人との温もり、そしてお互いへの愛と許しを伝えたかった」と語っています。
ギウとヨンソン、その家族の選択はすべてこのメッセージに通じていました。
『高速道路家族』あらすじ・感想まとめ
・是枝監督へのリスペクトを感じる作風
・監督のメッセージ性が伝わるキャラの過去
以上、ここまで『高速道路家族』をレビューしてきました。
本作はスリラー要素以上に、暗い過去を抱えた2つの家族がひき起こす出来事を描く、ドラマ要素が強い作品だと感じました。
衝撃のラストについては、本国では賛否両論を巻き起こしたそうですが、恐らく日本でも賛否分かれそうな内容となっていました…!
丁寧なドラマ要素から「そうなるのか…!」と予想だにしない展開になったのですが、個人的には爪跡を残す良いラストでした。
是枝監督作が好きな方はもちろん、衝撃のラストが気になる人もぜひチェックしてみてください!