2011年に公開されたスタジオジブリ制作のアニメ映画『コクリコ坂から』。
1960年代の横浜を舞台に、初々しい高校生たちの青春と時代に振り回された出生の秘密を描いた作品です。
ジブリらしい個性を持ったキャラクターたちの声を豪華俳優陣が担当し、丁寧かつテンポ良く進むストーリーを彩っています。
- ドラマティックな展開に翻弄される
- 1960年代の風景を美しく描く
- 軽快でジャジーな音楽が魅力的
今回はそんなアニメ映画『コクリコ坂から』をネタバレありでご紹介します。
目次
『コクリコ坂から』作品情報
作品名 | コクリコ坂から |
公開日 | 2011年7月16日 |
上映時間 | 95分 |
監督 | 宮崎吾朗 |
脚本 | 宮崎駿 丹羽圭子 |
出演者 | 長澤まさみ 竹下景子 白石晴香 小林翼 風吹ジュン 岡田准一 大森南朋 石田ゆり子 柊瑠美 内藤剛志 風間俊介 香川照之 |
音楽 | 武部聡志 |
【ネタバレ】『コクリコ坂から』あらすじ
変わらない日常と運命の出会い
1963年、横浜。
港南学園に通う高校生の松崎海(長澤まさみ)は、丘の上に建つ下宿屋・コクリコ荘で暮らしていました。
毎朝早く起きて、ごはんを炊き、写真の前の水を変え、庭に立つポールに信号旗を掲げます。
信号旗が意味するのは、毎日決まって「航海の安全を祈る」でした。
その頃、丘の下に広がる海上をタグボートが1隻通り過ぎます。
タグボートに乗って通学している風間俊(岡田准一)は、「ありがとう」という意味の信号旗を掲げて返事をします。
俊はいつも丘の上の旗を見ていますが、誰が掲げているかは知りません。
また、庭にいる海からも返答しているタグボートは見えていませんでした。
海は祖母の花(竹下景子)、妹の空(白石晴香)、弟の陸(小林翼)、そしてコクリコ荘に下宿している3人と生活しています。
朝は姉弟分の弁当と7人全員分の朝食を用意し、洗い物を済ませ、洗濯をしてから登校するのが日課になっていました。
家事を手伝ってくれる家政婦はいるものの、海外にいる母・良子(風吹ジュン)の代わりに下宿の家計を切り盛りするのは海の仕事でした。
海が教室につくと、クラスメイトから“週刊カルチェラタン”という校内新聞を見せられます。
紙面の片隅に「少女よ君は旗を上げる、なぜ…」といったポエムが書かれており、クラスメイトはこれを海のことではないかといいます。
海は頷きながら、そのポエムをじっと見つめました。
その日のお昼休み、海が友人たちと昼食を食べていると、学園で騒動が起こります。
部室棟として使われている旧校舎、通称“カルチェラタン”が取り壊されることに対しての抗議活動が行われたのです。
活動の一環として、カルチェラタンの屋根の上から防火水槽めがけてダイブしたのは俊でした。
その様子を見ていた海は、防火水槽に飛び込んだ俊を助けるために手を差し伸べます。
そこへ写真部が寄ってきて、2人の姿を撮影しました。
その写真は紙面に載り、海の行動はカルチェラタンの取り壊しに抗議するパフォーマンスの一つとして利用されてしまったのです。
カルチェラタンと青春
後日、抗議パフォーマンスを行った俊の写真が出回り、俊のファンになった妹の空はそれを30円で購入します。
そこにサインを書いてもらいたいという空は、カルチェラタンに1人で行くのが心細いのでついてきてほしいそうです。
カルチェラタンは文化部の男子生徒が使っている建物で、確かに女子生徒にとっては近寄りがたい場所でした。
特に空は下級生だということもあり、海は嫌々ながら一緒に行くことにしました。
“週刊カルチェラタン”の編集長をしている俊は新聞部の部室で作業をしています。
サインを頼みにいった際、俊が右手を怪我していることに気づいた海は、それ以降原稿を作る手伝いをするようになります。
その日、海は手伝いをしていたことで帰宅が遅くなってしまいました。
夕飯の材料が足りないことに気づき、慌てて買い物に出かけます。
すると、自転車に乗った帰宅途中の俊に偶然出会い、後ろに乗れという俊に従って、2人乗りで商店街に向かいます。
そこで俊がタグボートで通学していることなど、いくつかの会話を交わし海と俊の距離は近づいていきました。
翌朝、下宿人の美大生・広小路(柊瑠美)が描いた絵を見た海は、丘の下の海上を通過するタグボートの1つが旗を上げて返事をしていると知ります。
広小路は海からは見えていなかったことに気づき、毎日回答旗を掲げていると教えました。
学園では討論集会が開かれます。
俊に誘われ、一度は断った海でしたが、後から気になってその場に向かいました。
カルチェラタンの取り壊しに大勢が賛成する中、俊は舞台に上がって異議を唱えます。
そのことがきっかけで会場が乱闘になりそうになった時、俊の親友で生徒会長の水沼(風間俊介)が歌を口ずさみます。
教師たちが見回りに来ることがわかったので、表向きはその場を収めるためでした。
水沼に合わせて何事もなかったように歌う生徒たち。
海はそんな姿を見て、徐々にその活動に参加するようになっていきます。
下宿人の1人で医大生だった北斗(石田ゆり子)の就職が決まり、コクリコ荘では送別会をすることになりました。
下宿人たちにいわれて、俊たちも呼ぶことになります。
海が俊を連れて家の中を案内していると、1枚の写真を見た俊の様子が変わりました。
写真には3人の男が映っていて、海の亡くなった父・澤村雄一郎と、立花洋、小野寺善雄の名前が書かれています。
俊は自分の出生について疑問を持ち始め、父・明雄(大森南朋)に話を聞きます。
その昔、風間夫婦は生まれたばかりの赤ん坊を亡くしました。
そこへ突然やって来た親友の澤村は赤ん坊を抱えており、引き取ってほしいといいます。
その時に引き取った赤ん坊が俊でした。
出生の秘密とつながる想い
カルチェラタンの取り壊しに賛成する意見の中には不衛生だから、というものがありました。
海が大掃除を提案し、いつもはカルチェラタンに近寄らない女子生徒たちも集まって、その作業は日々にぎやかに進んでいきます。
そのころ、俊は海と距離を置くようになりました。
海は「嫌いになったなら、はっきりそう言って」と俊に訴えます。
すると、俊は海の家で見た3人の男が映る写真と同じものを取り出しました。
その写真は俊の家にも存在し、戸籍などを調べてみたところ自分たちが兄妹だったということを伝え、安っぽいメロドラマみたいだといいました。
カルチェラタンの大掃除が完了したころ、理事会が取り壊しを決定したという知らせが入ります。
反対派の生徒たちの意思もあり、海、俊、水沼の3人は東京にいる理事長(香川照之)の元へ直訴しに行くことになりました。
徳丸財団の社長でもある理事長は海の父が朝鮮戦争で死んだことを告げると、海の母の苦労に労りと敬意を示します。
その結果、忙しいスケジュールを調整して、カルチェラタンへの訪問を約束してくれました。
東京から帰宅する際、海は俊に想いを伝えます。
その言葉に感銘を受けた俊は想いを受け止め、自らも海を想っていることを打ち明けます。
海がコクリコ荘に戻ると、母・良子が海外から帰ってきていました。
俊への想いを抱える海は、良子から俊の出生について事実を聞きます。
俊の本当の父親は写真に映っていた立花で、戦争で親族全員が亡くなった俊を勝手に自分の子どもだと役所に届け出たことを打ち明けられます。
海は自分と俊が兄妹じゃないことを知り、安心して涙を流しました。
翌日、理事長のカルチェラタン訪問中、明雄から俊に連絡が入ります。
写真に映っていた3人の中で、唯一生存している小野寺(内藤剛志)が近くまで来ていると教えられました。
生まれ変わったカルチェラタンを見た理事長が取り壊しの中止を宣言し、生徒たちが歓喜の声を上げる中、俊は海を連れ出して小野寺の元へ向かいます。
小野寺は澤村の娘である海、立花の息子である俊を優しく見つめ、2人が兄妹ではないことを証明してくれました。
翌朝、海はいつものように信号旗を掲げます。
父のこと、そして俊のことを想いながら。
『コクリコ坂から』感想
2つの世代の青春
『コクリコ坂から』の中心となるのは、海と俊の関係性です。
戦争が終結し、高度経済成長期を迎えた日本・横浜で、貧しいながらも上を向いて明るく生きようとする世の中は海と俊の生き方にも投影されています。
しかし、前向きなように見えても、海は亡き父親の姿を追い求めているように思えるし、俊は自身の出生について元々疑問を抱いていたように思えます。
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戦争の時代を生きた若者たちの青春と、戦後の混乱を何とか乗り越えようとした生き様がそこにあります。
『コクリコ坂から』のキーとなる俊の出生について、戦争で親を亡くした子どもを自分の子のように育てる、引き取る、引き取られる、というのが当たり前の時代だったと良子は海に語ります。
理事長が海に対してよく育ったと感心したこと、小野寺が海と俊に会えて嬉しいと微笑んだことは、そんな時代を生きた人々だからこその気持ちだと思います。
そうしてつながれたバトンが子どもたちの世代に渡され、カルチェラタンの取り壊しを反対する俊はいいます。
「古いものを壊すことは、過去の記憶を捨てることと同じじゃないのか」
「新しいものばかりに飛びついて、歴史を顧みない君たちに未来などあるか」
築かれた過去が今を作り、今が未来を作っていく。
俊がそう主張することで、物語に一貫性が生まれています。
この一貫性があることで、自分が今生きている時代について考えさせられる作品になっています。
また、監督を務めた宮崎吾朗は父である宮崎駿からシナリオを受け取り、絵コンテを描き上げました。
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実際には息子の宮崎吾朗が監督に起用され、ここでも親子2世代によるバトンの受け渡しが行われています。
物語を彩る風景と音楽
『コクリコ坂から』はタイトルの通り、坂がよく映し出されます。
コクリコ荘や港南学園は丘の上にあり坂を上ったり下ったりと海たちの生活に自然に溶け込んでいることがわかります。
上を向けば青い空、下を見れば広がる海と港町。
伸び伸びと育ち、これからの時代を担っていく主人公たちが未来を見据えるのに、このロケーションはぴったりハマっているのです。
また、過去が築き上げ、今につながっていることを象徴する存在として、古き良き建築物である“コクリコ荘”と“カルチェラタン”が登場します。
コクリコ荘は女性たちが暮らす家、カルチェラタンは男子生徒が集まる部室棟というように、男女の住み分けがされているのも興味深い点です。
物語が進むにつれて、女子生徒が寄りつかない場所だったカルチェラタンでみんなが協力したり、海の弟である陸を除いて普段は男性がいないコクリコ荘に俊たちが招かれたりと、男女問わず交流を深めていく様子が描かれます。
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物語を彩るのは風景、背景だけではありません。
オープニングで海が料理をするのに合わせて流れる音楽は、ジャジーで軽快なモーニングソングです。
主題歌「さよならの夏~コクリコ坂から~」も担当している手嶌葵が歌っていて、その軽やかなウィスパーボイスが爽やかな海の朝を印象づけています
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討論集会で水沼が先導して歌った「白い花の咲く頃」、カルチェラタンで合唱した「紺色のうねりが」、作品のキャッチコピーにもなっているタイトルで坂本九の名作として知られる「上を向いて歩こう」など、時代背景に合った曲を使うことで雰囲気を盛り上げている場面もあります。
シリアスなシーンでも小気味よい音楽が流れることで、感情移入しすぎず一歩引いて作品を鑑賞できるようになっているパターンもあり、ジブリ映画屈指の音楽の使い方が秀逸な映画になっています。
『コクリコ坂から』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
いかがだったでしょうか。
親子2世代に渡って紡がれた青春の物語『コクリコ坂から』。
悩みや葛藤を抱えた主人公たちが真っ直ぐに突き進む未来、その希望に溢れた姿に勇気をもらえることでしょう。
ぜひ、ジブリ映画屈指の風景と音楽にも注目しながらご覧ください!
- ロマンティックな恋愛、青春が眩しい
- 明かされる秘密と深まる絆から目が離せない
- 心揺さぶる風景と音楽にも注目!