1979年、当時圧倒的権勢を誇っていた独裁者・朴正煕大統領がその権力を支えていた中央情報部(KCIA)の部長に暗殺された実際の事件。
18年も続いた独裁政権に忠誠を誓ってきた男はなぜ凶行に及んだのか?
主人公の部長・キム・ギュビョンを国際的スターのイ・ビョンホンが演じ、『インサイダー/内部者たち』『麻薬王』のウ・ミンホ監督が丁寧に内面に迫った作品です。
重厚な演技と演出が見られる必見の一本。
それでは『KCIA 南山の部長たち』をネタバレなしでレビューします。
目次
映画『KCIA 南山の部長たち』作品情報
作品名 | KCIA 南山の部長たち |
公開日 | 2021年1月22日 |
上映時間 | 114分 |
監督 | ウ・ミンホ |
脚本 | ウ・ミンホ イ・ジミン |
原作 | キム・チュンシク |
出演者 | イ・ビョンホン イ・ソンミン クァク・ドウォン イ・ヒジュン キム・ソジン ソ・ヒョヌ ジ・ヒョンジュン パク・ソングン パク・チイル チュ・ソクテ キム・ミンサン キム・ホンパ |
音楽 | チョ・ヨンウク |
映画『KCIA 南山の部長たち』あらすじ【ネタバレなし】
1979年10月26日にソウル市内の秘密の宴会場で現職の大統領・パク・チョンヒ大統領が中央情報部部長のキム・ギュビョンが暗殺しました。
1961年の革命後、18年に渡る独裁政権を支え、大統領に継ぐ権力を誇っていた男はなぜ凶行に及んだのか…。
遡ること40日前、ギュビョンの前任者パク・ヨンガクがアメリカに亡命し、独裁政権の実態を議会で暴露。
さらに詳しい回顧録を執筆しているとも話し、大統領は激怒します。
なんとか事態を収拾するように命令されたギュビョンは単身渡米。
大統領の立場も守りたいものの、ギュビョンはヨンガクと苦楽をともにしてきた親友でした。
ギュビョンは接触した彼を脅しますが、それでも殺害という選択肢には至らないように手を回し始めます。
しかし、世界から独裁を批判され、国内でもデモが激化してきた中で大統領は意固地になって高圧的な態度を強め、ギュビョンは自分の仕事に疑問を持ち始めます。
そしてとうとう親友ヨンガクの身に危険が迫り…。
映画『KCIA 南山の部長たち』感想
異例の権力を誇った中央情報部の闇を暴いた原作
『KCIA 南山の部長たち』の原作は1990年から2年以上に渡って東亜日報で連載された記事をもとにしています。
大韓民国中央情報部はパク・チョンヒ主導の軍事革命が成功し、政権が発足されてから設立された組織で、表向きの主な仕事は北朝鮮工作員の摘発でしたが、それ以上に国内の反乱分子を押さえつけ、情報を一挙に集めて取り締まっていた恐怖の組織でした。
職員は全員元軍人で、時には拷問も辞さない中央情報部は所在地から韓国国民から「南山」と呼ばれて恐れられており、その部長ともなれば大統領に次ぐ権力者だったのです。
その実態を暴いた記事をまとめた原作「南山の部長たち」は日韓で52万部を超えるベストセラーとなりました。
なぜなら80年代後半に韓国が民主化されるまで、中央情報部について書かれた記事はほとんどないくらい、彼らは情報を統制していたのです。
恐ろしいことに79年に独裁者の大統領が殺害されても、その路線はチョン・ドファン大統領が引き継ぎ中央情報部は存続していました。
そして光州事件などの悲劇が起き、国民の不満が高まってついに1987年に韓国の民主化が達成されたのです。
シライシ
そんな南山の部長がなぜ大統領を暗殺したのか、権力闘争か?義憤に駆られたのか?
本作は実在の事件をもとに世紀の大事件を起こした男の内面をフィクションを交えつつ描いています。
任侠映画としても楽しめる
『KCIA 南山の部長たち』は基本的に史実に沿った内容です。
シライシ
本作はどちらかと言うと細かい演出、イ・ビョンホンやヨンガク役のクァク・ドウォンら名優の熱演、ノワール的な重厚な画面を楽しむ映画になっていました。
監督自身、史実をなぞるよりも有名な事件のその先に何が見えてくるのかを描きたかったと語っています。
そして『KCIA 南山の部長たち』を見ていて連想したのは政治映画というより、任侠やマフィア映画の世界でした。
理想に燃えてクーデターを起こしたかつての尊敬する上官パク・チョンヒは腐った権力者となり、親友のヨンガクを国家のためにと自らの司令で殺すことになってしまい、苦悩する中間管理職的立場のギュビョン。
まるで昔の投影ヤクザ映画に出てくる腐りきった親分とヤクザ社会に嫌気がさしてしまった若頭みたいです。
シライシ
ヨンガクを暗殺する指示を出しながら、ギュビョン自身は公務で子どもたちによるほのぼのとした伝統芸能の舞台を見ているのがカットバックされる場面は、『ゴッドファーザー』でマイケル・コルレオーネが我が子が教会で洗礼を受けているのを見ながら、裏では部下たちが敵対組織を皆殺しにしているという場面を連想させます。
また、クライマックスで大統領との会食をしながら、懐に拳銃をしまって機を見計らう緊迫感溢れる場面は、また『ゴッドファーザー』でマイケルが父・ヴィトの殺害未遂の首謀者をレストランで会食しながら突如殺す場面を彷彿とさせました。
シライシ
もちろん小手先で真似しているわけではなく、しっかりと本作独自の名場面になっています。
色調の暗い重厚な画面、表情だけで多くを語るイ・ビョンホンやその他リアルな軍歴すら感じさせる独裁政権の面々の名演、豪華なセット、いずれも一級品。
またヨンガクが暗殺される場面で、彼の靴が片一方脱げているという描写があるのですが、終盤の重要なシーンでそれが対になるようにもう一度出てくるので注目です。
それは国家に使い捨てにされる情報部の権力者の虚しさも表現しています。
概要だけ聞くと歴史に詳しくない人は気が引けてしまうかもしれませんが、むしろ本作を見て新たにいろんなことを知り、さらに詳しく調べたくなるきっかけになると思います。
シライシ
そして最後の最後、ギュビョンは大統領暗殺後にとある場所に向かうことになるのですが、それはなぜなのか?
シライシ
映画『KCIA 南山の部長たち』あらすじ・感想まとめ
『#KCIA南山の部長たち』
2021年1月22日公開【本作の成り立ち2️⃣】
原作を書いた金忠植氏は「韓国において18年に渡る独裁政権は最も重要な時代の一つと言えるが、その中心にいたのがKCIAです。司法・立法・行政を権力の手中に収めた彼らは、90 年代まですべてのメディアが恐れてきた。」と語る。 pic.twitter.com/UE7mxdOsZD— クロックワークス|アジアエンタメ情報 (@klockworxasia) December 27, 2020
以上、ここまで『KCIA 南山の部長たち』をレビューしてきました。
2021年1月22日公開です!
- イ・ビョンホンの重厚な名演
- 史実に隠れた男たちの内面に迫る
- 任侠映画を思わせる政治ノワール