男とか、女とか、大人とか、子供とか、親子とか、愛とか。
フィクションだけど他人事ではない世界のお話。
- LGBTと、家族の在り方をテーマにした社会問題に向き合う作品
- 第67回ベルリン国際映画祭で日本映画初のテディ審査員特別賞と観客賞をダブル受賞
- 切なくてやるせなくて、でもあったかい気持ちになれます
それではさっそく『彼らが本気で編むときは、』をレビューしたいと思います。
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目次
『彼らが本気で編むときは、』作品情報
作品名 | 彼らが本気で編むときは、 |
公開日 | 2017年2月25日 |
上映時間 | 127分 |
監督 | 荻上直子 |
脚本 | 荻上直子 |
出演者 | 生田斗真 桐谷健太 柿原りんか 美村里江 小池栄子 門脇麦 柏原収史 込江海翔 りりィ 田中美佐子 |
音楽 | 江藤直子 |
【ネタバレ】『彼らが本気で編むときは、』あらすじ
育児放棄された少女、トモ
アパートの一室で洗濯物を畳む少女。
テーブルの上にはコンビニのおにぎりとインスタントのお味噌汁。
シンクには洗い物が溜まりっぱなし、ごみ箱にはおにぎりの包みがたくさん。
貧しい母子家庭で暮らす小学五年生のトモ(柿原りんか)にとっては、これが日常です。
夜中になって帰ってきた母親・ヒロミ(ミムラ)はトモに「ただいま」と声をかけることもなく、服を着替えることもせずに布団に潜ってしまいます。
ある朝、テーブルの上には一万円札と一枚のメモが残されていました。
書店で漫画を三冊レジに置くと、店員が「また?」と言います。
店員はトモの叔父・マキオ(桐谷健太)。ヒロミの弟です。
マキオの仕事が終わるのを待ってヒロミの職場へ行ってみますが、仕事を辞めたとのことでヒロミは行方知れず。
母親がどこへ行ったかも、誰と行ったかも知らないトモは、マキオに同情されます。
ヒロミがこうして行方知れずになるのは初めてではありませんでした。
母親である前に女である、というヒロミは、好きな人ができるとすべてを投げ捨てて、トモさえも放棄してしまう人でした。
トモが一人になってしまうとマキオが面倒をみる、というのが当然の流れのようで、今回もマキオの家にお邪魔するトモ。
帰り道でマキオは一緒に住んでいる人がいるとトモに伝えます。大切な人だ。と。
その人にはトモのことも話してあると言いました。
マキオの家に着くと、現れたのは綺麗な男性。
化粧をしてスカートをはいた、いわゆる女装をした男性。
前に訪れたとき殺風景だったマキオの部屋は、毛糸や編み物があったり、マニキュアがあったり、女性が一緒に暮らしている風景になっていました。
マキオの“大切な人”はトランスジェンダー(性同一性障害)で、介護士の仕事をしているリンコ(生田斗真)。
心は女、体の工事も終わってEカップの女。
だけど戸籍上は、男。
ビールが好きで、お料理が上手な人です。
いつぶりかわからない手料理に、そして初めてかもしれない家族団らんに、思わず顔をほころばせるトモ。
最初のうちはリンコを警戒していて馴染めなかったトモも、次第にリンコの優しさに触れて打ち解けていきます。
初めてのキャラ弁と、リンコの母と
学校を休んで家に荷物を取りに行く日、トモが目を覚ますと家には誰もおらず、テーブルの上には手作りの朝食とお弁当がありました。
公園でお弁当を開けると、タコのウィンナーにウサギとネコのおにぎり。
トモにとっては初めてのキャラ弁でした。
食べてしまうのがもったいなくて、公園では食べずに先に荷物を取りに行くことにします。
家の前には同級生のカイ(込江海翔)がいました。
カイはクラスでゲイの疑いをかけられ、クラスメートたちにからかわれていました。
以前は仲が良かったトモもm距離を置いて冷たくあしらってしまいます。
マキオの家に戻ったトモは、時間の経ったお弁当を食べてお腹を壊してしまいます。
リンコが帰ってきて薬を飲ませてくれた時、トモは初めてのキャラ弁で嬉しかったこと、もったいなくてすぐに食べられなかったこと、悪くなっているけどどうしても食べたくて食べてお腹を壊してしまったことを話しました。
健気で可愛くて仕方ない気持ちになってしまったリンコはトモを抱きしめようとしましたが、拒否されてしまいました。
ある日、トモが一人でゲームをしていると、唐突にリンコの母・フミコ(田中美佐子)が再婚相手のヨシオ(柏原収史))を連れてやってきました。
リンコは職場の人の都合で夜勤になってしまったから代わりに面倒を見に来た、と言うフミコ。
一緒に晩御飯を食べながら、フミコはリンコが幼いころから自分の性別に疑問を持っていたと明かしました。
中学生のときにリンコから“おっぱいが欲しい”と言われて、フミコはブラジャーを買い、中に入れるためのニセチチを毛糸で編んであげたのでした。
リンコが編み物をする理由とは…?
桜が満開になった頃、トモはリンコとマキオと自転車でお花見に出かけます。
まるで仲のいい家族のような三人。
お弁当に入っていたウィンナーは可愛い鯉のぼりでした。
トモがすっかりリンコに心を許したころ、二人でスーパーで買い物をしていると、同級生のカイが母親・ナオミ(小池栄子)と一緒に買い物しているところに遭遇します。
リンコを異常者、変質者だと言うナオミに対して、トモは怒りを爆発させ、売り物の食器用洗剤をぶっかけてしまって警察沙汰になります。
トモはリンコを悪く言われたことが悔しかったのです。
そんなトモに、悔しくて怒りが収まらないとき、リンコは編み物をすると言います。
ちくしょう、ちくしょうって悔しい気持ちを一目一目編んでいると心が平らになって落ち着く、と。
トモが部屋を訪れてから気になっていた謎の形の編み物は、男性のシンボルを模したものであって、煩悩の数である108個作ったら燃やして供養するのだとリンコは言います。
そしてそのとき、戸籍も女にすると言いました。
翌日トモが学校へ行くと、黒板にはリンコとのことをからかうような言葉が大きく書かれていました。
クラスメートに冷ややかな好奇の目で見られ、耐え切れなくなったトモは学校を放棄して自分の家に帰ります。
母親のような女性の姿を見て家まで走りますが、玄関を開けたら誰もいませんでした。
ひとしきり泣いて夜になってマキオの家に戻ると、リンコが心配しましたが、傷心のトモは「ママでもないくせに」と言ってしまいます。
また次の日、トモが学校へも行かずゲームをしていると、仕事を終えたリンコが帰宅します。
急いで押し入れに隠れるトモに、リンコは「そこ暑いでしょ?差し入れ」と瓶入りのラムネと、紙コップを隙間から与えました。
紙コップには糸がついていて、もう片方の端についた紙コップはリンコが持っています。糸電話です。
リンコは押し入れの扉を挟んで「内緒話しよ」と言いました。
そして自分の男だったころの名前を打ち明け、名前も体も直したけど大きな手だけは直せないと言います。
手と同じように、どう頑張ってもできないこともある、と。
マキオの子供も産めないと言いました。
世間一般の目、というもの
あるとき、頭を打って病院に運ばれたリンコは、命には別条がなかったものの検査入院として男性の相部屋での一泊を余儀なくされます。
マキオが看護師に抗議しても「保険証は男ですから」だの「一泊40万の個室にしますか?」だの言われてしまいます。
そんな大人同士のやりとりを聞いて、トモはリンコの病室へ走ります。
そしてリンコのバッグから毛糸を取り出し、リンコの代わりに“悔しい”と泣きながら編み物をしました。
さっさと供養を終わらせて、とっとと女になると決めたリンコは“煩悩”を編むスピードを速めます。
トモもマキオも一緒になって三人で編むようになります。
トモはカイとも再び仲良くなりました。
今の家に呼んで一緒にゲームしたり、リンコと三人でケーキを食べに行ったりもしました。
しかし、楽しそうに三人でケーキを食べて笑っているところを、ナオミが見ていました。
ナオミは児童相談所にトモの生活環境が良くないとタレこみます。
児相の職員がマキオの家を訪れ、トモの体や心に傷がないか見ました。
一方、カイはサッカーが得意な一学年上の男の子にラブレターを書きますが、渡す前にナオミに見つかって破かれてしまい、睡眠薬で自殺を図ります。
幸い一命は取り留めましたが、カイはナオミに「罪深い」と言われてしまいました。
トモはこっそりカイをお見舞いに行って、すべてを打ち明けたカイを励ましました。
煩悩の供養、女と、女
トモとリンコとマキオは海へ行きます。
三人で砂浜に座って“煩悩”を編みます。
そして108個の煩悩が完成し、燃やして供養しました。
そんなある日、ヒロミが突然戻ってきます。
男に捨てられ、すっからかんになって、悪びれることもなくトモを連れて帰ろうとしました。
マキオはヒロミの無責任さを非難して、トモを引き取りたいと思っている旨を話します。
自分とリンコでトモを育てていきたい、と。
ヒロミは逆上して、リンコに「あんたに何がわかるのよ、母でも女でもないくせに」と吐き捨てます。
そして「あんたは一生“母親”にはなれない」と畳み掛けると、トモがヒロミに泣きながら手を上げました。
それでもトモにとってはたった一人の母親です。
トモはヒロミに「今日は一人で帰って」と言い、三人で最後の夜を過ごすことにします。
翌日、タクシーで一人で帰ると言うトモに、リンコはプレゼントを渡します。
トモが家に戻って開けてみると、リンコが編んだ毛糸のおっぱいが入っていました。
『彼らが本気で編むときは、』感想
“女”という生き物
主としてトランスジェンダーを扱っている作品だから、何だかいろいろ考えてしまいました。
生まれ持った性、心の性に関しては割と明るくなってきた世の中とは言え、当事者たちにはまだまだ暮らしにくい世の中だと、私は思います。
偉そうに理解者ぶる気もないけど、苦しんでいる人はたくさんいるよなぁって。
この作品においては、よりわかりやすい“女”というものに軸を置いていて。
神様に与えられた性別に違和感なく生きて、子供まで授かっても、大切なはずの子供を守りもせずに自分中心で生きる女、ヒロミ。
神様が間違えた性別で生きて、苦しんで苦しんで“正しい”性別になっても、女だったら当たり前のように得られる幸せをどう頑張っても得られない女、リンコ。
対照的なヒロミとリンコ、その間で揺れるトモ。
せつないなぁ…。あんたは一生母親にはなれないの!ってヒロミがリンコに言うところ、非常に胸が痛くなります。
リンコがどうやっても手に入れられないものを持っているヒロミが、それを言うことの残酷さたるや。
でも視点をずらせば、ヒロミには支え合うパートナーがいなくて。
リンコにはマキオがいる。
これは性別云々じゃなくて、たぶん人間として素敵かどうかという差なんだろうなと思います。
話の中でマキオが言っているように。
それにしても“煩悩”を編んで全部燃やして供養するって面白い発想だなと思います。
私も編もうかなぁ…煩悩…。
好きなシーンと、セリフなど。
全体的に生田斗真の仕草が女性そのもので、立ち方は意識してるんだろうなと思うシーンはあるにしても、お芝居うまいなぁとかそういう感情以前に違和感なく見られました。
そういう面で一番印象に残っているのは最初の方、トモがリンコと初めて会った日の晩御飯のシーンで、リンコが小皿をテーブルに置く何気ない場面があるんですけど、小皿がコトって音を立てないように小指を添えて置くんです。
私はたまたまぼんやり手元を見ていたから気づいたけど、きっと意識して見てないと気づかないところ。
あっ、これすごい作品を見てるな私。と思った場面です。
あと好きなシーンは、トモとリンコが押し入れの扉を挟んで糸電話するところ。
「内緒話、しよ」って言うリンコの優しい声と、仲直りしたいけど気まずくてどうしたらいいかわからないであろう幼いトモの心を汲む行為としての糸電話っていうのが温かいです。
好きなセリフは「ビール発明した人にノーベル賞あげたぁい」。
これはリンコもマキオも言う場面があるから、きっと日常的に二人が言ってるんだろうなぁと思うと可愛くて仕方ない。
もう一つ、トモのセリフで「あんたのママは、たまに間違う」。
カイの母・ナオミが息子に罪深いと言ったことに対しての言葉。
リンコと打ち解ける前のトモだったら、こうは言わなかったでしょうね。“たまに”って言葉に気遣いを感じる。
でも、ちゃんと“間違う”って言うのは、カイは決して罪深くないってことを伝えるために。
『彼らが本気で編むときは、』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
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— 映画『彼らが本気で編むときは、』 (@kareamu) 2017年6月23日
以上、ここまで『彼らが本気で編むときは、』について紹介させていただきました。
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- 理解できない人にはまったく理解できない世界だろうけど、身近にある世界の話だと思います
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