直木賞作家・白石一文が東日本大震災後に発表した同名小説が原作の映画『火口のふたり』。
出演者はメインキャストの柄本佑と瀧内公美の二人だけ、といっても過言ではない濃厚な空間の中で男女の究極の愛の姿を描きます。
監督は『共喰い』『海を感じる時』などの脚本で知られる荒井晴彦。
ロマンポルノの世界で脚本家としてのキャリアをスタートさせた荒井晴彦だからこそできる、濡れ場や女優の魅せ方も見どころのひとつとなっています。
それではさっそく映画『火口のふたり』をネタバレありでレビューします。
目次
映画『火口のふたり』作品情報
作品名 | 火口のふたり |
公開日 | 2019年8月23日 |
上映時間 | 115分 |
監督 | 荒井晴彦 |
脚本 | 荒井晴彦 |
原作 | 白石一文 |
出演者 | 柄本佑 瀧内公美 |
音楽 | 下田逸郎 |
【ネタバレ】映画『火口のふたり』あらすじ
ふたりの再会
東日本大震災から数年。
東京で川に釣り糸を垂らしていた賢治(柄本佑)は、震災の影響で務めていた会社が倒産して以降、無職でした。
そんな賢治のもとに、故郷の秋田で暮らす父親(柄本明)から電話がかかってきます。
従妹の直子(瀧内公美)の結婚が決まったらしく、結婚式の日程を伝えるよう頼まれたそうです。
賢治は結婚式に出席するため、秋田へ帰ることになりました。
結婚式を10日後に控えた直子は、帰省した賢治の実家に向かいます。
賢治の母親が死去し、父親が再婚してから、誰も住んでいない家です。
賢治は直子から新居に家電を運び込むのを手伝ってほしいと頼まれ、一緒に直子の実家に行きます。
そこで直子が大切にしていたアルバムを見ました。
そこにあったのは東京の専門学校に通っていた当時20歳の直子と25歳の賢治が一糸まとわぬ姿で身体を重ねている姿を収めた何枚ものモノクロ写真でした。
新居に家電を運び終えて賢治が帰ろうとすると、直子は「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」と賢治の唇を奪います。
そして、賢治もそれに応えるのでした。
直子の結婚相手である自衛官さえ寝たことがないベッドで、二人は久しぶりに身体を重ねます。
賢治が直子になぜ結婚するのか尋ねると、直子は子供が欲しくなったからだと答えました。
翌日、昨晩のことを思って勃起が収まらなくなってしまった賢治は、直子の実家に行きテーブルに押し倒します。
直子は一晩限りのつもりだったので最初は嫌がりましたが、結婚相手の自衛官が帰ってくるまでの5日間だけという約束で、昔のような関係に戻ることにしました。
ふたりきりの5日間
その夜、賢治は直子に料理を作り、一緒に食事をします。
食事の席で賢治は、直子が「子供が欲しいから結婚する」と答えたことを掘り返し、結婚の動機として不純なのではないかと言いました。
直子は他にも理由を付け加えましたが、何となく信憑性に欠けます。
そんな直子は、自分だって子供がいるのにと賢治に突っかかりました。
実は賢治は直子と別れた後、できちゃった結婚をしたのですが、自身の浮気がきっかけで離婚していたのです。
賢治はそれから娘と会うことはありませんでした。
賢治と直子は食事をして、セックスをして、眠って…を繰り返して過ごし、最後の夜に西馬音内の盆踊りを見に行きます。
その道中、賢治はバスの車内でも直子の下半身に手を伸ばしていました。
“亡者踊り”とも呼ばれるらしい盆踊りの踊り手が、黒い頭巾で顔まですべて隠している様子がエロティックだと話していたこともあり、ホテルに着くとすぐにセックスをします。
賢治はそこで、直子に過去のことを尋ねました。
賢治が後に結婚相手となる女性と関係を持っていたことに、いつから気づいていたかと。
直子は最初から気づいていたと答えました。
その証拠に、直子は賢治に「一緒に死のう」と心中めいたことを言って、富士山の火口のポスターを背景に身体を重ねる姿を写真に収めたのでした。
東京で決まっていた就職先を蹴って故郷に帰ったのも嫉妬からで、「身体の言い分に従えばよかった」と後悔したそうです。
さらに、賢治の母親が「賢治と直子が一緒になればいいと思っていた」と話していたことを伝えます。
当時、恋人の直子が従妹だということをうしろめたく感じていた賢治は、あえて路地裏やトイレなどでアブノーマルなセックスをしていたので、母親からその言葉を聞けていればそんなことをしなかったのに…と心が沈みます。
翌朝、賢治が起きるころ、直子はすでにホテルから出ていました。
「結婚式に来てね」と置き手紙をして…。
火口のふたり
直子の結婚式を目前に、賢治の父親から電話がかかって来ます。
結婚相手の自衛官が緊急の任務に就くため、結婚式が延期になったというのです。
父親は延期なのかドタキャンなのかと疑っている様子でした。
心配した賢治が直子に電話すると、新居に呼ばれます。
そこで直子は、あの富士山の火口のポスターを見せました。
東京の賢治の部屋に貼ってあったものですが、モノクロ写真と同様に直子が大切に持っていたのです。
直子は2日後に富士山が大噴火すると言います。
結婚相手の自衛官が就くことになった緊急任務も噴火に備えてのことで、実質直子は置いて行かれるカタチになりました。
結婚相手が任務に向かったのと同時に心まで離れてしまった直子は、賢治と二人の時間を過ごします。
富士山の大噴火で東京の都市としての機能は麻痺することが予想される中、直子は賢治に尋ねます。
「日本が大変なことになるのに、あなたは何も決めないままでいいの?」
賢治は「自分の身体の言い分に従う」と答えました。
テレビで報道番組が富士山の大噴火について伝えるようになるころ、賢治は「中に出していいか」と聞きます。
そして、直子はそれに応えるのでした。
映画『火口のふたり』感想
震災後文学として
『火口のふたり』では、未曽有の大災害を前に寄り添い合い抱き合える相手を選ぶ男女の姿が描かれています。
urara
賢治は東日本大震災の影響を受けて務めていた会社が倒産して無職になり、直子は同じ東北でありながら震災の被害が少ない秋田で生活していることをうしろめたく感じていました。
そして、直子が結婚することを決めた理由である子供が欲しくなったというのも、震災を通して生まれた気持ちでしょう。
urara
覗いたのが“子供”だったというのが大切なところなのですが、それは物語のラストに繋がります。
ラストの少し前、賢治が直子に「中に出していいか」と聞いたとき、直子はそれを拒否しています。
しかし、富士山が噴火するころ、つまりラストシーンでは賢治の同じ問いに頷き、子作りに応じているのです。
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このように震災を経たことで環境や心境の変化があった二人ですが、劇中で「被災者になったふりはできても、被災者にはなれない」と言っています。
urara
実際に起きた大震災だけではなく架空の大噴火も登場させることで、賢治と直子が感じている空気感を伝わりやすくすることに成功しています。
また、原作である同名小説は東日本大震災の翌年に発表されていて、震災後文学というジャンルに大いに含まれると思います。
しかし、富士山の大噴火という災害が起きるからこそ一緒になることができた賢治と直子という存在は、一部災害を肯定しているように見えるかもしれません。
一方で、震災を経たことで「身体の言い分に従う」という二人にとって大切な考え方ができるようになったのも確かです。
そのため、こうした災害に対して無力である自分たちが、今後どのようにして生きていくか考えるのに大きな意味を持つ作品になっています。
“説明口調”は原作に沿った結果?
柄本佑と瀧内公美の二人芝居のような今作には、台詞が説明口調でいまいち共感しづらい、話が入ってこないという意見があります。
確かに今時の“ら抜き言葉”を使わずに会話をする二人の台詞は、話し言葉としては丁寧すぎる部分があるかもしれません。
urara
ストーリー自体もほぼ忠実に再現しているので、台詞もこういったカタチになったようです。
そんな中で原作と映画の一番の違いといえば、舞台が変更されたことでしょう。
原作の舞台、二人の故郷は福岡です。
震災を絡めたストーリーをより印象づけるために東北地方にある秋田に変更されていますが、この変更はとても良い選択だったと感じています。
urara
人の匂いを感じる演技
原作が濡れ場の多い小説ということで、メインキャラクターを演じた二人の一糸まとわぬ姿での演技が注目されましたが、小説で描かれるシーンの一つ一つというのは読者の想像次第でどんなシーンにもなり得る可能性があります。
そのため、映像化するとチープに見えてしまったり、実写になったことで生々しくなりすぎたり、作品によっては逆に生々しさがなくなってしまったりするパターンが見受けられるのです。
しかし、『火口のふたり』ではそのようなことはなく…
urara
また、濡れ場シーンは意味を持って登場するので、苦手な方もいるかもしれませんが、ストーリーと切り離さず密接な関係にあると認識したうえで観ると楽しめるかと思います。
urara
映画『火口のふたり』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで映画『火口のふたり』についてネタバレありで紹介させていただきました。
- 衝撃の震災後文学を映画化
- 「身体の言い分に従う」男女の姿から目が離せない
- 柄本佑と瀧内公美の二人芝居が魅力の作品
直木賞作家・白石一文原作、荒井晴彦監督、柄本佑&瀧内公美主演の映画『火口のふたり』。
一部原作だけに登場するエピソードもあるので、ぜひ小説とあわせてご覧ください。