心が通い合った時、確かに幸せだった二人の永遠のような一瞬を切り取ったほろ苦い青春ラブストーリー。
監督は『黄色い涙』『猫は抱くもの』『引っ越し大名!』の犬童一心。
- 第54回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞作品
- 謎解きみたいなタイトルは物語の大事なモチーフ
- 長い人生の中で一瞬きらきら光る時間を切り取った尊さを感じて、切なくなる作品
それではさっそく映画『ジョゼと虎と魚たち』をレビューしたいと思います。
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目次
『ジョゼと虎と魚たち』作品情報
作品名 | ジョゼと虎と魚たち |
公開日 | 2003年12月13日 |
上映時間 | 116分 |
監督 | 犬童一心 |
脚本 | 渡辺あや |
出演者 | 妻夫木聡 池脇千鶴 上野樹里 新井浩文 新屋英子 |
音楽 | くるり |
【ネタバレ】『ジョゼと虎と魚たち』あらすじ
乳母車の中身は…
大学生の恒夫(妻夫木聡)は雀荘でバイトしながら大学生活を謳歌している、ごく普通の男子。
あるとき雀荘の客たちの噂になっているお婆さんがいました。
10年も前からずっと乳母車を押してヨボヨボと歩いているというお婆さん。
その乳母車には何が入っているのか、大金や麻薬なのではないかという話題で盛り上がっていました。
恒夫は早朝、雀荘のマスターの飼っているミニチュアダックスの散歩を頼まれます。
歩いていると坂の上から乳母車が持ち主の手を離れてしまったらしくノンストップで転がってきました。
恐る恐る中を覗くと幾重にもなった毛布の下には、女の子が入っていました。
そして覗き込む恒夫を睨み、包丁を振りかざしました。
乳母車の持ち主であるお婆さんがやっとのことで追いつき「くみ子」と声をかけました。
雀荘の噂の的になっていたのはこのお婆さんで、いわく、乳母車に乗っているのは孫で足が悪くて歩けないということでした。
ある医者は脳性マヒだと言うし、またある医者は脳性マヒではないと言う。
つまり、ハッキリとした原因はわからないようでした。
恒夫は二人を家まで送り、そのお礼にと朝ごはんをごちそうになります。
白米とお味噌汁とぬか漬けと卵焼き、そんなシンプルな朝食のおいしさに恒夫は笑顔になりました。
卵焼きはくみ子(池脇千鶴)が作ったものだったので、料理を終えて台から降り自分の部屋に行ってしまったくみ子に恒夫は「おいしいです」と声をかけます。
本で溢れた部屋で落ち着くくみ子は「当たり前だ、私が作ったんだから」と返しました。
ジョゼ(池脇千鶴)は“壊れ物”
恒夫は大学で同期の香苗(上野樹里)から相談したいことがあると言われます。
福祉関係の仕事がしたいという相談でした。
そのことを体だけの関係を持つノリコ(江口のりこ)に話すと、「最近彼氏と別れた香苗はあちこちに種をまいてる」と言い、恒夫に気があるようなことを言いました。
バイトの帰り、再び恒夫はくみ子の所へ寄ってみました。
玄関から声をかけても誰も出てこないので、裏口に回ってノックするとおもむろに開く台所の窓。
くみ子は頬にガーゼをしていて「襲われた」と言いました。
これまでも何度か襲われているらしく、恒夫は「散歩はやめた方が良い」と言いましたが、くみ子は「散歩はしないわけにはいかない」と言いました。いろいろ見ないといけないものがある、と。
後日、恒夫はまたくみ子の所に行って福岡の実家から送られてきた野菜やみそをおすそ分けしました。
明太子を見せて「ご飯多めに炊いてね」と言う恒夫に、くみ子は「ど厚かましい男やな」と一蹴しました。
このとき恒夫は、はじめてくみ子の名前を聞きます。
お婆さんが“くみ子”と呼んでいるのを聞いて知っていたけれど、改めて聞くと自分の名前は「ジョゼ」だと言いました。
ジョゼの部屋で本を眺めているとき、ふいに手に取ったサガンの「一生ののち」という本が目に入り手に取ります。
これはジョゼのお気に入りの本で、恒夫は内容こそよく知らないものの作者の名前は知っていました。
続編があるらしいんだけど知らないかと言うジョゼに、恒夫は曖昧な返事をしました。
後にジョゼが求めている“続編”について書店で聞くと、もう絶版になっているとのことでした。
絶版、つまり取り寄せたりはできないということ。
なので恒夫は古本屋を巡り、続編を見つけてジョゼにあげるのでした。
あるとき恒夫は、乳母車にスケボーを取り付けて、お婆さんが昼寝をしている隙にジョゼを散歩に誘います。
世間体を気にするお婆さんは、孫の存在を隠しており、早朝以外に散歩をするなんてありえないことだったのです。
いつもと違う時間帯に、いつもと違うスピードで見る景色はジョゼにとっては面白いものでした。
散歩の途中で自動車整備工場に寄り、ジョゼは一枚の写真を出してそこに写っている幸治(新井浩文)という男を呼んで来いと言います。自分の息子だと。
写真に写っていたのは幼い男の子でしたが、現れた幸治はガラも口も悪い男性でした。
家に帰ると、二人はお婆さんから近所に知られたらどうするんだと怒られました。
恒夫には帰ってくれと言い、ジョゼには壊れ物には壊れ物の分というものがあるだろうと責めました。
白い息と、ジョゼ(池脇千鶴)の涙
ホームセンターで買い物をしていた恒夫は偶然幸治に再会し、ジョゼとの仲について知ることになります。
幼いころ同じ施設にいた二人。
周りの子供たちはみんな母親を恋しがっていたというのに、ジョゼと幸治だけはそうじゃなかったと言います。
あるとき二人で施設を抜け出し、その頃からジョゼは幸治の母親気取りになったということでした。
恒夫は香苗と話している中で、市に申請すれば障がい者が暮らしやすいように無料で工事をしてくれることを知ります。
それをお婆さんに伝えますが、お婆さんは「そんなうまい話があるわけがない」と突っぱねました。
結局、恒夫が申請したことでジョゼの家はリフォームすることになります。
工事を請け負う会社の主任(板尾創路)からは「大学生なのにボランティア精神にあふれていて偉い」と褒められました。
そこに「将来のために見学させてほしい」と香苗が見学しに来ます。
ジョゼは押し入れに隠れてしまいました。
数日後の雨の日。吐く息が白い、寒い日。
恒夫はリフォームの日のことが気になり、ジョゼの家を訪れるとジョゼはうるさいと泣き、中へは入れてくれませんでした。
お婆さんは玄関越しに「頼むからここへは来ないでくれ」と言いました。
やっと通じ合う二つの心
時は過ぎ、恒夫は就職活動をしていました。
香苗と付き合い始め、当たり障りのない毎日。
ある日、飲み会で余興をしていた大学の後輩が“金井春樹”だと知ります。
その名前は、ジョゼの部屋にあった本に書かれていた名前。
お婆さんがゴミ捨て場から拾ってきていたという本の中の、本や教科書やノートに書かれていた名前でした。
せっかくジョゼのことを忘れられそうだったのに、思わぬ形で記憶を呼び覚まされて恒夫は金井を殴りました。
その少しあと、恒夫は就職活動の一環で以前ジョゼの家のリフォームに携わった工事業者へ会社見学に訪れます。
覚えていてくれて嬉しいと言う主任は、これも何かの縁だと人事に口利きしてくれると言いました。
しかし、他愛ない話の流れで、ジョゼのお婆さんが亡くなったことを知ります。
それを聞き、恒夫はジョゼの元へ原付を走らせました。
控えめに玄関を叩き、呼びかけると久しぶりの再会。
ジョゼは週に何回か福祉の人が来るようになったので何とか生活はできていると言います。
ただ、福祉の人が来るのは昼間の時間。朝のゴミ出しの時間には間に合わないのです。
隣の家の怪しい男に「胸を触れせてくれたら毎日ゴミ出し手伝ってあげる」と言われ、触らせたら本当にゴミを出してくれるという話をすると、恒夫は軽く非難しました。
あんたなんか関係ない、とジョゼは感情的になり、ついには「帰れ」と言いますが、恒夫が帰ろうとすると泣きついて「ずっとここにおって」と言いました。恒夫はそれを受け入れ、二人は結ばれます。
恒夫とジョゼは動物園に行きました。吠える虎を見て、ジョゼは怯えながら「夢に見そうなくらい怖い」と言います。
でも、好きな人ができたら世の中で一番怖いものを見たかった、とも言いました。
ほどなくして恒夫はジョゼの家に引っ越します。手伝いは弟と、あの金井春樹でした。
これはきっと、永遠の別れ
近所の女の子がジョゼの散歩を手伝っていると、道の先に香苗が立っていました。
彼氏である恒夫を奪われたことに納得がいかず、ジョゼの武器が羨ましいと言う香苗にそれならあんたも足を切ってしまえばいいと言うジョゼ。
香苗は二発、ジョゼは一発相手の頬を平手打ちしました。
一年後、恒夫はいつものように弟の元に届いた母からの野菜などを取りに行くと「今度法事のときに本当に彼女を連れて帰るのか」と聞かれます。
恒夫は、両親にジョゼを紹介しようと考えていたのです。
社会人となった恒夫は上司との営業の帰り、コスプレみたいな恰好でタバコの宣伝ガールをしている香苗と偶然再会しました。
香苗は一年前にジョゼを打ってしまったことを打ち明けます。
二発打ったら、恒夫のことも就職のこともどうでもよくなった、と言いました。
一方、ジョゼが一人で家にいるときに幸治が車を貸しにやってきました。
恒夫が実家の法事に行くときのために借りたのです。
幸治は「毎日ヤリまくって親のところに行くってことは結婚やろ」と言いますが、ジョゼは「そんなことあるわけがない」と返しました。
翌日、派手な車で二人は出発します。初めての旅行に、一週間も前から持ち物表を作って何度もチェックしたというジョゼは、カーナビが喋ることにも驚きはしゃぎます。
道中で水族館に立ち寄るのを楽しみにしていたのですが、あいにく休館日だったことに文句が止まらないジョゼ。
恒夫は少し実家に連れて行くことをためらい始めます。
結局、恒夫はジョゼがトイレで用を足している間に、先に実家に帰っている弟に電話して「仕事で帰れなくなった」と嘘をつきます。怯んでしまったのです。
会話が聞こえていたジョゼは車に戻るとカーナビの電源を落とし、そして海へ行けと言います。海が見たくなった、と。
日が暮れるまで海を満喫し、夜は海と魚をモチーフにしたラブホテルに泊まりました。
そのあと数ヶ月一緒に暮らし、二人は別れます。
理由はいろいろ、ということになっているけど自分が逃げたのだと恒夫はわかっていました。
ジョゼとの家を出たあと香苗と待ち合わせ、温かいものでも食べようかと気を使ってくれる香苗との会話も上の空だった恒夫は、ガードレールに手を付き声を上げて泣きました。
『ジョゼと虎と魚たち』感想
遠い世界の話のようで、いつ自分に起こってもおかしくない話
私は恒夫視点で見てしまったので、自分にも起こり得ないとは言えないなぁと思いながら見ました。
障がいをもつ相手に恋をしてしまったとして、相手は誰かがいないと、自分がいないと朝のゴミ出しもできないとして。ずっとずっと支えていけるのかどうか。
愛があれば何があっても乗り越えられるとかそういう綺麗事は、なくて。
この物語の結末では、恒夫は逃げ、ジョゼは電動車椅子で買い物に出かけたりするようになっていて。
お前も恒夫と同じように逃げるだろ?って言われているようで胸が痛かったです。
でも、きっとジョゼは最初からわかっていたんだと思う。
ずっと一緒にいられるわけじゃないってこと。
たぶん、だからめいっぱいわがままを言ったし、遠慮なく思うがままにありのままの自分で恒夫の側にいたんだろうなと感じました。
やるせないとか切ないとか、そういう気持ちになる作品だと私は思います。
好きな場面とセリフなど。
ジョゼと恒夫が想い合ってる場面は、基本的に可愛らしくて好きです。出会ってから、福岡に行くまでですね。
好きなセリフは乳母車にスケボーを付けて昼間に散歩に出たとき、調子に乗ってスピードを上げたら土手を転がっちゃった場面でジョゼが言った「なんや、あの雲。持って帰りたいわ」。
恒夫とジョゼは笑わなかったけど、『魔女の宅急便』でトンボとキキがプロペラ自転車に乗ったシーンを思い出しました。
あとは、お婆さんが死んでしまったことを知って、恒夫がジョゼの所へ行く場面での「帰れって言われて本当に帰る奴は帰れ」からの「帰らんといて、ここにおって」の流れも好きです。切ない。
キャスト的なところでは江口のりこの割りきったセフレ感がなんかいいキャラしてるなぁと思いました。
っていうか恒夫、出てくる女全員とヤッてるじゃん…妻夫木聡はエロコンテンツなの?ねぇそうなの?それはそれとして。
とっておき好きなのは、ラストでジョゼが魚を焼いている場面が暗転したら流れ出す、くるりの「ハイウェイ」。
これがもう本当に最高。欲しいところに欲しいものがきたドンピシャ感があります。
曲調や歌声、きっとくるりを知らない人にも“これかぁ”と思えるようなラストだと思います。
『ジョゼと虎と魚たち』まとめ
以上、ここまで映画『ジョゼと虎と魚たち』について紹介させていただきました。
- お涙ちょうだい的な綺麗事のない、やけにリアルなストーリー
- フランソワーズ・サガンの「一生ののち」が好きな人は、知らない人より心に感じるものが強いかもしれない作品
- どうにもできない現実にやるせい気持ちになること間違いなし
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