2018年の話題作『カメラを止めるな!』も受賞したゆうばり国際ファンタスティック映画祭の観客賞である「ゆうばりファンタランド大賞」の作品賞を受賞し、カナダのファンタジア国際映画祭にも正式出品など、国内外の多くの映画賞を受賞している『いつくしみふかき』。
公開前から、映画ファンの間で話題になっていた作品です。
周りの人々を次から次へと不幸にする悪魔のような父親・広志とその息子・進一の再会と交流、そして別れを描いた骨太なインディーズ作品となっています。
「夢」や「恋」がテーマの甘ったるい映画じゃなく、どっしりとした作品が好きという方におすすめです。
- 渡辺いっけいの初主演作品
- 重くなりすぎない絶妙な演出と構成
- 無名役者たちの演技が輝く
それでは『いつくしみふかき』をネタバレありでレビューします。
目次
『いつくしみふかき』作品情報
作品名 | いつくしみふかき |
公開日 | 2020年6月19日 |
上映時間 | 107分 |
監督 | 大山晃一郎 |
脚本 | 安本史哉 大山晃一郎 |
出演者 | 渡辺いっけい 遠山雄 平栗あつみ 榎本桜 小林英樹 こいけけいこ のーでぃ 黒田勇樹 三浦浩一 眞島秀和 塚本高史 金田明夫 |
音楽 | 吉川清之 |
【ネタバレ】『いつくしみふかき』あらすじ・感想
悪魔は笑顔で近寄ってくる
意外なことにも今作『いつくしみふかき』が名バイブレイヤー渡辺いっけいの初主演作品になります。
斎藤あやめ
最初は優しげな笑顔で他人に近づき、最後には全てを奪い去っていくような男で、常に自分が得することしか考えていません。
息子の進一を始めとした広志を取り巻く人々、そして観客さえも、何度も何度も広志に期待しては裏切られます。
表面上は腰が低く、人当たりの良い笑顔、時には調子が良すぎるくらいの態度を見せたりと広志に出会う人は次々と騙されていきます。
しかし、そのすべてが成功しているとは言えません。
一番最初の「事件」を起こした際も、村人に徹底的に叩きの召されていますし、劇中で何度か起こす詐欺や恐喝なども失敗しています。
観客は、そういった広志の失敗も見ているからこそ「今度こそ更生してくれたかもしれない」と何度も期待してしまいますが、気持ちのいいぐらいに裏切られます。
笑顔を絶やさず、自分のことしか考えない徹底的に腐った人間が広志という男なのです。
斎藤あやめ
自分の代わりに出所すると言い出した浩二を抱きしめる広志の目の冷たさが、彼の本質を表しています。
短いシーンですが、非常に印象に残ったシーンでした。
この映画では、広志以外にも「笑顔」を浮かべて近寄ってくる悪魔が登場します。
それは、小林英樹演じる進一の叔父です。
進一の父である広志を悪魔として徹底的に憎みながらも、優しげな笑顔を浮かべて進一を少しずつ、でも確実に追い込んでいきます。
斎藤あやめ
広志が救いようのない人間であることは間違いありません。
しかし、この叔父や村人たちの閉鎖的ゆえの残酷さもまた、広志とは違う人間の「悪」を感じさせます。
3部で描かれる父子の不思議な交流と絆
『いつくしみふかき』は進一が村を追い出されるまでの前半、広志と進一の交流と広志の新たな裏切りによって2人が別れるまでが描かれる中盤、その別れの後の進一の生活と再会が描かれる終盤と三部作のように分けることができます。
父と息子の再会と交流が描かれる中盤は、映画前半に漂う暗く重苦しい雰囲気を一掃してくれています。
そのおかげで、観客も張り詰めていた心を緩めることができると同時に、広志や進一の人間らしい一面に触れることができます。
斎藤あやめ
牧師・源一郎役の金田明夫の存在も、中盤の面白さを引き立たせています。
彼の存在なくしては、この映画の魅力も半減するのではないかと思うぐらい、重要な役どころです。
源一郎の思惑によって始まった父子の交流(最初はお互いに父子だとは知らない)は、広志の裏切りによって終わりを告げます。
それまで、不器用ながらも交流を深めていた父子の姿を観ていた観客にとって、この裏切りはなかなかの衝撃です。
進一でなくとも、広志に文句の1つや2つ言いたくなってしまうこと間違いありません。
広志の裏切りによって後味の悪いまま、物語の舞台は2年後に移ります。
映画終盤で救いになるのが進一の成長です。
斎藤あやめ
願わくば広志のことなんて忘れてこのまま幸せに暮らしていって欲しいと思う反面、気になってしまうのが、クローゼットに向ける進一の意味深な視線。
最終的に進一は2年間ずっと広志のことを忘れていませんでした。
自分が変われば、どうしようもない広志も変わるかもしれないという進一の気持ちは理解はできます。
斎藤あやめ
ありがちな表現ですが、切っても切れない「父と子の縁」というところなのでしょうか。
広志にいたっては、残してきた自分の子供に対して後ろめたさを感じているのかもしれないと観客に思わせる場面が中盤に1つだけあります。
それ以外はありません。
しかし物語終盤では広志の父親としての想いが明かされます。
最初の事件の広志の回想シーンは、なかなか感慨深いものです。
もしあの時、広志が手を止めていたら、広志も進一も全く別の人生を暮らしていたに違いありません。
斎藤あやめ
そして、異様な雰囲気を漂わせているこの作品のポスターの秘密もラストで明かされます。
着衣で浴槽に入っている2人のシーンはありえなさや違和感を感じる人も多いでしょう。
その「ありえなさ」や「違和感」こそが、この父子の関係性だったのかもしれません。
進一の「ここからは1人でいきます」という一言で、映画はエンディングを迎えます。
この一言は、幼少期から悪魔の子として冷たい視線の中で育ち、広志との別れの後も、ずっと父・広志の影に縛られていた進一の決別宣言とも言えるのではないでしょうか。
斎藤あやめ
無名な役者たちの存在感が光る
進一役の遠山雄、浩二役の榎本桜など、世間では無名な役者たちが著名な役者勢に負けず劣らずの演技を見せているのも『いつくしみふかき』の魅力です。
のーでぃやこいけけいこといった女優陣たちの存在も作中で輝いています。
商業映画だと出会えない魅力的な役者に出会えるのも、インディーズ作品の面白いところです。
『いつくしみふかき』は、その面白みがたっぷり味わえる作品といえます。
斎藤あやめ
実は彼女は、映画の完成を待たずにして癌で亡くなられています。
故郷の長野を舞台にした作品ということで、闘病中ながらも出演を希望し、結果的に出演につながったそうです。
斎藤あやめ
そして、その事実を抜きにしても、彼女の存在はスクリーン上でキラリと輝いています。
『いつくしみふかき』あらすじ・ネタバレ感想:まとめ
朝イチでテアトル新宿へ。
ちょっと、というか、相当驚いた。いつの間にこんな傑作が作られ公開されていたのか。これはもう必見と言ってもいい。日本映画で久しぶりに感動しました。この映画を教えてくれた斎藤工さんに感謝‼️#いつくしみふかき #渡辺いっけい#大山晃一郎 pic.twitter.com/UWlF0YqUUZ— 佐藤佐吉 Sakichi Sato (@sakichisato) July 7, 2020
以上、ここまで『いつくしみふかき』をレビューしてきました。
- 渡辺いっけいの救いようがないダメ男ぶりが見事
- 実現しなかった父子の姿に切なくなること間違いなし
- インディーズ映画の魅力と底力を感じさせる作品
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