「サマーフィルムにのって」は2021年8月6日より全国で公開された青春映画です。
主演は元乃木坂46の伊藤万理華、監督は本作で長編初挑戦となる松本壮史、次世代俳優や若手クリエイターたちで作り上げた作品です。
・映画を愛する高校生の瑞々しい青春を追体験【ネタバレなし】
・絶対に嫌な気持ちにならない肯定的な表現【ネタバレあり】
サマーフィルムにのってネタバレなし感想
・瑞々しい映画への愛
「座頭市」を敬愛する高校3年生のハダシ(伊藤万理華)。
映画部に所属していますが、部活で撮る作品はキラキラの恋愛映画ばかり、大好きな時代劇を撮れずに悩んでいました。
「脚本はできているけど、役者が見つからない…」そんな彼女の前に現れた武士役にぴったりの凛太郎(金子大地)。
さっそく仲間を集めて、文化祭でのゲリラ上映を目指して時代劇「武士の青春」の撮影を開始!
本作「サマーフィルムにのって」の魅力は、青春の輝きに満ちたひと夏を追体験できることです。廃ワゴン車を改装した「秘密基地」で親友と趣味に没頭するひととき、個性豊かな撮影クルーとのミーティングや合宿での何気ないひととき…。
胸が痛くなるほど愛おしい瞬間を共有できました。
映画に没頭すること=経験したことがない景色、感情を追体験すること、だと私は思っています。
長い映画を短く編集した「ファスト映画」であらすじを知って全編を観た気分になりたい人が増えている、という話題を目にしたことがありますか?スマートフォンで手軽にアクセスできる短くて面白いコンテンツに慣れた結果、映画のような長時間の娯楽に耐えられない人が増えている、など。
「映画が好き!」という気持ちだけでどこまでも突き進むハダシには観る者をぐいぐい惹き込む力があります。
また、映画が大好きだが、ハダシの出演依頼を頑なに拒む凛太郎にはある「秘密」があります。
中盤で発覚するこの「秘密」こそ本作の核であり、本作「サマーフィルムにのって」から映画の未来へ送るメッセージに繋がる要素となっています。
きっと誰もが映画の面白さを思い出して、もっと映画を好きになる、隅々まで映画愛に溢れた傑作です。
↓↓サマーフィルムにのって 以下、若干のネタバレを含みます
・温かくて肯定的な表現
本作「サマーフィルムにのって」のもう1つの魅力は、何かを否定するような表現がないので絶対に嫌な気持ちにならないことだと思いました。
ハダシは時代劇「武士の青春」の撮影を始めたとき、ラブコメを軽蔑していました。文化祭で上映することが決まっているキラキラ恋愛映画「大好きってしかいえねーじゃん」の監督兼主演の花鈴(甲田まひる)とは敵対しています。
ところが、お互い撮影や編集作業を進めていく中で歩み寄り、ハダシはラブコメの良さを知り、花鈴の提案で文化祭はラブコメ&時代劇の同時上映となります。
敵対がリスペクトに変わる清々しくて美しい瞬間でした。安易に「オタク」VS「リア充」という構図に持ち込まなかったところが良いです。
花鈴の恋愛映画で描かれる「大好き」が、ハダシの映画に対する「大好き」に重なるという流れも美しいです。
また、自然体な高校生が描かれているように感じられたことも大きな魅力です。
テレビコマーシャルや電車の車内広告などで「女子高校生」を目にすることは多いと思います。
それらは程度の差こそあれ、かつて「炎上」した赤十字の献血ポスターのような性的な表象、つまり男性向けのアイキャッチとして描かれているものが少なくありません。
本作に登場する「女子高校生」=ハダシや、ハダシの親友たちはとても自然体です。時代劇に没頭していたり、SF小説にはまっていたり、剣道に打ち込んでいたり、荒っぽい言葉も使うし、誰かの目線を気にしていません。日本のメディアが理想化した「女子高校生」像を、否定する、というより軽やかに無視して自由に振る舞うハダシたちはとても輝いて見えました。
体育館で撮影のミーティングをしているとき、もう1人の武士役ダディボーイ(板橋駿谷)がハダシに「どうして時代劇が好きなの?」と聞く場面があります。
質問に続けて「珍しいよね」と付け加えるのですが、何気ないこの一言もお気に入りです。
ダディボーイの口調からも、場の空気からも、「『女の子なのに』珍しいよね」というニュアンスがゼロでした。
さらっと出た「珍しいよね」から感じ取れるフラットな感覚。実際に深い意図はないかもしれません。
でも、映画の好みに性別は関係ない、ということをさりげなく提示してくれたような、温かさを感じる場面でした。
レビューまとめ
・敵対はリスペクトに、搾取的な目線やステレオタイプは無視して自由に、心が軽くなる肯定的な表現