『イップ・マン外伝 マスターZ』は、映画『イップ・マン』シリーズのスピンオフにあたる作品です。
『イップ・マン 継承』でイップマンに敗れた男、張天志を主人公にしています。
とても考え抜かれたアクション映画に仕上がった本作について、私なりに紐解いていきたいと思います。
- 張天志の復活を描く素晴らしいドラマ
- 巨匠ユエン・ウーピンの演出が光る
- 見どころ満載!最高のアクションシーン
それではさっそく『イップ・マン外伝 マスターZ』をレビューしたいと思います。
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目次
『イップ・マン外伝 マスターZ』作品情報
作品名 | イップ・マン外伝 マスターZ |
公開日 | 2019年3月9日 |
上映時間 | 108分 |
監督 | ユエン・ウーピン |
出演者 | マックス・チャン デイブ・バウティスタ ミシェル・ヨー トニー・ジャー リウ・イエン |
【ネタバレ】『イップ・マン外伝 マスターZ』あらすじ・感想と考察
張天志とリンクする詠春拳
詠春拳の象徴とも言える木人椿。
この木人椿の存在が、張天志の立場に重なる演出をされています。
木人椿は主に次の4回登場します。
- 自宅で服をかけるのに使われているところ
- 家が放火され焦げてしまったところ
- 覚醒した張天志の精神世界
- エンディング
まず、冒頭で木人椿は服をかけるのに使用されています。
張天志が現在は木人椿で練習していないことがわかります。実際に武術の道を離れ、食料品店として働いています。
ここでの木人椿と張天志には、「実際の役割ではないがなんだかんだ役に立っている」という共通点があります。
次に、焦げてしまった木人椿について。
キットの放火によって張天志の自宅兼店舗は燃え尽きてしまいます。
店が燃えてしまったことで張天志は職を失います。そして木人椿も焦げて使えなくなってしまいます。
張天志と木人椿がともに役目を失ってしまいます。
今回のラスボスにあたるデヴィッドソンに張天志が戦いを挑むクライマックス。覚悟を決めた張天志はついに詠春拳を使います。
その時、張天志の精神世界の映像になり、木人椿が現れます。張天志の詠春拳の復活とともに木人椿も復活するのです。
本来の自分に目覚めるというシーンです。
そしてエンディングで張天志は再び武術の道に進み、詠春拳を普及させていることが語られます。
張天志は息子とともに木人椿を打っています。詠春拳が受け継がれていることが感じ取れます。
このように、張天志の立場と木人椿がリンクするような演出がされています。
詠春拳の象徴として木人椿が使われているのです。
俳優マックス・チャンが持つ力
マックス・チャンは『グランド・マスター』→『ドラゴン×マッハ!』→『イップ・マン 継承』→『狂獣 欲望の海域』に続けて出演しています。
それぞれ、脇役→ラスボス→ライバル→主役と1作ごとに大きな役どころになっていっています。映画の出演時間も徐々に長くなっています。
『グランド・マスター』の時は、硬派なキャラクターということもありますが、はっきり言って顔の表情が2種類くらいしかありませんでした。
しかし次の『ドラゴン×マッハ!』では、似たキャラクターでありながら、より怖さとカッコよさが引き出されていました。
そして『ドラゴン×マッハ!』→『イップ・マン 継承』『狂獣 欲望の海域』を経て、非常に味わい深い役者になっています。
初主演の『狂獣 欲望の海域』では、暴力的な警官でありながら、心に自分の正義を掲げている人物像を見事に演じています。
そして今作、『イップ・マン 継承』から引き続き張天志役です。
マックス・チャン史上最高の演技だと感じました。より父親という側面が前面に出てきています。
息子フォンとのシーンでの芝居が素晴らしいです。優しさと強さを合わせ持った、とても魅力的な人物に仕上がっています。
特にフォンとの食事シーンが良いので次で詳しく書いていきます。
ユエン・ウーピンが描く食事描写
今作の監督ユエン・ウーピンは食事シーンの演出が非常にうまいです。
(1)『スネーキーモンキー 蛇拳』
この映画でジャッキー・チェン演じる主人公は、いつまでもまともに武術の訓練ができずにいます。
そんなときに後に師匠となる老人とともに食事するシーンがあります。ここのシーンがとても良い味を出しています。
主人公に思わず感情移入してしまいます。
ちなみにこの師匠の役者はユエン・ウーピンの実父です。
(2)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ外伝/アイアン・モンキー』
この映画で主人公(演:ドニー・イェン)は、中盤に食ベ物を買おうとしますが、誰にも売ってもらえません。
しかし、一人の女性だけは食事を出してくれます。ここで一緒に鍋を食べるシーンがとても感動できます。
ユエン・ウーピン監督作は食事シーンで見事な演出がされています。
そして今作は、正に食事そのものが話の推進力になっています。
毎日白粥ばかりで嫌気がしているフォンと、張天志の会話が映画に深みを与えています。
さらに張天志家の朝食と対比する構造で度々ステーキが登場します。
まず誕生日のお祝いとして出てきます。いつもより良い食事の代表として扱われています。
次にデヴィッドソンが取引の場でふるまいます。闇取引の場でも用いられているのです。
そしてデヴィッドソンはフーに最後の晩餐としてふるまいます。
ステーキが食べごろになるまでの時間に、デヴィッドソンがフーを痛めつけます。
ステーキが良い食事として、闇取引の小道具として、最後の晩餐として登場します。
ひとつの料理に様々な役割と意味を与えているのです。
ユエン・ウーピンが描く食事が、これだけ話の推進力となっているのは初めてです。
アクションシーンの圧倒的なカッコよさ
観た誰もが一番評価する点はアクションシーンだと思います。
その量と質がどちらも圧倒的です。
(1)アクションと空間
まず敵の一味の襲撃を受け、逃げる時のアクションについて。
街中に無数にある看板を登ったり跳びうつったりしながら敵を倒していきます。
そして一通り倒した直後にトニー・ジャー演じる殺し屋が襲撃してきます。
ここでは柱や壁に囲まれた狭い空間でのアクションになっています。
空中で縦横無尽に動き回る空間的なアクションから、動きが制限される狭い場所でのアクションへとシフトしていきます。
空間を使ったアクション設計が見事です。
(2)アクションとキャラクター
アクションでキャラクター性を見せることも考え抜かれています。
ヒロインにあたるジュリアが、大人数の男を倒すシーンがあります。
女性の細い手足で戦うには不利です。ここでジュリアはやたらモノを使って戦います。
なるべくモノを使ったり、何回も殴ったりといった工夫がされています。
…しかし、その後、ミシェル・ヨー演じる女ボス、クワンは張天志と普通に素手で互角に戦っています。
ジュリアの女性アクションは、このクワンの強さを際立たせる効果があるのかもしれません。
ラスボスのデヴィッドソンを演じたのは、WWEのスター、デイヴ・バウティスタです。
ラストでの張天志との戦いで見せる重みのある殺陣がかっこいいです。
パワーとスピードの戦いになるかと思ったら、意外とデヴィッドソンが速いのがまた良いです。
それぞれが有効な攻撃方法に徹して戦っているのが素晴らしいです。
殺陣のカッコよさ、空間の使い方、アクションで見せるキャラクター性、全てが超高水準に仕上がっています。
『イップ・マン外伝 マスターZ』まとめ
本日発売の読売新聞夕刊、日本経済新聞夕刊に『イップ・マン外伝 マスターZ』の映画評が掲載されています。書き手は恩田泰子さんと宇田川幸洋さん。もちろん絶賛&★★★★です! pic.twitter.com/xu26VybpYG
— イップ・マン外伝 マスターZ公式 (@MASTERZJAPAN) 2019年3月8日
ここまで、『イップ・マン外伝 マスターZ』について考察を交えながら感想を述べさせていただきました。
- 制作陣の圧倒的アクションIQの高さ
- 主演マックス・チャンの役者としてのひとつの到達点
- そしてマックス・チャンのファンになること間違いなし!
今作は、『イップ・マン』シリーズを見ていなくても充分に楽しむことができます。
最高のドラマと最高のアクションを見られる映画です。
香港アクションスターの最終兵器マックス・チャンの主演作、ぜひ映画館でご覧ください。
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