「今はちょっと、ついてないだけ」
「そのうち、ええ運がくるでねぇ」
「ゆっくり、進もうか」
優しい言葉で、ずっと励まされます。なにか悩みを抱えている人が観たら、最後に流れるAge Factoryの歌声に涙するかもしれません。
・40~50代の男性におすすめ
・原作は伊吹有喜の同名小説
それでは『今はちょっと、ついてないだけ』をネタバレなし・ありでレビューします。
目次
『今はちょっと、ついてないだけ』あらすじ【ネタバレなし】
表舞台から姿を消した人気カメラマン、立花浩樹(玉山鉄二)。バブルが崩壊してからは、事務所の社長に背負わされた借金を返すためだけに15年間生きてきました。
母親の友人から「写真を撮ってほしい」と頼まれたことをきっかけに、立花はカメラを構える喜びを思い出します。
職を失った元テレビマン・宮川良和(音尾琢真)、将来に悩む美容部員・瀬戸寛子(深川麻衣)、復活を望むお笑い芸人・会田健(団長安田)。シェアハウスに集う仲間たちとの日々を通して、忘れていた大切なものを取り戻していく物語です。
『今はちょっと、ついてないだけ』感想【ネタバレあり】
ご当地グルメ
物語のなかで、ご当地グルメが “無言アピール” してきます。さりげなく登場していると思うのですが、お腹が空いていた私にはスローモーションに見えました。アンテナショップや物産展で見かけたら、購入したいと思います。
気になったのは、こちらの3品です。
●杏ゼリー(長野県千曲市)
佐山智美(川田希)の撮影の打ち合わせをしながら、宮川がパクパク食べていたゼリー。
長野県産の杏を贅沢に使用した、さわやかな甘酸っぱさが特徴のデザートです。
●葱っぺ餃子(千葉県茂原市)
みんながシェアハウスに集まったときに、テーブルに置かれた丸い餃子。
茂原市の特産 “本納ねぎ” が、餡だけではなく包み込む皮にも練りこまれています。
●かんざらし(長崎県島原市)
立花が巻島雅人(高橋和也)の自宅に行ったときに、お茶と一緒に出されたお菓子。
島原の湧水を使用して作られた白玉を、特製の蜜につけて食べます。味の決め手となる蜜は、お店によって味が異なるそうです。
佐山智美の恋
登場人物のなかで、一番幸せになってほしいと思ったのは佐山智美でした。
結婚相談所に提出する写真を撮影しにきた、化粧が控えめな中年女性。瀬戸に化粧を直してもらい、自信をもってカメラの前でほほ笑む姿は本当に美しいです。
映画では物語の終盤に、優しそうな男性と一緒に歩く智美が映し出されるだけで、詳しいことは描かれていません。
原作小説の智美は、婚活サイトで3歳年上の男性と出会い交際を始めます。婚約の記念として東南アジアのリゾート地へ旅行する計画を立てていたのに、男性の二股交際が発覚。
悔しさのあまり「私は、行きます。旅行はキャンセルしません」と思ってもいないことを言ってしまった智美は、男性と別れてからひとりで南の島へ出発します。
宿泊先のリゾートホテルにいるのは、専属バトラー(執事)の青年・ニョマン。彼と過ごす“甘い果実に毒された” 7日間は、智美にとっては恋に違いないと思うのですが、とても切ない展開が待っています。
チェックアウトのときに差し出された、“スペシャル ボディマッサージ” と書かれた請求書。「イッツ ビジネス」と言い、現金での支払いを要求するニョマン。
ビジネスの恋だったことに智美は涙を流しますが、“金で買えるというのなら、ニョマンを買い占めたい” という思いに変わります。
『もういい、何もかも。若さも家庭も夢もない。だけど孤独に耐える覚悟と自由になる金が少しある。』
引用元:『今はちょっと、ついてないだけ』伊吹 有喜
フライトをキャンセルして、智美はニョマンとの関係を7日間延長することに。私は小説を読み進めるのが辛かったです。
「空港で待ってるから、今すぐ日本に帰ってきて!」
どうにかして私のメッセージを伝えられないものかと、そう考えてしまうくらい小説の世界に入り込んで読んでいました。
舌を焼いてほしかった
立花が20代のときに、秘境の撮影旅行に行く青年 “タチバナ・コウキ” として出演していたテレビ番組『ネイチャリング・シリーズ』。
番組で流れる、ポエムのようなナレーションが好きでした。
「朝食はいつもと同じ固いパン。厚切りハムと豆のスープ、食後に舌を焼くような熱いコーヒー」
引用元:『今はちょっと、ついてないだけ』伊吹 有喜
豆のスープまでは同じだったのですが、映画では “食後の鼻腔を刺激する天使のコーヒー” に変わっていました。脚本を担当した柴山健次監督は、どうして大切な決め台詞を変更してしまったのでしょうか。
あえて言わなくても、コーヒーは鼻腔を刺激する飲み物だと思います。私は “舌を焼くような” という表現にワイルドさを感じていたので、そのまま採用してほしかったです。
ナレーションの最後「トゥ ビー コンティニュード」の部分を聞いたら、TOKYO FMのラジオ番組『JET STREAM』の城達也を思い出しました。
ヘビのような巻島雅人
巻島雅人は、20年前に立花をプロデュースしていた男。個人事務所の多額の負債を、連帯保証人である立花に残して自己破産しました。
宮川が新たに制作スタッフとして関わっているのは、バブル時代に活躍した人物に焦点をあてた番組。担当者が巻島を探し当てると、“タチバナ・コウキがレポーター役をするなら” という条件つきで取材に応じるといいます。
「会いに来たら、得をする人物が身近にいるんじゃないのか」
誰が番号を教えてしまったのか、立花の携帯に直接連絡してきた巻島。男の名前を耳にするだけでも苦痛なはずなのに、声を聞いてしまったら当時の嫌な記憶が一気によみがえってしまいますよね。
宮川のことを考えてでしょうか、立花はわざわざ巻島に会いに行きます。黒ずくめの服装に、前髪を上げて整えられた髪型。リラックスしている普段の姿とは違い、全身から “会いたくないオーラ” が漂っています。
“ヘビに睨まれたカエル” というより、ヘビの巣穴に自分からやってきたカエルです。
穏やかな口調で、ゆっくりと確実に立花の心を乱していく巻島。ねっとりとした高橋和也の雰囲気が、いやらしさ全開でした。
『今はちょっと、ついてないだけ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
・白いお腹は薄いTシャツで隠せる
・切手を貼ってチョコレートを送ろう
以上、ここまで『今はちょっと、ついてないだけ』をレビューしてきました。
しましろ