Netflixがまたもや名作を配信してくれました!
『エターナル・サンシャイン』などで知られるチャーリー・カウフマン監督の新作映画『もう終わりにしよう。』は、配信と同時に各方面で絶賛されています。
- カウフマン監督の最新作はやっぱりすごかった!
- ミステリーなのか?ホラーなのか?不気味な序盤
- 常に頭をフル回転させながら見るのがオススメ
2020年公開の新作でトップ5に入りそうな予感の『もう終わりにしよう。』をさっそくレビューしていきたいと思います。
目次
『もう終わりにしよう。』作品情報
作品名 | もう終わりにしよう。 |
配信開始日 | 2020年9月4日 |
上映時間 | 134分 |
監督 | チャーリー・カウフマン |
脚本 | チャーリー・カウフマン |
原作 | イアン・リード |
出演者 | トニ・コレット ジェシー・プレモンス ジェシー・バックレイ デヴィッド・シューリス ジェイソン・ラルフ コルビー・ミニフィ |
音楽 | ジェイ・ワドリー |
『もう終わりにしよう。』あらすじ【ネタバレなし】
ルーシーとジェイク
ルーシーは付き合って6週間のジェイクに誘われ、彼の実家へ行き両親と一緒に食事をすることになりました。
粉雪が舞う中、ジェイクの実家がある田舎の農場へと車で向かう2人。
明日は仕事があるから、今日は雪が激しくなる前に早めに帰りたいというルーシーに、「チェーンがあるから大丈夫」と言うジェイク。
頭が良くて物知りのジェイクが好きなルーシーですが、この関係をもう終わりにさせたいと内心では思っていて、実家に行く=結婚も視野に入っているかもしれない、という事実に少し気が重い道中です。
ジェイクはそんなルーシーの心の中が読めるのか、ルーシーが別れることを考えていると「え?何か言った?」と聞いてきます。
何もない田舎道をひたすら走る車内から見えた真新しいブランコが気になったルーシー。
というのも、ブランコが設置してあるのは古びた空き家の庭だったのです。
ジェイクに尋ねますが、そんなことはあまり気にならない様子でした。
少し不気味なジェイクの実家
2人は実家に到着しますが、さっき2階の窓から手を振っていたはずの両親たちはなかなか居間に降りて来ず、まるで誰も居ないかのような静けさの室内。
地下室のドアにはなぜか爪でひっかいたような傷がたくさんあるうえに、ジェイクは「地下には行かないで」とお願いするのです。
そんなことを話していると飼い犬のジミーがやってきますが、ひたすらブルブルと身震いしているだけ。
なんだか気味の悪さが目立つ家に、ルーシーは少し不安を覚えていきます。
ぼんぬ
いきなり歳を取る両親
ようやく降りて来た両親とテーブルを囲み楽しいディナーが始まると、2人から質問攻めに合うルーシー。
絵を描くことが好きだと言うと、「ジェイクもなのよ!」とすかさず母親が大喜びします。
ですが、その母親はなんだか様子がおかしいのです。
ぼんぬ
ルーシーは2人の馴れ初めを聞かれ、バーでの出会いの詳細を話し始めます。
出会ってまだ6週間なのに、ずっと前から知っていた気がすることなどを話していると、気づけばテーブルには自分のみ。
ジェイクと両親が2階に上がったと思ったルーシーが階段を上がると、そこには「ジェイクの子ども部屋」と書かれた紙が貼られたドアがありました。
室内にはジェイクが子供の頃から集めていた本やおもちゃなどがそのまま置いてあり、読みかけの詩集を手に取っているとそこに現れたのはジェイクの父親。
なのですが、さっきまで一緒に食事をしていた父親が一気におじいさんになっています。
その後、いきなり電気のついた向かいの部屋へ入ると、これまたさっきまで談笑していた母親が介護しなくてはいけないくらいのおばあさんになっていて、ジェイクが食事を口に運んでいるのです。
ぼんぬ
少し居心地の悪くなったルーシーは、明日のことを口実に「雪が積もる前に早く帰ろう」とジェイクと共に農場をあとにします。
が、ジェイクが向かった先は…。
【ネタバレ】『もう終わりにしよう。』感想・考察
見る人に委ねられる解釈
ぼんぬ
イアン・リードの原作では、最後にジェイクとルーシーが同一人物だったということが判明するらしいのですが、映画でははっきりと描かれてありません。
さらに、若かったり老人になっていたりするジェイクの両親や、随所で入ってくる高校の用務員のおじいさんなどもぼんやりと1回見ただけではなかなか意味が分からないところ。
わざと曖昧な部分を残したまま、見る人によっていろいろな解釈ができるのが『もう終わりにしよう。』の最大の魅力なのかなと思います。
ぼんぬ
ルーシーは実在する?
ジェイクはルーシーの考えていることがなんとなく分かります。
ルーシーも、付き合ってまだ1ヶ月ほどのボーイフレンドなのに「ずっと前から知っている気がする」と感じていたりジェイクの好きな映画や詩集などのマニアックな話にも完全についていけたりと、ケミストリーがあるとは言えちょっと不自然なのです。
ぼんぬ
さらに、ルーシーの歩き方がジェイクにそっくりだったり、ジェイクの癖である親指を舐めることもやっていたり。
ルーシーはジェイクの作り上げた理想のガールフレンド像なのかもしれない、と解釈すると全て辻褄が合う気がします。
ぼんぬ
ジェイクの部屋と実家の壁紙
映画のスチールにも使われている、ジェイクの実家の花柄の壁紙。
有名なイギリスのテキスタイルデザイナーであり、詩人でもあるウィリアム・モリスのデザインしたものなのですが、モリスの名言にこんなものがあります。
「役に立たないものや美しいと思わないものを家に置いてはならない」
それを象徴するかのように、ジェイクの使っていた子供部屋には、本や映画のDVDやビデオテープのコレクションの数々。
ルーシーはその中のいくつかに目が止まるのですが、よく見るとジェイクのことがなんとなく分かってきます。
コレクションには、『ビューティフル・マインド』のDVD、The New Yorker誌で映画評論家として活躍したポーリーン・カエルの本、そしてその中に混ざって「The Humming Effect」というストレスを軽減させる方法の本もあるのです。
車内で映画や詩集のことなどを話していたジェイク。
コレクションからも、詳しかった理由が見てとれます。
ぼんぬ
さらに、ルーシーが手に取った「Rotten Perfect Mouth」という読みかけの詩集。
開いてあるページは、「Bonedog」という孤独についての詩なのですが、実はこれ、ルーシーが行きの車内でジェイクに披露していたもの。
ジェイク自身も実はものすごく孤独で寂しい思いをしているため、この詩に共感し、記憶するまで何度も読んでいたのだと思います。
ぼんぬ
用務員のおじいさん
映画の序盤から出てくる、ストーリーのキーパーソンとなりそうな老人。
時代に合わないブラウン管の小さなテレビでアニメを見ながらシリアルを食べ、トラックで職場である学校へ向かいます。
用務員として働くおじいさんは、女子生徒に歩き方をからかわれたりしつつ、校舎の掃除を済ませると休憩時間には1人で映画を見つつ昼食をとっています。
ロマンス映画を休憩時間に見たり、校舎の掃除をしている時には好きな映画のワンシーンが幻想なのか妄想なのか見えてしまっているおじいさん。
生徒が演劇の練習をしているのを見るのも好きな様子です。
物静かで誰とも喋らない、見るからにシャイであり寂しそうな人物。
ぼんぬ
車内でのルーシーとの会話で『オクラホマ!』は毎年上映されていて、演じた生徒はスーパーで働いている」と言っているのも、実は用務員として長年働いているからなのですね。
ルーシーがジェイクの実家の地下室で見つけたユニフォームは、このおじいさんが仕事中に着ているもの。
ということは、実はジェイクの実家は年老いたジェイクが暮らしている家ということもわかります。
さらに、ラストシーンでおじいさんが追体験している『オクラホマ!』と『ビューティフル・マインド』の有名なシーンの一部は、ともにジェイクが好きな映画であり、『ビューティフル・マインド』にいたってはDVDも持っているほど。
ぼんぬ
ジェイクの抱える孤独
冒頭で年老いたジェイクが見ているアニメは、1959年にスタートした『Mr Peabody and Sherman』というテレビシリーズです。
孤独に育った天才犬ピーボディがシャーマンという人間の男の子を養子として迎えるというストーリー。
ぼんぬ
ジェイクが脳内で理想のガールフレンドを作り上げ、両親に紹介しているのも寂しさや後悔からなのでしょう。
本棚からもわかるように、古いものと新しいものがごちゃ混ぜになっていて、さらにメンタルイルネスに関する本まで持っているジェイク。
両親もすでに他界し、ひとりぼっちのジェイクが昔の思い出と現実との間でひどく孤独を抱えていることもうかがえます。
冒頭の真新しいブランコと空き家や、両親が若くなったり年老いたりすること、部屋にある新旧関係ないコレクション、さらにルーシーとの会話が昔と現在を行ったり来たりするのも、ジェイクの精神状態を示唆するメタファーなのかなと思います。
また、詩集の「Rotten Perfect Mouth」は2015年に出版されたもので、さらに「The Humming Effect」は2017年に出版されていることから、もしかするとジェイクはこの頃からメンタルイルネスを抱えているのかもしれません。
ぼんぬ
特に実家から帰る車中でのルーシーとの会話から、ジェイクは自分の人生に少し後悔があるように、また映画『こわれゆく女』を引き合いにだしていることから自殺願望があるようにも思えます。
ぼんぬ
タイトルの意味
『もう終わりにしよう。』というタイトル。
ジェイクの実家に向かう車内で、ルーシーが何度も何度も考えていることでもあります。
原題は『I’m thinking of ending things』で、直訳すると「終わりの物事を考えている」となることから、終わりにしようと考えているのは一つじゃないのかもしれません。
過去のことばかり考えて後悔していることを終わりにしたいのかもしれないし、「ルーシー」との関係をやめたいのかもしれない。
もしくは、人生を終わりにして全てを終わらせてしまおうと考えているともとれます。
ぼんぬ
『もう終わりにしよう。』あらすじ・ネタバレ感想・考察まとめ
感想というよりも考察要素が強くなってしまいましたが、すごく深い映画で絶賛されているのも納得でした。
こんな映画が、サブスクで見れてしまうのは本当にありがたいですね。
- ミステリーかと思いきや実はメンタルや孤独について語る深い映画
- リファレンスで登場する名作や本の数々
- セリフから小物まで、全てに意味が隠されている