原作は、小川洋子の同名小説。
自分の髪や服を切り刻まれても、裸で椅子に縛りつけられても構わない。もっと命令してほしい。
男に全てを捧げる異色のラブストーリーです。
・“台湾の小松菜奈” デビュー作
・永瀬正敏は何があっても脱がない
それでは『ホテルアイリス』をネタバレなし・ありでレビューします。
目次
『ホテルアイリス』あらすじ【ネタバレなし】
海沿いにある寂れたリゾート地。マリ(陸夏)は、日本人の母親(菜葉菜)が経営するホテル・アイリスを手伝っています。
ある嵐の夜、階上に響き渡る女の悲鳴。男(永瀬正敏)の罵声と暴力から逃れようと、売春婦が取り乱しています。落ち着いた様子で、ゆっくりと階段を下りる男。マリに無言で札を手渡すと、降りしきる雨のなか去っていきました。
衝撃を受けるマリでしたが、一方で激しく惹かれている自分にも気づきます。
その男は小舟で渡った孤島でひとり暮らしている、ロシア文学の翻訳家でした。
『ホテルアイリス』の原作【ネタバレなし】
1992年に発表された小川洋子の小説、『ホテル・アイリス』が原作です。
幻冬舎文庫で読んだのですが、活字に慣れていない私にとっては嬉しい190ページの作品。しかし、短いページ数のなかに詰まっていたのは濃密な時間でした。
この官能小説が映画化されるということで、メディアでは “禁断” や “衝撃の問題作” といった言葉が並んでいます。
私は “禁断の問題作” という言葉が、あまり好きではありません。「自分がこれから観ようとしているのは、禁断の問題作なのか…」という、妙な緊張感が邪魔をします。もし私が映画監督だったら、一番つけてほしくないキャッチコピーかもしれません。
翻訳家がどのような方法でマリを愛し、そして愛されたのか。原作の世界観をしっかり感じてから、映画『ホテルアイリス』を観ました。
『ホテルアイリス』ロケ地【ネタバレなし】
台湾・金門島の北山集落に、撮影場所となったゲストハウス「湖畔江南民宿北山洋樓(Lake View Inn Western Style Building)」があります。実際に宿泊した奥原浩志監督は、「ここがアイリスだ」と感じたそうです。出会っていなければ、映画『ホテルアイリス』は生まれていなかったと語っています。
湖畔江南民宿の紹介ページを見てみました。2階バルコニーにあるブランコが気になります。ロケ地巡りで、金門島に行けたら最高ですね。
『ホテルアイリス』ポスタービジュアル【ネタバレなし】
国内版(左)と台湾版(右)2種類のポスタービジュアルです。
映画を観たあとに「どっちのデザインが好き?」と訊かれたら、私は台湾版を選びます。でも、何も知らない状態で「どっちの映画が観てみたい?」と訊かれたら、きっと国内版を選ぶと思います。
説明的でわかりやすいデザインにしないと、日本人は作品に興味を持たない。そんな話を聞いたことがあるのですが、妙に納得してしまいました。
『ホテルアイリス』感想【ネタバレあり】
現実なのか 妄想なのか
映画『ホテルアイリス』で大事にしたことは、原作に漂う “浮遊感”。
原作よりも、ふわふわしていたような気がします。小説の名場面を切り貼りして、雰囲気ある音楽でまとめたような印象です。現実なのか妄想なのか、わからない世界。でも、それが『ホテルアイリス』最大の魅力ということですよね。
小説のページをぱらぱらとめくるようなイメージで、物語を追っていました。何も知らない状態で観たら、途中で目を閉じていたかもしれません。
映画館を出るときの独特な疲労感で、ある作品を思い出しました。
『弟とアンドロイドと僕』(阪本順治監督)です。『ホテルアイリス』と同じく、観る人によって解釈が異なるタイプなので浮遊感が漂っています。そして、“禁断の問題作” と言われている点も一緒ですね。映画というより、美術館で絵画を眺めるような感覚の作品でした。
北京語を話さない母親
『ホテルアイリス』で描かれているのは、日本語と北京語が混ざる無国籍な空間。
翻訳家が日本語しか話さないというのは、なぜか気になりませんでした。でもホテルの経営者であるマリの母親が、北京語を話すシーンがひとつもないのは違和感しかありません。
マリとおばさん(パオ・ジョンファン)が会話をするときは、北京語。そこに母親が加わると、日本語に変わります。決して流暢とは言えない二人が話す日本語は、少し聞き取りにくい部分がありました。
観ている私たちは、セリフを正確に聞き取って字幕も読まなくてはいけません。それなのに、マリの母親は日本語で文句ばっかり言っている。私は、だんだん腹が立ってきました。
特に菜葉菜である必要性を感じなかったので、北京語が話せる他の俳優で観たかったです。
翻訳家の甥
病気で舌を切除してしまい、話すことができない翻訳家の甥(寛一郎)。寛一郎の儚げな表情が、甥の雰囲気に合っていると思いました。
原作には、翻訳家の妻の死因について書いてあります。
甥がまだ赤ん坊の頃、事故は駅で起きました。甥を抱っこしていた翻訳家の妻は、首に巻いているスカーフが反対側の汽車に挟まっていることに気づきません。汽車が動き出し、引きずられていく身体。ホームの一番端の柱に、頭をぶつけて亡くなります。
翻訳家は、遠ざかる妻に向かって「赤ん坊を放せ スカーフを解け」と叫びました。甥を犠牲にしようとしたのです。そのときの罪滅ぼしなのか、再会してからは自分の息子のように可愛がっていました。
映画では、甥が翻訳家の自宅で死んでいたので驚きました。筆談のメモが見つかってしまったことで、翻訳家に殺されたのでしょうか。首にはスカーフが巻かれてありました。
筆談メモはマリに渡したと思っていたのですが、甥が持っていたんですね。そもそも、大切に残しておくものなんでしょうか。私なら、すぐに捨ててしまうと思います。
ピアノレッスン
映画『ホテルアイリス』では、翻訳家らしき男の遺体が砂浜に打ち上げられている描写がありました。砂浜に倒れている足元が映るのみで、あまり詳しい状況はわかりません。
私は、マリの誘拐犯だと疑われてしまう原作のほうが好きです。
遊覧船の上で、警察に捕まりそうになった翻訳家は海に飛び込みます。「わたしにさよならも言わず」という表現が、とても切ないです。
ラストの部分は、ドキドキしながらページをめくりました。マリは警察に保護されるわけですが、できれば翻訳家のあとを追って海に飛び込んでほしかったです。
抱き合ったまま、静かに海の底に沈んでいく二人。
イメージは『ピアノレッスン』(ジェーン・カンピオン監督)です。ピアノと共に沈んでいくホリー・ハンターが、恐ろしくもあり美しい映像でした。
『ホテルアイリス』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
・寛一郎がひたすらに儚い
・しばらく弦楽器の音が耳に残る
以上、ここまで『ホテルアイリス』をレビューしてきました。
しましろ