2020年、日本は終戦から75年を迎えますが、同時に世界ではアウシュヴィッツ収容所の解放からも75年になります。
今回は改めて観てほしい、強制収容所の悲劇やホロコーストの全貌に迫る作品をご紹介します。
目次
ホロコーストが題材の映画5選
『サウルの息子』
ホロコーストの象徴として有名なアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所を舞台に、自分の息子とおぼしき少年の遺体をユダヤ教の教義にのっとって埋葬しようと奔走する一人のゾンダーコマンドの男の姿を描きます。
収容所の中を追体験するようなワンシーン=ワンショットを駆使した独自の映像が話題となり、第88回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しました。
一般収容者たちの中からナチス親衛隊が選抜し、数か月の延命と引き換えに、同胞であるユダヤ人たちの死体処理に従事する特別労務班員のことを指します。
収容所に強制移送されてきた人々をガス室へ誘導、ガス殺遺体を処理し、その遺品などの分類整理をさせられていました。
ゾンダーコマンドたちは役目を果たしている間は比較的優遇されていて、限られた範囲内なら自由に動き回ることもできました。
しかし、彼らは大量殺戮の目撃者となるため3、4か月ごとに殺され、その都度新しいメンバーに入れ替えられていました。
監督のネメシュ・ラースローは、ハンガリー系ユダヤ人であり、祖先をホロコーストで失っています。
小松崎 ともえ
本作には、当時の実際の記録映像は使われていません。
そして、主人公サウルの周囲だけしか映像がはっきりしないという独特の撮影法により、凄惨な描写もほぼ出てきません。
その代わり、作品冒頭の服を脱がされたユダヤ人たちが追いやられていったガス室の扉が閉まってからの、扉を激しく叩く音や断末魔の叫び声、そして再び扉を開けると、ぼんやりと視界にはいる肌色(遺体の山)など、とにかく観る人側に最悪の場面を想像させます。
そして、その周囲のぼやけた視界が自身の人間性を手放さなければとうてい務められないゾンダーコマンドの悲惨な状況を認識させます。
主人公のサウル自体は実在するゾンダーコマンドではありません。
しかし、物語は1944年10月に実際に起こったアウシュヴィッツでの収容者による反乱と、ゾンダーコマンドたちが収容所で目撃してきた惨劇を後世に伝えるための命懸けの行動の一部を知ることができます。
小松崎 ともえ
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『灰の記憶』
先にご紹介した『サウルの息子』と同様にアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所のゾンダーコマンドたちの姿が描かれます。
本作では、あの悪名高いヨーゼフ・メンゲレのもとで働かされていた、実在したユダヤ人医師ミクロシュ・ニスリの手記を基に1944年10月に起こった反乱の一連の流れやゾンダーコマンドたちの日常生活などを垣間見ることができます。
ユダヤ人ゾンダーコマンドのホフマンは、仲間たちと密かにガスで殺された遺体を焼き続ける忌々しい焼却炉の破壊を計画していました。
それは、彼らにできる最後のナチスへの抵抗でした。
そんな中、ホフマンはガス室での遺体処理中に奇跡的に生き残った少女を発見します。
すぐさま同じユダヤ人のニスリ医師の元に運び込み、懸命な手当てで少女は無事に一命を取り留めます。
そして、彼らは危険を承知でその少女を匿うことを決意するのですが…。
小松崎 ともえ
しかし、これらはすべて実際に行われていたことであり、ホロコーストについて勉強したいと思う方にはぜひ一度は観てほしい作品です。
『SHOAH ショア』
2018年7月5日に亡くなったフランスの巨匠クロード・ランズマン監督による傑作ドキュメンタリー映画。
感傷的な音楽や当時の記録映像などは一切使われず、関係者の肉声のみで構成され、合計約9時間半(567分)にわたってホロコーストの狂気の全貌を追求します。
1985年に発表され、第36回ベルリン国際映画祭 国際批評家連盟賞を受賞。
また世界各国の主要な映画賞を獲得し、欧米に衝撃を与えました。
小松崎 ともえ
作中で監督がインタビューした人々は、ホロコーストの各強制収容所からの生還者、収容所で勤めた元ナチス親衛隊員、収容所の近隣に住むポーランド地元民など。
世界14か国での予備調査、約350時間もの撮影を行い、11年もかけて本作を完成させました。
ランズマン監督を敬愛する『サウルの息子』のネメシュ・ラースロー監督も作品を作るにあたり、トレブリンカ収容所からの生還者で、収容所ではガス殺される直前の女性収容者の髪を切らされていたアブラハム・ボンバの証言を含むゾンダーコマンドの部分を参考にしたそうです。
そして、10代前半で両親を殺されヘウムノ収容所で働かされていた男性、ユダヤ人移送列車は到着した時には半数以上が亡くなっていたと語るトレブリンカ収容所の元看守、地元のポーランド人が抱いていたユダヤ人への‘本音’、ワルシャワ・ゲットーでの虐殺など幅広い証言を聴くことができます。
本作に登場する人々は過去を声高に話すことはなく、静かに淡々と重い口を開いています。
小松崎 ともえ
一部、ランズマン監督の取材に強引さを感じる箇所もありますが、それが取材対象者の本音を引き出したいという監督の執念のように感じられます。
小松崎 ともえ
『ヒトラーと戦った22日間』
ソビボル収容所で1943年10月14日に実際に起こった収容者たちによる大規模な反乱を歴史に基づき描きます。
ソビエト連邦の軍人アレクサンドル・ペチェルスキーがソビボルに収容されてからわずか22日間で綿密に計画した反乱の驚くべき全貌を知ることができます。
ナチス・ドイツが造った多数の収容所のうちでポーランドにあるベウジェツ、トレブリンカ、ソビボル、アウシュヴィッツ=ビルケナウ、ヘウムノ、マイダネクは大量殺戮を行い、‘絶滅収容所’と呼ばれています。
ソビボル収容所は1942年5月に大量殺戮を行うためだけの施設として設立。
多くのユダヤ人が貨物列車で移送され、虐殺されました。
収容者の大規模な反乱の後、ソビボル収容所は閉鎖、完全に破壊され存在自体を隠されていました。
アウシュヴィッツ以外の絶滅収容所の詳細を描く作品が少ない中で、この『ヒトラーと戦った22日間』ではソビボルの当時の過酷な実態を垣間見ることができます。
実在するソビボルの悪名高い看守の一人、カール・フレンツェル曹長をはじめとする親衛隊たちは、ソビボルの施設運営の為に生かしている収容者たちを簡単に射殺したり、自分たちの宴で馬車馬役をやらせるなど人権を踏みにじる虐待を日常的に行います。
小松崎 ともえ
しかし、いざ作戦遂行の時に、親衛隊員を本当に自分たちで殺害しなければならないことへ抵抗する反乱メンバーの姿も描かれ、ただの一般人が極限下に放り込まれた時の人間らしいリアルな反応が身につまされます。
2019年には本作にも登場する脱走者の中で最後の生き残りだったセミョン・ローゼンフェルドが亡くなりました。
この大脱走で約360人は実際に収容所外に出ることに成功したものの、戦後まで無事に生き延びられたのは50人もいませんでした。
小松崎 ともえ
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『ソビブル、1943年10月14日午後4時』
先に紹介した『ヒトラーと戦った22日間』で描かれているソビボル絶滅収容所での反乱を、生還者の一人であるイェフダ・レルネルが当時の記憶を証言する貴重な作品です。
監督のクロード・ランズマンがソビボルの真実について詳しく迫ります。
小松崎 ともえ
本作では、ソビボル収容所の恐ろしい実態と武装蜂起の一連の流れを知ることができます。
ソビボル収容所では数百羽のガチョウを飼育、ガーガーと騒がせることでガス室で殺される人々の阿鼻叫喚の声をかき消していたことや、建物の周囲は鉄条網や地雷原に取り囲まれていたことなどかなり詳細に語られます。
そして、ポーランドの日没時間を考慮して反乱の決行日を10月14日夕方にしたことや、時間に几帳面なドイツ人の気質を逆手にとって親衛隊を順番に殺害した経緯など、反乱の中心人物であるアレクサンドル・ペチェルスキーや仲間たちによって、かなり綿密に練られた計画であったことがうかがい知れます。
そして、レルネル自身もこの計画を成功させるため親衛隊将校を殺害しており、身振り手振りでその瞬間を語っています。
小松崎 ともえ
反乱自体も収容所外に脱走できた約360人のうち、200人程は親衛隊に再び捕まり殺害され、森に逃げ込んだ約160人も反ユダヤ主義の地元民に密告されるなどして多くが命を落とし、戦後の生き残りは50人もいませんでした。
しかし、レルネルを含め、その数少ない生き延びた人々の言葉によってソビボルの真実は世界に伝えられました。
小松崎 ともえ
ホロコーストが題材の映画5選まとめ
- 『サウルの息子』
- 『灰の記憶』
- 『SHOAH ショア』
- 『ヒトラーと戦った22日間』
- 『ソビブル、1943年10月14日午後4時』
いかがでしたでしょうか。
戦後75年が経った2020年、これから当時を知る人はどんどん少なくなっていきますが、そんな時代だからこそぜひホロコーストの傑作をご覧になってみてください。
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