『ヒミズ』主演の染谷将太と二階堂ふみは、この作品で第68回ヴェネツィア国際映画祭にて最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞をW受賞。
これは日本人初の快挙として話題となりました!
青春のバイブル的な『行け!稲中卓球部』の漫画家・古沢実が180度違う作風で描いた衝撃の原作を、『冷たい熱帯魚』『愛のむきだし』で有名な園子温監督が実写映画化!強烈なタッグで作られた映画です。
- うつろで死んだような目をした染谷将太の演技にはゾクッとし、澄んだ目を見開いて大人の不条理を説く二階堂ふみに心がゾワゾワする。魅了される主演2人の演技が素晴らしい。
- いろんな角度からの「恐怖」がいっぱい詰まっている。恐怖を何倍にも無限に増やしてしまう園監督の演出力に一番恐怖を感じた。
- 「人は1人では生きていけない」ということが怖いほどリアルに実感できる映画。
- 映画版オリジナルのストーリー展開もあり、園子温監督の強烈なメッセージが世間をざわつかせた。
それではさっそく映画『ヒミズ』をネタバレありでレビューしたいと思います。
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目次
『ヒミズ』作品情報
作品名 | ヒミズ |
公開日 | 2012年1月14日 |
上映時間 | 130分 |
監督 | 園子温 |
脚本 | 園子温 |
原作 | 古谷実『ヒミズ』 |
出演者 | 染谷将太 二階堂ふみ 窪塚洋介 吉高由里子 西島隆弘 鈴木杏 新井浩文 でんでん |
音楽 | 原田智英 |
【ネタバレ】『ヒミズ』あらすじ・感想
『ヒミズ』に込められた意味とは?
「ヒミズ(日不見)」は、9~10cmくらいの小さなモグラです。
上あごに大きく尖った歯を持ち、半地中生活が主で日光が照る所には出てこず、「日見ず」という和名もこれに由来します。
小さくて「目立たなくて見つけようとしても、なかなか見つからない」というのが「ヒミズ」。
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クラスメイトの茶谷(二階堂ふみ)が書いた、住谷(染谷将太)の名言集の中心に「オレはもぐらになりたい、ヒミズになりたい」そう書いてあります。
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これは、ヒミズに憧れた彼のお話です。
住田祐一(染谷将太)は、ただただ「普通」でいたかった…平凡な人生を望む中学生の悲劇に満ちた日常
家はボロボロで、今にも潰れそうな「貸しボート屋」の住田家。
なんと中学生の祐一(染谷将太)が、この傾いたボート屋を切り盛りしています…。
その状況でもわかる様に、母(渡辺真起子)は祐一に無関心で、堂々と家に男を連れ込む自由人。
父(光石研)はたまに家に帰ってくると暴力を振るい、祐一にまでお金をせびってくる駄目オヤジ。
完全に家族が壊れてしまっているのです。
そんな15歳の住田祐一の夢は「普通」でいること。
祐一の求める普通は、とても些細なはずなのに…現状手に入りそうもない。
彼の生活は求めるものとはかけ離れていました。
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身体全体の雰囲気が醸し出す陰気さにゾッとするんです。
世界の舞台で認められた染谷将太の演技を観るだけでも、この映画を観る価値あり!
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かなりヤバい重症のストーカー茶沢景子(二階堂ふみ)。どんどん二階堂ふみの演技がツボにハマって目が離せなくなる…
茶沢景子(二階堂ふみ)は、住田祐一のことしか見ていません。
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クラスメイトの祐一のことを穴が開くんじゃないかというくらい見つめて、観察し、把握。
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住田祐一マニア・茶谷景子の部屋には、祐一が言った言葉が色とりどりの紙に書いて壁一面に貼ってあります。
「テンション上がると自己中心的になるやつがいる」とか「金さえあればお前の魂なんて余裕で買えるな」などの文章がずらり…。
写真を貼るストーカーはよく見かけますが、言葉を貼るのは斬新だな…と思わず感心してしまうと共に、祐一への想いにかなりの危険度を感じました。
壁に新しい言葉を貼りながら…舞台で演技するかのように誇張して「住田祐一」を称える様は、なかなかの恐怖映像です。
やりきっている二階堂ふみという女優の凄さに感動しました。
住田と茶谷の関係性は「愛と青春」そのものです!
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いびつなラブコメ要素に、どれだけ救われたことか…ふたりの愛にラストは泣けてきます。
茶谷景子の家庭にも大きな不協和音が流れています。
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景子が強く祐一に惹かれた理由がよくわかります。
ショックの度合いでいうと茶谷家の方が大きかったくらいです。
ぜひ、本編で茶谷景子の隠された秘密の衝撃を感じてみてください。
母失踪、父の殺害…衝撃に次ぐ衝撃の展開
貸しボート屋の敷地には、奇妙な居候たちがいます。
すべて祐一が許可し、住まわせている住人たちです。
中には、東日本大震災で被災した夜野正造(渡辺哲)などがいます。
特に夜野は孫の歳ほど離れている祐一を住田さんと呼ぶほど、彼に感謝し慕っています。
夜野はこの後、祐一に訪れるピンチから彼を助けるために、大きな犯罪を犯します…。
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夜野には、祐一に対する深い愛があったのでしょう。
本来は犯罪とは無縁の人種であったはずの夜野が、どのようにして罪を犯すのか。
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しばらくして、祐一の母が失踪。
部屋のモノはからっぽ、「がんばってね!」と近所にお散歩にでも行くような軽めの字が書いてある紙と、2,200円がテーブルに置いてありました。
母に捨てられた息子は、表情ひとつ動かさず。
その彼の様子を見て、長い時間で母親への「期待」を失ってきたというのが理解できました。
息子の感情を奪うほどネグレクトしていた母に腹が立ちました。
そして、運命の日がやってきます。
祐一はとうとう父を死なせてしまうんです。
祐一のささやかな「夢」が完全に打ち砕かれた瞬間でした…。
人生に絶望した少年は、予想だにしない選択をします。
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染谷将太さん自体は「楽しんで演じた」と言い切る後半シーンは、身震いする怪演!
まさかの人の名言に驚く!不覚にも刺さったセリフ
父を殺し、残りの人生を捨てた祐一。
「オマケの人生」と言って、身を滅ぼす選択をしようとしていました。
そこへ通りかかったのは、かつて住田家の借金を取り立てていた金子(でんでん)。
様子が変なことに気付き、家まで送り届けます。
そこで金子が祐一に言ったことが、とても印象に残っています。
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「おい!俺がとってもいいことを教えてやろう。お前は今「病気」だ。お前には腐るほど道があるのに勝手に自分を追い込んでる。周りが見えなくなって一番ヤバそうな道を自ら選んでる。」
「説教されたかねーよ!」
「お前にこれやるよ、ほれ」
祐一がいらないと突っ返しても、金子は拳銃を「ここに隠しとこ~」っとおどけたように言いながら、祐一の家に拳銃を置いていきます。
「そのうち…俺がこれ(拳銃)をここに置いていった意志が分かる。その時がお前の節目だよ。」
時に悩めば悩むほど、視野が狭くなり自分で自分を追い込むってありますよね。
言葉は乱暴ですけど「腐るほど道がある」というワードが妙に納得させられました。
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『ヒミズ』は一見バイオレンスで粗暴な映画ですが、人が窮地に陥ったとき、必要な言葉や行動のヒントが散りばめられています。
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ストーリーからは外れてしまいますが、いい発見あるかもしれません。
それだけでも観た意味があると、十分に思える映画なのです。
絶望だけでは終わらせない…園監督ありがとうと思った結末
住田祐一と茶谷景子、しばらく離れ離れになってしまうことになります。
景子は祐一のすべてを知った上で、まっすぐな目をして「待つ!」と言い切ります!
ようやく、遅すぎるけれど、祐一が出ていく前夜ふたりの気持ちが通じ合います。
キュンとするシーンに胸が熱くなりながらも、それと同じくらいに悲しかった…2人の姿は忘れられません。
ようやく等身大の年齢に見え、つかの間の青春がそこに!
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ラスト、景子に「がんばれーー!」と声をかけられながら走る祐一。
どうかこの子達に「救い」がありますように、と同じように心の中で念じました。
現実には何もできないのに、願わずにはいられない結末でした。
被害者が加害者になる最悪の出来事、重いまま終わらせないでくれたことに思わず感謝。
不思議なことに観終えてみるとポッと温かい気持ちが残ります。
きっと最後に2人の「愛」が期待させてくれる、ほのかな希望が残るのだと感じました。
『ヒミズ』まとめ
以上、ここまで『ヒミズ』についてネタバレありで紹介させていただきました。
- 観る人によっていろんな「考察」が生まれる物語。毎回解釈が変化するから何度も観てみたくなってしまう。
- ダークなストーリーでバイオレンス多め…でもなぜか辛い場面だけが記憶に残るわけじゃない。最後は温もりをひとつまみ感じるストーリー。
- まさか「オマケ人生」というワードが、マイナスの意味で使われるなんて…人生を捨てた少年の末路に泣ける。
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