『モノクロームの少女』『ゆめのかよいじ』『美しすぎる議員』など、数多くの作品を製作してきた日本のインディーズ映画界で長年活動している映画監督、後藤利弘の最新作『おかあさんの被爆ピアノ』はあまり知られていない広島・長崎で被爆したピアノについて取り上げた反戦映画です。
ある一台のピアノを中心に描かれる登場人物たちの人間模様を綴りつつ、被爆二世三世の目から見た戦争とは何かを問うています。
- 終戦から数えて75年目という節目の2020年に、本作を公開した制作者の想いに値打ちがあります
- 非被爆者から分からない被爆三世の現状と被爆ピアノについて
- これから先、何を残していけば良いのでしょうか?
被爆ピアノとはいったい何か、平和とは何を指すのか?
その疑問に真っ直ぐ向き合った本作『おかあさんの被爆ピアノ』を観てきましたので、ネタバレを回避しながら、紹介していきたいと思います。
目次
『おかあさんの被爆ピアノ』作品情報
作品名 | おかあさんの被爆ピアノ |
公開日 | 020年8月8日 |
上映時間 | 113分 |
監督 | 五藤利弘 |
脚本 | 五藤利弘 |
出演者 | 佐野史郎 武藤十夢 宮川一朗太 城之内正明 南壽あさ子 |
音楽 | 谷川賢作 |
『おかあさんの被爆ピアノ』あらすじ【ネタバレなし】
矢川光則(佐野史郎)は、昭和20年8月6日に広島で被爆したピアノを修理し、調律している日本でも数少ない調律師。
何十年にも渡り、持ち主から依頼をされたピアノを修復し続けています。
現在では、爆心地から3キロ圏内で被爆したピアノを被爆ピアノと呼ばれています。
被爆2世の光則は、ピアノを直しその音色を全国に届ける役割を担う存在として長年活躍しています。
東京生まれの女子大生、江口菜々子(武藤十夢)は、学校で幼児教育を学び、幼稚園教員を目指しながらも、自身の将来の進路については、まだはっきりしていません。
彼女の両親が、被爆一世である祖母が大切にしていた被爆ピアノを調律師の矢川に渡してしまったため、それを知った菜々子は落ち込んでしまいます。
ピアノの存在が、彼女と祖母の関係を繋ぐ唯一の物だったからです。
そして、彼女は修繕の旅に出た被爆ピアノを求めて、矢川の元を訪ねます。
それをきっかけにして、江口菜々子は被爆三世として、自身のルーツを模索し始めるようになります。
本作『おかあさんの被爆ピアノ』は、被爆者2世3世の世代の人たちが手探りで真の自分を探し求める姿を追った作品です。
『おかあさんの被爆ピアノ』感想
被爆ピアノという貴重な存在が、世に広まって欲しい
昭和20年8月6日。
あの日から75年を迎える2020年の広島。
原子爆弾が投下された直後は爆風で家々は軒並み吹き飛ばされ、跡形もない状態。
鈴木友哉
広島に原爆が落ちた当初は想像を遥かに越える過酷な出来事に人々は為す術もなく翻弄されていました。
原子爆弾投下という未曾有の出来事から75年がたった今、その当時に市内にあったピアノは、現在被爆ピアノという名称で呼ばれています。
被爆前と同じ音色を生み出すために、調律師が日々、何台もある被爆したピアノの修復をしています。
また、アメリカ軍の水素爆弾実験によって、被爆したマグロ漁船“第五福竜丸”を物語のキーポイントとして登場させている点も、戦争や被爆といった出来事を真正面から真摯に描こうとしている姿勢が伺えます。
映画の冒頭、佐野史郎演じる矢川光則が講演前にピアノを調律している姿がとても印象的です。
75年というとても長い時間が過ぎて、戦争の爪痕も消え去りつつあり、語り手としてあの当時を知る体験者の数も年々減りつつあります。
鈴木友哉
本作『おかあさんの被爆ピアノ』もまた、被爆ピアノという私たちが知らない事実を教えてくれている貴重な作品です。
過去の話だからと言って忘れるのではなく、本作を機に戦争について、真っ向から考えてみるのもいいかもしれません。
鈴木友哉
被爆三世と被爆ピアノ
この作品の最も肝となるポイントは、原子爆弾が投下された時に人々と一緒に被爆したピアノの存在です。
ただ、被爆ピアノだけに焦点を当てている訳ではなく、2人の主人公である調律師の矢川光則と女子大生の江口菜々子のバックグラウンドにも注目して、鑑賞して欲しいと思います。
彼らは、広島で生まれ育った被爆二世と三世として登場します。
鈴木友哉
広島長崎で被爆した祖父母を持つ子や孫のことを指します。
鈴木友哉
本作の主人公である武藤十夢演じる江口菜々子は、壮絶な戦争を体験していない被爆3世という難しい役柄ですが、彼女の演技力は彼らの苦悩を見事に表現しています。
観る側にあの頃の戦争がまだ続いているという事実を突き付けてきます。
非被爆者では体験できないような出来事を被爆者の方たちは経験されており、それは想像の範疇を越えるひどい体験だったに違いありません。
鈴木友哉
被爆ピアノを通して描かれる戦争の真実は、平和学習なとで学ぶ知識では到底追い付かないほどのものです。
この先の未来、後世に一体、何を残していけばいいのか
今まで知られていなかった被爆ピアノにフォーカスを当てた『おかあさんの被爆ピアノ』は、知られるざる戦争の真実を映し出しています。
世代交代が進む中、戦争を経験した年代の方々も年々減っており、あの当時を経験した方の話はこれから先ますます聞けなくなっています。
鈴木友哉
物ですので、いずれ壊れてしまうのですが、被爆ピアノが奏でる音色から戦争の悲惨さが伝わってきそうです。
鈴木友哉
第二次世界大戦を経験した人々はもう高齢になり、お亡くなりになる方も多く、あと10年もすればさらに減っていきます。
その上、戦争を体験していない今の若い方たちに当時の恐ろしさを語っても、どこまで彼らの心に響くのかも未知数です。
鈴木友哉
『おかあさんの被爆ピアノ』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
以上、ここまで『おかあさんの被爆ピアノ』をレビューしてきました。
- 終戦から75年という年に製作された反戦映画です
- 被爆三世と被爆ピアノとは
- これからの未来に、私たちは何を残し、伝えていけばよいのか?