『東京ラブストーリー』『最高の離婚』『カルテット』など、多くの名作を世に送り出してきた脚本家・坂元裕二。
そんな坂元裕二が新たに手がけた恋愛映画『花束みたいな恋をした』は、公開前から話題を呼んで、公開後は興行収入ランキング1位に輝きました。
『花束みたいな恋をした』は、菅田将暉演じる山音麦と有村架純演じる八谷絹が、偶然の出会いを経て恋人となってからの5年間の行方を描いた作品です。
田中泉
それでは、話題の『花束みたいな恋をした』をネタバレありでレビューします。
『花束みたいな恋をした』作品情報
作品名 | 花束みたいな恋をした |
公開日 | 2021年1月29日 |
上映時間 | 124分 |
監督 | 土井裕泰 |
脚本 | 坂元裕二 |
出演者 | 菅田将暉 有村架純 清原果耶 細田佳央太 オダギリジョー 戸田恵子 岩松了 小林薫 |
音楽 | 大友良英 |
【ネタバレ】『花束みたいな恋をした』あらすじ
2020年、別の席で同じ話題を話す麦(菅田将暉)と絹(有村架純)
2020年。
都内のあるカフェに、1つのイヤホンを分け合って音楽を聴こうとする若いカップルがいました。
その様子を見ていた別のテーブルの男性・麦(菅田将暉)は、彼女に「あのカップルが音楽が好きじゃないな」と言います。
不思議に思う彼女に対し、麦は「音楽はイヤホンのLとRでは別の音になってしまう。2つが合わさって1つの曲になっているのに、それを分けて聞くのはおかしい」と指摘。
そんな時、別のテーブルにいた絹(有村架純)も彼氏に同じ指摘を踏まえながら、「ベーコンレタスサンドをベーコンとレタスに分けて食べるようなもの」と熱弁していました。
「直接、指摘してくる」と席を立った麦と絹は、ふとお互いの存在に気がつきます。
田中泉
運命のように出会った麦(菅田将暉)と絹(有村架純)
2015年。
絹は「ラーメンブログを書くのが趣味」という女子大生。
ある日、絹はファンであるお笑いコンビ・天竺鼠のライブに行く前にラーメンを食べていました。
ライブ前に少し気になっていた同級生と偶然出会った絹は、彼に誘われるまま焼肉を食べに行きます。
しかし、同級生の彼は別の女の子との約束があり、絹は待ち合わせ時間までの相手でしかありませんでした。
気づけば天竺鼠のライブの時間は過ぎ、絹は終電を逃してネットカフェで一夜を明かすという災難続きの1日を過ごすこととなります。
一方、麦はイラストを描くのが趣味であるものの、「燃え尽きたこと」をどことなく感じている男子大学生でした。
近頃で心が動いた瞬間といえば、自分がGoogleのストリートビューに写っていたくらい…。
そんな時、少し気になっている先輩が来ると知ったカラオケに行くも、彼女が不在だと知った麦は帰るつもりが、周囲のノリに押されて帰りそびれてしまいます。
麦は終電に乗るべく京王線の明大前駅に駆け込もうとしますが、残念ながら終電は行った後…。
そこには、同じく終電を逃した男女と、絹が立ち尽くしていました。
実は絹も「気乗りしないカラオケ」に行って気疲れした後、母親におつかいを頼まれてとぼとぼ帰っていた途中でした。
「時間を潰せる店は?」という男女の一言をきっかけに、4人は近くのお店に行くこととなります。
4人で飲んでいた時、近くのテーブルを見た麦は妙に興奮した様子。
「あっちの席に神がいます。犬が好きな人ですよ。あと立ち食いそば」とこっそり伝えますが、目の前の男女にはあまりピンと来ていません。
彼らは店を出た後、タクシーに乗って去っていきます。
興奮が伝わらなかったことにがっかりする麦でしたが、追いかけてきた絹から「押井守を認知していることは、広く一般常識であるべきです」と言われるのでした。
田中泉
共通の話題で盛り上がった喜びから、2人は近くの居酒屋へ…。
居酒屋で向かい合って話をしてみると、2人には共通の趣味がたくさんありました。
同じ靴を履き、同じ作家やバンド、映画が好き…さらには絹が行けなかった天竺鼠のライブは、麦も行けなかったのだと発覚します。
麦が撮影したガスタンクの動画を観るために彼の家へ行くことになり、絹が少し席を外した際、麦の気になっていた先輩が同じ居酒屋にやってきました。
先輩の誘いを断れず同じテーブルに移動した麦を見た絹は、思わず居酒屋から立ち去ってしまい、麦はあわてて絹の後を追います。
雨に降られながらも、何とか麦の自宅に着いた絹は、本棚を見て自分の趣味と似通っていることに喜ぶのでした。
麦にドライヤーで髪を乾かしてもらい、ガスタンクの映像を観ながら眠ってしまった絹。
絹は帰りのバスに乗る際に、麦に「上野の国立科学博物館で開催されるミイラ展に行かないか?」と告げました。
3回目のデートでの告白
麦と絹はミイラ展を含め、少しずつデートを重ねます。
お互いのことは好きなのに、気持ちを伝えようとするとつい普段のおしゃべりをしてしまう2人。
3回目のデートで、麦も絹も互いに告白するつもりでした。
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本編映像解禁🎥
┈┈┈┈┈┈┈“友達以上恋人未満”のはがゆい距離感の日々が続く中、
終電までに告白を決意した麦と絹。
カウントダウンは進み、次第に焦り出す…。二人の焦れったい恋模様に注目!💐#はな恋#菅田将暉#有村架純 pic.twitter.com/9ChaHY7L6a
— 映画『花束みたいな恋をした』公式 (@hana_koi_jp) January 21, 2021
ファミレスでいつものようにおしゃべりをしていた2人は、1つのイヤホンで音楽を聴こうとした時、別のテーブルの男性に「君たちは音楽が好きじゃないな」と指摘され、1時間以上も説教を受けることとなってしまいます。
説教を受けて終電が近づいた時、ようやく決意をした麦は絹に告白。
絹もその告白を受け入れ、晴れて2人は恋人同士になります。
それから2人はますます親密になり、3日連続で絹が麦の自宅に泊まった日、初めて体を重ねるのでした。
田中泉
いつしか時は流れ、絹は就職活動をする時期に…。
イラストの道に進もうとしていた麦は、絹が連日圧迫面接を受け、精神的にボロボロになっていたことを知ります。
麦は「無理をしてほしくない」と胸の内を吐露しますが、絹は両親が「新卒で就職しないやつは反社会勢力だ」と言わんばかりの偏見を持っていることから、就職活動を続けざるを得ません。
それでも、麦は絹に「2人で暮らそう」と誘い、同棲をスタートさせることとなります。
やがて、絹はジェラート屋でアルバイトを、麦は1カット1,000円のイラストの仕事を始めます。
クリスマスプレゼントを交換し、初詣で訪れた神社に捨てられていた黒猫をバロンと名付けて飼い、満たされた日々を送る2人。
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本編映像②解禁🎥
┈┈┈┈┈┈┈ふたりでの生活を始めた麦と絹。
近所のパン屋の焼きそばパンを分け合ったり、徒歩30分の帰り道が何より大切になったり。
大切な人との日常の尊さを感じる映像です💐#はな恋#菅田将暉#有村架純 pic.twitter.com/9pAn7JQ2Nt
— 映画『花束みたいな恋をした』公式 (@hana_koi_jp) January 23, 2021
しかし、アパートにやってきた絹の両親には仕事のことを心配され、麦の父(小林薫)には「故郷に戻ってこなければ、5万円の仕送りは止める」と宣言されてしまいます。
それをきっかけに絹は簿記の資格を取るために勉強を始める一方、麦は1カット1,000円だったイラストの仕事が3カット1,000円に値切られるのでした。
徐々にすれ違っていく2人
今の生活を維持するため、絹は歯科医院の受付事務として働き始めます。
麦も「働きながらでも、イラストは描ける」とついに就職活動をしますが、なかなか結果に結びつきません。
年が明けた2017年まで麦の就職活動は続き、何とかネット通販会社の物流関係の仕事が決まります。
17時定時の仕事だと聞いていたものの、実際には残業も休日出張も多く、麦のライフスタイルは仕事中心に変わっていきました。
それまで絹と読んでいた漫画やゲームにも興味を示さなくなり、書店に行ってもビジネス本を手に取る麦。
絹は「好きなものを共有できるはずだった麦」が変わっていくのを寂しく思いますが、麦はそんな絹を見て「いつまで学生気分でいるんだろう」と思うのでした。
田中泉
絹は「もっと自分の好きなことを仕事にしたい」と考えていた矢先、知り合ったイベント会社の社長(オダギリジョー)の誘いを受けて転職。
給料は下がってしまうものの、やりがいを取った決断によるものでした。
絹が「自分の知らないところで転職をしていたこと」、「給料よりもやりがいをとった転職であること」を知った麦は「仕事は遊びじゃない」とつい厳しい言葉を口にしてしまいます。
すれ違いから発展した口論の中で、麦は「じゃあ結婚しよう」「結婚して、俺が養うから、絹ちゃんは好きなことをすればいい」と伝えますが、絹は思っていた形でのプロポーズではなかったことに落胆し、結婚の話はお流れに…。
会話も喧嘩もなく、何となく一緒に過ごしていた2人の関係は、5年目を迎えようとしていました。
共通の友人の結婚式に参列した2人は、お互い「この日に別れよう」と決意します。
結婚を切り出す麦(菅田将暉)と、思い出のまま終わらせようとする絹(有村架純)
結婚式後に観覧車に乗ったり、カラオケに行ったりと、久々に楽しい時間を過ごす2人。
麦が絹に告白したファミレスに立ち寄り、昔の写真を見返すうち、お互いにこれまでの日々が蘇ってきます。
諦められない麦は絹に再び「結婚しよう」「恋愛感情がなくなっても、家族になれればうまくいく」と言いますが、絹にその気持ちはありません。
麦が言葉を失った時、近くのテーブルに若い男女がやってきます。
その男女はまだ距離感が掴めず、おそるおそるといった様子でしたが、音楽や映画、小説の話をきっかけに笑顔を見せるようになっていきます。
その姿が「かつての自分たちに共通していること」「もうその頃には戻れないこと」を知った麦と絹は、静かに涙を流すのでした。
麦(菅田将暉)と絹(菅有村架純)に起こった奇跡
別れを決めた後も、麦と絹は次の家が決まるまで3ヶ月ほど暮らします。
別れを決めてから、以前のような関係性に戻った2人は仲良く食卓を囲んだり、映画を楽しんだりと笑顔の日々を送るのでした。
そして、物語は冒頭の2020年のカフェに戻ります。
麦と絹はお互いの存在に気づくも、言葉を交わしたりはしませんでした。
カフェを出た2組のカップルは、全く別方向に歩き出します。
振り返らないまま、静かに手を上げてエールを送り合う2人。
その後、麦はなんとなく見たGoogleのストリートビューで、絹と多摩川沿いを歩く自分の姿を見つけます。
まだ恋人だった頃の2人は手をつないでおり、絹の手には買い物袋と小さな花束が握られていたのでした。
【ネタバレ】『花束みたいな恋をした』感想
劇中に散りばめられたさまざまなカルチャーへの共感
『花束みたいな恋をした』の共感を生むポイントの1つとして、さまざまなカルチャーが登場する点が挙げられます。
特に2015年頃に大学生だった人たちにとっては「恋人とライブに行ったバンド」「恋人と一緒に読んでいた漫画」と、かつての恋を思い出すトリガーにもなっているようです。
これらは「2人の関係性の変化を描くキー」にもなっています。
例えば、麦が圧迫面接を受けた絹に「面接官は今村夏子の『ピクニック』を読んでも何も思わないやつらだ」と言葉をかけるシーンがありますが、数年後に就職した麦が営業先からひどい扱いを受けたことを明かした際、絹はかつての麦のセリフを口にします。
しかし、麦から返ってきたのは「今、自分が読んでも何も感じないかもしれない」という諦めにも似た言葉でした。
田中泉
その他にも、仕事中心になった麦が『ゴールデンカムイ』の新刊がどこまで出ているのかわからなくなったり、2人がよく行っていたファミレスの店員さん(PORIN)のバンド「Awesome City Club」が着々とバンドシーンの中心になっていったりと、時間の経過をカルチャーを使って描いているのが魅力的な作品でもあります。
坂元裕二が描く、男女の関係性
これまでにも坂元裕二は『カルテット』や『最高の離婚』などで、すれ違う男女の姿を描いてきました。
田中泉
共通の趣味から意気投合、恋人関係にまでなった麦と絹でしたが、「大人になること」「働くこと」という人生のターニングポイントによってすれ違いを迎えてしまいます。
「5年という長い月日が、彼らをどう変えたのか?」
それを坂元裕二による「時に軽快で瑞々しい2人の会話」や、「現実を突きつけられて葛藤する心理描写」によって私たちは味わうこととなります。
田中泉
自分にもあったかもしれない、ありふれた日常
『花束みたいな恋をした』の物語は、調布が舞台となっています。
絹が住んでいるのは調布と近い飛田給、麦と絹が同棲をするのは多摩川に面した調布駅から徒歩30分ほどの場所。
2人が初めてキスとした交差点や、バロンを拾った神社を中心に、映画を観た多くの人が訪れているようです。
田中泉
#花束みたいな恋をした × #トリエ京王調布 タイアップ実施中!💫
A館3階のこもれびテラスには、劇中衣裳を展示したり、#菅田将暉 さんと #有村架純 さんの館内放送も聞けちゃいます!
お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください💐
詳細は⏬https://t.co/aK2j8FLnSu pic.twitter.com/NDDqATliqb
— 映画『花束みたいな恋をした』公式 (@hana_koi_jp) February 2, 2021
さまざまなポップカルチャーと共に、はっきりと地名が出てくるのも今作の特徴です。
それは「調布という町で起こった、どこかの誰かも経験したかもしれないありふれた日常」を描いているからだといえます。
田中泉
『花束みたいな恋をした』あらすじ・ネタバレ感想まとめ
✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
ひとりで観たら
きっとあの頃の恋を思い出す。友だちと観たら
きっと一緒に恋を語りたくなる。恋人と観たら
きっとこの愛を大切にしたくなる。✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ #花束みたいな恋をした
絶賛公開中💐#はな恋 #菅田将暉 #有村架純 pic.twitter.com/GDHo0Mtebi— 映画『花束みたいな恋をした』公式 (@hana_koi_jp) January 30, 2021
ここまで『花束みたいな恋をした』をレビューしてきました。
- 映画、小説、漫画、ゲーム、音楽などさまざまなカルチャーが随所に登場
- 坂元裕二が描く、男女の関係性
- 自分にもあったかもしれない、ありふれた日常
2020年から続く“しんどい”日々の中で、ありふれたラブストーリーをかけがえのないものとして描く『花束みたいな恋をした』は、多くの人に癒しをもたらす作品になったのかもしれません。
共感と共に「また恋をしたくなる」そんなピュアなラブストーリーを味わってみてください。
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