長崎に投下された原爆によってこの世に未練を残したまま死んでしまった息子と、息子の死を受け入れられずに生きる母。
親子の絆に心が温かくなる130分。
- 母と息子の愛情を描いた山田洋次監督にとって初のファンタジー作品
- 第39回日本アカデミー賞11部門受賞の感動作
- 吉永小百合と二宮和也が丁寧に紡ぐ“母と子”の絆
それではさっそくレビューしていきます。
目次
『母と暮せば』作品情報
作品名 | 母と暮せば |
公開日 | 2015年12月12日 |
上映時間 | 130分 |
監督 | 山田洋次 |
脚本 | 山田洋次 平松恵美子 |
出演者 | 吉永小百合 二宮和也 黒木華 浅野忠信 本田望結 小林稔侍 橋爪功 |
音楽 | 坂本龍一 |
『母と暮せば』あらすじ
1948年8月9日、長崎で助産師をしている伸子(吉永小百合)のところに、3年前に原爆で失ったはずの息子の浩二(二宮和也)がふらりと姿を見せる。
あまりのことにぼうぜんとする母を尻目に、すでに死んでいる息子はその後もちょくちょく顔を出すようになる。
当時医者を目指していた浩二には、将来を約束した恋人の町子(黒木華)がいたが……。
出典:シネマトゥデイ
『母と暮せば』みどころ
「父と暮せば」などの戯曲で有名な井上ひさしの遺志を名匠山田洋次監督が受け継ぎ、原爆で亡くなった家族が亡霊となって舞い戻る姿を描く人間ドラマ。
原爆で壊滅的な被害を受けた長崎を舞台に、この世とあの世の人間が織り成す不思議な物語を映し出す。
母親を名女優吉永小百合が演じ、息子を『プラチナデータ』などの二宮和也が好演。
ほのぼのとした中にも戦争の爪痕を感じる展開に涙腺が緩む。
出典:シネマトゥデイ
『母と暮せば』を視聴できる動画配信サービス
『母と暮せば』は、下記のアイコンが有効になっているビデオ・オン・デマンドにて動画視聴することができます。
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【ネタバレ】『母と暮せば』感想レビュー
原爆に引き裂かれた母と子
1945年、長崎。第二次世界大戦の真っただ中。
福原浩二(二宮和也)は長崎医科大学に通う医大生でした。
8月9日、いつも通りに家を出て大学の講義を受けて、いつも通りにペン先にインクを付けたそのとき。
長崎市を覆っていた雲がきれいに切れ目を作り、市街地を晒し、原爆が投下されたのです。
長崎医科大学と附属病院の患者、職員あわせておよそ900人が亡くなりました。
浩二もそのなかの一人となってしまったのです。
浩二の母・伸子(吉永小百合)は、一瞬にして消えてしまった我が子が“死んでしまった”という事実を受け入れることができないまま月日が流れていました。
骨はおろか、使っていた時計も万年筆も、ズボンの切れ端すら見つからない。
何の証拠もないのに死んだことを受け入れるなんて到底無理な話だと。
浩二の恋人だった町子(黒木華)や近所の人たち、ときどきやってきて闇物資を安く売ってくれる上海のおじさん(加藤健一)など周りの人たちに支えられながら助産婦の仕事をし、3度目の浩二の命日を迎えました。
伸子は町子と墓参りをし、浩二を待つのはもう諦めようと決心します。
自宅で一人、遺影に向かって「生きているかもしれないなんて期待するのはもうやめる」と呟いたとき、学生服姿の浩二が現れました。
浩二(二宮和也)がこの世に残した未練
亡霊となって現れた浩二は、伸子の諦めが悪いせいでなかなか出てこられなかったと笑いながら文句を言いました。
生きていたころと変わらない姿で、冗談を言ったり笑ったりする浩二を伸子は驚いたりせず、すんなり受け入れました。
それから時々現れては伸子を心配したり慰めたり、思い出話をしたりする浩二でしたが、涙を流すと決まって消えてしまいます。
かつて自分の部屋で町子と一緒に聞いたメンデルスゾーンのレコードを手に取り、淡い恋をしていたことを思い出しては涙を流し。
伸子が「もし町子にいい人がいたら、死んでしまった浩二のことは忘れてその人と幸せになってほしい」などと言えば悲しくなって涙を流し。
しかし浩二もいつしか伸子の言葉を受け入れ、町子に好きな人ができたら自分のことは気にせず一緒になるよう伝えて欲しいと、伸子に頼みました。
「自分よりいい人なんていないと思うよ、いないと思うけど」
と何度も念を押しながら。
町子(黒木華)には、町子の幸せを
ある日、伸子が助産婦の仕事でとりあげた赤ちゃんと母親の様子を見に行った時のこと。
赤ちゃんには「町子」という名をつけたと、母親は言いました。
上の子が通っている小学校の先生と同じ名前にした、と。
それは浩二の恋人であった町子のことでした。
そして会話のなかで、町子に黒田(浅野忠信)という同僚の男性が好意を寄せていることを知ります。
伸子は、町子に対して「浩二や自分に義理立てするために、ずっと独り身でいる必要はない」と、自分の将来を考えて幸せになるよう諭しました。
何度も言われていることだったので、町子はいつものように「浩二を想って一生結婚しない」と返しますが、伸子の口から黒田の名前が出ると泣き出してしまいました。
町子は、自分は幸せになってはいけないと思っていたのです。
8月9日に原爆が落とされたとき、町子は腹痛のために工場での勤労奉仕を休んで自宅にいました。
前日まで一緒に工場に通っていた仲良しの友達2人は、空襲で落ちた工場の屋根の下敷きになって亡くなりました。
友達の母からは「あんたみたいに工場をズル休みすれば娘は助かった」と言われてしまいました。
浩二を想う気持ちも確かにありましたが、それに加えて何の偶然か生き残ってしまった自分だけが幸せになるなんて許されないと思っていたのです。
しかし、どんなに想っても二度と戻ってこない浩二を忘れられずにいた町子ですが、黒田の優しさに惹かれ、やがて婚約します。
黒田は戦争で片足を失っており、体は不自由でしたが心の優しい男でした。
いつか町子が音楽会でメンデルスゾーンを聞いていた時、黒田は泣いていました。
どうして泣いたのか町子が尋ねると、招集がかかって戦地に赴く前夜、もう二度と聞くことはないと思って聞いた曲を再び自国で聞いていることに感極まったのだと、黒田は言っていたそうです。
母と、暮せば
暮れも押し迫った風が強く寒い日、町子は黒田を連れて伸子のところへ挨拶をしに来ました。
伸子は浩二の嫁となり、自分の娘となるはずだった町子の婚約を喜びますが、手放しで喜べるわけではありませんでした。
やっぱり、浩二に幸せになってほしかった。
そんな想いから二人が去って一人ぼっちになったとき「あの子が代わってくれたらよかった」とさえ言ってしまいます。
コートを羽織った姿で現れた浩二が伸子を慰めようとしますが、憔悴している伸子はもう疲れたから眠らせて欲しいと言いました。また明日来てほしい、と。
一度は背を向けた浩二でしたが、再び伸子の枕元へ戻ってきます。
そしてもうこの家には来られないと告げました。
娘のように可愛がっていた町子が去ってしまって、浩二までもう来てくれなくなったら自分は寂しくて死んでしまうと焦る伸子に、浩二は微笑みます。
そして「これからはずっと一緒にいられるから大丈夫。あなたはもうこちらの世界の人だから」と言いました。
伸子は浩二に導かれ天国へと向かっていきました。
戦争絡みの話が苦手な人にも見て欲しい作品
『火垂るの墓』みたいなセリフで始まる物語は、まごうことなく戦争もので。
正しく言えば、戦時中の日本を舞台にした物語なのですが。
吉永小百合と二宮和也、黒木華で戦後の話なんて言ったら絶対に感動作間違いなしであることはわかっていたんです。
でも、なかなか見られなかった。
個人的に戦争絡みの話はどうしても進んで見る気にはなれないもので、二宮好きなら見てて当然くらいの勢いで言われる『硫黄島からの手紙』も未視聴です。
どうして『母と暮せば』は見たのかというと、やっぱり二宮和也の演技が見たかったから。
あと私の母親が「すごく良いよ」と何度も勧めてきたので。
見た後、この話を娘に勧めた母ってどういう心境で「すごく良い」なんて言ったんだろうと思いました。
単純に演者のお芝居が良かったとか、ストーリーが良かったとか、それだけなのかもしれないけど。
私が先に死んだら迎えに来てほしいのかなぁとか考えたりもしてしまいました。
でも、うちの母も諦め悪いから、そうなると私もだいぶ長いこと現れることができなさそうだなぁ。
それはそれとして、私のように戦争ものが苦手な人にも見て欲しいと思いました。
作品自体に興味はあるけど気が進まなかったとか、二宮和也は好きだけど戦争ものかぁとか色々あるとは思いますが。
軽率に触れられない時代の物語だからこそ、悲しみや苦しみが根底にあるからこそ、あたたかな時間が余計に悲しく感じられるし、身近にある小さな幸せを大切にしようと思えるはずです。
母と、息子と、その恋人について
母・吉永小百合、息子・二宮和也、息子の恋人・黒木華ってキャスティング最高じゃないですか?
人によって好みはあるにしても。
3人の声って似ているわけじゃないけど、同じ優しい響きをもっていると思います。耳に心地よい、あったかい優しさ。
ひょっこり現れる亡霊の浩二に対して「いたの?」とか「来てたの?」なんて普通に話しかける母。
愛してやまない息子ですもんね、亡霊だろうが何だろうが怖いわけがないですよね。
母の体調を心配しつつ、恋人の様子も気になっていて、幸せになってほしいけど自分以外の人と一緒になられるのは嫌で、でも自分は死んでしまっていることを理解している息子。
浩二への想いを断ち切れないし、伸子の優しさも無下にはできない。
でも身近にいる、恋人と同じ曲を好きだという男性に惹かれてしまう町子。
それぞれが切ない想いを抱えて、物語の中で泣くシーンがいくつもあります。
堪えるようにさめざめ泣くところも、感情が爆発して子供みたいに泣くところも私は好きです。
題材は普段の生活に身近なものではないけど、人びとの感情は毎日すぐそばにあるものと同じだから、見ている側にも響きやすい場面がたくさんあります。
山田洋次監督にとって初のファンタジー作品というように、CGを駆使した場面もあるし、浩二がメンデルスゾーンの曲にあわせて指揮をすれば突然オーケストラの影が現れるファンタジー!な場面もありますけど、そんなことで興ざめしてる場合じゃないくらい、主要3人の心の葛藤は見ごたえがあります。
印象に残った場面
まずは、伸子の前に最初に浩二が現れたとき、久しぶりの再会に「あんたは元気?」と言った直後の浩二が座りながら後ずさっていって足だけが映る場面。
“僕は死んでるのに元気か聞くなんて”と大笑いして足をばたばたさせて、寝転んだ足。
なんだか、その学生服に白い靴下の足が印象に残っています。
大笑いしてるところは特に、足だけしか映ってないのに楽しそうなのが伝わってきます。
あとは幽霊なのに足があるんだ、とか思ったりもしました。
あとは、上海のおじさんが伸子に縁談話をし始めた場面。
後ろでちょろちょろしてハタキを持ってきて聞いている浩二が可愛いです。
母に変なこと言ったらハタキで叩いてやろうっていう動作が、表情としぐさから伝わってきます。
最後に、浩二が「母さんのおにぎりが一番かっこよかった」と話す場面。
学校の友達と弁当を広げたときに思っていたという言葉。
ぴしっとした三角形でかっこよかったって、こんなこと息子に言われたら母親としては絶対嬉しいだろうなぁと思います。
私は子供いませんけど。なんなら未婚ですけど。
それは置いといて、この場面での伸子の「おにぎりが上手に握れるようになったとき、女らしさをひとつ身に着けた気持ちになった」というセリフも印象に残っていて好きです。素敵。
『母と暮せば』まとめ
映画『母と暮せば』完成披露舞台挨拶で、「二宮さんは天才!フェアリーのよう」と吉永さんが絶賛!
それを受けて「フェアリー・カズナリ」に改名します!と二宮さん。会場大受けです!
映画ぜひご覧ください!
12/12全国ロードショー pic.twitter.com/TMcTJmf0oy— Astage-アステージ- (@astage_ent) 2015年11月22日
以上、ここまで『母と暮せば』を紹介させていただきました。
- やさしくって泣けるファンタジーを山田洋次監督が手掛けたら、こうなった
- 母と息子と、息子の恋人の心の葛藤に切なくなる
- 第39回日本アカデミー賞11部門受賞は伊達じゃない!演技、演出、すべてが感動に繋がる作品