アニメ映画『虐殺器官』あらすじ・ネタバレ感想!ゼロ年代を代表するSF小説を原作とした本格派軍事サスペンス!

(C)Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

2017年公開のアニメ映画『虐殺器官』。

2009年に34歳の若さで病没した作家・伊藤計劃が2006年に発表し、翌07年に刊行された長編デビュー作をアニメーション化した作品です。

世界の紛争地帯を飛び回るアメリカ軍特殊部隊のクラヴィス・シェパードが、世界各地で起こる紛争や虐殺の影に潜むというアメリカ人の元言語学者である“ジョン・ポール”の追跡任務を受け、彼が潜伏しているとされるチェコ・プラハへ乗り込むところから物語は動き出します。

伊藤計劃の遺した長編小説3作品を映画化する“Project Itoh”の第1作で、『機動戦士ガンダムW』のキャラクターデザインなどで知られるアニメーターの村瀬修功が監督を務めました。

主人公のクラヴィス・シェパード役には『マクロスF』や『氷菓』に出演し、「マーベル・シネマティック・ユニバース」内でクリス・エヴァンス演じるキャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースの吹き替えを担当している中村悠一が、“虐殺の王”と称されるジョン・ポール役には『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『おそ松さん』などで知られる櫻井孝弘がキャスティングされた他、人気実力派声優陣が顔を揃えました。

今回はそんなアニメ映画『虐殺器官』をネタバレありでご紹介します。

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アニメ映画『虐殺器官』登場人物・キャスト

クラヴィス・シェパード/中村悠一

・アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊大尉
・文学部卒で文学や言葉に明るい
・感情の影響を受けない究極の戦士化を行う“戦闘前感情適応調整”処置後の殺人も任務と割り切る優秀なリーダー
・無神論者
・ジョン・ポール捜索任務によりプラハへ潜入する

ジョン・ポール/櫻井孝宏

・“虐殺の王”と呼ばれるアメリカ人男性
・元MITの言語学者
・妻子をサラエボの核爆弾テロで失っている
・国家をクライアントとする戦略コーディネーター
・世界各地に混沌をもたらしているとして祖国アメリカから追われている

ルツィア・シュクロウポヴァ/小林沙苗

・ジョン・ポールの愛人とされる女性
・プラハ在住のチェコ語教師
・MITで言語学を学んでいた
・ジョン・ポール捜索任務に就いたクラヴィスの接近を受ける

ウィリアムズ/三上哲

・アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊隊員
・クラヴィスとはプライベートでも親交がある相棒的存在
・豪快で熱い性格
・妻子持ち
・クラヴィスのプラハ潜入に同行

アレックス/梶裕貴

・アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊隊員
・思慮深く敬虔なクリスチャン
・彼のある言葉がクラヴィスたちに影響を与える

リーランド/石川界人

・アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊隊員
・若者らしく明朗快活な性格
・銃撃戦を含む多くの作戦行動に参加

ロックウェル/大塚明夫

・アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊指揮官
・クラヴィスたちの上司
・クラヴィスにジョン・ポール捜索任務を命ずる

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【ネタバレあり】アニメ映画『虐殺器官』あらすじ


グルジアでの作戦

時は2015年。

サラエボで発生した核爆弾テロをきっかけに、世界各地では内戦やテロが多発し、民族対立による虐殺が横行していました。

そして、それから5年が経った2020年。

例から漏れず内戦と虐殺が続いていたグルジアに潜入中のアメリカ情報軍特殊部隊は、その首謀者と思われる人間を捜していました。

アメリカ情報軍事特殊検索群i分遣隊は大尉のクラヴィス・シェパード(中村悠一)を中心に、偽のIDを使って首謀者がいるとされる本部へと乗り込みます。

クラヴィスはベートーベンの『月光』を耳にし、その音が流れてくる部屋に侵入。

しかし、そこにいたのは暫定政府の大臣のみでした。

クラヴィスは大臣にここで会うはずだったアメリカ人について問いますが、大臣は何も答えないうえに、何故この国が内戦に陥ってしまったのか理解できていないといいます。

大臣を背後から取り押さえたまま尋問を続けるクラヴィスでしたが、作戦に参加していた隊員の一人であるアレックス(梶裕貴)が錯乱状態となり、大臣を射殺してしまいました。

クラヴィスは証拠隠滅のためにアレックスを射殺すると、遺体の痕跡を残さないよう爆発を起こして破棄し、現場を立ち去るのでした。

プラハ潜入

アメリカに戻ったクラヴィスは、同じ隊の隊員で相棒のウィリアムズ(三上哲)とともにビールとピザを食べながらアメフトの中継を観ていたところ、ペンタゴンへ呼び出されます。

先のグルジアでの作戦にて錯乱状態に陥ったアレックスは、感情調整の数値ミスによってPTSDを引き起こしていたことがわかり、射殺という判断を下したクラヴィスに責任はないとして、新たな任務を与えられました。

その任務とは、グルジアに現れるはずだったアメリカ人の元言語学者であるジョン・ポール(櫻井孝宏)が潜伏しているとされるチェコ・プラハに潜入し、彼を追跡することでした。

というのも、ジョンが訪れた地では必ずと言っていいほど虐殺や内戦が発生しますが、彼はすぐに行方を眩ませてしまうため、政府は要注意人物として捜索していたのです。

早速、プラハ入りしたクラヴィスとウィリアムズ。

クラヴィスは素性を隠し、ジョンの愛人と思われるルツィア・シュクロウポヴァ(小林沙苗)と接触を図ります。

ビジネスマンに扮したクラヴィスは、チェコ語の教師をしているルツィアのもとへ生徒として潜り込みますが、ジョンの手がかりとなる情報を得ることはできません。

一方で、ルツィアがMITで言語学を学んでいた時にジョンと出会ったことや、彼女がジョンとともに言語が人間の行動に如何に影響を与えるのかを研究していたと知ります。

さらに、クラヴィスが文学に明るいと知ったルツィアにカフカの墓へ案内されるなどして、クラヴィスは少しずつ彼女に惹かれていきました。

そして、ルツィアに誘われて同行したクラブが認証決済を利用せず紙幣通貨によって支払いを行っている前時代的な場所だと知り、驚きを隠せないクラヴィスは、オーナーのルーシャス(桐本拓哉)を紹介されます。

そこでルーシャスは「自由は無制限なものではなく、ある種の自由を捨てて別の自由を買う。…自由というのも一種の通貨だ」と持論を語りました。

店を出て路面電車に乗り込むと、ルツィアはジョンと不倫関係にあった過去について話し始めます。

そんな中、追手の存在に気付いたクラヴィスはルツィアを連れて電車から降りますが、やがて捕らえられてしまいました。

実は、ルーシャスはジョンと協力関係にある“計数されざる者”の一人であり、ルツィアを利用してクラヴィスを拘束したのでした。

捕まったクラヴィスはジョンと対面することとなり、人間には虐殺を司る器官が存在し、その器官を活性化させる“虐殺文法”が存在すると聞かされます。

その後、クラヴィスは正体がバレたことでルーシャスたちに殺されそうになりますが、ウィリアムズら特殊部隊に救出され、アメリカへ戻ることに。

ジョンとルツィアはともに姿を消していました。

(C)Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

フラットな感情

クラヴィスたちはジョンがインドとパキスタンの国境付近で虐殺を行っている武装集団にいるという情報を掴み、空から拠点を目指します。

クラヴィスら特殊部隊員は脳内にナノマシンを入れることで感情や痛覚をコントロールされており、立ち向かってくる少年兵たちを躊躇うことなく殺害していきます。

そんな少年兵たちも麻薬によって神経を麻痺させられていました。

ようやくジョンと再会を果たしたクラヴィスは、彼を捕えて連行することに成功します。

現場から撤収し、帰還するためのヘリコプターに乗り込むと、拘束されたジョンは“虐殺文法”とナノマシンで感情を制御されているクラヴィスたちは似ていると語りました。

その時、突如として国籍不明の戦闘ヘリが襲来し、クラヴィスらのヘリは墜落、そしてジョンを強奪されてしまいます。

さらに、多くの作戦行動に参加した部下のリーランド(石川界人)をはじめ、部隊は大多数を失いました。

そんな中で生き残ったクラヴィスは、敵兵たちのIDがすでに死んだとされている軍人や内戦で行方不明になった人たちのものだったこと、自分たちと同じく感情や痛覚をマスキングされていたことを知ります。

虐殺の文法

ジョンの追跡を続けるクラヴィスらはアフリカ・ヴィクトリア湖畔へ潜入し、ジョンを暗殺する任務に就いていました。

そこで演説の草案を書いていたジョンを見つけ、対峙することになります。

ジョンは5年前に起きたサラエボでの核爆弾テロによって妻子を失っており、二度とテロが起きないよう“虐殺文法”を使っていると語り始めました。

世界を平和な場所と殺伐とした場所に分けることで、内戦や虐殺を行う者たちは平和な場所にテロを仕掛けるのではなく、殺伐とした場所で殺し合うだろうという考えを持っていたのです。

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そこへ二人の会話を聞いていたルツィアが現れ、ジョンを逮捕し、世界各国へ事実を告げるようクラヴィスに懇願します。

ジョンも諦めた様子で拳銃を手放しましたが、その瞬間、ルツィアの頭を弾丸が貫きました。

それは作戦に参加していたウィリアムズによる射殺でした。

現在の世界のバランスのうえで何の問題もなく生きているウィリアムズにとっては、ジョンの考えは到底理解できるものではなく、彼らの話を肯定することはできなかったのです。

当初の予定通り暗殺を遂行しようとするウィリアムズと対立したクラヴィスは、ウィリアムズを爆殺し、ジョンを連れて脱出します。

しかし、ジョンはクラヴィスにルツィアの願いと“虐殺文法”を託すと、自分を殺すよう促しました。

クラヴィスはジョンを射殺し、“虐殺文法”をアメリカへ持ち帰りました。

しばらくして、何者かにより情報軍の行った暗殺作戦がリークされると、クラヴィスら情報軍関係者は公聴会へ招集されます。

そこでクラヴィスは罪を背負って自らを罰することを選び、ジョンから託された“虐殺文法”を使用し、英語圏の“虐殺器官”を活性化させるのでした。

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【ネタバレあり】アニメ映画『虐殺器官』見どころ・感想

抱えた罪と罰

伊藤計劃による長編SF小説をアニメーション化した『虐殺器官』。

本格派軍事サスペンスでありながら、メインキャラクターの心の変化を描くヒューマンドラマにもなっています。

主人公のクラヴィスは、世界各地に混沌をもたらしているとされる謎の男=ジョン・ポールの追跡任務に就くことで、自身の運命を大きく動かされていきますが、何故そうなっていくのかが分かりにくい部分が多いのも事実です。

それらは原作に明記されている点も多々あるのですが、まずは劇中冒頭シーンに触れていきたいと思います。

冒頭のグルジア潜入任務からわかるように、クラヴィスはクレバーでありながら、前線での戦闘にも積極的な男です。

(C)Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

その場で耳にしたクラシック音楽について語るロマンチストな部分もあり、緊張感のある現場でそういったコメントができるほどの余裕を持った人物でもあります。

さらに、人望があることさえ汲み取れる仲間たちとの会話シーンもありましたが、この冒頭で命を落とすこととなる部下・アレックスが遺した台詞が、クラヴィスの心を揺さぶるようになっていくのです。

信心深いアレックスから出る「地獄」という言葉は、無神論者のクラヴィスにも他とは違って聞こえる節があったのでしょう。

そうでなくとも“頭の中の地獄”とは、やはり多かれ少なかれ誰しもが持つもののように感じます。

しかし、このことがクラヴィスをそこまで揺るがす理由は、劇中ではハッキリと明かされていません。

このように全体を通して理解しがたい部分が出てくるのですが、映像化するうえで約2時間にまとめるため、あまりにも潔くカットしているエピソードがあることが原因になっています。

実は、クラヴィスには過去の出来事によって、人知れず抱えている罪の意識があるのです。

この罪の意識があるからこそ、アレックスの言葉に心を揺り動かされ、のちに出会うルツィアに執着していくようになります。

ジョン・ポールの愛人とされるルツィアはチェコ語の教師をしているため、クラヴィスは生徒として彼女に近付きますが、言語や文学に明るいクラヴィスはルツィアとの会話を楽しむようになっていきます。

クラヴィスの任務に同行し、離れた場所から二人のやり取りを聞いていた同僚のウィリアムズは、ルツィアのことを「ファムファタール(=男を破滅させる魔性の女)」と呼びました。

この時点ではまだルツィアがどんな人物なのか、ジョンとの関係性がどうなっているのか、詳しく明かされていませんが、クラヴィスが彼女に執着していくことによって、少しずつウィリアムズの言った意味が表れていきます。

また、ルツィアと同様にクラヴィスの運命を変えていくのが、ジョン・ポールの存在です。

クラヴィスは早々にジョンと対面しますが、二人の初めての会話は敵対心や警戒心こそあれど、どこか楽しんでいるようにも聞こえました。

というのも、クラヴィスがジョンの持つ“虐殺の文法”に好奇心から来る興味のようなものを持っているように感じたからです。

この点についても原作を読むと理解が深まると思うのですが、クラヴィスは“言葉”に執着している部分があり、言葉を介して人々を動かすことのできるジョンと対話したことで、自身の抱える罪をより強く意識するようになったと思われます。

そうして何度となくジョンと言葉を交わすうちに、「罪や罰から赦されたい」という思いが「罪や罰を背負う」ことに変わっていったのではないでしょうか。

それが最終的に“虐殺の文法”を受け継ぐことに繋がっていきます。

クラヴィスが敵だったはずのジョンの意志を継ぐという展開は恐ろしいことのようにも感じますが、ルツィアとの出会いと別れを通してクラヴィスがこの運命を選んだとしたならば、クラヴィスとジョンという二人の男性の運命を狂わせたルツィアは、ウィリアムズの言っていた通り、ファムファタールだったのかもしれません。

感情は調整できていたのか

クラヴィスらは感情の影響を受けない究極の戦士化を行う“戦闘前感情適応調整”という処置を受けて戦場に赴いていました。

しかし、冒頭で亡くなったアレックスは感情調整のミスによってPTSDを引き起こし、錯乱状態になったために、クラヴィスの手で銃殺されます。

アレックスの死因は原作と違うので意味合いが変わってくる部分もあると思うのですが、映画版だけで考えてみると本当に感情調整のミスだったのか? という疑問が湧いてきます。

この感情調整と同じように痛覚もマスキングされ、戦闘中に感情の揺れや痛みを感じないとされていますが、それらはクラヴィスたちと戦った少年兵が麻薬によって神経を麻痺させていたのと同程度なのではないかと思わされます。

というのも、クラヴィスは感情がフラットになっているはずなのに(ジョンにも「感情がフラットだ」と明言されている)、他人の死に敏感な気がするのです。

アレックスを銃殺したシーンでは卒なく処理したように見せながらも動揺を感じさせる一瞬が含まれており、リーランドが死亡したシーンでは痛覚のマスキングによってか死の直前までいつも通り話していた彼を悼む何とも言えない表情を浮かべていました。

極め付けに、ルツィアが目の前で死亡した時には激昂しています。

戦場で躊躇なく他人を殺すために施された痛覚のマスキングは、ある意味では良心のマスキングだったのでしょうが、身体の痛みはカバーすることができても、心の痛みまではカバーできていなかったのかもしれません。

完全なものではなかったのであろう感情の調整……。

徹底して冷静に、そして冷酷に描かれた戦闘の中で、彼らの心は実際にはどのように動いていたのでしょうか。

巧みな映像表現

(C)Project Itoh/GENOCIDAL ORGAN

前述したように原作における重要なエピソードや描写のいくつかを大胆にカットするなど、映画化するうえでの工夫が随所に施された本作。

特に顕著なのは、ジョン・ポールが指を鳴らしたり、手指を動かしたりする描写ではないでしょうか。

これは“虐殺の文法”を発動している、いわば洗脳しているということを視覚化しており、“言葉”で人を動かすというわかりにくい現象を上手く映像に落とし込んでいました。

これみよがしな必殺技のように見えて滑稽に映る場合もあったかもしれませんが、最後にクラヴィスが指を鳴らすことで、ついにクラヴィス自身が“虐殺の文法”を発動したのだと思わせる重要な項目になっていたと思います。

また、クラヴィスが言語や文学に明るいことを冒頭で示すため、グルジアでの作戦のシーンで原作にはない司令部とのやり取りを挿入したことも大きな工夫でしょう。

現場で流れていたベートーベンの『月光』についてポエミーなコメントをするクラヴィスに対し、司令部の人間がクラヴィス=文学部卒だと台詞の中で言及することができたのです。

こうして、のちにカフカの『城』やベケットの『ゴドーを待ちながら』が例えとして出てきても何ら不自然ではない状況を整えていきました。

同時にここで司令部を登場させることにより、作戦の背景や現状の説明が自然に挟まれていたのも素晴らしかったと思います。

戦闘シーンのリアルさもさることながら、繊細な人間描写をも叶えた映像になっていました。

アニメ映画『虐殺器官』まとめ

いかがだったでしょうか。

本格派戦闘シーン、そして緻密な人間描写が魅力のアニメ映画『虐殺器官』。

難解なストーリーや美しく残酷な映像に、気付けばのめり込んでいることでしょう。

ぜひ伊藤計劃の原作とあわせてお楽しみいただきたいと思います。

クラヴィス・シェパード役の中村悠一、ジョン・ポール役の櫻井孝宏をはじめとする実力派声優陣の熱演にも注目です。

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